7-3(クリスティナ王女との面会).
「アデレード、それで今日は何の話ですの?」
アルメッサー辺境伯は王族派だ。しかも王の3人の子供達の中ではもっともクリスティナ王女と親しいらしい。なんでもクリスティアナ王女の母である王妃様はアルメッサー辺境伯派のアッパーヒル侯爵家の出なのだ。
そういえばアッパーヒルってホレイショ先輩の…。
「ねえ、アディ、もしかしてホレイショ先輩って?」
「ホレイショは私の従兄ですわ」
俺がアディに話しかけた声がつい大きくなったのかクリスティナ王女がそう答えてくれた。
「そうですか。先輩が王女様の従兄…」
「ええ」
「レオ、そんなに驚かなくも…。私のお母様も王家の血を引く公爵家の出身だから私とクリスティナ王女もまた従妹くらいの関係にはなるはずだわ」
やっぱり、アディは凄くいいとこのお嬢様だ。なんか庶民の俺には居心地が悪くなってきた。
「レオ、私の顔に何かついているのかしら?」
「いや、やっぱり4大貴族の娘って凄いなって思ってさ」
「もう、今さら何を言ってるの」
俺達のやり取りを聞いていたクリスティナ王女が「アデレードとレオニードはとても仲が良さそうですね」と言った。
アディは我が意を得たといったばかりに大きく頷くと「ええ、そうなんですわ」と即答した。アディは満面の笑みを浮かべている。
「でも、失礼ですけどレオニードは平民ですよね。大丈夫ですの?」
「アルメッサー辺境伯家は身分よりも実力を重んじるのです。問題ありませんわ」
一体、何が問題ないのだろう…。
「確かに、セインでさえ一撃でやられたあの黒い4つ足の魔物に立ち向かった姿は見事でした。おかげで私も逃げ延びることができました。あの時は助かりました」
「ええ、レオはとっても強いし頼りになるのですわ」
全く俺が強いと自分のことのように自慢するアディには表裏がない。それともこんな姿は俺の前だから見せてくれるのだろうか?
それよりも本題だ。
とにかくあのクエストはクリスティナ王女から受注する。病弱な王妃様のための薬を作るのに必要なアイテム、確かコカトリスの鶏冠だったかなんだかを取ってきて、そのお礼にっていうやつだ。だけど、俺が調べたところではコカトリスの鶏冠なんて王家の力を持ってすれば別に俺達じゃなくても探し出せる。いや、王家の力を使ったほうが早い。実際、王妃様は普通に健康だと聞いている。
だから俺はクエストは飛ばして直接クリスティナ王女に頼んでみることにした。さっきも話に出たが黒獅子王の件でクリスティナ王女は俺に感謝してくれている。
俺はアディを肘で軽くつついた。柔らかい…。
「そうでしたわ。クリスティナ様、ちょっとお願いがあるんですの」
「お願い?」
「ええ、私達ガガス迷宮に入りたいんですの」
王家は3つの迷宮を管理している。一つはお馴染みのザルバ大迷宮だ。『迷宮物語』でもレベル上げで重要な役割を果たすメインの迷宮だ。もう一つは騎士団の訓練専用に使われているベングラウ迷宮で、剣のダウスゴー家と呼ばれている王族派のダウスゴー伯爵家が管理を任されている。そして3つ目が王都に近い王家の直轄領ある王族しか使うことのできないガガス迷宮だ。
しばらくの沈黙の後、クリスティナ王女は口を開いた。
「これって、誰が思いついたんですか?」
「レオニードですわ」
アディは隠し事が得意ではない。
「レオニードはガガス迷宮に関して何か知っているのですか?」
今度は俺の方を向いてクリスティナ王女が尋ねた。
「ガガス迷宮が1階層しかない迷宮だと知っています」
クリスティナ王女はハッとしたような顔をして「なぜ、それを…」と呟いた。
俺は心の中で、それはもちろん『迷宮物語』の知識ですよと答えた。もちろん口には出していない。
ガガス迷宮は1階層しかない。そして一階層にボスがいる。そのボスを倒すとスキルを授けてくれる。ガガス迷宮のボスは御遣様なのだ。ただし、普通の御遣様と違って貰えるスキルを選べる。一人につき1回だけだし、どれも初級スキルだ。それでも、ゲーム序盤に普通の迷宮を周回して欲しいスキルを手に入れる手間を少しだけ省くことができる。俺はこのクエストをやらなかった。貰えるのは初級スキルだけだし、俺は目的のスキルを手に入れるために迷宮を周回するのがそれほど苦にならないタイプのプレイヤーだった。どっちにしても御遣様から得られるスキルは3つまでなのだ。
だが、ガガス迷宮はこの世界では十分役に立つ。現実世界ではゲームのように数えきれない回数迷宮を周回するなんてことは無理なのだから…。
「レオニード、あなたがガガス迷宮について何を知っているのは知りませんが、あれは王族にしか役に立ちませんよ」
クリスティナ王女が探るように俺の目を見て言った。
