5-5(最上級重剣士).
あれから、俺はシルヴィーの依頼でレベル上げに付き合っている。アディやアルス達との迷宮探索がしばらくできていないのでアディの機嫌がちょっと悪い。アディは俺とシルヴィーの間に何か秘密があると察しているようだが詳しく訊いてこないのが返って不気味だ。
「15階層のボスはケルベロスだ。ほんとにやるつもりか?」
俺とシルヴィーがいるのは15階層のボス部屋の前だ。
「もちろんだよ。レオが一緒ならいけるよ」
15階層ボスの討伐適正レベルは30前後だ。この世界なら35は欲しい。確かに行けるかもしれないが…。ここザルバ大迷宮の15階層のボスは、結局俺が戦わなかったケルベロスである。決して油断できる相手ではない。
「レオ、これ」
「ん?」
「帰還の腕輪だよ。さすがにこれなしで15階層ボスに二人で挑むなんてことするわけないよ」
そういことか…。帰還の腕輪はボス部屋から1階層の安全地帯まで転移できるアイテムだ。死んだら終わりのこの世界で神様が用意してくれたアイテムだ。だが、非常に貴重で滅多に手に入らない。
「でも、どうやって?」
俺はシルヴィーから帰還の腕輪を受け取り左手に装着しながら訊いた。
「うちは一応伯爵家だよ。しかも名の知れたね」
そうだった。シルヴィーはプレイヤーが望めば迷宮攻略を手伝ってくれる主要のキャラの一人で魔族の血を引いていると言われる名門ギルリーム伯爵家のお嬢様なのだ。
「えっと、レオのレベルは45だったよね?」
「ああ」
帰還の腕輪を装着した俺のステータスはこうだ。
【レオニード・メナシス 16才】
<レベル> 45
<職業> 最上級重剣士3
<スキル> スラッシュ、二段斬り、ダッシュ、回避、回転斬り、集中(B+2)、雷剣、死線、ガード、挑発
<魔法スキル> 雷弾、天雷
<称号> 雷神の守護者
<武器> 魔剣ソウルイーター(伝説級、特殊効果:HP吸収、補助効果:攻撃速度+5%、攻撃速度+3%)
キマイラの盾(一般級、補助効果:HP増加+1%)
<装備アイテム> 帰還の腕輪、力の指輪(一般級)、知恵の指輪(一般級)
最上級重剣士とは盾系の最上級職だ。俺には3つの選択肢があった。最上級剣士、魔導剣士、最上級重剣士だ。最上級剣士はその名の通り剣士系の最上級職で、魔導剣士は魔法剣士からの正当進化、そして俺の選択した最上級重剣士は耐久力に優れ盾を装備する職だ。俺はこの先ヴィルトゥオーゾのような格上と戦う可能性があるのなら耐久力に優れた職の方がいいと判断して最上級重剣士を選択した。ただし、俺は魔法剣士を経由して最上級重剣士になったので通常の最上級重剣士より筋力、俊敏、耐久などが低い。一方で知力や精神が高い。
スキルとしては『集中』を2回強化した。強化Bとは効果時間の延長だ。1回の強化につき15秒伸びるので、今の俺の『集中』の継続時間は1分30秒だ。『集中』のCTは3分なので戦闘時間の半分は『集中』の効果を受けられることになる。ステータスアップ率が上がる強化Aと迷ったが、威力のほうはコンボを繋げることで補うことができると判断した。ちなみに『集中』を強化できるのは最大4回までだ。スキルよって強化できる回数は違う。それに強化できないものもある。例えば『ガード』や『回避』などの基本的なスキル、それに伝説級の職で覚える強力な魔法スキルなどは強化できない。
次にアルスも持っている『回転斬り』を取得した。3回転して斬りつけるスキルで多段ヒットする。3回とも当たれば『二段斬り』を上回る威力がある。発動中は状態異常や中断効果を受け付けないスーパーアーマー状態になるので使い道は多い。
魔法スキルは『雷弾』と『天雷』で十分と判断して選択しなかった。雷属性魔法スキルの最大の利点である相手に硬直を与える付随効果は、多くの雷属性魔法スキル同士でCTが共通で計算される。なのでこれ以上雷属性の魔法スキルを増やしても意味がないと判断した。ちななみに『雷剣』の硬直効果のCTは他の雷属性魔法スキルの硬直効果のCTと別に計算される。だから、これで十分だ。
そして『ガード』と『挑発』は盾職の基本スキルだ。硬直効果があり盾で攻撃できる『シールドバッシュ』を覚えていないのが残念だ。
