表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/65

4-4(ゲームとの違い1).

「そんな馬鹿な!」


 僕は思わず大声を出してしまった。


 ヴィガディール男爵領の領都リュスにある僕の屋敷に集まっているのは、プリマドンナ(マリア・リブラマン)、マエストロ(ピエール・ノウムテックス)、グレアム、そして僕のいつもの4人だ。毎度のことながら、カイル探索者養成学園と頻繁に往復しているマエストロは大変だ。そして、そのマエストロから重大な報告があった。


 僕はふーっと息を吐く。


「大声を出してすまない。ちょっと整理してみよう」


 マエストロからカイル探索者養成学園で起こったことを聞いた僕達は少し混乱していた。


「『迷宮物語』では全学年合同訓練中に、主人公の友人である4大貴族の娘が…」

「アルメッサー辺境伯の娘のアデレードよ」


 プリマドンナが補足してくれた。全学年合同訓練は一年生もあと2ヶ月で終わるという時期にあるイベントだ。


「うん。そのアデレードが参加しているパーティーが7階層でケルベロスに襲われる。ケルベロスは本来15階層のボスを務めるほどの魔物だから、いくらカイル探索者養成学園の生徒といえども学生が勝てる相手じゃない。いや、学生に限らずこの世界で15階層のボスを倒せる者は限られている」

「ゲームの登場人物のこの世界でのレベルについてはいろいろ言いたいことはあるけど、まあ、あと5くらい高かったとしても、同じことね」


 『迷宮物語』でも主人公のレベルが急速に上がっていくのは2年生になってからだ。主人公ですらそうなんだから、今の時期、ケルベロスに勝てる学生などいない。


「『迷宮物語』のストーリーでは主人公の友人であるアデレードが死んでしまうんでしたよね?」

 プリマドンナはその通りと頷いて「正義感の強いアデレードが一番に犠牲になって他のパーティーメンバーは命からがら逃げ出す。そんな話だったかしら」と言った。

「だけど、今回はゲームといろいろと違いがあった。まず第一にアデレードのパーティーに最初から主人公だと思われる…」

「レオニードっス」

「その主人公のレオニードが参加していた。ゲームでは主人公はアルメッサー辺境伯派のメインパーティーであるアデレードのパーティーには参加していない。特待生でもないしね。だとすると、レオニードは主人公じゃないのかな?」

「いや、主人公で間違いないっス。最初、主人公は僧侶のステラが一番怪しいと思ってたんっスけど、その後の訓練での実力からレオニードで間違いないっス。それに、前にも報告したチュートリアルの件もあるっス」


 そうだった…。『光の守護者』の称号を得るイベントだ。


「インプレサリオ、この世界ではゲームの時に比べて学生のレベルが低いのよ。だからゲームとは多少変わっているんじゃないかしら」


 その可能性はある…のか?


「ゲームではどんな経緯を辿るんだっけ?」

「本来はアデレード達が7階層で襲われた後、主人公が駆けつけた時にはアデレードは死んでいる。この事件をきっかけに主人公はますます強くなるという決意を固める。そんな感じのイベントよ。だいぶ後になってからだけど、その特殊個体らしいケルベロスも最終的には主人公が倒してランダムだけど結構有益なスキルを手に入れるはずよ」


 プリマドンナが説明してくれたことは僕の記憶とも一致している。やはりゲームとは学生のレベルが異なる関係でパーティーの組み合わせも変わったのだろうか?


 そして…。


「何より違うのは、マエストロの話によれば、現れた魔物がケルベロスじゃなくてケルベロスの首を咥えた魔物だったってことだ。しかも…」

「俺の見たところあれは黒獅子王っス」


 黒獅子王…。


 プレイヤーを手助けしてくれる召喚獣だ。そもそも迷宮で魔物と戦うための召喚獣であってプレイヤーやNPCと戦うことはできないはずだ。それに召喚獣ってことは召喚した主がいるってことだ。


「黒獅子王のレベルってどのくらいだっけ?」


 いや、召喚獣にそもそもレベルってあったのか?


