7-15(ケルベロス再び2).
アディの『大範囲回復』でアディとサラも回復した。俺もタゲを維持しており俺達は態勢を立て直すことができた。
やっぱりボス戦には盾役と回復役を揃えて挑むべきだ。
その後、戦いは安定してきた。40%の全体攻撃は、40%になる前に全員が俺に近づいて、俺が『ガード』を使いみんなは俺の盾の後ろでやり過ごすことで乗り越えた。
次は…。
「みんな、真ん中の頭だ! 来るぞ!」
ケルベロスは真ん中の頭を少し引くような動作をした。牙の間から黒い息ようなものが漏れている。毒霧を吐く予備動作だ!
ごごごぉぉぉぉーー!!!
真ん中の頭にある口から黒い霧のようなものが噴射された。毒の霧だ! しかもかなりのスピードで扇形に広がっている。
「『ダッシュ』、『回避』!」
一度経験している俺は『ダッシュ』と『回避』を移動するために使ってギリギリで毒霧の範囲外に脱出した。
だが、ケルベロスは毒霧を吐きながら体をゆっくり回転させる。扇形の毒霧もそれに合わせて移動する。範囲が広く見た目以上に広がるスピードが速いのでまだ油断できない。
「あっ!」
「しまった!」
「ああ…」
アディ、アルス、サラの3人は俺と同じように範囲外に逃げようとしたが失敗して毒霧に触れてしまった。3人の体が薄い緑色に染まっている。『迷宮物語』の時でさえ、慣れるまでに何度も失敗した難易度が高い攻撃だ。
「『解毒』!」
アディ、早すぎる!
アディは一番HPが低いサラにすぐに『解毒』を使ったが、まだ毒霧のそばにいたサラは一旦毒状態を解除されたもののすぐに毒霧に触れて毒状態になってしまった。
「アディ、『大範囲回復』は?」
「まだCTよ!」
「3人ともポーションを飲むんだ」
しばらくして毒霧攻撃は終わったが、毒状態になると急速にHPが減少する。俺の経験では思ったより速い。
「『挑発』!」
俺以外の3人は中級ポーションを飲んでいる。その間も俺がタゲを維持する。
「『雷弾』、『スラッシュ』、『二段斬り』、『ダッシュ』!」
俺は3人にケルベロスの注意が向かないように得意のコンボで攻撃を続ける。だが、俺もノーダメージではない。盾を使っていてもボスに張り付いて攻撃すれば多少のダメージは受ける。その間にアディが一番HPの低いサラに『回復』を使う。
「『集中』、『雷剣』!」
俺はCTが空け次第『集中』と『雷剣』を使う。この間もみんなのHPが減っている。帰還の腕輪はない…。
「通常攻撃、『回転斬り』!」
俺は焦る心を抑えて、雷属性を纏った通常攻撃で硬直させて威力の高い『回転斬り』を使った。とにかくみんなを攻撃させない。俺もダメージを受けるが魔剣ソウルイーターの効果もあるし、そもそも俺はレベルが高く耐久力も高い。まだまだいける!
その時、アディの声が響いた!
「『大範囲回復』!」
『大範囲回復』のCTが空けたようだ。アディ、アルス、サラの三人は急いで回復エリアに集まる。
間に合ったか…。俺は思わず安堵の溜息を吐いた。
アディがこのスキルを覚えたのは僥倖だった。これがなければ、間違いなく失敗していた。帰還の腕輪がない状態での失敗は死だ。それを思うと体が冷たくなる。
しばらくすると3人の表情にも余裕が戻ってきた。毒状態を表す緑色の靄のようなものは既に消えている。
だが、これからだ。毒攻撃がきたということは…。
「そろそろ20%を切るよ。アディとサラは俺の後ろに、アルスもできるだけ近くに来てくれ。それと『集中』と『瞑想』は狂乱状態がくるまで温存しよう」
俺がタゲを取り3人が攻撃しながらアディとサラは徐々に俺の盾の後ろに移動する。
ケルベロスの体全体が薄く発光している。狂乱状態だ!
「『天雷』!」
俺はすぐに『天雷』を使った。
バリバリバリバリ!!!
狂乱状態の時、攻撃力やスピードは大幅に上がるが、防御力が大幅に下がる。狂乱状態は危険だがチャンスでもある。
無数の鋸の歯のような光の筋がケルベロスを襲う!
「ぐわあぁぁぁーーー!!!」
ケルベロスは体をくねらせて苦しんでいる。もちろん『死線』は発動していない。ケルベロス相手にわざとHPを20%以下に削るなんてできない。だが、それでも『天雷』は最上級魔法スキルだ。それに、俺は魔導士ではないがケルベロスよりかなりレベルが高い。
何より俺には3人の仲間がいる!
