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7-5(ガガス迷宮).

 王都から馬車で半日のところにガガス迷宮はある。この辺りは王家の直轄領だ。見えるのはごつごつした岩と草原だけだ。草花が傾ぐ方向で風の強さと向きが分かる。ちょっと強めの風が頬に当たり気持ちがいい。一際強い風が吹いて白い花びらが宙を舞った。


 そんな場所に一つだけ異質な建物が立っている。


 ガガス迷宮の入り口は古代遺跡のような佇まいを持つ石造りの門だ。入り口の周りは柵のようなもので囲まれ数人の騎士が警備している。現在ガガス迷宮は封鎖されている。


「お待ちしておりました」


 そのガガス迷宮の前で俺達を出迎えてくれたのはなんと王国騎士団長のジギルバルトだ。世界最強と謳われている騎士である。ジギルバルト団長は30前半くらいの大柄な騎士だ。銀髪を短く刈っていかにも強者といった雰囲気を漂わせている。


「まさか、騎士団長に迎えられるとは光栄です」


 騎士団長の出迎えに対してアディが全く臆することなく対応する。アディはジギルバルト団長と初対面ではないらしい。ジギルバルト団長はアルメッサー辺境伯派の支配地域の出身だ。しかもアルメッサー辺境伯は王族派だからアディとジギルバルト団長に面識があってもおかしくない。


「アデレード様、クリスティナ王女から話は聞いています。お前はレオニードだな」

「はい」


 俺とアディは、俺の返事に軽く頷いたジギルバルト団長に案内されてガガス迷宮の入り口に近づいた。ジギルバルト団長の部下らしい騎士が入り口を封鎖している鎖のようなものを外すと俺達を通してくれた。


「アデレード様、この先は私とレナードがお供します。レナードは神官です」


 ジギルバルト団長は神官だというレナードさんを紹介してくれた。レナードさんは団長よりかなり若い。20代台半ばくらいだろう。金髪を長く伸ばして騎士にしては優しそうな目をしている。神官というイメージにピッタリだ。


 アディが「今日はよろしくお願いしますわ」とまたもや堂々と挨拶をした。俺もそれに続いて「よろしくお願いします」と頭を下げた。こういった時のアディを見ると、やっぱり4大貴族の娘だなーと思う。


 レナードさんも優しそうな笑顔で「よろしくお願いします」と言った。


「アデレード様は魔法使い。レオニードは剣士と聞いていますので、勝手ながらこちらで回復役を手配しました。よろしければレオニードの代わりに盾役を用意しても構いませんが?」


 ジギルバルト団長はアディにそういうとチラっと俺の方を見た。俺は、黒獅子王を倒してレベル45になったことを未だに秘密にしている。おそらくジギルバルト団長と同じくらいのレベルだ。同じくらいのレベルと言えば…。


「いえ、レオを連れて行きます。レオは盾役としても十分な実力があります」


 というか俺は剣士ではなく最上級重剣士だ。


「そうですか。まあ、ガガス迷宮のボスはそれほど強くありませんから問題ないでしょう。私達が同行するのも念のためです。それと、止めはアデレード様が刺す必要があります」