「わからない。でも、レベルキャップ解放前のカンストまでプレイヤーを手助けしてくれるんだからレベル60以上の実力はあると思うわ」

「そうか…」


 レベル60以上…この世界の人間が勝てる相手じゃない。いや、本当にそうか? プレイヤー同士のPVPと違ってプログラムされた召喚獣や魔物は大体決まった動きをするから知っていれば対処できる可能性はあるのか? あくまで、知っていればだ…。いや、それにしたってレベル50以上は必要だろう。やっぱり、この世界の人には無理だ。


「マエストロ、本当に黒獅子王なの? 四つ足の魔物は多いから何かと見間違えたんじゃないの?」

「そう言われると…」


 プリマドンナに問い詰められてマエストロも自信がなくなったようだ。そもそもこの世界に黒獅子王がいるのはおかしい。あれはガチャで手に入れるものだ。プレイヤー全員に配られた召喚獣は妖狐王だ。


「それで、結局、その場にいた全員が逃げた。王国騎士団の大隊長のセシル達もだな?」

「セシルは一応立ち向かったんっスけど簡単にやられて気絶しているところをパーティーメンバーに担がれて退場したんスよ」

「とにかく主人公のレオニード以外全員逃げた」


 マエストロは頷いた。


 王国騎士団の大隊長といえばレベル35くらいか? いやセシルはその中でもエリートだからもっと上か…。そのセシルが全く相手にならなかった魔物に対して、主人公と思われるレオニードは、皆が撤退する時間を稼ぐため一人残った。主人公らしい行動ではあるが、それにしても無茶だ。


「マエストロも逃げたのよね」

「逃げるしかないっスよ。あんなの」


 マエストロは両手を広げてお手上げのポーズを取ると言い訳のように言った。


 マエストロは一年生ながらシュタイン侯爵派のメインパーティーであるアルベルトのパーティーに加わっていた。マエストロの今のレベルは30であり、既に、この世界ではかなりの強者だ。だが相手はレベル60以上だ。例え黒獅子王でなかったとしてもケルベロスを咥えてたんだからマエストロが勝てる相手じゃない。


「で、結局…」

「レオニードは瀕死の状態で助け出されたんっス。発見したのシルヴィア・ギルリームっス」

「シルヴィア…?」

「シルヴィア・ギルリーム、伯爵令嬢でストーリーの展開次第では主人公を手伝ってくれるNPCの一人ね。氷属性魔法を得意としているはず。えっと、魔族の血を引く一族で中立派の貴族だったかしら」


 『迷宮物語』では、主人公はストーリーに登場するほとんどの主要キャラクターを仲間にすることができる。シルヴィアはその一人だ。


「それで、間違いないっス」


 そのシルヴィア・ギルリームに発見されて主人公レオニードは一命を取り留めた。ゲームの強制力ってやつだろうか? それにしても一人でレベル60以上の召喚獣相手に生き残るとは普通では考えられない…。それに、本来死ぬはずだった主人公の友人は誰も死んでない。ゲームの強制力が働いて主人公が生き残ったとしても、本来死ぬべきキャラクターが死んでいないのはどう解釈すればいいのか…。


「やっぱり黒獅子王じゃなかったんじゃないかしら。いくら何でもレベル60以上の魔物を相手に生き残るって、この世界の人間には無理でしょう。それに本当にその魔物が召喚獣の黒獅子王だったら、どこかに主がいるってことになる。ちょっと考えられないわね」


 プリマドンナの言うことは筋が通っている。四つ足の獣系の魔物は多いからマエストロが見間違えた可能性が高い。この世界に召喚獣がいるはずがない。


「そう言われると、俺も自信がなくなってきたっス」


 俺達3人が話していることをグレアムは黙って聞いている。グレアムにはある程度事情は話してある。それでも、今回の件に関してはなんのことかわからないはずだ。だけど、問題ない。グレアムは悲惨な運命から救い出して新しい人生を与えてくれた僕に忠誠を誓っている。


「それと僕のほうからも報告がある」


 僕の浮かない表情に気がついたのかプリマドンナが「何かあったの?」と心配そうに尋ねた。


 そう、僕はもう一つゲームとこの世界の違いを発見していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