表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

1-5(ゴレイア迷宮1階層).

 次の日、俺は逸る心を抑えて、落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせながらゴレイアの森に向かった。ゴレイアの森に入り『迷宮物語』の記憶を頼りに探すこと2時間あまりであっけなくそれは見つかった。


 このあたりは休火山であるトリアデ山の影響なのか地震が多い。迷宮の入り口と思しき場所は巨大な岩で塞がれていた。しかし僅かな隙間から覗いてみると、古代語のようなものが刻まれている建造物の一部らしきものが確認できた。迷宮は古代人により人工的に作られた施設ではないかと言われている。きっとここが入り口だ。


「よし!」


 俺は声に出して気合を入れると持っていたナイフを使って岩を削る。これは無理かとも思ったが柄の方で叩いたりしていると、もともとひびでも入っていたのか、岩の一部が崩れてギリギリ俺が這って通れる程度の隙間ができた。

 迷宮に入ってみると、そこは夕方程度の明るさがある地下世界だった。迷宮の中は魔力が濃いと言われているのでそのせいなのだろうか? それとも壁全体が発光しているのか? ゲームでは数え切れないほど周回した迷宮だが、この世界では初めてだ。


 正直ワクワクする。


 迷宮の入り口付近は安全地帯と言われている。同じように各階層の入り口付近は安全地帯で、大きな迷宮だと探索者用の町のようになっているところもあると聞いたことがある。


 俺は、どんどん迷宮の奥に入っていった。


 迷宮はその名の通り迷路のような通路でできている。通路はちょっとぬるぬるした艶がある鍾乳石のようなものでできている場所もあれば、あきらかに人工的な壁に囲まれている場所もある。ところどころに広い空間があったりもする。やっぱり不思議な空間だ。ある時はコツコツと、ある時はぴちゃぴちゃと俺が歩く音が迷宮に響く。


 暫く進むとそれは現れた。ぶよぶよとしたゼリーのようなそれはゲームではおなじみのスライムだ。俺のレベルは2だ。『迷宮物語』の知識では、確か1階層の攻略適正レベルは2だ。ただし4人パーティーでだ…。


 大丈夫だろうか?


 とりあえず相手も一匹なので戦闘してみることにする。


「『スラッシュ』!」


 俺が取得している唯一のスキルである『スラッシュ』で攻撃する。『スラッシュ』は剣で敵を横薙ぎにするだけのスキルだが、単に攻撃するのに比べて1.2倍のダメージを与えることができる。『スラッシュ』が直撃するとスライムはあっけなく消え魔石だけが残った。小さな魔石だが俺が初めて迷宮の魔物を倒して得た魔石だ。素直に嬉しい。


 剣を握る手は汗で湿っている。思った以上に緊張していたようだ。


 『スラッシュ』を使えば一撃で倒せた。でもスキルを使うと魔力(MP)を消費する。それにスキルにはCTと呼ばれる再使用できるまでの時間が設定されている。『スラッシュ』なら20秒だ。なので連続で使う事はできない。次は普通に攻撃してみよう。


 しばらく進むとまたスライムが現れたので今度は普通に剣で攻撃してみる。


 ズサッ!


 手応えはあったが、スライムは消えていない。よく見ると体の中心に核みたいなものが見える。たぶん、あれに当てる必要があるのだ。もしかすると『スラッシュ』は単に攻撃威力が1.2倍になるだけでなく攻撃範囲も少し広いのかもしれない。


 ドン!


「うっ!」


 突然スライムが俺に体当たりして来て一瞬息が詰まる。油断した。ゲームでいえばHPがいくらか削られたはずだ。俺は剣を握り直すと今度は核をよく狙って、剣を振り下ろした。

 

 ガコンと手応えがあり、今度はスライムが消えて魔石だけが残った。よし。通常の攻撃でも核に当たれば倒せそうだ。


 またしばらく進むと今度はスライムが2匹現れた。


 まず一匹を『スラッシュ』を使って素早く倒した。『スラッシュ』を使えば大体核のある辺りを狙えばOKなようだ。もう一匹と対峙する。スライムは体当たりをしてきたが、今度は余裕を持って避けることができた。そして核をよく狙って剣を振ると2匹目のスライムも魔石になった。


 その後もしばらく迷宮を探索したが、一度に3匹出てきたのが最高だった。3匹はかなり厄介で、一匹を『スラッシュ』で処理したあと、どうしても体当たりを食らってしまうことがあった。2匹同時に相手をするのはなかなか難しい。20秒待って『スラッシュ』を使えばいいのだが、戦っていると20秒は意外と長い。それでも、致命傷を受けることはなく、なんとか倒すことができた。

 とはいえ、攻撃を食らうということはHP(体力)が減ってきているはずなので、油断はできない。まだ体力には余裕があると感じるが、この世界ではHPは表示されないしゲームと違って死んだら復活もできない。無理は禁物だと判断して探索を切り上げた。次回は下級ポーションを持ってこよう。下級でも平民の俺にとっては高価だが命には代えられない。


