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5-4(前世の仲間たち).

「それで、シルヴィーはインプレサリオに会ったんだよね」


 俺はさっきから訊きたくてうずうずしていたことに話題を移した。


 シルヴィーは「うん」と返事をしてアマデオ侯爵領の領都チュニでインプレサリオに会った時のことを話してくれた。


「『B・リュス』か…。気がつかなかった」

「王都にも支店があるよ」

「それは知っている…」


 俺はアディと一緒に行ったことがある…。俺の『迷宮物語』の記憶はシルヴィーほどはっきりしていないところが未だにあるから仕方がない。それに俺は『TROF』になってからメンバーになった。『B・リュス』時代のことは知らない。


「それにしても…」

「うん。あいつは馬鹿だね。あいつだってこの世界に生まれて、この世界に両親や友人だっているはずなのに、未だにこの世界をゲームのように思ってるんだよ」


 シルヴィーの気持ちはよく分る。アディはNPCじゃない。そもそも俺はアディの死を防ぐためにこの学園に入学したのだ。亡くなった父さんや母さんだって俺にとってはNPCでもモブでもない。シグルド様だってそうだ。


「確かにシルヴィーの言う通りなら、あいつは馬鹿だ。だが、厄介だな」

「そうなんだよね」


 シルヴィーが調べたところでは、インプレサリオは『迷宮物語』の知識を使ってダゴン迷宮がある辺りを領地に持つ男爵になっているらしい。


 ダゴン迷宮を利用するとは…。


「他にも何かわかったことがあるのか?」


 シルヴィーは頷くと「私が調べたところでは…たぶんなんだけど『TROF』のメンバーが仲間に加わっていると思う」

「消去法でいけばマエストロかプリマドンナ、もしくはその両方ってことだな」

「たぶん両方。それでインプレサリオを含めた三人がダゴン迷宮を使ってレベルを上げしてるみたい。でもはっきりとはわからない。伯爵令嬢の私にも限界があるんだよ。4大貴族とか王族とかに生まれたらもっと詳しく調べられたかもしれないけどね」


 ダゴン迷宮はサービス終了間際に実装された迷宮だ。20階層まであり通常の倍の経験値が得られる。最後にやけくそのように付け加えられただけあって、すべてのボスが他の迷宮からの使い回しだ。


「それにね」

「まだ、あるのか?」

「優秀な探索者を集めて従者団を作ってるらしいのよ」

「そいつらも?」

「ええ、ダゴン迷宮でレベル上げをしているんだと思う。でもそいつらは、たぶんそこまでレベルは上がらないと思うよ」

「どういう意味だ?」

「この世界の人はね。みんなが主人公みたいにレベルが上限まで上がるわけじゃないんだよ。例えばさ、王国騎士団だってレベル10を越えて…たぶん15くらいで小隊長になれるんだよ」

「なるほど。そういうことか…。じゃあ、俺達も…」

「どうだろう。たぶん前世にプレイヤーだった私達は主人公と同じようにレベルが上がる気がするよ」


 あり得る…。俺は黒獅子王を倒してレベル45になっている。


「とにかく、インプレサリオ達は本気で『迷宮物語』の時と同じようにこの世界で覇権を握ろうとしているんだよ。それでレベル上げに励んでるの」

「だけど、この世界では死んだら復活できない」

「うん。そうだよね。いくらダゴン迷宮を使ってもゲームのようにあっという間にレベルを上げるのは無理だと思う」

「じゃあ、シルヴィーはどのくらいかかると思う? あいつらが59になるのに」

「どうだろう…。少なくとも1年じゃあ全然無理だと思う。早くて3年ってとこかなー」


 『迷宮物語』では、主人公はカイル探索者養成学園を卒業する時に59に達する。だが、主人公は特別だ。この世界よりレベルの高い『迷宮物語』の中でさえ他の生徒はそこまで上がらない。シルヴィーの予測が正しいとすると、インプレサリオ達は『迷宮物語』の主人公と同じくらいの速度でこの世界でもレベルアップできることになる。


 この世界の主人公であるアルスはどうだろうか?

 

 アルスがカイル探索者養成学校を卒業するまでにレベル59に達するのは、いかに『光の守護者』の称号があったとしても無理な気がする。この世界はゲームとは違う。そもそもジギルバルト団長でさえ59には達していないのだ。


「ただ、ダゴン迷宮では、せいぜい50くらいまでしかレベルは上がらないんじゃないかな。20階層までしかないんだから。最後はザルバ大迷宮を攻略する必要があるよ」


 なるほど、言われてみれば…。そういえば、ザルバ大迷宮には、後から追加された25階層より下の階層が既に存在しているんだろうか?


