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5-13(戦争2).

 その報せはサイモン様達がスランヤ地域に向かって一日足らずでもたらされた。俺はその報せをシグルド様やナゼル王国騎士団第三師団第二大隊長、そしてアディと一緒にサイモン様の屋敷で聞いた。


「初戦で大敗して敗走しているですって…」


 戦況報告のために息も絶え絶えに屋敷に到着したアルメッサー辺境伯騎士団員の報告にアディの声が大きくなる。アディの隣ではシグルド様が腕を組んで報告を聞いている。王国騎士団のナゼル大隊長は癖なのか机の上で右手の人差し指を細かく動かしている。少し落ち着きがない。報告が信じられない様子だ。


「はい。ハイゼルフ騎士団長は戦死。アモス様は行方不明。ユリウス様が負傷しているサイモン様を保護して撤退中とのことです」

「お父様…」 


 相手の兵力は1000と聞いていた。こちらはも1000、ハイゼルフ騎士団長や王国騎士団のユリウス大隊長はこの世界でも有数の強者だ。しかもアルメッサー辺境伯騎士団と駐留している王国第三師団第一大隊は実戦経験も豊富だ。ほぼ同数の相手に簡単に負けるはずがない。もちろん、必ず勝つ戦争などない。それでも、戦いの趨勢が決まるのには数日は要するはずだというのが大方の見方だった。


「一体、何があった?」とシグルド様が尋ねた。

「そ、それが、敵に恐ろしく強い部隊がいまして…」

「恐ろしく強いですって!?」


 アディの声がさらに大きくなる。


「全員が大隊長クラスの強さのようで、それが50人は…」

「そ、そんな! 50人の大隊長クラスで構成されている部隊なんて…信じられないわ!」


 アディが叫ぶように言った。


 アディがそう言うのも無理はない。ファミール王国の騎士団にはジギルバルト団長を含めて4人の師団長がいる。大隊長とは師団長の下で300の騎士を率いる存在で各師団に5人いる。従って王国騎士団全体でも20人だ。アルメッサー辺境伯騎士団のような4大貴族の騎士団や探索者にも同等の者はいるかもしれない。それでも数人だろう。なのに、全員そのクラスの強者で構成されている50人の部隊…。


 あり得ない…。


 この世界では例え子供のころから迷宮でレベル上げをしても誰もが主人公のようにレベルが上がっていくわけではない。よほど才能のある者を厳選して育てないと…。例えそうであったとしても…。50人もの部隊を作ろうと思えば『迷宮物語』のプレイヤーのようにレベルを上げる効率的な方法を知っている必要があるのではないか?


「しかも、その部隊を率いている隊長らしき少年が…私などにはそのレベルを推し量ることもできないほどの強者で…」


 俺はそこで口を挟んだ。


「今少年と言いましたか?」

「はい。ちょうどあなたくらいの体格のいい少年です。業物らしい剣と盾を装備していました」


 もしかして『TROF』の…インプレサリオ達の誰かが? 


 シルヴィーの情報では、彼らはダゴン迷宮を使ってレベル上げをしているらしい。だが、死んだら終わりのこの世界では、いくらダゴン迷宮を確保していてもまだそこまでのレベルには達していないはずだ。それに、ヴィガディール男爵を名乗るインプレサリオがレベル上げをしている従者はせいぜい20名ほどじゃないかというのがシルヴィーの見立てだ。才能のある者を見つけ出すのは簡単ではない。ファミール王国では警察のような自警団を組織する以外は、4大貴族以外の貴族には自前の騎士団を持つことは許されていない。従者と呼ばれる騎士の代わりのような存在がいるだけだ。


