6-4(メデューサ).
「邪眼だ!」
僕はメデューサの目が緑色に光ったのを見逃さなかった。さすがに少しは慣れてきた。それでも、僕は油断しない。これまでも、なんども慣れたと思って失敗しているのだ。
僕達のマンスリーミッションに関する推測は当たっていた。ミッション完了となるボス討伐で帰還の腕輪が5つドロップしたのだ。正直驚いた。そもそも5つもドロップ品があること自体が異例だ。ラングレー達も手に入れることができたので1ケ月に10個だ。ラングレー達は僕達以上に驚いていた。まあ、あれで僕達に対する畏敬の念が増したみたいなので秘密を漏らすことはないだろう。もともとラングレー達は信用できる。
安定して帰還の腕輪を手に入れる方法を確立した僕達はダゴン迷宮15階層のボスであるメデューサ攻略を再開した。既に今日で5回目の挑戦だ。毎回狂乱状態までは到達できているのだが…。正直、既に全員レベル35を越えているのでここまで掛かるとは思っていなかった。
だけど、今日こそは…。
僕、プリマドンナ、マエストロ、グレアムの4人はメデューサにそれぞれ違う方向から接近した。後衛職の僕が接近するのは緊張する。だが、ここは思い切って接近する必要がある。
メデューサを中心に扇形に床の色が緑に変わった。暗く毒々しい緑だ。そしてその扇形はかなりのスピードで時計周りに回転する。そして、この床に触れると石化する。回避系スキルを使うしかない。しかし回避系スキルで移動できる距離はそれほど長くない。無敵時間も一秒もないぐらいだ。だから僕達はメデューサに接近したのだ。扇形は当たり前だが内側のほうが幅が狭い。
「『回避』!」
上級重剣士のマエストロが回避を使って緑の床を避けた。成功だ!
次は僕だ。メデューサの杖を持つ手に思わず力が入る。手は少し汗ばんでいる。この杖は父がプレゼントしてくれたレア級の杖だ。メデューサの杖とは皮肉だがメデューサはヒューロン迷宮の15階層のボスでもある。今になって、これがいかに貴重なものなのかがわかる。レア級で補助効果も一つだから手に入れることができたのだろう。緑色の床が僕に迫る。
「『後方回避』!」
成功だ! 思わず口から息が漏れる。後方回避のほうが『回避』より移動距離は長いから難易度は低い。一方で移動する方向は後方なので向きには注意が必要だ。
その後はプリマドンナが『回避』でグレアムが『後方回避』で緑色の床を避けた。
よし! 全員成功だ!
僕は『浄化』を用意していたが使う必要はなかった。メデューサは邪眼が終わるとすぐに瞬間移動で石化した者の前に現れて杖による強力な打撃攻撃をしてくる。一人なら『浄化』で解除できるが二人以上石化したら詰みだ。石化状態でも帰還の腕輪は使えるので、すぐに攻略を諦める必要がある。
邪眼はすでに3回目だ。僕は一度だけプリマドンナに『浄化』を使ったがそれ以外は全員成功している。本当はこの攻撃をしている時、メデューサは他の攻撃をしてこないのでチャンスでもあるのだが『迷宮物語』の時と違ってそんな余裕はない。
「ぐわっ!」
メデューサは髪が蛇になっている。その髪が逆立つように蠢き蛇の口から次々と炎の玉が飛んでくる。僕は急いでマエストロの背後に移動する。プリマドンナとグレアムもだ。
「あっ!」
「『大回復』!」
移動中のプリマドンナに炎の玉が掠った。僕はすぐに『大回復』をプリマドンナに使った。僕は範囲回復を持っていないので一人ずつしか回復できない。神官なら範囲回復魔法スキルも覚えるのだが…。
「うおー!!」
マエストロが盾を掲げて炎の玉を防ぐ。
「『黒炎槍』!」
グレアムの魔法スキルだ!
マエストロの背後からグレアムが放った黒く不気味な炎の槍がメデューサを捉えた!
「シャァーー!!」
メデューサがまるで蛇のような声を上げる。
グレアムの魔法はちょっと特殊だ。グレアムはレベルキャップが解放された後のラスボスだ。ラスボスのグレアムは『煉獄の槍』と命名された超強力な伝説級魔法スキルを使っていた。僕は『黒炎槍』が強化されて『煉獄の槍』になるんじゃないかと予想している。『黒炎槍』でも最上級魔法相当の威力がある。僕達のパーティーが使える最も威力が高い攻撃手段の一つである。ちなみに、レベルキャップ解放後にプレイヤーがなれる伝説職の魔王でも『煉獄の槍』は使えるようになる。
「『風刃』!」
僕もグレアムに続いて魔法スキルを使った。クレリックである僕の攻撃魔法はそれほどの威力はない。
それでもメデューサは顔顰めて苦しんでいる。気持ち悪い。メデューサって本当は美人なんじゃなかっただろうか? 目の前のメデューサは美人どころが不気味だ。
「うおぉぉーー!!!」
メデューサの炎の玉攻撃が終わると同時にプリマドンナが斬り掛かった。特殊攻撃が終わる瞬間には隙があることが多い。プリマドンはそれを見逃さなかった。
「『刺突』、『3連突き』!」
『刺突』で仰け反らせ威力の高い『3連突き』に繋げた。コンボが繋がり相当なダメージになったはずだ。
怒り狂ったメデューサが杖を振り下ろす。
「『カウンター』!」
上手い!
