4-2(仲間たち).
計画は今のところ順調だ。カイル探索者養成学園ではすでにストーリーが始まっている。そっちはマエストロに任せている。マエストロは王都とこことを頻繁に往復しているので大変だ。前世でいうところの出席日数が足りるのかがちょっと心配だ。
今日は新たに男爵となった僕の領地に建てた屋敷で会議というか話し合いをしている。メンバーは僕とプリマドンナ、それに学園から急ぎやって来たマエストロだ。
「とりあえず僕達自身がもっと強くなる必要がある」
「そのためのダゴン迷宮だものね」
「インプレサリオはゲームの時と同じで神聖戦士を目指すのよね?」
「ああ。この世界で伝説級の職業が解放されているのかわからないから、とりあえず聖戦士を目指すよ」
最上級職である聖戦士は回復魔法が使える。回復能力は当然専門職には劣るが、PVPにおいては自身で回復もできるので倒され難く好まれていた職だ。
「それでプリマドンナはどうするんだ?」
「私も『迷宮物語』時代と同じで槍鬼を目指そうと思うの。とりあえずは最上級槍士ね」
槍鬼は槍士の伝説職だ。プリマドンナはとりあえず槍鬼の前の最上級槍士を目指すと言う。そのおっとりとした外見と異なり物理攻撃が好きで『迷宮物語』時代にはとにかく槍で斬ったり突いたりしまくっていた。特に陣営戦でこちらが有利になった後、復活地点で待ち構えてリスキルし続けていた姿には狂気すら感じた。僕達は不思議なことに10才の時に『迷宮物語』で選んだ初期職業同じ職を授かった。
「俺は勇者っスね」
「やっぱり、マエストロは勇者か。子供ね」
「いやいや、やっぱり目指すなら勇者っスよ」
「だけど、勇者は伝説職だよ。とりあえず最上級職としては何を目指すの?」
勇者と魔王は実はどんな職からでもなれる。条件は魔物の討伐数だ。討伐数とは止めを刺した魔物の数である。異なる3種類の系統の魔物を一定数以上討伐していればなれる。ただ、その数はかなり多く。そのため『迷宮物語』では伝説級の職になれる条件を満たしていてもしばらく最上級職に留まり勇者や魔王を目指すということはよくあった。
ただ、ソロではバランスのいい勇者や魔王だがパーティーでの迷宮攻略や多人数でのPVPでは必ずしも最強とはいえない。それに回復魔法は持っていないし耐久力では盾系の職である神級重剣士などには劣る。『迷宮物語』はその辺りのバランスに優れていた。
「3人のバランス的には盾系か魔法使い系がいいっスよね。でも今が重剣士っスから」
「うん、それでいい。魔法職にはちょっとあてがあるんだ」
「分かったっス。このまま上級重剣士から最上級重剣士を目指すっス。でも最後は勇者でいいっスよね」
「ああ」と僕は頷いた。
全員が希望する伝説職になれたとすると、僕が神聖剣士、プリマドンナが槍鬼、マエストロが勇者ということになる。
「それでインプレサリオ、魔法職のあてっていうのは?」
「グレアムを見つけた…」
少しの沈黙の後「グレアム…魔王を…」とプリマドンナが小声で言った。
「そうか…。ここはアマデオ侯爵派の支配地域っスもんね」
「ああ」
グレアムは主人公が王族派に与しているとアマデオ侯爵派の中から現れる。一方、主人公がシュタイン侯爵を中心とする独立派の貴族達の勢力に与している場合、王族派の中から現れる。いずれの場合も奴隷から成り上がるという設定だ。グレアムは魔族の血を濃く引いている一族の出身でオルデン聖国の生まれだ。グレアムはいずれの場合もアマデオ侯爵領の領都である港町チュニを経て奴隷としてこの国に入って来る。そのことを覚えていた僕はアランにチュニの港を見張らせていたのだ。
「僕はチュニから入ってくる奴隷達に以前から注意していた。魔族の血を引いているという噂にもね」
「さすが、インプレサリオね」
「結論から言うと既にグレアムを仲間にしているんだ。今のグレアムは僕に忠誠を誓っている」
「奴隷ですものね」
「いや、奴隷からは解放した」
「それって危なくないんっスか?」
「性格とかは大丈夫なの?」
グレアムを奴隷から解放したと言うと、マエストロとプリマドンナの二人がそれぞれ懸念を表明した。
「大丈夫だ。むしろこれまでの悲惨の人生から解放した僕のことを信じ切っている。あいつは奴隷から解放してくれた僕に感謝している。僕のためなら何でもすると言っている。その言葉には嘘はないと思う」
「そうっスか…。確か、『迷宮物語』では親や兄弟も殺されてこの国に連れて来られたって設定だったスよね。主人公と戦うのも隷属の首輪を着けられて主人に逆らえず無理やりだったような…」
