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1-7(鑑定).

 俺はレベル5になったことをシグルド様に報告した。


 シグルド様は「まさか15才を前にレベル5まで上がるとは…。まあ、何にせよ良かった」と喜んでくれた。師匠であるシグルド様に本当ことを言えないのは心苦しいが、この世界は前世のゲームの世界ですとか言えるわけもない。


「シグルド様のおかげです」


 実際、ここまで俺に剣の基礎を叩きこんでくれたのは亡くなった父さんとシグルド様だ。


「レオ、アルメッサー辺境伯の屋敷に行ってこい。丁度カイル探索者養成学園の鑑定官が滞在している。カイル探索者養成学園、行くんだろ?」

「はい」


 俺はシグルド様の言葉に頷いた。


 俺はシグルド様との稽古を終えると、早々にアルメッサー辺境伯の屋敷を訪れた。王都にあるエリート校カイル探索者養成学園の鑑定官は辺境伯の屋敷に滞在している。カイル探索者養成学園は平民でも条件を満たせば入学できる。実際には条件を満たせる平民はほとんどいない。迷宮でのパワーレベリングができないからだ。逆に言えば、それでも条件を満たした平民は凄く才能があることになる。俺の場合はそうではなく前世の知識で知られていない迷宮に密かに潜ってレベルを上げただけだ。


 アルメッサー辺境伯の屋敷の立派な鉄製の門扉の前に立っている門衛が何だお前はという顔して睨んできたので用件を告げる。


「カイル探索者養成学園に入れるのはレベル5以上だぞ」

「知っている」


 疑わしそうに聞いていた門衛に俺は短く返事をした。自分のレベルは誰でもわかるのだからレベル5に達していない者が鑑定を受けに来るはずはない。なおも疑わしそうな表情を崩さない門衛だったが、それでも、同僚に事情を告げると、門扉を開けてついて来いと顎をしゃくった。門衛についていくと屋敷に通され待合室のような部屋に案内された。


 部屋にはなんと先客がいた。アデレードだ。


「なんだ、レオじゃない。どんな人が鑑定を受けにきたのか興味があったから見にきたのよ。お兄様の護衛を倒したんだから只者じゃないと思ってたけど平民なのにレベル5に到達してたのね」


 あの時は到達してなかったけどね…。


「アデレード様はもっと上でしょう」

「ま、まあ、私はアルメッサー辺境伯の娘だからね…」


 なんかアデレードが照れている。アルメッサー辺境伯の娘であるアデレードは何度も迷宮でのレベル上げをしているはずだ。


「レオ、お兄様のことは…」

「いいんだ」


 俺はアデレード言葉を遮った。あれから何か俺のことを聞いたのかもしれない。だが、兄妹であっても兄は兄、妹は妹だ。俺はアデレードには感謝している。いや、それ以上の感情を持っている。


「ありがとう、レオ」

「うん」 

「それと、これからはアディって呼びなさい。カイル探索者養成学園では同級生になるんだから。わかったわね」

「わかりました。アディ様」


 何もしなければ、この正義感が強そうで真っすぐな性格の少女は『迷宮物語』でいうところのイベントに巻き込まれて死んでしまう。


 そうはさせない!


「様はいらないわ。ねえ、それより私は魔法使いなんだけど、レオの職はなに?」


 顔が近い…。


「いや、職やレベルって簡単に人に話すもんじゃないだろう」

「もう、私とレオの仲なんだからいいでしょう」


 どんな、仲なんだ…。


 アデレードはぐいぐい来るけど、悪い気はしない。素直で屈託がない性格のせいだろう。正直に言えば、アデレードが美人なせいもある。


「それで職はなんなの?」

「剣士だよ」

「いいわね。私もお爺様や父様と同じ剣士になりたかったのよ。でもレオが剣士なら前衛と後衛で相性もばっちりね」


 アデレードはニッコリ笑った。その後なんだかんだで俺はアディ呼びを受け入れさせられた。確かに可愛いことは認める。こないだアモスと渡り合ったところを見ても度胸もあるし性格も良い。


 まあ、だからこそアディを助けるためにカイル探索者養成学園へ入学することにしたんだけど…。


「それじゃあ、また後でね」


 そう言うとアディは部屋を出て行った。 


 その後の鑑定官による鑑定はあっけないほど簡単だった。前世でいう占いによく使う大きな水晶玉のようなものに触れるだけだ。アニメなんかでもよく見る光景と言っていいかもしれない。


「ふーん。レベル5だね。合格」


 クライフと名乗った鑑定官は「この魔道具じゃあレベルしかわからないんだけど職は何かな」と聞いてきた。レベルしかわからないのか。それなら俺が魔法スキルを持っていることもわからないってことだ。


「剣士です」

「そかそか」


 クライフさんは何やら紙に書き込むと「それじゃあ合格だから1ヶ月後には王都に来てね」と言うと「そうそう寮に住むんなら早めに来て手続きをすること」と付け加えた。俺は寮に入る予定だ。