王族にしか役に立たない? もしかしてこの世界ではガガス迷宮のボスである御遣様からスキルを貰えるのは王族だけなのか? ゲームではプレイヤー全員が貰えたのに…。こんなところにもゲームとの違いが…。
いや、待てよ。さっきアディはなんて言った? 私とクリスティナ王女もまた従妹くらいの関係にはなる、確かアディはそう言った。もしかしたら王家の血を引くアディならスキルを貰えるかもしれない。
「クリスティナ様、アディは王家の血を引いています。アディなら可能なのでは?」
「なるほど。これはアデレードのための依頼なのですね。そうですね。私もはっきりとはわかりませんが、アデレードなら可能かもしれません」
「ねえ、レオ、よくわかってないんだけど、これで私がクレリックになれるってこと?」
「いや、まだわからない。やってみないと」
いろいろゲームとは違いがあるようだ。やってみないとわからない。
「それでクリスティナ様、どうでしょうか?」
「いいでしょう。私はレオニードに命を救われました。お父様も私が命を救われたお礼だと言えば許可して下さるでしょう。それにアデレードは王族派のアルメッサー辺境伯の娘なのですから。ですが、ガガス迷宮の秘密は決して漏らしてはなりません。例え身内であってもです。あそこは王の直系の子供とそれを護衛する騎士の一部しか入れません。一緒に入った騎士達は信用のおける者だけで厳重に口留めされているのです」
「わかりました」
「わかりましたわ」
俺とアディは声を揃えて返事をした。
「それにしても、ずいぶん厳重に管理されているのですね」
「当然です。私の時はジギルバルト団長とその側近と一緒にガガス迷宮に入りました」
ジギルバルト団長はクリスティナ王女派だ。実は王妃様とジギルバルト団長は若い頃からの知り合いだ。ただの知り合いではなく、王妃様はジギルバルト団長の想い人だ。ジギルバルト団長は今でも独身であり王妃様の娘のクリスティナ王女を可愛がっている。このことが『迷宮物語』のストーリーの最後(レベルキャップ解放前の話だ)でラスボスとしてジギルバルト団長が登場することの伏線になっている。
ただし、アディの死が防がれ、俺の他にも転生者や転移者がいるらしいこの世界は、既に『迷宮物語』のストーリーから外れている。この先どうなるのかは俺にもわからない。だが、ゲームの強制力とやらで同じようなことが起こる可能性だってある。誰にもわからないのだ…。
「ガガス迷宮のことを、どうして平民のレオニードが知っているのか興味があります」
「それは…」
「それは、きっとレオニードがあの黒い魔物に立ち向かって生き残ったことに関係があるのでしょうね」
クリスティナ王女は少し身を乗り出して探るように俺を見ている。
「……」
「まあ、いいでしょう。レオニードはいろいろと役に立ちそうですから、ここは恩を売っておくことにしましょう」
うーん、クリスティナ王女はただ可愛いだけの王女ではなさそうだ…。
「お父様の許可が得られたら連絡しますわ」
「クリスティナ様、ありがとうございます」
アディはクリスティナ王女にお礼を言うと俺の方を向いて「レオ、これで私、クレリックになれるのよね?」と言った。
「いや、アディ、だからまだわからないんだ」
クリスティナ王女はそんなアディを妹でも見るような目で見ていた。同じ年のはずだし、見た目はクリスティナ王女のほうが幼い感じなのだが…。
「お二人にいいことを教えて差し上げますわ」
いいこと?
「私の持っている『超回復』のことです」
「生まれつき持っている最上級回復魔法スキルですよね?」
アディが確認する。クリスティナ王女は生まれつき最上級回復魔法スキル『超回復』を持っている。これは有名な話だ。
「あのスキルは実は生まれつきではありません。10才のときガガス迷宮で手に入れたものです。王の子供は10才になるとガガス迷宮に入り一つスキルを取得するのです。ガガス迷宮の御遣様はあまり強くありません。そして、これまで初級スキルしか授けたことがないと言われていました。ですが、私の時には最上級魔法スキルが選択肢に現れたのですわ」
クリスティナ王女が持つ最上級魔法スキル『超回復』は生まれつきのスキルではなかった…。まさか、こんな隠し設定があったとは…。
「それなら、私も凄いスキルを貰えるかもしれないわ?」
アディは嬉しそうに言った。
「これも秘密ですよ」
「わかっていますわ」
たぶんゲーム的にいえば天文学的な確率で初級スキル以外が選択肢に現れれるということだろう。たぶんアディには無理だ。
しばらくしてクリスティナ王女は「それで、その代わりと言ってはなんですが、二人にお願いがあります」と言った。ここまで教えてくれたのには、やっぱり目的があったのか…。
アディは「わかりましたわ」と即答した。
いや、アディ、まだそのお願いとやらを聞いてないよ…。




