6-2(今後の予定).
「それにしても、メデューサは手強かったっスね」
僕達はダゴン迷宮の15階層のボスであるメデューサに挑戦したものの失敗した。しかも3回もだ。15階層のボスがメデューサなのはヒューロン迷宮と同じだ。ダゴン迷宮は最後にやけくそのように付け加えられた迷宮なのでボスはすべて使い回しである。
「それにしても15階層のボスでこんなに苦戦するなんて…」
僕は金の力とアマデオ侯爵やアルバート殿下の伝手も使ってなんとか帰還の腕輪を12個揃えた。4人パーティーで3回分だ。そして、今はそれをすべて使い果たしてしまった。
「僕達は、まだ16歳だ。焦ることはない」
僕はそう言いながらも、内心では焦っていた。ゲームでは主人公はカイル探索者養成学園を卒業するまでにザルバ大迷宮25階層をクリアしてレベル59になっていたのだから。レベル自体はグレアムも入れた僕たち4人は全員30を越えている。ラングレー達より上である。だけど、15階層をクリアできていない。
「帰還の腕輪がない以上、挑戦できないっスね」
「それにしても、3回目は惜しかったわ。狂乱状態まで行ったのに…」
メデューサは、どちらかというと魔法系のボスである。手に杖を持ち、頭からは無数の蛇が生えている。蛇の口から『炎弾』のような攻撃をしてくる。それより厄介なのは邪眼と呼ばれる当たると石化する特殊攻撃だ。これを結構頻繁に使ってくる。メデューサを中心に床に扇形の範囲が表示される。僕の持っている『浄化』で解除できるが、仲間が次々に動けなくなってしまうとCTとの戦いになる。
そして、それ以上に大変なのがHP20%を切ってお馴染みの狂乱状態になった時だ!
狂乱状態のメデューサは、攻撃力とスピードが上がるだけでなく厄介な全体攻撃を使う。ターゲットの前に瞬間移動して杖で物理攻撃をするというものだ。これで次々にパーティーメンバーを襲ってくる。素早く『回避』系スキルか『ガード』を使って防ぐ必要がある。それはよくわかっていたはずなのだが、突然、目の前に現れたメデューサにプリマドンナが対処できなかった。『回避』や『後方回避』の無敵時間は1秒にも満たないので回避系スキルを使うのが早すぎても遅すぎてもダメなのだ。ランダム攻撃でプリマドンナがあっという間に瀕死になったのを見た僕は大声で「撤退だ!」と叫んだ。僕の『大回復』はCTだった。比較的落ち着いているプリマドンナでさえそうなのだ。この世界でのボス戦がいかに危険かが分かる。白状すると、僕は『迷宮物語』時代もメデューサが苦手だった。
「『迷宮物語』時代は何度もクリアしているのに悔しいわね」
「まあ、実際にゲームと同じ動きをするってのはなかなか大変っスね」
「ギミックや攻略方法は分かっているんだから慣れれば問題ないはずなんだが…」
「その、慣れるまでがね…」
だけど、それ以上に…。
「帰還の腕輪がない状態では無理っスね」
考えてみると、僕が『迷宮物語』でザルバ大迷宮の15階層ボスを初めてクリアするまでに10回以上は掛かった気がする。20階層や25階層になればもっとだ。
10回といえば帰還の腕輪40個分だ。
「もっとレベルを上げたほうがいいのかしら」
「それもある」
よりレベルが高くなればHPも増えるし耐久力も高くなるから安全になるのは確かだ。
「確かに15階層のボスをクリアするのに、例えばレベル40近くになっていれば、かなり安全になると思う。いや、まずクリアできるだろう。だけど、それじゃあ15階層のボスをクリアしてもレベルは上がらない」
「それに15階層のボスをクリアせずに40近くまでレベルを上げるとなると、ダゴン迷宮を使ってもかなり時間が掛かりそうね」
その通りだ。
「やっぱり、帰還の腕輪が潤沢に欲しいな」
「とりあえず、帰還の腕輪がない以上、時間が掛かってもレベルを上げるしかないわ。例えば、全員が最上級職に就ければ、さすがに15階層のボスは余裕で周回できるでしょう」