「わかりました」

「えっと、平民のきみは授業料も寮費も免除だから。よかったね」

「それは、助かります」


 こうして、10分もかからず俺のカイル探索者養成学園への入学は決まった。


「ありがとうございました」


 お礼を言って鑑定のために用意された部屋を出ようとした俺にクライフさんは「そうそうレオニード、平民で入学するのはとても珍しいんだけど、今年は既に3人目なんだよね。平民で入学すると何かと大変なことも多いと思うけど一人じゃないし協力して頑張ってね」と声をかけてくれた。


「はい」


 俺以外の数少ない平民の入学者。そのうち一人は主人公で間違いない。


 鑑定の後はアルメッサー辺境伯であるサイモン様への挨拶だ。サイモン様は王国北東部貴族の盟主だ。今年北東部からカイル探索者養成学園へ入学するのは俺を入れて8人と聞いている。例年より少し多いらしい。俺は使用人に連れられてサイモン様の執務室に向かう。


「アルヘイム在住の平民レオニードがカイル探索者養成学園入学の挨拶に参っております」


 サイモン様の執務室の扉の前から俺を案内してきた使用人が俺の来訪を告げると「入れ」と言う声がすぐに返ってきた。サイモン様は50才を超えているはずだが声は意外と若い。


 俺は促されるまま部屋に入った。


 サイモン様は執務室の椅子に座ったままこちらを向いていおり、その隣にアディが立っていた。サイモン様は辺境伯らしい豪放な印象の偉丈夫でアディと同じ赤い髪をしている。


「レオニード、久しぶりだな。ずいぶんと大きくなった。それにカイル探索者養成学園入学とは、ずいぶん頑張ったな。我々王国北東部派にとっても嬉しいことだ」


 平民の俺が直接話してもいいのか迷っていると、サイモン様は「ここは気楽な場だ。そう緊張せずともよい」と言った。


「ご無沙汰しております、サイモン様。なんとかカイル探索者養成学園に入学できることなりました」

「うむ。シグルトやつも喜んでおろう。それにキュリオスもな」


 サイモン様は俺がシグルド様に剣を習っていることを知っているようだ。それに父さんのことも覚えてくれている。

 

「ありがとうございます」と俺は頭を下げた。

「うむ。お前の父は素晴らしい騎士であった」

「お前のことはシグルドから聞いていた。本当はお前にも迷宮での訓練を許可したかったのだがな」

「いえ、お、私は平民です。私だけを特別扱いするわけにはいかないことは承知しています」

「うむ。いずれにしてもお前はカイル探索者養成学園入学を果たしたのだ。見事であった」

「ありがとうございます」

「そして、お前の学友となるアデレードだ」


 アデレードはニコリと笑うと少し胸を反らして「始めましてレオニード。学園ではよろしくお願いするわ」と言った。たったそれだけなのに、さっき会った時と違って、アディには4大貴族アルメッサー辺境伯の娘にふさわしい貫禄があった。やっぱり悪役令嬢みたいだ。俺はそれが微笑ましかった。それに少し楽しくなった。


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 俺が笑いを堪えて頭を下げるとアディは優雅に頷いた。


 こう見えてアディは俺より遥かにレベルが高い。『迷宮物語』の記憶ではアディは特待生の一人だ。ということはレベル10を超えているはずだ。


 サイモン様への挨拶を済ませて執務室を出て廊下を歩いていると嫡男のアモスとすれ違った。俺は廊下の端に避け頭を下げる。アモスはすれ違いざまに「おやじに気に入られてるからってあんまり調子に乗るなよ」と耳元で囁いた。俺は思わず振り返ってアモスを見た。


 アモスは碧い目で睨んでいる。


 アディはサイモン様と同じ燃えるような赤毛だがアモスは金髪碧眼だ。サイモン様の奥様は公爵家の出身で王家の血を引いている。とてもプライドが高いと聞いている。アモスは外見も性格も奥様似なのだろう。俺は当然そんなアモスが好きではない。向こうも同じように思っているのだろう。こないだの件がなくとも父が死んだ経緯を考えれば俺がアモスのことをよく思わないのは当然だ。さっきの話からして、こないだと違って俺が誰かは聞かされたようだ。これからは俺を見ると自分の失敗を思い出すことになるだろう。俺はお前のせいで死んだ男の息子なのだから…。


「ふん、行くぞ」


 そこで初めてアモンの背後に立っている男に気がついた。アモスに付き従う凄腕の護衛…。聞いたことがある。確かデイラムだ。元々は奥様が実家から連れてきた騎士だ。父さんが生前、サイモン様が辺境伯家の跡取りとしてアモンを厳しく育てようとしても奥様が甘やかして困っているらしいと母さんに話していたのを聞いたことがある。デイラムは建前上はアルメッサー辺境伯騎士団の一員だが、奥様の指示でアモンを護衛している。


「レオ、凄く怖い顔をしてるわよ」


 振り返ると、そこにはサイモン様の執務室を出て俺を追いかけてきたのかアディがいた。

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