7-14(ケルベロス再び1).
俺達4人がボス部屋に入るとボス部屋の扉は自動的に閉まった。これで奴らは追ってこれない。あとはケルベロスを倒すだけだ。ケルベロスを倒して転移魔法陣で一階層の安全地帯まで戻れば…。
俺はふーっと長く息を吐いた。俺達は帰還の腕輪を持っていない。失敗は死だ。
「みんな、失敗は許されない。帰還の腕輪はないんだ」
俺の言葉に全員が黙って頷いた。今、俺達は死と隣合わせの場所にいる。わかっていたことだが、ここから先は一瞬でも気が抜けない。
だが、これまでの失敗や努力は無駄ではないはずだ。
「さあ、それじゃあ、行きましょう」
アディが明るく宣言した。アディの言葉に肩の力が抜けた。アディ、ありがとう。これで本来の力が出せそうだよ…。
俺はレベル46の最上級重剣士、アディはレベル31のクレリック、アルスはレベル30の上級剣士、サラはレベル27の上級弓士だ。平均すれば30を越えている。
この4人なら行けるはずだ!
「『挑発』!」
俺は、まず『挑発』を使ってタゲを取ると飛び掛かってきたケルベロスに盾をぶつけるようにして攻撃した。シールドバッシュもどきだ。『挑発』を使った上、一番レベルが高い俺が一発入れたのでケルベロスのタゲは俺に固定された。
「『雷弾』!」
俺はケルベロスの動きを止めるため『雷弾』を使った。
「『炎槍』!」
「『チャージショット』!」
「『風刃』!」
すぐに他の3人がケルベロスの背後や側面から遠距離攻撃をする。
「がうっ!」
ケルベロスは短く唸った後、その身体能力で跳ねるようにジグザグに動くとすべての攻撃を躱してみせた。
速い!
「速いわ!」
「ああー!」
「ごめん。レジストされた」
『雷弾』の硬直効果がレジストされたのだ。俺のほうがかなりレベルが高いのでレジストされる可能性は低いと思ったのだが…。もともとボス魔物は状態異常耐性が高く設定されている。俺は『雷剣』と『集中』を使うと「とりあえずアルスは『集中』、アディは『瞑想』をCT毎に使っていこう!」と声を掛けた。二人は俺の言葉に頷いた。
「ダッシュ」
俺はすぐに『ダッシュ』で間合いを詰めると盾で弾くように攻撃する。シールドバッシュもどきだ。もどきなので当然硬直効果はない。その代わり、もどきはCTなしで何度でも使えるというメリットがある。さらに俺は盾で防御しながら時々剣でも攻撃してタゲを維持し続ける。
「『跳躍斬り』!」
アルス、ナイスだ!
俺がケルベロスのタゲを取っているところにアルスが後方から『跳躍斬り』でケルベロスの真ん中の頭に一撃を入れた。『跳躍斬り』は比較的威力が高い。発動のモーションがやや大きいが俺がタゲを取っていたので問題なく決まった。
「グオォォォー!!!」
ケルベロスが咆哮する。
硬直は発生しなかったがタゲは俺が維持したままなので、アルスはそのまま『回転斬り』を使った。『集中』の効果も継続中みたいだ。
「『炎槍』!」
「『チャージショット』!」
アディとサラもアルスに続く。
アルスに気を取られていたケルベロスは、今度はアディの『炎槍』とサラの『チャージショット』を躱すことができなかった。しかも、アディは『炎槍』をちゃんとケルベロスの右の頭に命中させた。ケルベロスの右の頭は炎属性に弱い。アルスは通常攻撃も交えて攻撃を続けている。
グオッ!!
うん、これぞパーティー戦って感じだ!
俺達はこれまでもパーティーの連携を何度も練習していた。朝練だって欠かさずやっている。これは、俺達の努力の成果だ。
「『雷剣』、『集中』!」
俺はCTの空けた『雷剣』と『集中』の両方を使うとすぐに攻撃に移った。
「通常攻撃、『二段斬り』、『ダッシュ』、『スラッシュ』、通常攻撃!」
最初の雷属性を纏った通常攻撃でケルベロスは硬直した。いくら迷宮ボスの状態異常耐性が高いといっても、俺のほうがかなりレベルが高いのだから普通はこうなるはずだ。俺は得意のコンボに通常攻撃を一発付け加えると防御態勢に戻る。
「『ガード』!」
ゴーン!
ガキッ!
バシッ!