「うん。今のあいつは僕に心の底から感謝しているんだ。信用できるよ」
僕はこの世界の強者を仲間にしたいと思っていた。仲間にならないのなら逆に排除したい。強者といえば当然主人公だろうが主人公を仲間にするのは最初から諦めていた。主人公は正義の人だ。この世界の覇者になるという僕の目的に賛同するとは思えない。むしろ成長したら邪魔になるだろう。ジギルバルト王国騎士団長も無理だ。だとしたら、次の候補はグレアムだ。彼はこの世界を恨んでいる。僕の覇道の協力者としてはうってつけだ。
「なるほどッス」
「これでとりあえずパーティーは完成ね」
プリマドンナの言葉に僕とマエストロも頷いた。
「それから、パーティーで行動するとき以外は、これまで通りこの世界の名前を使う。注意してくれ」
「わかっているわ」
「OKっス」
『迷宮物語』ではインプレサリオを名乗っていた僕のこの世界での名前はセルゲイ・ヴィガディール、プリマドンナはマリア・リブラマン、マエストロはピエール・ノウムテックスだ。この3人にグレアムを加えた4人でまずは最強を目指す。ちなみにこの世界では平民でも姓を名乗ることはできる。プリマドンナはリブラマンという姓を持っている。
これからしばらくはグレアムも加えた4人でダゴン迷宮に潜りレベル上げをする予定だ。ダゴン迷宮はサービス終了間際に追加された迷宮で通常の2倍の速度でレベルアップできる。後続のプレイヤーが先行するプレイヤーに追いつくための最後の手段として実装された迷宮だ。ダゴン迷宮が実装された頃にはプレイヤーの数もかなり減っていた。
通常の倍の速さでレベルアップできる迷宮。
これが僕がなんとしてもダゴン迷宮を手に入れたかった理由だ。ダゴン迷宮を使って、まずグレアムも含めた僕たち4人がこの世界最強になる。そして配下の者達もダゴン迷宮で強化する。これが僕の計画だ。
まあ、コレオグラファーならダゴン迷宮を使わなくても最速でレベルアップできるかもしれない。あいつは多くのサブキャラを凄い速さでカンストしていた。異常に多くの経験値を獲得できる魔物の出現条件だの、一度に多くの魔物を倒せる場所だの、バグのような方法も含めていろいろ知っていた。僕の『迷宮物語』でのプレイスタイルは多くのサブキャラを使い分けるようなものではなかったので、そういった方法には詳しくない。プリマドンナやマエストロも同じだと思う。
「インプレサリオ、どうかしたの?」
「いや、なんでもないよ」
「そう、ならいいんだけど…。何か心配事でもありそうな顔していたから…」
未だにコレオグラファーのことを思い出すと心がざわつく。切り替えないと…。
「それでマエストロ、学園のほうはどうですか?」
僕は話題を『迷宮物語』の舞台であるカイル探索者養成学園のことに移した。
「『迷宮物語』の通りっスね。レベルが思ったより低い以外はっス」
「やっぱりか…」
迷宮物語ではカイル探索者養成学園の入学条件はレベル10以上だった。この世界では半分の5だ。この世界最強と言われる王国騎士団長ジギルバルトのレベルは45だと言われてる。ゲームの内のジギルバルトはレベルキャップ解放前の上限である59だったはずだ。死んだら終わりのこの世界では全体的に『迷宮物語』よりもレベルが低い。それは僕にも納得できる。この世界でのレベル上げは死と隣合わせであり、ゲームのようにはいかないことは僕もよく知っている。
「それで主人公はいたの?」
「平民は3人いるっス。ステラっていう僧侶の女の子、アルスっていう剣士、同じく剣士のレオニード、この3人っス」
「その中の誰かは?」
「まだわからないっスね。俺は僧侶の女の子が怪しと思ってますけどね」
「回復役は貴重ですものね」
「まあ、そっちはマエストロに任せるよ」
主人公はできたら排除したい。いずれ僕たちの邪魔になる。
まあ、これまでのところ僕の計画は順調に進んでいる。思ったよりレベルを上げるのが大変なこと以外はだ。おそらくダゴン迷宮を使ったとしてもそれなりに時間はかかるだろう。死んだら元も子もないのだから…。逆にこの世界の者達も『迷宮物語』の時よりかなりレベルが低いのだから問題ない。
ただ、『TROF』の幹部の内残り3人を仲間にできなかったのは少し残念だ。エトワールとヴィルトゥオーゾには会ったが拒否された。コレオグラファーには会うことすらできていない。
コレオグラファー……。




