3-19(黒獅子王3).
俺は『迷宮物語』の記憶を探る。
『迷宮物語』でも格上でかつパーティーやそれより人数の多いレイドで挑むべき魔物をソロで倒している動画を上げているプレイヤーはいた。大体の場合のそういったプレイヤーが相手にするのは迷宮のボスではなくフィールドの魔物だ。迷宮のボスはボス部屋自体のギミックなどもあって基本的にはパーティーで討伐するように設計されている。目の前にいるのは迷宮の魔物ではなくフィールドの魔物ですらない。魔物と戦うための召喚獣だ。
あれを参考にすべきだ…。
だが、ああいった動画を上げていたプレイヤーは俺のようなPVP勢ではない。魔物相手の戦闘を得意としている奴だ。どの分野にもプロはいる…。
だが、ある意味やることは単純だ!
こっちは相手の攻撃を食らわないように立ち回って、相手のHPを時間を掛けて削る。これだけだ。だが、それが難しい。圧倒的な力の差があるのだから、絶対にまともに攻撃を受けてはいけない。プレイヤーの中には、長時間かけてレイドボスを全く攻撃を受けずに倒し切るような猛者もいた。対魔物のプロ中のプロだ。だが、直撃はともかく100%攻撃を受けないなんて俺の技術ではとうてい無理だ。だから回復手段がいる。幸い、俺には魔剣ソウルイーターがある…。
「『集中』!」
CTが空け俺はまた集中を使った。
「『雷剣』!」
続けて『雷剣』も使う。
バシ! バッシュ! カーン!
俺は魔剣ソウルイーターで黒獅子王の攻撃を捌く。だが、一定のダメージを受けている。やっぱり全くダメージを受けないなんて不可能だ。だが、同時に魔剣ソウルイーターの効果でその何分の一かのHPを回復している。
ガキン! バシ! ザッシュ!
よし! 硬直した。
雷属性を纏った魔剣ソウルイーターで何度か攻撃を捌いているうちに硬直が発生したのだ。
「『二段斬り』、『ダッシュ』、通常攻撃、『スラッシュ』、通常攻撃!」
『集中』の効果が継続しているので、可能な限り通常攻撃も挟んで手数を増やす。手数分だけ回復できる。
「ぐおぉー!!」
黒獅子王が叫び俺に飛び掛かってきた。これを受けたらやばい!
「『回避』!」
危なかった…。
回避の無敵時間は一秒もない。すぐに黒獅子王は俺を踏みつけようとした。俺は転がるように移動してそれを避ける。そして、黒獅子王は頭を振って暴れる。さっきと同じだ。思った通り黒獅子王の攻撃は単調だ。
似たような攻防が繰り返される。時間だけが過ぎる。
次に黒い炎のブレスが来たら終わりだ。もう耐えられるHPは残っていない。まだ2度目のブレスが来ないのは運がいいだけだ。確率の問題だ。俺のほうはそろそろ二度目の『死線』が使える。もう俺のHPは常時20%を切っている状態だ。それでも、遥かに格上の召喚獣相手に既に十数分戦っているのだから、我ながら上出来だ。
だけど、やっぱり『迷宮物語』の魔物相手のプロのようにはいかない。ノーダメなんて無理だ。次で勝負を決めるべきだ。回復手段のない黒獅子王のHPは時間を掛けた分かなり減っているはずだ。黒い炎のブレスより先に『死線』を使えれば…。
「おい! 黒獅子王、どっちが先に当たりくじを引くか勝負だ!」
俺の言葉の意味がわかったのか黒獅子王は「グオッ!」と一声鳴くと、また俺に飛び掛かってきた。
「『回避』!」
次は踏みつけだろう。知ってるぞ!
ドン!
俺はバックステップで踏みつけを避ける。
そして…。
黒獅子王はもう何度目かになる頭を振って暴れる攻撃をしてきた。俺はそれを盾でスラすように受ける。
「うっ!」
それでも俺はダメージを受ける。
だけど…時間だ!
「『死線』!」
やっと『死線』のCTが空けた!