 わからない…。


 俺は黒獅子王を倒したことにより既にレベル45になっている。現時点ではインプレサリオ達を大きくリードしていると思われる。そして奴らはそれを知らない。これは大きなアドヴァンテージだ。


 だが、あくまでインプレサリオ達に対してはってことだ。


「インプレサリオ達も気になるが、それよりも…」

「ヴィルトゥオーゾね」

「ああ」


 ヴィルトゥオーゾは俺達と違ってこの世界に転生でなく転移したのだ。レベル79でおそらくアイテムボックスの中にはレアアイテムなどを山ほど持っているはずだ。それに召喚獣だってまだ持っている。


「あれは、この世界の人達にとっては文字通り魔王だね」

「レベルはもちろん職や持っている武器やアイテムなんかも最高のものだろうからな。今のままでは全く太刀打ちできない。ただ、インプレサリオ達と違って奴は一人だ。それに何をしたいのかもわからない」


 ヴィルトゥオーゾの立場になって考えてみると、転生した俺達と違っていきなりこの世界に放り出されたようなものだ。俺ならどうするだろうか? 全く想像もできない。


「私が煽ったら、この世界を征服するのもいいかもしれないなんて言ってたよ」

「だけど、少なくとも俺に止めを刺さなかったし、シルヴィーを攻撃することもなく奴は引き上げた」

「そうだね。いきなりこの世界に転移して来た状態で、さすがに私達を殺すのは躊躇ったみたいだね。私もそこに賭けて逆に煽ったんだけどね」


 そのおかげで俺は命拾いした。


「それより転移したのはヴィルトゥオーゾだけなのかな?」

「どうだろう…。少なくともインプレサリオ達は違うみたいだね。レベル上げしてるんだから」


 まあ、ヴィルトゥオーゾみたいな奴が複数いてはかなわない。それにあの時、あのテーブルにいたのは6人だけだ。だけど…。


「『TROF』以外の『迷宮物語』のプレイヤー達に同じことが起こっていないとは言い切れない。まあ、これからもお互いに情報交換をしよう」

「そうね。ところで…」

「なんだ?」

「今のレオのレベルはいくつなの?」


 答えるべきだろうか? 俺が黒獅子王を倒してレベル45になったことを…。おそらくインプレサリオ達をも遥かにリードしていることを…。


「私が信用できないの?」


 迷っている俺を見て俺の真意を確かめようとするようにシルヴィーが言った。やはりシルヴィーには言っておこう。シルヴィーは命の恩人で、この世界に転生してきた『TROF』のメンバーの中で唯一の味方なのだから。


「俺のレベルは45だ」

「45!?」

「黒獅子王を倒したらレベルが上がった」

「黒獅子王を倒した…。てっきり私はヴィルトゥオーゾが召喚を解除したのかと思っていたわ。それに召喚獣を倒しても経験値を得らるなんて…。いえ、そもそもどうやって黒獅子王を一人で倒せたのよ。おかしいでしょう!」


 なんか、シルヴィーは怒っている。


「ま、まあ、いろいろあって…。あれは、そもそもプレイヤーを、人を殺すための魔物じゃないんだ…」


 あれは、俺がスキル『死線』を持っていたこと、魔剣ソウルイーターの効果、それに召喚獣がボスのようなギミックや理不尽な攻撃を持っていなかったこと、運よくコンボがめちゃくちゃ繋がったことなど、いろいろなことが重なって俺に味方してくれたおかげだ。


 シルヴィーは口を濁している俺に「まあ、これ以上詳しいことはおいおい聞くとして、とりあえず、そのジギルバルト団長と同等のレベル45を使って私をパワーレベリングして。いいよね?」と言った。


 仕方がない、俺としてもシルヴィーとの協力体制は築いておきたいし、協力者のシルヴィーが強いに越したことはない。今の段階ではアディ達にはヴィルトゥオーゾのこともインプレサリオ達のことも話せない。だけど、これからも俺の目的はアディを守ることだ。全学年合同訓練でのアディの死を回避することはできた。だが、ヴィルトゥオーゾやインプレサリオ達という新たな脅威がこの世界に出現した。それに、まだ危険なイベントが残っている。


 まだまだ、この世界には危険が満ちているのだ。

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