『ガード』はその名の通り盾で相手の攻撃を防ぐスキルだ。盾系の職を選択すると最初に自動的に覚える。『ガード』を使うと最初の2秒間は無敵状態になる。無敵状態になるのは回避系のスキルと同じだが回避系のスキルでは無敵状態なのは1秒もないくらい短い。それに『ガード』無効とか『回避』無効とかの理不尽な攻撃が存在するのでどちらも持っておくことは無駄ではない。無敵時間以降は盾の性能も含めて自身の防御力と相手の攻撃力との比較で相手の攻撃力が上回れば一定のダメージを受ける仕様だ。一度盾を構えると盾専用のスタミナが無くなるまで防御し続けられる。この世界では、とにかく体力の続く限り盾を構えてられるって感じだ。盾専用スタミナゲージも表示されない。『ガード』のCTは回避系スキルと同じく20秒だ。
『挑発』は盾役に必須な敵のヘイト(憎しみ、狙われやすさ)を集めるスキルだ。そして、むしろこちらのほうが重要かもしれないが、対人戦で使うとヘイトを集める代わりに相手を引き寄せしかも短時間移動不能にする。引き寄せる人数は強化により増やすことができる。『挑発』は『迷宮物語』時代でもPVPで非常に強力なスキルだった。
とにかく、盾系の職は耐久力に優れるので自身で回復もできる聖剣士系の職と並んで継戦能力が高く倒し難いのでPVPで人気があった。もちろん欠点もある。第一に、攻撃の専門職である剣士系や魔法使い系よりも当たり前だが攻撃力は劣る。第二には、盾を装備するだけでステータスの俊敏が大幅にマイナス補正されてしまう。だが、俺には称号『雷神の守護者』がある。これで俊敏のマイナス補正はほぼ相殺できる。つまり俺は最上級剣士とさほど変わらないスピードで動ける最上級重剣士ってわけだ。その上、HP吸収の特殊効果がある伝説級の魔剣ソウルイーターを装備している。敵にとっては、俺はかなり倒し難い嫌な相手だと思う。
今の状態だったらヴィルトゥオーゾにも一撃でやられることはなかったんじゃないだろうか?
そしてシルヴィーのステータスはこうだ。
【シルヴィア・ギルリーム 16才】
<レベル> 27
<職業> 上級魔法使い4
<スキル> 後方回避、瞑想(A+1)
<魔法スキル> 氷弾、氷槍(A+1)、氷矢雨、解毒
<武器> 氷龍の杖(伝説級、特殊効果:氷属性魔法威力上昇、補助効果:魔法攻撃力+3%)
<装備アイテム> 帰還の腕輪、知恵の腕輪(レア級)、魔力の指輪(一般級)
シルヴィーはレベル27だ。俺がレベル上げに付き合ってからも二つ上っている。一年生の中で俺を除けばクリスティナ王女のレベルが一番高いと思っていたが、実はシルヴィーのほうが上だったのだ。これは、もちろん『迷宮物語』の知識のおかげだ。討伐難易度に比べて経験値の高い魔物や魔物の湧きやすい場所などをシルヴィーは知っている。しかもシルヴィーは俺と違って伯爵令嬢である。幼い頃から迷宮を使ってのレベル上げができる立場だったのだ。それに、シルヴィーのレベルを聞いた俺は、もしかしたら俺やシルヴィーのような前世が『迷宮物語』のプレイヤーだった者は、主人公と同じようにレベルが上がりやすいんじゃないかと気がついた。元はみんな主人公だったのだから…。
「それにしても氷龍の杖とはなー」
「家宝だからね」
氷龍の杖の特殊効果は氷属性魔法威力上昇だ。氷属性魔法威力上昇としか表示されていないが、実際には、ただ上昇させるだけでなく大幅に上昇させる。氷属性魔法を得意とする魔法系職にとっては神話級以上に価値のある杖だ。
「家宝とはいえ、『迷宮物語』でのシルヴィアはそんなもん装備してなかったはずだ」
「まあ、私はギルリーム家では初代以来の天才といわれているからね」
秘密にされてるようだが、シルヴィーのレベルなら天才と呼ばれてもおかしくない。それでギルリーム家は家宝をシルヴィーに使わせてるってわけだ。おまけにシルヴィーはステータスアップ率が上がる『瞑想』の強化Aを選択している。魔法スキルの威力は相当なもののはずだ。
「ケルベロスのギミックはさっき確認した通りだ」
シルヴィーは「うん」と頷いた。
「OK。じゃあ、いくぞ!」




