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7-11(新しい迷宮の発見).

「ねえ、新しい迷宮が発見されたってもう聞いた?」


 ステラがテーブルから身を乗り出してみんなを見回した。いつも冷静なステラがちょっと興奮状態だ。無理もない。この世界で新しい迷宮が発見されるなんてそれほどのことだ。最後の迷宮が発見されてから100年以上経っているって話だ。話題にならないほうがおかしい。


 そういえば、ゴレイア迷宮は今どんな状態なんだろう?


 あれは10階層までの迷宮だし、既に雷属性魔法スキルを複数持っている俺にとっては余りメリットの無い迷宮だ。


「ステラ、新しい迷宮ってヴィガディールって男爵の領地にあってうちからも近いんだよ。もう、びっくりだよ」


 食いつき気味に言ったはサラだ。


「そうなんだ」


 新しい迷宮の発見はアルバート殿下から公表された。アルバート殿下がヴィガディール男爵領を視察中に発見したというのだ。迷宮の発見は国への大きな功績だ。ストレイド王太子やクリスティナ王女に比べてやや影の薄かったアルバート殿下が大いに注目される出来事となった。


 なんだか嫌な予感がする…。


「ヴィガディール男爵っていうのは僕達と同じくらいの年だそうじゃないか。しかも割と最近叙爵されたばかりなんだろう?」とイケメンのロジャーが言った。

「『B・リュス』もヴィガディール男爵が経営している商会なのよ。ずいぶんやり手ね」とアディ。


 インプレサリオ達も徐々に世の中にその存在感を高めている。まあ、ダゴン迷宮を何時までも隠しておくわけにはいかないだろうし、シルヴィーが言っていたようにこの世界の覇権を取るなんて馬鹿なことを考えているのなら、いずれ表舞台に出てくる必要がある。


 視線を感じたので振り返ると、そこにはアルベルトがいた。ウィルコックスとピエールを連れている。偶然なのか、ちょっとの間、俺とピエールの視線がぶつかった。


 ピエール、お前はマエストロなのか?


 すぐにピエールは目を逸らしてアルベルトと一緒にこの場を去った。





★★★





「ダゴン迷宮が発見された。インプレサリオ達は、もうこそこそしなくてもダゴン迷宮でレベル上げできる」

「ヴィガディール男爵家の従者達もね」


 俺はシルヴィーと状況を話し合っている。ちょっと長い話になりそうだと思って、ギルリーム伯爵の王都のタウンハウスを訪れている。今日はシルヴィーのとこへ行くとアディに告げた時の視線が痛かった。ふっーっと溜息を吐くと、シルヴィーが「モテる男は大変だね」とからかってきた。


「これで、インプレサリオ達も一気にレベルを上げてくるかもね」

「どうかな。シルヴィーも知っての通り現実世界でのレベル上げはなかなか大変だ」

「そういえば、そっかー。私達も15階層では失敗しちゃったもんね」

「ああ、だけど、いい経験になった。そもそも迷宮はパーティーで攻略するようにできている」

「そうだね」


 だが…。


「レオは、アルメッサー辺境伯領での戦争で、ウラニア公国軍の中にレベル30を越える者ばかりで構成された部隊を目撃したんだよね」


 シルヴィーは突然話題を変えた。


「ああ」

「それで、それを率いていたエルロンとかいう少年のレベルは45だった」

「ああ、俺はそのエルロンを殺した…」

「レオ…」


 エルロンがこの世界の覇権を握るとかふざけたことを言って人殺しをしていたからだ。そして、インプレサリオ達もエルロンと同じようなことを考えている。俺は昔の仲間のインプレオ達も殺すべきだろうか?


「そのエルロンとかいうの、間違いなく15階層をクリアしているよね」

「15階層どころか20階層もクリアしてたんじゃないかと思う」


 ジギルバルト団長は俺に20階層をクリアする初めての者になるかもしれないと言ったが、既にクリアしている者がいる…。


「リアブルク連合国にある迷宮を使ったのかな?」


 『迷宮物語』ではザルバ大迷宮と同じ規模の迷宮がリアブルク連合国とミタリ帝国にあるって設定だった。ミタリ帝国のはマナブリア大迷宮だ。だが…。


「いや、クリスティナ王女からの情報によれば…」


 クリスティナ王女から聞いたストレイド王太子の親衛隊の話はシルヴィーにも伝えた。


「うん。やっぱりザルバ大迷宮の20階層をクリアしてるんだろうね。他国の迷宮だと『迷宮物語』の知識が役に立たない面もあるしね」

「俺もそう思う」

「ザルバ大迷宮を使っているとしても、どうやってそんなに早くレベルアップできたのかな? インプレサリオ達と違ってダゴン迷宮もないのに」

「方法はある」

「そういえば、そっか」


 『迷宮物語』にはいろいろとバグのようなレベル上げの方法が存在していた。ただ、『迷宮物語』は陣営戦などのエンドコンテンツを楽しむゲームであり、元プレイヤーだからといって誰もがそんな方法に詳しいわけじゃない。最も詳しいのは…。