「ああ、とにかく帰還の腕輪をできるだけ多く手に入れるように動いてみるよ。まだ20階層や25階層だってあるんだからね。アルバート殿下も少しは役に立ってくれるだろう」
これ以上、良いアイデアもなく全員が頷いた。
「それと、従者達の育ち具合はどうっスか?」
マエストロが話題を変えた。
「順調ともそうでないとも言える」
「それはどういう意味っスか?」
「レベルは上がってきた。人数も増えてきた。だが、思ったほどのレベルじゃない」
従者の平均レベルは25に迫っている。王国騎士団でも平均して15程度だろうからかなりの強者軍団だ。それでもまだ不足だ。人数ももう少し増やしたい。前世と比べてこの世界では個人の能力が重要性が高い。レベル30以上あれば文字通り一人一人が戦況を左右する存在だ。
「グレアム以外にはってことっスね」
マエストロはこの場にいるグレアムのことを見た。グレアムは僕達と一緒にいつもこうした話し合いの場には参加しているが、ほとんど口を挟むことはない。グレアムのレベルは既に僕達と遜色ない。
「それで、私が最上級槍士、インプレサリオが聖戦士、マエストロが最上級重剣士、グレアムが魔導士を目指すのよね?」とプリマドンナが言った。
やはり、この話題になったか…。
マエストロは最後は勇者を目指している。だが、それまではパーティーのために盾役を引き受けることになっている。グレアムは最後は魔王になる予定だが最上級職は攻撃魔法スキルの専門家である魔導士になる予定だ。プリマドンナは最初から最後まで一貫して槍を極めるつもりだ。
「僕はクレリックから聖戦士になる条件を既に満たしている」
「ヒューロン迷宮にも通ってたのものね」
クレリックから聖戦士になる条件は斧を持ったデュラハンに3回以上止めを刺していることだ。しかも止めを刺すのに『浄化』を使う必要がある。デュラハンはヒューロン迷宮の5階層のボスである。ランダムに盾と剣、盾と槍、盾と斧を持ったデュラハンが出現する。聖戦士になろうと思ったら盾と斧を持った奴に3回以上『浄化』で止めを刺していればいい。もちろん、盾と剣を持ったデュラハンなら聖剣士になれる。ちなみに聖剣士系の職には上級剣士系の職からもなれる。『迷宮物語』ではこっちのルートを経由して聖剣士系の職に就く者のほうが多かった。
「この世界ではクレリックから聖剣士系の職になる条件は知られてないみたいっスね」
マエストロはプリマドンナの真意に気がついていない。
「そもそも、最上級職になっている者が数えるほどしかいないんだから仕方がないよ」
「王家や4大貴族達は知っているのかも…。知っていて隠している可能性もあるっスよね」
「ええ、帰還の腕輪のこともあります。この世界の王家や貴族たちはいろいろと隠しているようですからね」
「インプレサリオ、実は私、貴方は聖戦士じゃなくて聖者になったほうがいいと思うのよ。最低でも賢者のほうがいいと思うの」
やはりそう来たか…。
クレリックから回復の専門家である聖者になるのに特別な条件はない。賢者のほうはクレリックからの正統進化なのでこっちも特別な条件はない。どっちも聖戦士よりは回復能力が高い。
「そう、言われるんじゃないかと思っていた」
個人のPVPでは自ら回復できる聖戦士は強い。僕が聖戦士になればクレリックを経由しているから攻撃魔法まで使える。だけど、パーティーの回復役としては中途半端だ。迷宮を攻略するのなら聖者になるのが一番いい。これから挑戦するだろう20階層や25階層のボスは、失敗した15階層のボスより遥かに強力なのだ。
「せめて賢者で…」
「いや、僕は聖戦士を諦めて聖者になるよ。どうせなら賢者じゃなくて回復に特化した聖者を選ぶよ。今がクレリックだから既に攻撃魔法も多少は覚えているしね」
パーティーでの回復役は大事だ。メデューサだって僕がクレリックではなく神官だったらクリアできていたかもしれない。『迷宮物語』の時と全く同じようにいかないのはちょっと残念だけど仕方がない。
これも僕たちがこの世界最強の存在になるためだ。




