5-9(襲撃者).
ちょっと前に間違ってずいぶん先の話を投稿してしまいました。すみません。
俺達は一年生で最後の迷宮探索を終了して5階層に向かっていた。5階層のボス部屋を抜けたところにある転移魔法陣で帰還するためだ。
8階層まで戻って迷宮の通路を歩いていると前から3人の探索者が歩いてきた。じっとこっちを見ている気がする。なんか感じが悪い。
あれは…。
「みんな、先頭の男が持っている槍はケルベロスの槍だ」
「ケルベロス?」
アディが訊き返した。
「ああ」
それに隣の女が持っている杖もおそらくケルベロスの杖だ。等級はわからない。ケルベロスはこの迷宮の15階層のボスだ。
「あの人達は15階層をクリアしてるってことだね」とアルス。
アルスの言う通りこいつらは15階層をクリアしている。俺とシルヴィーが失敗した15階層をクリアしているのだ。
15階層の攻略適正レベルは『迷宮物語』で30前後、この世界なら35は欲しいところだ。それに帰還の腕輪も…。一回でクリアするのは至難の業だ。いや、それどころか『迷宮物語』でも15階層のボス辺りからは何十回も死んでクリアするのが普通だった。この世界の人達がクリアするのにどのくらいの帰還の腕輪が必要になるだろうか? それをこいつらは…。
それにしても、既に15階層をクリアしているのなら、なぜこんなところに? しかも人数は3人だ。何か不穏な空気を纏っている。そういえば、探索者狩りとかいうイベントがあった。だが、あれとはちょっと違う気がする…。時期も早すぎる。
俺達と3人の探索者は狭くなっている通路をギリギリですれ違う格好となった。
ガキン!
「何のつもりだ?」
俺は先頭の男の槍を魔剣ソウルイーターで受け止めていた。
「……」
3人は無言だ。
ケルベロスの槍を受け止めた感じでは、こいつはレベル40までは行っていないだろう。最上級職にはなっていないってことだ。
「上級槍士か…」
「ほうー、わかるのか」
「わかるさ。お前が大したことないっていうのはな」
「度胸だけは誉めてやろう」
細くて吊り上がった目をしている上級槍士の男の顔が歪む。性格の悪さが顔に現れている。だが、俺の挑発には乗ってこない。余裕がありそうだ。斜め後ろに控えているのは四角い顔した筋肉質な上級戦士らしき男と上級魔法使いらしい痩せすぎな女だ。
「もう一度訊く。お前達の目的はなんだ?」
「わからないのか? お前達を殺すことだ」
ガシ!
吊り目男は再び槍で攻撃してきたが、俺は動じずに盾で受けた。
「誰に頼まれた」
「……」
アディが俺の背後から「レオ、こいつら『グリフォンの鬣』よ。さっきレオを攻撃して来た時、マントの裏に獅子のマークが見えたわ」と言った。
「てことは、お前達は『グリフォンの鬣』のマスターの指示かなんかで俺達を襲ってきたってことか?」
「ふん、まあ、そんなとこだ。指示はカイル探索者養成学園の平民の一年生を全員殺せだがな」
平民の一年生を全員…?
なるほど、そう言うことか。『グリフォンの鬣』のマスターは主人公が邪魔だと思っている。なぜなら主人公は元プレイヤーの転生者と同じ成長力を持っているからだ。ってことは、マスターは…。
「よくわかった。それにしてもお前達は馬鹿だな」
「なんだと!」
今度は多少挑発に乗ってきたようだ。
「だって、そうだろう。そんな大事なことをぺらぺらと喋るなんて。しかもアイテムなんだろうけどマントにクランのマークまでつけて。そんな馬鹿な暗殺者がどこにいるんだ」
「ふん、そんなことか」
吊り目男は鼻で笑うと、いくらか冷静さを取り戻して「普通はそうかもしれないが、今回は普通じゃない。お前達は全員死ぬことが決まってるんだから、お前達が何を知ろうと関係ないってことだ」と言った。
よほど自信があるようだ。なおも、吊り目男の演説は止まらない。
「俺達はな。15階層のボスだって倒してるんだ。お前らとは文字通りレベルが違うんだよ。こんなとこでちんたらレベル上げしている学生が俺達に狙われて生きて迷宮を出るなんてありえないんだ。死人に口なしってやつさ。これが俺がいろいろお前に教えてやった理由さ」
「そうか。重要なことだからもう一度訊くんだが、俺達全員を殺すつもりなんだな? 命が懸かってるんだから正確に答えてくれ」
「命が懸かっている? まあ、それはそうだが…。何度でも言ってやる。お前達全員ここで死ぬんだ」
「よくわかった。これでお前達の運命は決まった。懸かっていたのはお前達の命さ。残念だったな」
俺は挑発するように薄笑いを浮かべた。
「『刺突』!」
「『ガード』!」
ガン!