ケルベロスの踏みつけ、噛みつき、体を回転させての尻尾攻撃のすべてを俺は盾で防ぐ。『迷宮物語』でよく知っている動きだし、この世界でも既に何度も経験している。ただし、全くダメージを受けていないわけではない
みんなも攻撃を続けているが俺がコンボ攻撃を決めたのでタゲは維持されている。
さらに…。
「『挑発』!」
絶対にタゲを維持しないと…。後衛のアディやサラが狙われたら危険だ。特にサラはレベルも低い。ケルベロスはとても素早い魔物だ。油断できない。
その後も俺がタゲを維持して他の3人が後方や側面から攻撃するというパターンが続いた。ジギルバルト団長達と一緒にアースドラゴンと戦った経験が生きている。ただ、ケルベロスはとにかく動きが速いので、俺がタゲを維持していても、みんなの攻撃がすべての命中するわけではない。それでもケルベロスのHPは確実に削られている。
ケルベロスが左の頭を小さく左右に振った。
「左の頭だ!」
俺はみんなに注意喚起する。
ケルベロスの左の口から巨大な炎の塊が発射された。巨大な炎の塊はかなりのスピードでアディに向かっている。
「アディ! 3、2、1」
俺がカウントする。そしてアディがタイミングを合わせて…。
「『後方回避』!」
成功だ!
アディは無事に炎の塊を回避した。シルヴィーと二人の時は固まって戦っていたので二人で回避する必要があった。今回はパーティーでフォーメーションを決めて戦っている。俺だって学習している。
俺はすぐさまケルベロスに接近した。この攻撃をした後、ケルベロスはしばらく攻撃してこない。
「『二段斬り』、『ダッシュ』、『スラッシュ』」
俺はチャンスを逃さず『二段斬り』からのコンボを使う。最後は雷属性を纏った魔剣ソウルイーターで可能な限り通常攻撃をする。
「『炎弾』、『炎槍』!」
「『呪いの矢』、『チャージショット』!」
「『跳躍斬り』、『スラッシュ』、『回転斬り』!」
打ち合わせ通りにここでみんなで集中攻撃だ。アルスはさっきのコンボの間に『スラッシュ』を挟んでいる。サラの『呪いの矢』はクリティカル耐性を下げる効果がある。その後も通常攻撃も交えて全員で攻撃する。
「80%だ!」
ケルベロスが体全体を大きく回転させた。ケルベロスはHPが80%、60%、40%になった時にこの全体攻撃をしてくる。アースドラゴンなど似たような動きをする魔物は多い。15階層のボスであるケルベロスのこの動きは特殊攻撃であり、この攻撃には『回避』の無敵効果は機能しない。
俺が予備動作を見逃さず声を掛けたので、全員距離を取って無事だった。
「サラ!」
全員が元の位置に戻ろうとしたとき俺はサラに向かって叫んだ!
「右の頭だ!」
今度は右の頭の口から巨大な氷の塊が発射された。ターゲットになったのはサラだ。くそー、少しも気が抜けない。
「3、2、1」
俺はアディの時と同じようにカウントする。
「『後方回避』! あっ!」
氷の塊がサラを掠った。ここは逃げるように移動しながらさらに回避系魔法スキルを使うのが常道だ。そうはいっても、氷の塊は巨大な上にスピードも速い。それに回避系魔法スキルの無敵効果時間は1秒もないのだ。成功しないのことがあるのはしかたがない。だが、直撃はしていないので想定範囲内だ。
「『回復』!」
アディがすぐにサラに駆け寄って回復魔法スキルを使った。
「ありがとう」
俺はケルベロスに近づくと「『雷弾』、『スラッシュ』、『二段斬り』、『ダッシュ』、通常攻撃!」とコンボ攻撃をした。今度は『雷弾』の硬直効果はレジストされなかった。
「『跳躍斬り』、『回転斬り』!」
アルスは俺の『雷弾』の硬直効果がレジストされなかったを見てすぐにコンボ攻撃を仕掛けた。
上手い。いい感じに連携してくれる。
「『炎槍』!」
「『チャージショット』!」
態勢を立て直したアディとサラも続く。
よし、いい感じだ!
ブーン!!!
その時、ケルベロスが体全体を回転させた。全体攻撃だ。しまった、もうHPが60%を切っていたのだ。予備動作を見逃した。
くそー!
「うっ!」
「あっ!!」
「ううぅー!!」
盾を構えていた俺は少しダメージを受けた。アルスは素早く『回避』を使った。この攻撃に『回避』の無敵効果は通用しないが、アルスは『回避』を文字通り範囲外に移動して回避するために使ったのだ。アルスはスキルの使い方が上手い。一方、アディとサラはとっさに距離を取ろうとしたがかなりのダメージを受けた。直撃はしていないが二人とも蹲っている。
「アディ! 『大範囲回復』だ!」
アディは頷くと「『大範囲回復』!」と叫ぶ。アディの前に長径3メートルくらいの光る円形のエリアが出現した。アディとサラがそのエリアの中に入る。これで二人のHPは徐々に回復する。『大範囲回復』は『範囲回復』を一段階強化したスキルだ。普通はクレリックでは覚えられない。アディがこれを取得できたのは大きかった。15階層程度であれば大いに役に立つ。
「『挑発』!」
俺は『挑発』を使ってタゲを維持する。
それにしても……こいつにシルヴィーと二人で挑んだのは今考えると無謀だった…。




