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5-12(戦争1).

 結局、アディが前線に出ることは許可されなかった。アディは自分は辺境伯の娘であり民を守る義務があると言って粘ったがサイモン様は許可しなかった。そしてサイモン様とあのアモスがハイゼルフ騎士団長と共にアルメッサー辺境伯騎士団の500を率いて出立した。アモスもあれから実戦経験も積んで成長しているという話だが…。まあ、サイモン様とハイゼルフ団長がいるから大丈夫だろう。ユリウス大隊長率いる王国騎士団第三師団第一大隊の300とアンセム達周辺領主達の従者達による援軍200も一緒だ。

 一方、シグルド様は残り半分のアルメッサー辺境伯騎士団と共にアルヘイム周辺で待機している。ナゼル大隊長率いる王国騎士団第三師団第二大隊も同じく待機だ。


「私のレベルは19よ。もうお兄様にも負けないはずだわ」


 アディは自分も前線に行きたかったようだ。だが、レベルはともかく人を相手にしての実践はまた違うと思う。


「レオのその顔は、何か言いたそうね」

「わかった?」

「まあね」


 そう言ってアディは俺の顔を覗き込むように見ると「みんなの心配はわかってるの。でも、私は国境を守る辺境伯の娘でカイル探索者養成学園にも入学できた。やっぱり私にも義務があると思うのよ」と言った。


 アディなりに自分の立場を考えているんだろう。でも、日本ならアディはまだ高校生くらいなのだ。焦ることはない。俺はといえば外見はアディと同じ年だが中身は違う。


 俺がそんなことを考えていると、アディは「でも、それがみんなを心配させるだけなら意味がないけどね」と自虐気味に付け加えた。


 アディ…そんなに自分を責める必要はない。前世で高校生くらいだった時の俺と比べてアディは…。


「アディ、ここで待機していることにも意味があるよ。ここアルヘイムにはたくさんの人が住んでいるんだから」

「そうね。ちょっと焦ってるのかしら、私」


 アディは俺の言葉に少し気を取り直したように微笑んだ。





★★★





「別働隊とかはいないのか?」


 サイモンはハイゼルフ騎士団長に確認した。


「はい。相手は全軍固まって移動しています。スランヤ地域全体を支配下に置こうとしているのは間違いありません」


 確かにスランヤ地域は魔物の素材を手に入れるのには適した地域だ。国境線を挟んで小競り合いが絶えない。魔物を狩る者達がお互いの支配地域に入って捕まったとかそんなことがきっかけだ。だが、魔物は大陸最大の山脈であるマランヤ山脈からいくらでも湧いて来る。ここまで大規模な戦争を仕掛ける必要があるとは思えない。逆にファミール王国と本格的に戦争をしようとするには規模が小さすぎる。


「私が先陣を切ります。相手が小細工をしないのなら僥倖です。リアブルク連合国は大国ですが騎士団の強さではザルバ大迷宮を擁する我が国の方が上です」

「リアブルク連合国にも多くの迷宮があると聞いているが?」

「それでも、我が国のほうが迷宮を利用した個人の強化には長けています」


 ハイゼルフが言ったことはこの国の多くの者が思っていることだ。それはまんざら身贔屓故とは言えない。だからこそ規模的には圧倒的大きな国であるリアブルグ連合国に対してファミール王国は対等に渡り合っているのだ。


 同数での戦いでなら自分達が負けるはずがない。それがハイゼルフの出した結論だ。それでもサイモンは気がかりだった。サイモンはリアブルク連合国との国境線を守るアルメッサー辺境伯領の嫡男に生まれた。そして今日まで幾度となくウラニア公国と剣を交えてきた。決して彼らは馬鹿ではない。


「父上、私もハイゼルフと一緒に参ります」


 サイモンは嫡男のアモスを見た。隣にはデイラムがいる。あれからアモスも成長しているとサイモンも評価している。


 正直、周りを、特に身分の低い者を見下す性格は変わっていないが…。


 アモスは、気位の高い妻の影響を受け過ぎている。それを防げなかったサイモンにも責任がある。


「いいだろう」


 サイモンは頷いた。アモスは既にいい年だ。末娘のアデレードとは年が離れている。心配のしすぎはアモスのためにもならない。それでもなおサイモンの心には何か気がかりなものがあった。