 迷宮を発見したらその場所の領主に報告する義務がある。領主は国に報告しなければならない。でも、この世界で『迷宮物語』の記憶を持っているのが俺だけとは限らない。俺は自分がたった一人の特別な人間だと考えるほど楽観的ではない。もし他にも俺のような記憶を持った人物がいたら…。その人物が3回目の大型アプデで追加されたこの迷宮が発見されたことを知ったら…。 


 はたしてその人物は善良だろうか? その人物は『迷宮物語』の記憶を利用して何をしようとするだろうか? うーん、何かを思い出せそうなんだが…。


 やっぱり、しばらくこの迷宮をことは秘密にしておこう。


 今日はレベルが上がらなかった。いくら迷宮の魔物を倒したといっても数時間では流石に無理だったようだ。迷宮の一般魔物は決まった経験値を持っていて、それが討伐の貢献度に応じて配分されるというのが『迷宮物語』の仕様だった。確か、止めを刺したものに一番多くの経験値が入る。貴族の子弟のパワーレベリングでもパワーレベリング対象者に止めを刺させるように立ち回っているはずだ。俺はソロだから確実に経験値を得ている。焦らず、しばらくはこんな感じで探索していくことにしよう。





★★★





 迷宮を発見して半年が過ぎた。


 迷宮を発見した日から俺は時間の許す限り迷宮に通った。初日はレベルアップできなかったが、今の俺のレベルは4だ。迷宮を発見する前に比べると2つもレベルあがった。剣士の職業レベルは2だ。迷宮の魔物討伐がレベルを上げやすいというのは本当だった。すでにアルヘイム探索者養成学園に入学できる条件を越えている。


 だが、俺の目標はエリートの集まりである王都のカイル探索者養成学園に入学することだ。


 今の俺は14才になったばかりだから、この調子なら15才になる前に達成できそうだ。ただ、それは最低限のレベルだ。アデレードの死を防ぐためには、もっと高いレベルが必要だ。カイル探索者養成学園に入学するだけでは足りない。それにしても、アデレードに会う前の俺はカイル探索者養成学園への入学は諦めていた。そもそも、そこまで入学したいと思っていなかった。父さんやシグルド様のような立派な剣士になりたいと思っていたし、剣の訓練も欠かしたことはなかった。なのに、なぜか従者見習いにならないかというサイモン様の誘いは断った。だけど今の俺には、カイル探索者養成学園に入学してアデレードの死を防ぐという明確な目的がある。


 自分でも不思議なのだが、今の俺はやる気に満ちている。


 目的のためにも、そろそろ2階層に挑戦してもいいのかもしれない。俺は、1週間ほど前に2階層に降りる階段を発見していた。


 よし! 今日は2階層に挑戦してみよう。


 2階層に挑戦する決意をした俺は、いつものように岩の隙間から迷宮に入ると発見済みの2階層に降りる階段を目指して最短距離で進んだ。途中のスライムは既に俺の敵ではない。


 2階層に繋がる階段に到着した俺は、慎重に下を目指す。


 階段を降りた辺りには広い空間が広がっている。たぶんここは安全地帯だ。広い空間から3つの通路が続いているのが見える。俺は、いちばん左側の通路から探索することにした。ゲームでゴライア迷宮と呼ばれていたこの迷宮の2階層の記憶についてはまだ曖昧だ。


 慎重に行動しなくては・・・。


 2階層で最初に現れたのは角の生えた兎3匹だ。地上でも討伐したことのある角兎だ。3匹一度に出現した。ジャンプして次々に角で突いてくる。スライムより格段に素早い。それほど力はなさそうだが、鋭い角での攻撃は厄介だ。

 俺は3匹の角兎の素早い攻撃を躱すのがやっとだ。迷宮の2階層の攻略適正レベルは4くらいだったと思う。ただ『迷宮物語』では4人パーティーでの攻略が基本だ。俺はレベルこそ4だがソロだ。


 俺は3匹の角兎の攻撃をなんとか躱しているが攻撃に移ることができない。やっぱり無理そうだ…。撤退しよう。これはゲームではない。命は大事にしなくては。ソロではなく盾役がいれば問題ないんだろうが…。


 俺は3匹一度に相手にする困難さを悟り早々と撤退することにした。攻撃を躱しつつ広間に戻る。安全地帯の広間に近づくと角兎たちはそれ以上追いかけてこなかった。落ち着いて自分自身を見るとかなりの攻撃を受けてしまったようで革鎧には傷があるし腕からも血が流れている。ゲームとは違い死んだらやり直せないこの世界では慎重にならざる得ない。


 俺は下級ポーションを飲むと2階層攻略を諦め撤退した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
たまふみさんの新作、待っていました。プロローグからのスピーディーな展開が心地よく直ぐに引き込まれました。いたるところに伏線が張られ、これからの展開でどう回収していくのかいまから楽しみにです。主人公にも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