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5-17(エピローグ).

「ありえない」


 この中で一番大人びた風貌の少年が、普段と全く違うイライラした様子で机を叩く。


「ベルゼフ、おちついて! タロスが死んだのは事実よ。ここは現実世界で戦争で人が死ぬのは普通のことよ」


 タロスとはベルゼフが念のためエルロンという名を与えてウラニア公国に派遣した少年のことだ。

 

「レヴィア、そんなことは分かっている。だがこの世界にタロスを殺せるような者がいるとは…。タロスのレベルは45だったんだぞ。しかも最上級重剣士だ。耐久力に優れ『迷宮物語』でも倒すのが難しかった職の一つだ。あいつが辺境の小競り合いで死ぬなんてありえない」


 ベルゼフにとって、いや、ここにいるベルゼフ、レヴィア、バルベリの全員にとってタロスは前世からの仲間だ。ここにいる3人、いや、死んだタロスとクランマスターも入れて全員が『迷宮物語』の中のクラン『流浪の傭兵団』のメンバーだったのだ。『流浪の傭兵団』は他のゲームでPVP強者として名を馳せた者ばかりで作ったクランだ。


 だが、あいつらには勝てなかった…。それは、あの男の存在のせいだ。


 ベルゼフはこの世界の権力者の息子に生まれたことを最大限利用して『流浪の傭兵団』のメンバーを探し出した。あの時の状況から考えて、絶対に彼らもこの世界に生まれ変わっていると確信していた。王国中を貴族だけでなく平民に至るまで徹底的に探した。彼らは『迷宮物語』以前からいろいろなゲームで一緒だったから、探すための符号というかキーワードにはことかかなかった。他国さえも可能な限り捜索した。そこまでして見つけ出した仲間の一人を失ったのだからベルゼフが怒りで顔を赤くするのも無理はない。


 計画通り仲間達を見つけ出したベルゼフはレベル上げに励んだ。そして、最近になって20階層のボスも攻略した。思ったより苦戦したが…。レベルを上げるに当たってはここにはいないマスターの知識が役に立った。もちろん、ベルゼフが例のものを大量に手に入れることができる立場だったおかげもある。彼ら自身だけでなく平均レベル35に達している親衛隊も作り上げた。


 ただ、親衛隊のレベルにはまだ不満がある。親衛隊のメンバーをベルゼフ達ほどのレベルには育成することができていないからだ。この世界の者達は全員がベルゼフ達のようにレベルが上がるわけではない。


「くそー、こんなことなら鉱山なんかに拘るんじゃなかった」


 『迷宮物語』の知識によって、ベルゼフ達にはあそこに魔鉱石の鉱山があることは分っていた。『迷宮物語』では武器やアイテムは迷宮のボスがドロップする。しかし、防具は製作する必要があった。素材の採取場所の情報は広く知られていた。制作を専門にするプレイヤーもいた。ベルゼフ達PVP勢はゲーム内マネーで購入するか、そうでなければガチャで手に入れていた。


「ベルゼフだけの責任じゃないわ。ここにいる全員がこの作戦に同意したはずよ。マスターだってね」


 作戦では、ウラニア公国を焚きつけて戦争を起し鉱山を手に入れさせた上、その利権の一部を裏からベルゼフが手に入れるはずだった。


「アルメッサー辺境伯は王族派なんだから、こんなことをしなくてもよかったんじゃないか?」とバルベリが皮肉な口調で言った。

「うるさい!」


 痛いところを突かれたベルゼフは声を荒げた。 


「二人とも、ここはまず状況を整理しましょう。問題は誰がタロスを殺したのか? 単に戦争のどさくさに紛れて運悪くやられたのか? それとも…」

「ジギルバルト団長は王都にいた」とバルベリが言った。

「ああ、そもそもジギルバルトでもタロスは倒せない」

「そうね。似たようなレベルだとしてもスキルを選択できないこの世界の者にタロスを倒せるとは思えないわ」


 ベルゼフは思い返す。あの地域にそれほどの強者はいなかったはずだ。常駐していた王国騎士団にもそこまでの強者はいなかった。 


「『迷宮物語』の登場人物で今回の戦争に参加していたのはアルメッサ―辺境伯の娘のアデレード・アルメッサ―だけよ」

「アデレード・アルメッサ―、確かアルメッサ―辺境伯の三女で、カイル探索者養成学園の生徒だったな」


 バルベリの言う通りだが、ベルゼフには何かが引っかかった…。 


 そもそもMMORPGである『迷宮物語』では、ストーリーはさほど重要ではないから、詳しく覚えていないのも無理はない。会話をどんどんスキップしてストーリーを先に進める者も多かった。その程度のものだ。


「彼女は雑魚だ」


 ベルゼフの記憶では、特待生の一人であるアデレードはこの世界の基準では優秀だが、とてもじゃないがタロスを倒せるような女じゃない。


「その通りよ。彼女が私たちが知っている彼女だとしたらね」

「まさか、俺たちと同じだと言うのか?」


 バルベリがレヴィアの言葉に反応した。


「その可能性があると思うのよ」

「だとしたら、『TROF』の奴らかもしれない」


 ベルゼフは二人の会話を聞きながら『TROF』のことを考えていた。忌々しい奴らだ。この世界でもベルゼフ達を邪魔するというのか…。


 アマデオ侯爵派のヴィガディールとかいう男爵が怪しいと目は付けている。ダゴン迷宮のことはベルゼフとしても後手を踏んだ。あそこはシュタイン侯爵を中心とする地方貴族派の4大貴族の一人アマデオ侯爵の支配地域だ。

 まあ、ヴィガディールとやらがダゴン迷宮を手に入れてレベル上げをしているとしてもベルゼフの権力とマスターの知識があれば敵ではないと思っていたが…。

 今回の件もマスターに相談したいが、今はいない。マスターの居所はベルゼフにもわからない。マスターは気まぐれにベルゼフの前に現れ、いろいろと指示したり知識を授けてくれる。そしてまた消えてしまう。そもそも『迷宮物語』の時もそんな感じだったのだ。


 突然、ベルゼフは思い出した!


