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7-13(オルデン聖国).

 オルデン聖国の権力の中枢である大神殿の奥にある教皇の執務室には教皇のマグブライト13世と神殿騎士ジノの二人の姿があった。ジノは神殿騎士団でも諜報活動担当の責任者である。今の教皇になって取り立てられた男で、教皇の後ろ暗い仕事を一手に引き受けている。


「ファミール王国の様子はどうだ」

「あいかわらずです。ですが、我が同胞の活動により迷宮探索の進捗状況は順調とはいえません」

 教皇マグブライト13世は、ふむと頷くと「未だ20階層は攻略されていないということだな」と確認した。


 ほんの僅かの間をおいて「はい」と恭しく返事をしたジノは「ジギルバルト達は年齢的にみて攻略することは難しいでしょう」と続けた。


 この世界には大迷宮と呼ばれている迷宮が3つある。ファミール王国、リアブルク連合国、ミタリ帝国にそれぞれ一つずつだ。その内、ファミール王国のザルバ大迷宮とミタリ帝国のマナティス山の麓にあるマナブリア大迷宮は良く知られているが、リアブルク連合国の迷宮は謎に包まれている。3つの大迷宮はいずれも未だ20階層のボスが攻略できていないと言われている。


「そして、若くして15階層に到達しそうな探索者は我らが同胞の活動によってその目を摘まれております」

「それはいいが、あまり目立ち過ぎるなよ」

「心得ております」


 最高でも15階層までの迷宮しか持っていないオルデン聖国としては他国の迷宮探索が進むのは好ましくない。そのため、何かと妨害工作をしているのだ。そして、最も成果を上げているのが探索者狩りである。


「ミタリ帝国のほうは?」

「同じような状況です。やはり20階層の攻略はしばらくは無理でしょう」

「ならいい」


 探索者狩りによって有望な若手探索者の何人かが迷宮の中で殺されている。迷宮では死体はしばらくすると迷宮に吸収される。それに迷宮は広い。完全犯罪には打ってつけである。それでも、完全に隠し通すのは難しい面もある。ファミール王国のザルバ大迷宮、そしてミタリ帝国のマナブリア大迷宮、この二つを探索しているクランにはオルデン聖国神殿騎士団の裏の部隊によって作られたクランがあり探索者狩りを行っている。このことを知っているのは教皇とジノ達裏稼業を専門とする神殿騎士以外では教皇派の大司祭二人だけだ。教皇派でない大司祭の中には本気でシズメア様の教えを信じて民のために活動しようとする馬鹿もいるから困ったものだと教皇は思っている。


 そもそも、シズメア教の教義は厳しい修行をモットーとするもので、この世界でもっとも広く浸透しているリブラト教などと比べると厳しい。教皇も若い頃はずいぶんと節制して修行に励んだものだ。もっともその動機は信心ではなく権力欲だ。


「神殿騎士団の強化のほうはどうだ?」

「まず、順調です」

「ただ、帰還の腕輪が不足しています」

「それは、已むを得ない。ファミール王国、ミタリ帝国から可能な限り調達はしている」


 ファミール王国とミタリ帝国は帰還の腕輪を調達する何らかの方法を確保している。オルデン聖国としては影では他国の迷宮攻略を邪魔しながら、表面的には友好関係を保ち帰還の腕輪の確保に協力してもらっている。その対価に莫大な金を支払っているのだが…。オルデン聖国にある迷宮でドロップすることもあるが、全く数が足りない。とにかくレベルの高いボスを討伐しなければ軍を強化することもできない。そしてボスを討伐しても最高レベルの武器やアイテムをドロップする確率は極めて低い。


「迷宮産とはいえ破損することもありますので…。それに魔石も…」


 ジノの言う通りで、稀にではあるが迷宮産の武器やアイテムが破損することもある。魔導技術を支える魔石もいくらでも必要だ。魔導技術は世界的に発展期を迎えているが、高度な魔道具ほど、質の高い魔石が必要になる。質の高い魔石はより深い階層の魔物を討伐しなければ調達できない。教皇にとっては頭の痛いことだが、迷宮探索という意味ではオルデン聖国はファミール王国、ミタリ帝国、そしておそらくリアブルク連合国にも後れを取っている。


 教皇としては、他の3国の迷宮探索を裏では邪魔しながら、表向きは友好関係を保って自国の迷宮探索を進めるしかない。


「最近、ファミール王国の王都カイルで探索者狩りのことが噂になっているらしいな」

「ええ、ちょっとギリス達がやり過ぎているようです。少し大人しくしておくように指示はしています」

「それならいい。焦ってもよくないからな」


 そう言った教皇マグブライト13世の顔は醜く歪んでいた。仕事とはいえ、なぜこんな男に自分は従っているのだろうかという思いがジノの胸に去来した。だが、ジノはいつものようにそれを抑え込むと、恭しく「仰る通りです」と頷いた。