「『炎弾』、『炎槍』!」
「『呪いの矢』、『強射』、『チャージショット』!」
「『風刃』!」
3人がここぞとばかりにケルベロスを攻撃する。アディは『瞑想』を使っている。
「『集中』、『3連撃』!」
アルスは『天雷』の効果でケルベロスが硬直したのを見極めて『集中』を使うと、側面から威力の高い『3連撃』で攻撃した。
「『跳躍斬り』、『回転斬り』!」
上手い!
アルスは『3連撃』に続けて、今度は『跳躍斬り』で自らケルべロスを硬直させて『回転斬り』に繋げた。
ガキン!
『天雷』と硬直効果のCTが独立している『雷剣』による効果で再びケルベロスが硬直した。『回転斬り』を打ち終わったアルスはケルベロスが硬直したタイミングで距離を取った。俺の意図を読み取っている。さすが主人公だ。
「『挑発』、『ガード』!」
俺はすかさず前に出て『挑発』を使うとケルベロスの攻撃を『ガード』で防ぐ。狂乱状態になるとランダム攻撃が多くて『挑発』は効きずらい。俺はできるだけケルベロスに近づく。他の3人はいつでも俺の盾の後ろに避難できる場所に位置取っている。
「『雷弾』!」
俺は、CTが空けるとすぐに『雷弾』を使う。
「みんな、今だ!」
俺は叫ぶ。狂乱状態はとても危険だ。ケルベロスに何もさせずに一気にHPを削り切る。これが一番安全な方法だ。長引くと狂乱状態中でも毒霧を使ってくる。そうなったら『迷宮物語』でもやり直しだった。この世界でやり直しはできない。ここからは時間との戦いだ。
「『炎槍』、『炎弾』!」
アディが攻撃魔法スキルを連発する。アディはちゃんと炎属性に弱いケルベロスの右の頭を狙っている。
「ぎゃおおぉぉぉーーーん!!」
ケルベロスが咆哮する。
「『呪いの矢』、『チャージショット』!」
ごぼっ!
サラの放った弓はケルベロスの、真ん中の頭の額に見事命中した。もう少しだ。ここで決める!
「『ダッシュ』!」
俺は『ダッシュ』で間合いを詰める。
「『スラッシュ』!」
「うわー!」
『雷剣』効果が切れているのでケルベロスは硬直せず俺は反撃を受けた。
しかし…。
「『跳躍斬り』!」
ガキン!
俺が攻撃を受けている間に、俺の後ろからジャンプしたアルスが『跳躍斬り』で斬り掛かった。アルスの『跳躍斬り』見事に決まってケルベロスを硬直させた。アルスはすぐに威力の高い『3連撃』を叩きこむ。
アルス、ナイスだ!!!
そして…。
「『回転斬り』!」
「『回転斬り』!」
俺とアルスは二人並んで同時に『回転斬り』を使った。
「うおぉーー!!」
「ぐうぅぅーー!!」
『回転斬り』にはスーパーアーマーの効果があるので中断されることはない。だが、スーパーアーマーは無敵ではない。硬直の解けたケルベロスが狂ったように暴れて俺とアルスはダメージを受ける。狂乱状態のケルべロスの攻撃力は高い。ケルベロスの牙や尻尾がガンガン当たって俺とアルスのHPは削られている…。
くそー!!
「『大範囲回復』!」
アディが俺とアルスの足元に回復エリアを出現させた。ナイスだ。俺達はパーティーで戦っている。俺は高揚感に包まれた。興奮しているのか力が漲ってくる。俺は歯を食いしばって攻撃を続ける。
「『チャージショット』!」
ぐふっ!!!
サラの放った矢がケルベロスの眉間を貫いた。
おー!
矢が光ったのでクリティカルが発生したようだ。サラはクリティカルが発生しやすい弓士としては理想的なビルドをしている。それに『呪いの矢』の効果が続いていたんだと思う。
「やったああぁぁぁーー!!!!」
サラが叫ぶ!
見るとケルベロスの輪郭がぼやけている。そしてケルベロスは見る見る魔石へと変わった。
「レオ、やったわね」
「ああ」
「私が15階層をクリアできるなんて…」
「いや、サラは落ち着ていたよ。それにドロップは弓みたいだよ」
「ほんとだ! でも、落ち着いてたのはアルスのほうだよ」
俺達はパーティー全員で協力してケルベロスをクリアしたのだ。本当によかった。
いろいろ、危ない場面はあったが、それでもみんな落ち着いていた。毒霧が一番危なかったけど、アディの回復魔法スキルで凌げた。やっぱりパーティーのバランスが大事だ。
これで、みんなレベルが上がっただろうし周回してもいいかもしれない。いや、それは帰還の腕輪を手に入れてからだ。油断は禁物だ。
「みんな、とりあえず転移魔法陣で一階層の安全地帯まで移動だ」
「そうだったわ。あいつらのことを忘れてたわ」
それくらいケルベロスに集中していたということだろう。
俺達は魔石とドロップ品の弓を回収すると急いで一階層に引き上げた。