「『挑発』!」
俺の『挑発』で吊り目男に加えて痩せすぎ女が俺の目の前まで引き寄せられた。二人は移動不可の状態だ。俺のほうがレベルが高いのだからレジストされる可能性は少ない。女のほうは何か魔法スキルを使おうとする素振りを見せたが俺は当然そんなことは許さない。
「『回転斬り』!」
「がはぁーー!!」
「きゃあぁぁぁーーー」
馬鹿め…。
『刺突』は槍を突き出すスキルで相手を仰け反らせる効果がある。CTも短く便利なスキルだ。仰け反らせた後、強力なスキルを打ち込むのが槍系のPVPでの基本的なコンボだ。だがPVP主体のガチプレイヤーの集まりだった『TROF』のメンバーだった俺にそんなものが通用するはずがない。しかも俺のほうがレベルが上なのだ。さらに言えば、俺はこの世界での訓練だって怠っていない。
吊り目男の『刺突』を『ガード』の無敵効果で防いだ俺は当然仰け反ることはなく、吊り目男が次の攻撃に移る前に『挑発』で移動不能にした。『挑発』はPVPでは極悪なスキルだ。盾系の職を少人数の対人戦で相手にするなら『挑発』を何らかの方法で防いだ後に攻撃に移るのが定石だ。盾系の職は対人戦では手強い相手なのだ。
こいつは素人だ。
『挑発』は全く強化していない状態でも対人戦では二人を引き寄せる効果がある。俺は吊り目男と痩せすぎ女を引き寄せて移動不能にしたところに『回転斬り』を使った。『回転斬り』はスーパーアーマーを持っているので一度発動してしまえば途中で中断されることはない。
その時、3人目の四角い顔の上級戦士が斧を振り上げて『回転斬り』を発動中の俺に攻撃しようとしているのを視界の端に捉えた。おそらく溜め攻撃の『チャージアタック』だ。戦士系の職は一発の威力が高く、なかでも『チャージアタック』は主力スキルだ。『回転斬り』はスーパーアーマーの効果を持っているが無敵ではない。
これはちょっとまずいかもしれない。
「『チャージショット』!」
「がはっ!」
サラの矢が上級戦士の首を捉えた。しかも、クリティカルが発生したようだ。チャージ系のスキルは溜めている間が弱点だ。サラはそこを見事に突いた。サラの『チャージショット』のほうが速く発動したってことはサラのほうが早くから準備していたってことだ。そもそもサラのスキル構成は少人数のPVPに向いている。
「『雷剣』!」
『回転斬り』を打ち終わった俺はすぐに『雷剣』を使うと、サラに攻撃されスキルの発動を中断された上級戦士の方に向き直って斬りつけた。上級戦士は一発の威力には優れるがスピードは速くない。上級戦士は『雷剣』の効果でその筋肉質な体を硬直させている。
「『二段斬り』、『ダッシュ』、『スラッシュ』!」
得意のコンボだ! これで上級戦士の命の灯は消えた。上級戦士はサラ必殺の『チャージショット』がクリティカルになったため既にHPの半分以上を削られていたようだ。クリティカルが発生した時の一撃の威力が大きいこと、これこそが弓系の職の最大の特徴だ。
「サラ! こいつを殺したのは俺だ!」
俺は青い顔をして弓を握りしめているサラに声を掛けた。たぶん、サラは自分が人を攻撃したことで動揺している。
「『炎槍』!」
「『跳躍斬り』、『スラッシュ』!」
その間に俺の回転斬りでフラフラになっている吊り目男にアディが魔法スキルで、痩せすぎ女にアルスが『跳躍斬り』からのコンボで攻撃した。
「『雷弾』!」
「ぎゃっ!!!」
