5-14(戦争3).
追いついた俺にアディは「レオ、巻き込んでごめんなさい。でも、ここはアルメッサー辺境伯家の領地よ。王国騎士団だけに任せるわけにはいかないわ。お兄様は行方不明、お父様は負傷している。私が先頭に立たなければ…」と言った。サイモン様には男の子供はアモスしかいない。アディの姉たちは既に皆嫁いでいる。
アディのアルメッサー辺境伯の娘としての覚悟を聞いた俺は「いいんだ、アディ。俺が必ずアディを守る」と言った。
「レオ…。ありがとう」
しばらくすると追手が見えてきた。あいつか…。その少年は追手の先頭に立っていた。
ずいぶん体格はいいが、俺と同じくらいの年齢に見える。剣と盾を持っている。あれは、どちらも伝説級だ。ということは迷宮の20階層のボス辺りを周回している可能性が高い。リアブルク連合国にもザルバ大迷宮のような20階層以上の大迷宮が存在するということか…。
あっ!
ナゼル大隊長が数人の騎士を率いてその少年に向かっていった。
「『挑発』!」
少年は逃げるどころかスキル『挑発』でナゼル大隊長を含む騎士3人を一度に引き寄せた。3人は落馬した上、少年の近くに引っ張られて転がった。少年が放った『挑発』はかなり強化されている。
「『シールドバッシュ』!」
少年は自分も素早く馬を降りると引き寄せられた上、移動不可になっている3人を『シールドバッシュ』で弾き飛ばした。『シールドバッシュ』のほうも強化されている。
「ぐわあぁーーーー!!!」
「ぐおうー!」
「うがっ!」
ナゼル大隊長と騎士達が悲鳴を上げる。
「『回転斬り』!」
少年は『シールドバッシュ』の効果で硬直している3人に『回転斬り』を仕掛けた。『回転斬り』は剣士系のスキルで3回転して周りの敵をなぎ倒すスキルだ。
少年の動きは『挑発』から『シールドバッシュ』、『回転斬り』と流れるようにスムーズだった。
『回転斬り』は多段ヒットする威力の高いスキルだが発動モーションが大きい。盾を持っているとそれがさらに大きくなってしまうという欠点がある。なので最高のタイミングで仕掛けたと言える。それに各スキルが持つ状態異常効果がすべてレジストされずに発動したということは少年がナゼル大隊長よりレベルが高い証だ。
「『炎槍』!」
俺の横からアディがスキル『炎槍』を放った。『回転斬り』はスキルが発動している間は中断耐性があり硬直などの状態異常を受け付けないがダメージを受けないわけではない。それにアディのレベルは19だが、キマイラの杖の補助効果に加えて『炎槍』自体も強化されている。
「うっ!」
アディの『炎槍』によりダメージを受けた少年は小さく呻き声を上げた。少年は「貴様ー!」と叫ぶとアディに向かって走ってきた。
ガキッ!
俺は馬から降りると少年の剣を受け止めて盾で弾き飛ばした。俺のは『シールドバッシュ』ではなくシールドバッシュもどきだ。盾を持つ手が痺れている。少年は明らかにアディを殺そうとしていた。俺は怒りで体が熱くなるのを感じた。
「レオ、ありがとう」
アディは俺に礼を言うと、倒れているナゼル大隊長達に「ナゼル大隊長、ここは私達に任せて撤退してください」と指示した。
「ですが…。アデレード様を置いていくわけには」
「私に考えがあります」と言うと俺に向かって小声で「レオはこいつに勝てる?」と訊いてきた。
「1対1なら俺が負けることはない」と俺は即答した。
俺の答えを聞いたアディは唇の端を持ち上げてニッと薄く笑うと「そう言ってくれると思ったわ」と言った。
「ナゼル大隊長、急いでください」
アディは再びナゼル大隊長に撤退を促した。
ナゼル大隊は悔しそうに唇を嚙んでいる。ナゼル大隊長は剣を杖代わりにしてフラフラと立ち上がるとアディの指示に従って後方に下がった。残念ながらこれ以上戦えそうにはないから仕方がない。
アディは少年に「貴方、相当強いみたいね。よかったら1対1で勝負しない。この先にちょうどいい場所があるのよ」と呼び掛けた。
「アデレード様、無謀です!」
後ろからナゼル大隊長が叫ぶ。
アディは振り向くと「ナゼル大隊長、考えがあると言ったでしょう。ナゼル大隊長達は無理せず、撤退しながら時間を稼いでください。時間を稼げば、きっとお父様達が騎士団を立て直してくれます」と言った。
少年以外も強者の集まりだ。ナゼル大隊長達がまともに戦うのは危険だ。しかもさらに後方にはウラニア公国軍も控えている。
「お前正気か?」
少年が問う。
「怖いの?」
アディの赤い髪が本当に燃えているようだ。たった今殺されそうになったのにアディは不敵な笑みを浮かべている。
「いいだろう?」
「エルロン様、罠かもしれません」
「そんなことはわかっている。例え罠だとしてもしてなんの問題もない。こいつは俺の強さを見誤っている」
「交渉成立ね。ついてきて」
アディは鬱蒼とした森の中に向かった。
エルロンは呼ばれた少年は「お前達は逃げてるやつらを追え」と指示してアディの後に続いた。
俺はもちろんアディの後を追った。
アディはエルロンを森の中にぽっかりと開けた場所に案内した。なんと、そこには先客がいた。アモスと目つきの悪い護衛のデイラムだ。
「アディ、なんでお前がここに…」
「お兄様、生きていらしたんですね」
見たところアモスは負傷しているようだ。ここで休んでいたんだろう。指揮官の一人のはずなのに自分達だけ逃げたのだ。
「そんなことよりアディ、お前ポーションを持ってないか? 全部使い切ってしまったんだ」
アディは頷くと持っていたポーションをアモスに渡した。その時、アモスはやっと俺に気がついたようだ。そして俺とアディの後ろから現れたのがエルロンあることにも…。
「ひっ! あ、あいつだ。で、デイラム、に逃げるぞ」
アモスの顔は恐怖に染まっている。デイラムは何も言わずにアモスを抱えると逃げ出した。
デイラムに抱えられながらアモスは俺に向かって「おい、そこのお前、レオニードとか言ったな。ここで時間を稼ぐんだ。わかったな」と言った。
その時、俺は悟った。こいつは父さんが死んでシグルド様が左足を失った時、同じことを言ったに違いない!