「そうだ!」

「ベルゼフ、どうしたの?」

「思い出した! アデレード・アルメッサーがいるはずがない」

「ベルゼフ、どいう意味だ?」

「レヴィア、バルベリ、覚えていないのか? アデレード・アルメッサーは主人公の友人だ。そして1年の時の全学年合同訓練の時に起こるイベントで死んでしまうキャラだ」

「……」

「……」


 しばらく誰も口を開かなかった。最初に沈黙を破ったのはレヴィアだ。


「ベルゼフの言う通りだわ。アデレードはケルベロスに殺される。そして主人公は一層訓練に身を入れて、アデレードを殺した特殊個体のケルべロスを倒してスキルを手に入れる。そんな流れだった…」

「俺も思い出した。確かにそんな感じだった…」


 ベルゼフは確信した。アデレード・アルメッサーは転生者だ。あの忌々しい『TROF』の誰かに違いない。


「タロスを殺したのはアデレードってことか…」


 バルベリが『迷宮物語』の記憶を探るように考え込んだ。


「その可能性が高いわね。でも、どうやってタロスを殺せるほどの高レベルになったのかしら?」

「俺達と同じだろう。4大貴族の娘に転生したんなら可能だ」


 確かにバルベリの言う通りで4大貴族の娘なら…。だが、あれはどうしたんだろう?


「マスターと同じように最速でレベルアップするためのいろんな情報を持ってたってこと?」

「ああ、コレオグラファーならそのくらいの知識は持っているだろう」


 バルベリがコレオグラファーの名を口にした。コレオグラファーの名は3人にとって特別なものだ。何度も煮え湯を飲まされた相手だ。憎き『TROF』の中でも最も厄介な相手である。


「でも。アデレードは女よ」


 確かに…。


 前世と性別が違うということもあり得るが、ベルゼフ達は全員前世と同じ性別だ。


 何かしっくりこない…。


 ベルゼフは運営のオフイベントでコレオグラファーも含めた『TROF』の幹部全員と面識がある。


「アデレードの近くに奴がいるのかもしれないわ」

「その可能性はあるのか…」


 レヴィアとバリベリは考え込んでいる。


「とにかく、僕達の邪魔したのが『TROF』の奴らなら、排除するまでだ。この世界で勝つのは僕達だ!」


 ベルゼフは最初からこの世界に『TROF』の奴らも転生している可能性があると思っていた。そして、レヴィアがあの脅迫状を受け取った。ベルゼフは『TROF』の奴らにリベンジするチャンスを逃したくない。ずっとそう思っていたのだ。


 レヴィアはふーっと溜息を吐くと「わかったわ。私だってPVPではちょっと名を知られたプレイヤーだったのに『TROF』に煮え湯を飲まされた一人だもの。だけど、タロスの例を見てもわかる通りこの世界では死んだら終わりなの。それを忘れないでね」と言った。


「わかってくれて、感謝するよ。今後は例のヴィガディール男爵はもちろんアデレード・アルメッサ―にも注意することにしよう」

「ヴィガディールとかいう男爵はダゴン迷宮を確保しているんだろう?」とバルベリが言った。

「そうだ。それでも、この世界で勝つのは僕達だ」

「今のところは私達の方が有利だと思うわ。だってベルゼフ、あなたがいるんだもの。もちろんマスターもね」

「だが、タロスはやられた」とバルベリが口を挟んだ。

「うるさい。確かにタロスは死んだが、これからはそうはいかない」


 例えヴィガディールとやらがダゴン迷宮を確保しているとしてもベルゼフ達のほうがリードしているはずだ。

 それに、今日、レヴィアからよい報せもあった。ついに、ベルゼフ達に続いて最上級職に就けそうな者達が育ってきたのだ。親衛隊はまだまだ強化できる。この世界で勝つのは『TROF』じゃない。僕達『流浪の傭兵団』だ。


 それはともかく、バルベリの言う通りタロスは倒された。やはりコレオグラファーが絡んでいるのか?


 もしそうだとしたら…。


 幸いタロスが殺されたのはアルメッサー辺境伯領でだ。それならあの男が役に立つ。バルベリやレヴィア、そしてマスターすら知らないベルゼフの隠し玉であるあの男からも話を聞く必要がある…。

 ここまで読んで頂きありがとうございます。これで第5章は終わりです。明日からセルゲイ視点の短い第6章(5話くらい)を挟んで第7章に入ります。


 もし本作に少しでも興味を持って頂けたらブックマークと『★★★★★』での評価をお願いします。また、忌憚のないご意見や感想をお待ちしています。読者の反応が一番の励みです。


 拙作「ありふれたクラス転移~幼馴染と一緒にクラス転移に巻き込まれた僕は、王国、魔族、帝国など様々な陣営の思惑に翻弄される…謎解き要素多めの僕と仲間たちの成長物語」と「乙女ゲームの断罪の場に転生した俺は悪役令嬢に一目惚れしたので、シナリオをぶち壊してみました!【連載版】」も読んで頂けると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
転生者がいっぱいいいぞ~ 同じ条件なら転生してるだろってまあ当たり前の思考ですよね。 実際何人くらい転生しているのだろう。
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