僕の目にはプリマドンナの頭にメデューサの杖が当たったように見えたがダメージを受けたのはメデューサのほうだった。プリマドンナは残像が残るほどの速さでメデューサの杖が当たらないギリギリまで横にステップすると同時に槍を突き出していた。
「がはあぁぁーー!!!」
槍のもっとも特徴的なスキル『カウンター』だ。相手の物理攻撃に合わせてジャストタイミングで発動すると槍が光って威力が2倍になるスキルだ。ただ、失敗すると威力が2倍にならないだけでなく相手の攻撃を受けてしまう。実際、プリマドンナはこれまで何度か失敗している。その度に僕が『大回復』を使っている。そうでなくても、近接職はダメージを受けやすい。『迷宮物語』の知識があってもすぐに実行できるわけではないのだ。
「『挑発』、『シールドバッシュ』!」
マエストロが『挑発』と『シールドバッシュ』ですぐにタゲを取り返す。
「みんな、そろそろだ」
そろそろ、狂乱状態が来る。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン!
メデューサが杖で床を狂ったように叩いている。
狂乱状態だ。
「『回避』!」
プリマドンナの前に突然メデューサが現れと杖を振りかざして攻撃してきた。その瞬間プリマドンナは『回避』を使った。
ガシッ!
メデューサが振り下ろした杖は床を叩いただけに終わった。床に蜘蛛の巣のような模様が浮んですぐに消えた。その後も次々と瞬間移動したメデューサがパーティーメンバーを襲う。だけど、全員回避系のスキルで避けるか『ガード』で防ぐことに成功した。
成功だ! これまで、ここで何度か失敗している。
メデューサは狂乱状態になってすぐにこの全体攻撃を使ってくる。タイミングよく回避系スキルを使う必要がある。盾系の職なら『ガード』でもいいので比較的防ぎやすい。この後もこの攻撃を使ってくるので油断は禁物だ。
その後も僕達はスピードと威力が上昇したメデューサの攻撃を避けながら攻撃する。さすがに多少慣れてきた。『迷宮物語』の時に近い動きができるようになってきている。
「『風刃』!」
「『刺突』、『3連突き』!」
「『黒炎弾』!」
「『シールドバッシュ』、『スラッシュ』!」
全員で慎重に攻撃する。狂乱状態の時は防御力も下がっている。だが、焦りは禁物だ。これまでも、焦り過ぎて何度か失敗している。大技を使って攻撃を食らうより確実にHPを削ることだ。
また瞬間移動攻撃だ!
「がはぁっ!」
グレアムが大きなダメージを受けた。『後方回避』がCTだったみたいだ。
「『大回復』!」
僕は素早く『大回復』を使った。
「セルゲイ様、すみません」
「問題ない」
ボス戦を全くダメージなしで乗り切るなんてありえない。回復役は必須なのだ。その後も、僕達は慎重に攻撃し続けた。
その後も何度か『大回復』を使うことになった。狂乱状態になると回復役は忙しい。
それでも…。
もう少し、もう少しでクリアできる。あと一撃がそこらで…。
その時、メデューサの目が緑色に光った。
邪眼だ!
ああー! できれば、これが来る前に倒したかった…。
狂乱状態での邪眼は扇型ではなくドーナツ型に発動される。しかも、かなり幅のあるドーナツだ。あらかじめメデューサの近くに寄っているか、遠く離れていなければ食らってしまう。そして僕は中途半端な位置にいた。『迷宮物語』での定番の倒し方は単純だ。これがくる前にHPを削り切るだ。だが、きてしまったものは仕方がない。慎重なのは良かったが時間を掛け過ぎた。
「『後方回避』!」
僕は、『後方回避』でドーナツの範囲外に出ようとしたが距離が足りなかった。僕はあっという間に石化した。動けない。回復役の僕が石化してしまっては…。プリマドンナもたぶん中途半端な位置にいたはずだ。
今回も無理だったか…。帰還の腕輪に魔力を流そうとしたその時だ。
「『シールドバッシュ』、『二段斬り』、『ダッシュ』、『スラッシュ』!」
メデューサに近くにいた盾役のマエストロが攻撃を仕掛けた。『シールドバッシュ』から『迷宮物語』でもっともよく使われていたコンボの一つに繋げた。メデューサは邪眼を使っている間は攻撃してこない。チャンスでもあるのだ。
「『黒炎槍』!」
巨大な黒い炎の槍がメデューサを襲う!
グレアムだ!
なんとグレアムはいつの間にかメデューサから遠く離れた位置にいて邪眼を回避していた。
「ごぼっ!!!」
メデューサは咳き込むような呻き声を上げた。メデューサは徐々にその輪郭を曖昧にして…ついには魔石となって消えた。
く、クリアした…。