俺はアモスを睨みつけると「うるさい! 指揮官のくせに卑怯者が!」と叫んだ。アモスは名目上とはいえ指揮官の一人だ。デイラムに抱えられ俺に背中を向けて逃げていたアモスは少しだけ振り返ったが何も言わずに俺を睨んだだけだった。こいつは許さない。だが、今はそれどころじゃない。
「レオ、お兄様がごめんなさい」
「アディのせいじゃない」
アディは俺の言葉に申し訳なさそうに頷くと、エルロンのほうを見て「ここなら、広いし邪魔する者もいないわ」と言った。
「ふっ、指揮官が無能だと大変だな」
エルロンは皮肉気に言うと同時にアディに斬り掛かってきた。俺はエルロンの前に盾を構えて立ち塞がった。
「お前、今といいさっきといい、俺のアディを殺そうとしたな!」
腹の底から怒りが湧いてきた。アモスへの怒りと混じってなんだか妙なテンションになってきた。
俺はなんとか心を落ち着けようとエルロンを観察した。エルロンは俺と同じ平凡な茶色の髪を短く刈っている。体格がいいこともあっていかにも体力自慢といった見掛けをしている。
「おい、1対1じゃなかったのか?」
エルロンがアディに皮肉気に言った。
アディはエルロンの言葉を無視して「ねえレオ、今、俺のアディって、そう言ったわよね」と言った。こんな時なのにアディの顔には笑みが浮かんでいる。
え!? そこなのか?
「い、いや、そうだったかな」
「そうよ。確かに俺のアディって言ったわよ」
「つい、勢いで」
「ふーん、勢いね」
「とにかくアディ、早く下がって」
エルロンはイライラしたような口調で「お前らずいぶん余裕だな」と言って俺とアディを睨みつけた。
「すまん。お前を無視したわけじゃないんだが…。とにかくお前の相手をするのは俺だ。アディじゃない」
「私と1対1とは言わなかったでしょう」
アディはすまし顔だ。
「ふん、誰が相手でも同じだ。なんなら二人同時でもいいぞ」
「いや、それは遠慮するよ。俺一人で十分だ」
「お前、さっきの俺の戦い振りを見てなかったのか? お前達が大隊長と呼んでた奴が相手にもならなかったんだぞ。お前は馬鹿なのか? その馬鹿に教えてやろう。俺のレベルは45だ。嘘じゃないぞ!」
なるほど、自信を持つのもわかる。レベル45といえば、この世界最強と言われているジギルバルト団長と同等だ。そして、奇遇だが俺とも同じだ。俺はニヤっと笑うと「お前ほうが馬鹿だな。自分のレベルを敵に教えるなんて」と言った。
エルロンの目に一瞬怒りの火が灯ったが、すぐに冷静になって「俺のレベルを聞いてその落ち着き。度胸だけは誉めてやろう」と言った。エルロンには余裕がある。当然だ。自分の方が圧倒的な強者だと信じているのだから。
アディが小声で「必要があれば私も攻撃するわ。こんなやつとの約束なんか守る必要ないもの」と言った。俺はアディの言葉に頷くと「ありがとう、アディ。だけど、たぶん必要ないよ」と返した。
こいつはプレイヤーかもしれないが『TROF』の幹部ではない。
あの時、俺と一緒に転生もしくは転移した5人の居所はわかっている。シルヴィーの調査では、プリマドンナとマエストロと思われる者がインプレサリオと一緒にいる。そして転移したらしいヴィルトゥオーゾには会った。だからこいつは『TROF』の幹部ではない。それ以外のプレイヤーにも同じようなことが起こっているのだ。
俺は改めてエルロンを見た。
剣と盾を持っている。俺と同じだ。ということは職も俺と同じ最上級重剣士だろう。ソロで戦うのなら悪くない選択だ。ソロでのPVPなら回復魔法が使える聖剣士系か盾を持ち耐久力に優れる重剣士系の職は人気があった。継戦能力が高いからだ。あとは伝説職なら物理攻撃と魔法攻撃がどちらも使える勇者と魔王も人気があった。
とにかく、この戦いはレベルも職も同じ者同士の戦いだ!