 御遣様は止めを刺したものにスキルを授ける。


「知っていますわ」


 この迷宮の仕組みは俺がアディに説明済みだ。


「では、行きましょう」


 俺達はジギルバルト団長を先頭にカガス迷宮に足を踏み入れた。ジギルバルト団長、神官のレナードさん、そして俺とアディだ。


 中に入るとガガス迷宮は鍾乳洞のような迷宮だった。ジギルバルト団長に滑らないようにと注意され、4人は慎重に進む。静かな迷宮の中に、時々水滴が落ちる音がする。


「この迷宮の途中に魔物は現れません」

「ボスしかいないってことですわね?」

「その通りです」


 『迷宮物語』の記憶通りだ。ガガス迷宮は1階層しかないし魔物はボスしかいない。ただ、俺は『迷宮物語』ではガガス迷宮に入ったことはない。


 だが、何か引っかかる…。迷宮に入ってから頭がチリチリする。記憶を刺激するような何かを感じる。もどかしい…。自分で入ったことがないから記憶が曖昧なのか…。


「着きました」


 ほどなくして俺達はボス部屋の前に到着した。目の前には金属製と思われる扉がある。これまでも何度も見たボス部屋への扉だ。


「準備はよろしいか?」


 ジギルバルト団長の言葉に全員が「はい」と頷いた。


 隣のアディの緊張が伝わってくる。


「アディ、俺が必ず守る。大丈夫だ」


 俺が安心させるように言うと、アディは俺の腕にそっと触れると「レオ…。ええ、頼りにしているわ」と言った。


 そもそも、ジギルバルト団長が言った通りこの迷宮のボスはそれほど強くないはずだ。


 ジギルバルト団長を先頭に全員で扉に近づく。扉がすーっと両側に開いた。中は薄暗い。全員が中に入ると自然に扉が閉まる。扉が開閉する音はそれほど大きくないが静謐な迷宮で意外なほど響いた。


 扉が再び閉まると同時に薄暗かったボス部屋が誰かが灯りのスイッチでも入れたように明るくなった。


「あ、あれは…」


 レナードさんの声が少し震えている。無理もない。あれはアースドラゴンだ! 


 多くのゲームの例にもれず『迷宮物語』にもドラゴンが登場する。例えばザルバ大迷宮の35階層のボス、文字通り最終ボスは古代龍エンシェントドラゴンの一種である闇龍だ。レベルキャップ解放前の最深部である25階層のボスだって属性を変化させるドラゴンだ。ちなみに20階層のボスはドラゴンの一種であるヒュドラで、かなり手強い相手だ。


 アースドラゴンといえば、フィールドに偶に出現する魔物だ。『迷宮物語』ではランダムに、といってもある程度場所が決まっているのだが、通常よりも強い魔物が登場する。防具などを制作する時の高級な素材が手に入ったりするので制作職のプレイヤーにとっては出現する場所とか条件は重要な情報だ。多くのプレイヤーが集まって討伐したり取り合いになったりもする。アースドラゴンを討伐すると、討伐の貢献度や運により一部のプレイヤーに高級な鎧の素材である鱗がドロップするのだ。この世界の仕様は知らない。


 とにかく目の前にいるのは、そのアースドラゴンであり、俺の曖昧な記憶ではレベルは50近いんじゃないだろうか?


 なぜ、こんなものが…。


 その時、俺はやっと思い至った。一般的に『迷宮物語』ではクエストの難易度はクエストを受注した時のプレイヤーレベルに依存する。そしてガガス迷宮のクエストはプレイヤーが初期職業の時にしか受注できない。その時だけクリスティナ王女に話しかけるとクエストが発生するのだ。だから、初期職業でもクリアできる程度の難易度だ。


 ずーっと俺が気になっていたのはこれだ…。 


 ここに来たのはアディに止めを刺させてアディがスキルを得るためだ。王家の子供達は10才になるとスキルを貰いにこの迷宮を訪れる。10才といえば、まだ職を得たばかりだ。それに合わせてボスの強さも設定される。たぶん、護衛の騎士の強さではなく子供達のレベルで判断される。だから、これまでは大した強さのボスは登場しなかった。アディのレベルは19だ。まだ、上級職にはなっていない。アディに合わせて難易度が決められたのならアースドラゴンが出現するはずがない。


 これは…たぶん…。


 ガガス迷宮は俺を基準にボスの強さを設定したのだ。それは、たぶん俺が元プレイヤーだからだ…。


 アースドラゴンが出たのは俺のせいだ。俺が何とかしなくては…。


「アデレード様は帰還の腕輪を持っていますか?」

「はい」

「それはよかった。いざという時は迷わず使ってください」


 その後ジギルバルト団長は、アースドラゴンを見ながら「これは全員が帰還の腕輪を持ってくるべきだったかもしれませんな」と呟くように言った。


 それは、しかたがない。これまで、ガガス迷宮にこんなものが出現したことはなかったのだから…。


「ジギルバルト団長、この部屋にギミックのようなものはありませんよね?」

「ああ」


 さすが団長だ。アースドラゴンを前にしても俺の質問に落ち着いて答えてくれた。反対にレナードさんが杖を持つ手は震えている。レナードさんは上級職の神官だと聞いた。ということはレベル41にはなっていない。この様子だと高くても30くらいだろうか?


 まあいい。この部屋に特別なギミックがないのなら、目の前のアースドラゴンを倒せばいいだけだ。

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