 こうして、ファミール王国側はハイゼルフとアモス率いるアルメッサー辺境伯騎士団を先頭にリアブルク連合国のウラニア公国軍に近づいた。


 そして、ついにその戦端は開かれた。


 サイモンと残り100程度のアルメッサー辺境伯騎士団がやや後方に控え、ユリウスに率いられた王国騎士団第三師団第一大隊300はウラニア公国軍を右側…マランヤ山脈側だ…から回り込むようにウラニア公国軍に近づいている。


 一方、ウラニア公国軍は特に策を弄することもなく正面からそれを受け止めた。


「侵略者を許すな!」

「アルメッサー辺境伯軍の力見せるときだ!」

「ここは我がウラニア公国の領土である。侵略者はファミール王国のほうだ!」


 あちこちから気勢が上がり両軍の士気は最高潮に達した。辺りはたちまち怒号と剣の交わる音、魔法が発動される音で満たされた。両軍の戦力は拮抗しており、しばらくは膠着状態が続くというのがサイモン達の事前の予想だった。


 しかし、すぐにその予想は裏切られた。


「ハイゼルフ騎士団長が!」


 誰かの叫び声に釣られてサイモンが目にしたのは、首の無くなったハイゼルフ騎士団長が馬から転げ落ちるところだった。


「は、ハイゼルフ!!」


 ハイゼルフの首をあっという間に落としたのは騎馬して剣と盾を持った男だ。体格はいいがまだ少年と言っていい。サイモンの末娘アデレードと同じくらいの年のように見える。


「アモスは…」


 サイモンはアモスの姿を探したがどこにもいない。デイラムもだ。ハイゼルフと同じくもうやられたのか?


 ハイゼルフ団長をあっという間に失い怒りに燃えたアルメッサー辺境伯騎士団が少年に襲いかかった。しかし、少年は盾でその攻撃を軽く受け流す。さらにはスキル『シールドバッシュ』を発動した。一発の『シールドバッシュ』で数人のアルメッサー辺境伯騎士が馬ごと弾き飛ばされて将棋倒しのように倒れている。


 サイモンはその光景を唖然として見ていた。あの人数を一度に…。まったく相手になっていない。あれはレベルに10、いや20以上差がなければあり得ない光景だ。


 馬鹿な! あの少年は一体…。まるでジギルバルト騎士団長が戦場に現れたようではないか…。


「サイモン様、撤退しましょう」


 サイモンの側近の一人が撤退を促した。


 サイモンが戦場を見渡すと少年だけでなく、その少年が率いる兵たちも異常に強い。既にハイゼルフとアモスが率いていたアルメッサー辺境伯騎士団は壊滅状態だ。まともに戦っているのは右側からウラニア公国軍に襲い掛かったユリウス率いる王国騎士団第三師団第一大隊だけだ。それとて互角程度に戦えているだけという状態だ。


 まずい…。


 ハイゼルフを倒した少年がユリウスに目を向けた。次に倒すべきはユリウスだと判断したらしい。ユリウス自身もそれがわかったらしい。ユリウスは一旦、戦線から離れて少年から距離を取る。そして再び回り込むように移動してサイモン達に近づいた。


「サイモン様」

「ユリウス」

「私が時間を稼ぎます」

「しかし…」

「大丈夫です。相手は強いですが、我らのほうが数は多いです」


 少年が率いているのは50人ほどの部隊だ。ウラニア公国軍は後ろに控えている。戦いは少年達に任せて、自分たちの被害をなるべく抑えるように行動しているように見える。だが、その50人が問題だ。


 その時一人の男が口を挟んだ。


「ユリウス大隊長、大隊長はサイモン様を守って撤退してください。サイモン様の命が何よりも優先されます」


 何時の間にか王国騎士の一人がサイモンとユリウスのそばにいた。


「お前は?」


 サイモンが問う。


「私はユリウス様の副官の一人でカシムと申します」


 その騎士はカシムと名乗ると、ユリウスに向かって「大隊長はサイモン様と一緒に撤退してアルヘイムで待機している残りの騎士達と合流してください」と繰り返した。

「カシムお前…」


 カシムは長くユリウスに仕えている副官でユリウスよりも年上だ。


「大隊長、サイモン様を頼みます」

「わかった」


 ユリウスが頷くと、カシムは大隊の方へ戻っていった。少年と少年の率いる強者の集まりがカシムと王国騎士団に近づいている。


 ユリウスは迷っている場合ではないと思った。カシム、お前の覚悟を無駄にはしない。


「サイモン様、撤退しましょう」


 サイモンはユリウスの言葉に頷いた。長年国境を守っていたサイモンにして最大のピンチであった。

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