「『集中』!」
さらに『集中』を発動する。MP不足で『天雷』は使えない。
だけど…。
「『雷剣』!」
さらに『雷剣』まで使った俺は、ダメージを受けるのをものともせず魔剣ソウルイーターで攻撃しまくる。
「通常攻撃、通常攻撃、通常攻撃、通常攻撃、通常攻撃、通常攻撃、通常攻撃、通常攻撃!」
俺はスキルを温存して通常攻撃で攻撃しまくった。その間も黒獅子王は攻撃してくる。キマイラの盾と黒獅子王の攻撃が激突してガンガンと耳障りな音を立てる。一応スラすようしてダメージを軽減しているつもりなんだが…。俺のHPはどんどん減少している。
ああー。く、苦しい…目が霞む…。あと…どのくらいHPは残っているのだろう…。
俺は死ぬのか…。
その時、ついに黒獅子王が硬直した。
「『二段斬り』、『ダッシュ』、『スラッシュ』、通常攻撃、通常攻撃、通常攻撃!」
俺は馬鹿の一つ覚えのようにコンボを使った。これが今俺が使える最強の攻撃だからだ。
苦しい…。意識を失いそうだ…。魔剣ソウルイーターの効果でギリギリ生きている状態だ。
お! 『ダッシュ』の後に使った『スラッシュ』がクリティカルになってダメージが1.5倍になった。それだけじゃない『ダッシュ』はその後に使ったスキルがクリティカルヒットするとクリティカルヒットしたスキルと『ダッシュ』がすぐに再使用可能になる仕様だ。
「『スラッシュ』、『ダッシュ』、『雷弾』!」
ああ、神様、ありがとうございます。なんと、ここにきて『雷弾』の硬直効果まで発動した。
「通常攻撃、通常攻撃、通常攻撃」
俺は硬直している黒獅子王を通常攻撃で斬りまくる! するとなんと3撃目で『雷剣』の硬直効果が発生した。
俺は連続して当たりくじを引いている。日頃の行いが良かったのだろう…。
「『二段斬り』、『ダッシュ』、『スラッシュ』、通常攻撃、通常攻撃!」
俺はさらにコンボを繋げた。
コンボは繋がれば繋がる程威力が増す。俺自身にも、一体どこからコンボが繋がっているのか分からない…。それくらい長くコンボが繋がっている。迷宮のボスとかならこれはあり得ない。こいつが人を相手にするように設計されていない召喚獣だからだ。コンボがこれだけ繋がれば、最後は凄い威力になっているはずだ。しかも、『死線』と『集中』を発動中なのだ。
黒獅子王、運が悪かったな!!!
「がおおおぉぉぉぉぉぉぉー!!!」
その時、黒獅子王が遠吠えのような声を上げてドッと地面に伏した。
やったのか…。
いや、まだ死んでいない…。
俺は意識朦朧としながら攻撃を続けた。
攻撃を続けた……。
少しだけ意識がはっきりしてきた。魔剣ソウルイーターの効果だ…。もう黒獅子王はほとんど反撃してこない。
「『二段斬り』、『ダッシュ』、『スラッシュ』!」
そして、俺がこの日何度目かのコンボを放った後、黒獅子王は魔石に変わっていた。
や、やった………。
おそらくレベル60以上だと思われる召喚獣を倒せるとは…。運が良かった。黒獅子王がそもそも人を攻撃するための魔物ではなかったことが功を奏した…。
疲労と安心感で力が抜けて俺はその場に崩れるように倒れた。ソウルイーターの効果でHPは多少回復したが、もう魔力切れだ…。
俺は、ぼんやりと召喚獣も倒すと魔石に変わるんだなと考えていた。『迷宮物語』では召喚獣は基本倒せない。瀕死になると召喚が解除されて主の下に戻るのだ。そもそもゲームでは召喚獣でプレイヤーやNPCを攻撃することはできなかった。やっぱりこの世界は『迷宮物語』に似ているが同じではない。
あっ! これは…。
俺は倒れたままレベルが上がるの感じていた。なんと召喚獣を倒してもレベルアップできるようだ。迷宮で魔物を討伐したことに変わりないからだろうか……。
『迷宮物語』ではプレイヤーは戦うことすらできない存在だったのに…。
頭の中のウィンドウを確認すると、なんと俺のレベルは45になっていた。この世界で最強と謳われるジギルバルト騎士団長と同等のレベルだ。
【レオニード・メナシス 15才】
<レベル> 45
<職業> 魔剣士10
<スキル> スラッシュ、二段斬り、ダッシュ、回避、集中、雷剣、死線
<魔法スキル> 雷弾、天雷
<称号> 雷神の守護者
<武器> 魔剣ソウルイーター(伝説級、特殊効果:HP吸収、補助効果:攻撃速度+5%、攻撃速度+3%)
キマイラの盾(一般級、補助効果:HP増加+1%)
<装備アイテム> 力の指輪(一般級)、知恵の指輪(一般級)
魔剣士はカンストしている。レベル45なんだから最上級職になれるはずだ。スキルも選択しなくては…。ドロップ品のようなものは見当たらない。
とりあえず、生き延びた…。しかもアディも無事だ!
俺は達成感に包まれている自分を感じていた。俺はやった! 最初にアディを見て、その先のアディの運命を思い出した時、俺は絶対にアディを助けたいと思った。そしてゴレイア迷宮のことを思い出して…カイル探索者養成学校に入学した。主人公のアルスにも出会えた。
とにかく、俺は目的を達成した!
大声で叫びたい気分だ!
ほんとうに良かった…。
だが、今は魔力も枯渇して、しばらく動ける気がしない。最上級職やスキルの選択は後にしてしばらく休息したい。俺はとりあえず、アイテムボックスから中級ポーションを取り出して飲むと大の字になって迷宮の天井を見上げた。
「まさか黒獅子王が倒されるとはな…」
俺は大の字になったまま声のした方を見た。




