7-2(アディの相談).
「ねえ、レオ、ちょっと相談があるのよ」
二年生になって間もなくの放課後、アディがこう話し掛けてきた。
「こないだのレオの戦いは凄かったわ。私もアルメッサー辺境伯領も救われた。本当にありがとう」
「いやー」
こんなに正面切ってお礼を言われると照れる。それにあれからアディには何度もお礼を言われている。
「あれを見てね。レオって本当にジギルバルト王国騎士団長クラスの強者になったんだって思ったの」
「うん」
「でも、相手も強かった」
「うん」
「この世界には、まだまだ強い人がいる」
そう、俺のような転生者がいる。それにヴィルトゥオーゾのような転移者だっている。
「私もね、もっと強くなりたいの。アルメッサー辺境伯の娘として、それに…」
俺はアディの言葉を待った。
「それに、これからもレオについていきたいのよ。といっても、既にレベルが倍以上違うんだけどね」
アディが少し寂しそうに笑った。アディにはいつも元気でいてほしい。強気な悪役令嬢のようにだ。
「いや、それは…」
俺には『迷宮物語』の知識がある。それをフルに活用してゴレイア迷宮のラスボスや黒獅子王を倒した結果が今のレベル45だ。もちろん、幼い頃からの訓練も大いに役に立った。同じレベルのエルロンに勝ったのはそのおかげだ。そういえばエルロンを倒してもレベルは上がらなかった…。『迷宮物語』でもプレイヤーを倒してもレベルは上がらなかった気がする。
「それでね。私って魔法使いでしょう?」
「そうだけど」
「このままレベルを上げると上級魔法使いになるよね」
「そうだね」
俺はアディの言いたいことがわかってきた。俺も気になっていたことだからだ。
「このまま、レオはもちろんアルスやサラとパーティーの組むとなると回復役がいるよね」
アディの言う通りだ。俺達がまだ10階層のボスに挑戦していないのはこのためだ。俺の力で強引にクリアしてみんなのレベルを上げることはできる。ただ、シルヴィーとの経験で俺はそれではだめだと感じている。そんなやり方ではいずれ限界がくる。事実、15階層のケルベロスは俺とシルヴィーの二人では倒せなかった。15階層のボスの攻略適正レベルは30前後で俺のレベルはそれより遥か上の45だ。それでもダメだった。それに、この世界では失敗が死に繋がることを忘れてはいけない。これから先は盾役だけじゃなく回復役もいたほうがいい。
「レオは盾職だよね」
「ああ」
「だったら私は回復魔法が使える職になったほうがいいと思うんだよね」
それはその通りだ。
「レオになんか秘密があるのはわかっている。たぶんシルヴィアさんにもね」
「……」
「答えなくてもいいわ。いつかその時が来たら教えてくれればね」
「わかった」
そう、その時が来たら…。
シルヴィーが言うにはインプレサリオ達はこの世界をまるでゲームのように考えている。この世界でも『迷宮物語』の『TROF』のように覇権を握るとか厨二病のようなことを言っているらしい。あいつらにもこの世界での親や大切に人がいるだろうに…。とにかく、今は俺達のことにアディを巻き込みたくない。
「それで、そのなんか秘密があるレオに相談なんだけど、私が回復魔法が使えるクレリックになる方法ってないの?」
魔法使いのアディが回復魔法を使える職を目指すとすれば…攻撃魔法も回復魔法も使える大賢者だろう。そのためにはクレリック→賢者→大賢者と目指すのがいい。大賢者の回復魔法は専門職の大聖女や大聖者には劣る。だが、物理攻撃と回復魔法の両方が使える神聖剣士系の職よりは回復能力が高い。他のメンバーの能力が高ければパーティーの回復役としても十分に機能する。
「ねえ、私がクレリックになる方法ってないのかな?」
アディが繰り返し尋ねた。
クレリックはこの世界でも知られている。確か全学年合同訓練の時のアルベルトのパーティーの3年生はクレリックだった。クレリックは普通は僧侶からなる。
「稀に魔法使いからクレリックになる人がいるわ。たいていは僧侶からだけど魔法使いからなる人もいる。その条件は公開されてないけど、みんな薄々気がついている」
「それって?」
「何らかの理由で魔法使いなのに回復魔法スキルを持っていることじゃないかと思うわ」
当然そうなるだろう。この世界の人達は馬鹿ではない。ただ、スキルや職については国家や大貴族がいろいろと秘匿している。特殊な職に就く条件などはあまり公には語られないのだ。ただ、魔法使いからクレリックになった人が少数ながら存在していれば当然想像はするだろう。
「それで合ってると思う」
「やっぱりね」
魔法使いのアディが何らかの回復魔法スキルを取得するには生まれつき持っていない以上、御遣様を倒して手に入れるしかない。だが、御使様から得られるスキルは選択できない。運任せだ。しかも御遣様に出会うこと自体が運なのだ。目的のスキルが得られるまで寝食を忘れて迷宮を周回することができたゲームとは違うのだ。
「それで何か方法はないの?」
「ないことはない…」
『迷宮物語』ではストーリーの本線とは別にかなりの数のサブクエストが用意されている。それらをするとアイテムボックスの容量が増えたり、序盤で役立つ武器や防具が手にはいったり、ちょっとしたアイテムが手に入ったりする。そうしたサブクエストの中に初級スキルの中から好きなものを覚えられるというのがある。あくまで初級スキルの中からだ。俺はやったことがない。
『迷宮物語』の中でもアディのように希望の職業を選択する条件を満たすために特定のスキルを必要とすることはあった。普通は希望のスキルが手にはいるまで迷宮を周回して御遣様を討伐するのだが、ゲームの中でさえ御遣様を見つけて希望のスキルが手に入るまで討伐し続けるというのはかなりの根気がいった。運が悪いとどうしても手に入らないなんてこともある。それを緩和するためにちょっとした方法が用意されている。そのクエストがこの世界でも有効なのかどうかは不明だ。
「ねえ、それじゃあ…」
「ちょっと考えてみるよ」
あれはいわゆるおつかいクエストだ。だけど…この世界なら、そんな回りくどいことしなくても直接頼んでみてもいいかもしれない…。
「ついでに教えてもらいたいんだけど」
「なに?」
「僧侶だって全員がクレリックになれるわけじゃないわよね」
「うん」
「条件はなに?」
アルメッサー辺境伯の娘であるアディですら知らないのだ。たぶんスキルや職関係の情報は王家や貴族達によってかなり隠されている。サイモン様なら知っているかもしれない。
「僧侶のスキルに『浄化』っていうのがあるんだ」
「知っているわ。硬直とか移動不可とかスロウとか状態異常を解除するスキルでしょう?」
「うん。あれってアンデットに使うと攻撃魔法になるんだ」
「それも、聞いたことがあるわ。アンデットっていえばシュタイン侯爵領のバセスカ迷宮が有名ね」
「僧侶がクレリックになる条件は『浄化』で一定数以上のアンデットを討伐していることなんだ」
「そうか、それで全学年合同訓練の時のアルベルトのパーティーの回復役の三年生はクレリックだったのね」
アルベルトはシュタイン侯爵の嫡男だ。
「そういうことだと思う」
その後、俺はアディが回復スキルを取得する方法を説明した。