間髪を入れずに俺が放った『雷弾』は痩せすぎ女を直撃した。『雷弾』が直撃した痩せすぎ女だけじゃなく吊り目男も硬直している。
「『回転斬り』!」
「があぁぁぁーーー!!!」
硬直している痩せすぎ女にアルスの『回転斬り』が3撃ともヒットした。痩せすぎ女はアルスの『回転斬り』の勢いで後ろ向けにドッと倒れた。天井を向いている痩せすぎ女の目には何も映っていない。
「これで僕も人殺しだ」とアルスが言った。確かに痩せすぎ女はもう死んでいるようだ。魔法使い系の職のほうがHPは少ない。PVPでは魔法使い系の職はそもそも近接の攻撃を食らったらだめなのだ。
「お、お前ら何者だ…?」
ボロボロになってやっと生きているという状態の吊り目男が言った。
「お前も知っての通りカイル探索者養成学園の一年だ」
「ば、馬鹿な…」
男は槍を杖ようにして立っているのがやっとだ。
「『刺突』!」
男は、最後の力を振り絞って、またも俺を仰け反らせようとして『刺突』を放った。そんなことは百も承知な俺はそれを受けずに右に避けると『スラッシュ』で斬りつけた。
「がはっ!」
男は口から血の塊を吐き出した。
「『二段斬り』!」
さらに『二段斬り』で追撃する。もうコンボにする必要もない。こいつも殺しておく必要がある。やるか…。
「『炎槍』!」
「アディ…」
最期にアディの魔法スキルが吊り目男の命を奪った。
「一人も生きて返すわけにはいかないわ」
アディの言う通りだが…。
「これで私も人殺しの仲間になれたわ」
キマイラの杖を構えたままの格好で仁王立ちしているアディは不敵な笑みを浮かべている。4人はしばらく無言だったが、アルスが最初に口を開いた。
「なんで僕達を襲ってきたんだろう?」
「わからないけど、『グリフォンの鬣』は王家と関係があるっていう噂があるわ」
「王家と? でも王家とアルメッサー辺境伯は…」
アルスが疑問に思うのは無理もない。アルメッサー辺境伯は4大貴族で唯一王族派だ。
「あの男…。平民の一年生を狙っているって、そう言ってたよ」とサラ。
「確かに、そう聞こえた。じゃあ、僕とレオを?」
「そういうことになるのかな?」
俺には平民の俺とアルスが襲われた理由に思い当たることがある。たぶん、こいつらは転生者と関係がある。そして『グリフォンの鬣』は王家と繋がりがあるという噂がある。だとすると王家の誰かが…。
まあ、ここで言うわけにもいかない…。
それにしても、ここまで危険なことを仕掛けてくるとは…。この世界はゲームじゃない。なのに本気で殺しにきた。俺のレベルはいろいろあって45まで上がっていた。その上、俺は『TROF』の元メンバーでPVPに慣れていた。そうでなければ、こいつらのレベルからして学園の一年生にすぎない俺達は全員死んでいただろう。主人公のアルスや転生者の俺だけじゃなく、アディやサラも死んでいた。腹の底から怒りが沸き上がってきた。
許さない!
「これは学園には報告できないわね」
「殺しちゃったしね」
「死体ってどうなるの?」
「いずれ迷宮に吸収されるわ」
ってことは完全犯罪か。正当防衛なんだが…。
「そう言うことなら、早くこの場を立ち去ろう」
全員が俺の言葉に頷いた。
俺はちょっと思いついて吊り目男の死体からマントだけ剥ぎ取ってアイテムボックスに入れた。
俺達は早々に現場から離れた。
その後、このことが話題になることはなかった。この件は闇に葬られ、俺達はそのまま何事もなかったように春休みを迎えることになった。