 やっぱり、インプレサリオ達ではないような気がする…。


「サイモン様は怪我をしているものの無事なのだな?」


 シグルド様が冷静に問う。


「はい。私が見たところでは命に別状はありません。現在こちらに向かって撤退中です」

「うむ」


 シグルド様は頷くとナゼル大隊長の方を見た。サイモン様を救出するため出陣するつもりなのだろう。ナゼル大隊長も頷いている。


「私もお父様達の撤退を援護するため出陣します」

「アディが行くなら俺も行く」





★★★





「アデレード様、それにレオニード、お前たちは慎重に行動するんだ。命を無駄にするな」


 シグルド様は既に同じことを何度か繰り返している。アディが出陣することにシグルド様は反対したがアディは譲らなかった。時間もなかったためシグルド様はアディを説得することを諦めた。それにサイモン様の娘であるアディが自ら出陣したことで士気が高まっていることも確かだ。俺達はこうして援軍としてサイモン様達と合流するためスランヤ地域方面へ移動している。ナゼル大隊長率いる王国第三師団第二大隊300と合わせて800規模の軍勢だ。


「王国にも援軍を依頼しています」とナゼル大隊長が言った。


 ジギルバルト団長にも匹敵する強者が現れたこと、さらには50人にも上る大隊長クラスの強者ばかりで組織された部隊の存在、これらの情報を王国に伝えるべく連絡役の騎士が早馬で王都へ向かっている。


「ジギルバルト団長が来ればなんの問題もありません。我らはとにかく時間を稼げばいいのです」


 ナゼル大隊長の言葉からはジギルバルト団長に対する揺ぎ無い信頼が感じられる。そもそもナゼル大隊長はその強者だという少年がジギルバルト団長に匹敵するとは信じていない節がある。それはそうだろう。俺やアディと変わらない年の少年がジギルバルト団長と同じレベルの強者だなどと簡単信じられないのはわかる。この世界の者にとっては…。だが俺は嫌な予感がする。間違いなくその少年は俺のような存在だ。


 そんなことを考えながら、俺はアディに付き添って進軍した。やがて、遠くに騎士団の姿が見えてきた。やがて蹄の音や足音も聞こえるようになった。


「サイモン様!」


 シグルド様は、ユリウス大隊長と側近の騎士の二人に守られるように撤退してきたサイモン様に馬を寄せた。サイモン様だけでなくユリウス大隊長も負傷している。サイモン様を庇ったのだろうか?


「シグルドか…。不覚を取った」

「サイモン様、ご無事で何よりです。とりあえずアルヘイムまで戻って立て直しましょう。周辺の貴族たちからの援軍もぞくぞく集まっています」

「王国騎士団からも援軍が派遣されるでしょう」とナゼル大隊長が付け加えた。


 さらにナゼル大隊長が「私が撤退の時間を稼ぎます」と続けた。それに対して「やめとけ」と言ったのはユリウス大隊長だ。

「ユリウス殿、それは?」

「お前には無理だ。とりあえず撤退だ。急ぐぞ!」


 ナゼル大隊長は不満顔だが先輩のユリウス大隊長の言葉に従った。


 だが、しばらくして「サイモン様、あの少年と少年が率いる部隊がすぐ近くまで迫っています」と撤退する騎士団の後方から連絡が届いた。

「私に任せて下さい」


 今度はユリウス大隊長はナゼル大隊長を止めなかった。サイモン様を助けるには已むを得ないと判断したんだろう。


「とにかく時間稼ぎに徹しろ。絶対に無理をするな」


 こうして、ナゼル大隊長と王国第三師団第二大隊は追手を迎え撃つためにその場に留まることになった。シグルド様はユリウス大隊長と一緒にサイモン様を守って撤退すると言う。


「アディ!」


 気がついたらアディがナゼル大隊長と一緒に先頭に立とうとしている。俺は慌てて追いかける。アディの護衛騎士達も俺に続いた。


「お前達、待つんだ!」


 シグルド様の声が背中越しに聞こえた。


 「アディは俺が必ず守ります! シグルド様はサイモン様をお願いします!」と大声で叫んだ。その後もシグルド様が何か叫んでいたが聞き取れなかった。

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― 新着の感想 ―
お嬢様の心理描写が欲しいところですな。 支配者階級としての責任感があるのは間違いないと思いますけど、親父達主力が鎧袖一触されているのを踏まえて突っ込むのは自分なりの計算(討死する事で銃後の士気を高める…
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