「まあ、エルロンが何者なのかは今考えてもしょうがない。それより、次に何が起こるのかだ」

「今度、アルベルトがヴィガディール男爵領を訪問するらしいよ」

「なんだって?」

「表向きは新しい迷宮を視察に行くらしいけど…」


 なるほど。新しい迷宮は今話題の中心だから4大貴族で最も勢いのあるシュタイン侯爵家の嫡男であるアルベルトが視察に行ってもおかしくない。


「王家は?」

「王家からはアルバート殿下が中心になってダゴン迷宮を調査するらしいね」

「まあ、そうなるよな」


 アルバート殿下がダゴン迷宮を発見したことになっている。アマデオ侯爵を含む地方貴族派とアルバート殿下はもともと距離が近い。


「なんか、ストレイド王太子とアルバート殿下の間がきな臭いな」

「まあ、もともとそういうストーリーだからね」


 『迷宮物語』のストーリーではゴドウィン王の後継者争いが高じて国が割れる。長男のアルバートを4大貴族のうちシュタイン侯爵家、アマデオ侯爵家、ビットリオ侯爵家が支持する。アルバートは自分が王になったら4大貴族にもっと自治権を認めてリアブルク連合国のような国家を目指すといって3家を取り込んだ。3家はもともと地方貴族の権限を高める派である。これに対してストレイド王太子についたのはアルメッサー辺境伯家だ。アルメッサー辺境伯家はもともと王族派だ。3人の子供達の中では特にクリスティナ王女に近いがクリスティナ王女がストレイド王太子を支持したことによってアルメッサー辺境伯はストレイド王太子を支持することになる。


「『迷宮物語』通りなら、この後王妃が暗殺される。そして、その後間もなくゴドウィン王が病死することになる」

「そうね。ゴドウィン王はストレイドを王太子に指名している。でも、最近では迷っているという噂なの」

「それって…」


 ゴドウィン王の病死の後、『迷宮物語』で流れる噂と同じじゃないか…。だから、ストレイドが王太子に指名されていたにもかかわらず、後継者争いが起ったのだ。


「王太子をアルバート殿下に変更しようと思って迷ってるんじゃないわ。迷ってるのはクリスティナ王女を後継者にすることを考え始めているからだよ。だって、歴史上初めて最上級回復魔法スキルを生まれつき持っているんだもの。まあ、ほんとうは生まれつきじゃないらしいけどね」


 クリスティナ王女には秘密にするように言われているが、俺と同じ転生者であるシルヴィーには伝えている。王女様すみません。だが、シルヴィーのほうが俺より『迷宮物語』の記憶がはっきりしているのだから伝えておいたほうがいい。


 最上級回復魔法スキル『超回復』はクリスティナ王女が10才の時、ガガス迷宮で得たものだ。自分でそう言っていた。たぶん、ゴドウィン王はあり得ないことがガガス迷宮で起こったから迷い始めたんじゃないだろうか? これまでガガス迷宮は王家の血を引く者に初級スキルを一つだけ授けてくれる。そんな迷宮だった。それなのに、クリスティナ王女は最上級回復魔法スキルを覚えた。ゴドウィン王がこれを天からの啓示だと思ったとしてもおかしくない。


 こんな裏設定があるとは俺も知らなかったのだが…。 


「まあ、王妃が暗殺されゴドウィン王が病死するのは、もう少し先の話だ」


 そして、それが最初のストーリーの終わりであり、主人公はその時点での限界であるレベル59になっているはずだ。アルスはそこまで到達できるだろうか? この世界のレベル上げは文字通り命がけだ。


 そこから先は戦乱の時代となって、しばらくストーリーは進まない。


 そしてエンドコンテンツの一つである陣営戦が始まる。陣営戦は毎週土曜日の夜に行われる。行われる場所はその都度違う。プレイヤーは王族派と独立派のどちからかを選んで陣営戦に参加するわけだ。陣営戦のリーダーだけが使えるスキルなんてのもある。その使いどころも含めて戦略の巧拙が問われる。陣営を選ぶのは個人単位ではなくクラン単位だ。


「とにかくだ。インプレサリオ達はダゴン迷宮を確保している。それにエルロンはあの時点でレベルを45まで上げていた。俺達はもっとレベルアップする必要がある」


 アディはもちろんアルスやサラ、そして目の前のシルヴィー、みんながあいつらに負けないように力を付ける。


「まずは、15階層の攻略が当面の目標だな」


 この世界では、まだしばらく時間は掛かるだろうが…。


「レオは、アデレード様達と一緒に攻略を目指すんでしょ」

「ああ、そのためにアディはクレリックになった。パーティーのバランス的には申し分ない。俺達がクリアできたら、シルヴィーだって連れて行くよ」

「それは、助かるね」


 アディはクレリックなのに『大範囲回復』まで持っているのだ。できるはずだ。

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― 新着の感想 ―
一回決めた後継者を後から変えるのは悪手を超えた悪手ですよね。 決められないより酷いかもしれないレベル。 それをやるなら十年くらい院政を敷いて政情を安定させないといけないと思います。
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