7-4(クリスティナ王女の依頼).
「アデレードとレオニードの二人に私と一緒に今年の魔獣狩りに参加してほしいのです」
なるほど、そう言うことか…。今年の魔獣狩りは王の3人の子供達のアピールの場になると噂されている。
「あの黒い魔物を追い払ったレオニードが私の陣営に参加してくれれば心強いですわ。もちろんアデレードの噂も聞いています」
魔獣狩りは『迷宮物語』にも存在した。フィールドイベントの一つだ。フィールドイベントとは定期的にフィールドの決まった場所で行われるイベントでプレイヤーとしては参加しても参加しなくてもよい。参加すれば成績に応じてアイテムやゲーム内マネーが貰えたりする。普通はそれほど大したものは手に入らない。極稀に少数の成績優秀者に迷宮ボスのドロップ品と遜色のない武器やアイテムが配布されることもある。あまり効率のいいイベントではないが、他人と競えて順位が表示されるので参加するものは結構いた。報酬よりも名誉というわけだ。
「ね、参加してくれるでしょう?」
「それは、かまいませんが、クリスティナ様にはジギルバルト団長が付いていますから戦力としては申し分ないのでは?」とアディが尋ねた。
ジギルバルト団長は『迷宮物語』でもクリスティナ王女の陣営にいた。
「ええ、もちろんジギルバルトは私の陣営の騎士として参加します。でも、私はあなたたちと一緒に魔獣狩りを楽しみたいのです。それに、レオニードはセシルが全く相手にならなかった魔物に立ち向かって私達が逃げる時間を稼いでくれました。しかも生き残っています。それに、先だってのウラニア公国との戦争についてもいろいろ聞いています。私は優秀な人材を見逃すほど無能ではないのです。だめかしら?」
なるほど。やっぱりクリスティナ王女はただの可愛らしい王女ではない。
「クリスティナ様がそこまで仰って下さるのならかまいませんわ。レオもいいわよね」
アディが改めて応諾の意志を示した。
「ああ」
ただ、俺には少し気になることがある。フィールドイベントは曜日とか時間が決まっていて繰り返し行われる。難易度もいろんな種類がある。さすがにこの世界で毎週行われるとかはない。そこは、まあ、いい。それよりに気になるのは、一応イベントが発生する理由付けはされているが、実際にはフィールドイベントはプレイヤーのためのイベントだ。プレイヤーは陣営を選んで参加すればいい。参加した陣営が勝ては少し報酬が多くなる。そしてプレイヤーの個人順位も表示される。だが、この世界にプレイヤーは…。
この世界の魔獣狩りは毎週あるわけじゃないし、どんなイベントになるのか今一わからない。
『迷宮物語』の魔獣狩りはもの凄い数の魔獣がその時間に出現する。それを何百、何千ものプレイヤーが競って討伐する。だが、この世界で魔獣狩りにそんなに多くのプレイヤーが集合するなんてことはありえない。プレイヤーの代わりに騎士達が討伐するということなのだとは思うのだが…。
「魔獣狩りにはどの程度人数が参加するのですか?」
とりあえず俺は訊いてみた。
「私とストレイドお兄様、それにアルバートお兄様がそれぞれ300人の騎士を率いて参加します。それに今回の魔獣狩りはアマデオ侯爵派の貴族の領地で行われますからアマデオ侯爵の騎士団も参加することになるでしょう」
アディが俺に小声で「レオ、今回の魔獣狩りは王の子供達の競争の場になるってもっぱらの噂よ」と言った。それは俺も知っている。
「アデレード、聞こえてますよ」
アディは全く悪いとは思っていない様子で「すみません」と謝った。それを見たクリスティナ王女は苦笑している。
「まあ、いいですわ。アデレードの言う通りで、今回はお父様の後継者を狙う3つの派閥が競っているという感じですね。お父様もそれを望んでいる節があります」
「失礼なことをお伺いしてもいいでしょうか?」
「かまいません。何でも聞いてください」
「ゴドウィン王の後継者は王太子であるストレイド殿下に決まっていると俺は理解しています。クリスティナ様はそれを覆したいと思っているのでしょうか?」