★★★





「レヴィア、探索者狩りはどうだ?」

「『グリフォンの鬣』のメンバーに被害はないわ。指示通りにしてるからね」

「ならいい」


 ここは王宮の王太子ストレイドに与えられた一角にある一室だ。王都カイルにある有力な探索者クラン『グリフォンの鬣』のサブマスターであるレヴィアはストレイドによってこの一角へ入ることを許されている。このことはストレイドの側近の一部しか知らない。今この部屋にはベルゼフこと王太子ストレイド、レヴィア、バルベリの3人しかいない。


「奴らを潰さないの?」

「『グリフォンの鬣』に被害がない限り俺達以外の探索者の成長を妨げてくれるなら願ったりだ」


 『グリフォンの鬣』は奴らに正体を知っていることを、それとなく仄めかしている。その上でわざと自由にさせているのだ。もちろん『迷宮物語』の知識を使ってだ。


「とても王太子の言葉とは思えないな。自国の探索者が犠牲になっているのに」


 そう言いながら親衛隊長のバルベリは笑っている。


「あれは、イベントだ。いずれ主人公がなんとかしてくれるさ。それまでは僕達以外の有望な探索者をせいぜい殺しまくってくれればいい」


 ベルゼフは重ねてそう言った。


 『迷宮物語』でその苛烈な戦い振りで『TROF』のプリマドンナと並んで恐れられていたレヴィアはベルゼフの言葉に顔を顰めた。レヴィアは最近の二人の様子に不吉なものを感じている。特にベルゼフは…。もともとこんな性格だっただろうか? そのレヴィアの目に、一瞬ベルゼフが何か黒い靄のようなものに覆われているかのように見えた。レヴィアは慌てて目を擦った。


 気のせい?


「僕達のレベルももうすぐ50になる。そろそろ『TROF』の奴らに『迷宮物語』時代の借りを返す時期なのかもしれない」


 彼ら3人のレベルは近いうちに50に達するだろう。マスターの知識と帰還の腕輪のおかげだ。  


「それにしてもかなりの数の帰還の腕輪を使ったわね」

「それは、しかたがない。『迷宮物語』でも何十回と失敗してボスをクリアすることなんてよくあることだったんだからね。タロスが死ぬ前に20階層をクリアしておいてよかったよ。最近では、少数ながらレベル41を超えて最上級職になっている親衛隊員もいる。そうそう、魔獣狩りにはカニーノとヴェライア、それにマガロを連れて行こうと思う。本当は魔獣狩りなんかより、早く『TROF』の奴らに借りを返したいんだけどね」

「ベルゼフ、油断は禁物よ。ヴィガディール男爵、いえ『TROF』はダゴン迷宮を確保している。一度ボスをクリアしてより深い階層に到達すれば、そこからの成長速度は私達より速いのよ」

「それでも、簡単には僕たちには追いつけないよ。それに奴らの親衛隊、いや従者隊なのか…は僕の親衛隊とは比べものにならない。まあ、魔獣狩りでその辺りも確かめるとしよう」


 ベルゼフの親衛隊は、ベルゼフが王太子としての権力を使って集めた才能のある者をレヴィアが『グリフォンの鬣』を使って鍛えることにより作られている。ヴィガディール男爵の従者隊とは人数もレベルも違うとベルゼフが自信を持つのもゆえなきことではない。


「それこそ、陣営戦にでもなれば奴らに勝ち目はない」


 陣営戦…。『流浪の傭兵団』が『TROF』に何度も煮え湯を飲まされた『迷宮物語』のエンドコンテンツだ。


 ベルゼフの瞳に宿る不気味な光はなんなのか…。レヴィアはまたもベルゼフに不気味なものを感じた。


「陣営戦なんてしなくても、ベルゼフ、あなたは王太子なんだから、この国を手中に収めるのは時間の問題でしょう」


 ベルゼフはギロリとレヴィアを睨みつけると「レヴィア、忘れたのか。僕達はこの世界を戦乱の時代に導くんだ。ストーリー通りにね。そして、その戦乱の時代を勝ち抜いた上で覇権を握るんだよ。『TROF』に勝ってね。そうしなくっちゃ意味がない」と言った。ベルゼフはこの国の人々の命などなんとも思っていない。王太子の地位にあるというのにだ…。


 レヴィアはベルゼフの言葉に気圧されたように沈黙した。 

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― 新着の感想 ―
不穏な感じ……操られてるとか野心を増幅されてるとかはやめて欲しいなあ。 主人公にはバカにされがちですけど別に覇権とかの野心を持って良いと思ってるんですよね。 それで大事なものを喪っても自分の意思なら良…
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