「いい質問ですね。私はそんなことは思っていません。ですが、周りは違います。私が生まれつき最上級の回復魔法スキルを持っていることや見ての通り美しい容姿をしているせいで国民から人気があるのも問題を複雑にしていますね」
クリスティナ王女はなんの恥ずかしげもなくそう言った。
「それに、お父様がストレイドお兄様を王太子に定めたのは、私がガガス迷宮で『超回復』を授かるより前のことなのです」
クリスティナ王女は少し憂いを帯びた口調で言った。なるほど。ゴドウィン王がストレイドを後継者に定めた後になってクリスティナ王女がガガス迷宮のボスから『超回復』を得た。普通なら初級スキルしか得られないガガス迷宮で…。ゴドウィン王はこれを天啓と思ったのかもしれない。しかもクリスティナ王女は王妃の子供だ。こんな裏設定があったとは俺もさっき知ったばかりだ…。
「なるほど。で、アルバート殿下のほうは?」
「アルバートお兄様は長男です。それにお母様が子爵家出身の側妃とはいえストレイドお兄様のお母様だって伯爵家出身とはいえ側妃なのですから思うところはあるでしょう」
実は、この後継者争いは後にファミール王国が戦乱の時代になることの原因になっている。俺は当然、俺やアディが住んでいるこの国が戦乱の時代になることを望んでいない。アディの死を防いだ今、次の目標は戦乱の時代になることを防ぐことだと思っている。
だが、どうやら、そう思っていない奴らがいる。インプレサリオ達はおそらく戦乱の時代になることを望んでいる。そして戦乱の時代に『迷宮物語』での『TROF』がそうだったように覇権を握りたいと思っているのだ。同じこの世界を生きている者としては馬鹿としか思えない。それに他にも怪しい奴らがいる。どうやら、そいつらはリアブルク連合国にいるらしい。俺はアルメッサー辺境伯騎士団のハイゼルフ団長が亡くなったあの戦争を思い出した。
あのエルロンと呼ばれていた少年は間違いなく転生者だ。
「魔獣狩りでは倒した魔獣の数とかによって報酬が出たりするのでしょうか? 順位によって表彰されるとか…」
「いえ、特にそう言うことはありませんが…」
「そうですか…」
特別な報酬はない…か。王家や4大貴族、それに騎士が魔獣を間引くのは当然のことだ。ちなみに、フィールド上に出現する魔物の多くが獣形なので魔獣と呼ばれることが多い。この世界の魔獣狩りはプレイヤーのためのイベントではない。わからないことが多すぎる。
「とにかく、アデレードとレオニードが参加してくれるのなら心強いし楽しみだわ」
「クリスティナ様、同級生のアルスとサラも一緒に連れて行っていいでしょうか? フィッシャー家の領地は今回の魔獣狩りの場所に隣接しているのですわ」
「あなた達がいつもパーティーを組んでいる二人ですね。確かサラはフィッシャー家の娘でしたね。もちろんかまいませんわ」
こうして俺達は4人でクリスティナ王女と一緒に魔獣狩りに参加することになった。シルヴィーにも声を掛けてみるか…。
「そうそう、ストレイドお兄様は、なんだかずいぶん優秀な親衛隊を組織してるって噂ですわ」
優秀な親衛隊…? どういう意味だろうか?
「特に隊長と副隊長の二人は凄く強いという噂です。ジギルバルト団長より強いという噂もあります」
「まさか、そんなことがあるはずありませんわ」
アディが驚いて反論した。クリスティナ王女…一体何が言いたいんだろう?
「それが、最近副隊長の姿が見えないらしいのです」
なんだって! まさか…。
俺はクリスティナ王女を見つめた。その表情からは何も読み取れなかった。
「そうそう、そう言えば、最近アルバートお兄様を通じてあなた達と同じようにガガス迷宮に入りたいと言ってきた者がいたようです。ですが、あの迷宮が王族にしか使えないと聞いて諦めたようですわ。私が知っているとはアルバートお兄様も気がついてないと思いますけど」
王族しか使えないと聞いて諦めた…。
「それって」
「最近男爵になった、どこかの若い貴族ですわ」
クリスティナ王女…ただ者ではない。




