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1-4(前世の記憶).

 俺はブルグで定宿にしている宿屋の部屋でベッドに寝転んで天井を眺めていた。このままではアデレードは15才で死んでしまう。俺はアデレードの顔を思い出す。


 勝気そうな瞳…。

 燃えるような赤い髪…。


 アデレードはこの国の4大貴族の一人アルメッサー辺境伯の娘だ。俺と因縁のある長男のアモス・アルメッサーの妹だ。


 アデレードは俺をいきなりレオと呼んだ…。

 俺と老婆はアデレードに助けられた…。


 やっぱり、俺はアデレードを死なせたくない。何か方法をないのか? 


 俺はゲームに登場した記憶すらないモブだ。父さんやシグルド様との日頃の訓練のおかげで『剣士』の職を得た。だが、このままでアルメッサー辺境伯の騎士団にでも入って平均的な騎士になるか、これまた平均的な能力の探索者になるくらいが精一杯だろう。 


 やっぱり、こういう場合役に立つのは前世の知識、ゲーム『迷宮物語』の知識じゃないだろうか?


 アデレードが死ぬのはゲーム序盤だ。カイル探索者養成学園で行われる迷宮でのイベント中に、そんな階層に出現するはずのない魔物に遭遇して殺される。アデレードは主人公の友人であり、アデレードの死は主人公にもっと強くなる必要があると決意させる。つまりアデレードは主人公の成長の糧になるのだ。俺をいきなりレオと呼んだアデレードなら平民の主人公と友人になってもおかしくない。だが、この世界には死んでもいいNPCなんていない。それに、俺の記憶にはまだ曖昧な部分がある。

 『迷宮物語』はMMORPGだ。多くの人が同じフィールドで時には協力して時には競い合って遊ぶゲームだ。そもそもMMORPGではあまりストーリーは重要ではない。ストーリーはレベルを最高値まで上げるまでの道標のようなものだ。 


 本番はその後だ。そんなもののためにアデレードが死ぬ…。


 『迷宮物語』は最難関の迷宮の攻略を他人と競ったり、最強の魔物の討伐を競ったり、直接他人と戦闘したり…戦闘は1対1もあれば多人数同士の場合もある…いわゆるエンドコンテンツと呼ばれるものを他のプレーヤーと協力したり競ったりして攻略していくのが最終目的だ。


 中でも『「迷宮物語』の目玉は、陣営戦だ。


 これはクラン戦とも呼ばれ毎週土曜日にプレーヤーが二つの陣営に分かれて戦う大規模PVP(対人戦)だ。俺はこのゲームにかなりハマっていたようで自分のことはほとんど思い出せないのにゲームのこと、特にゲームの仕様などはかなりはっきりと覚えている。ただ、ストーリーなどには曖昧な部分も多い。


 アデレードを助けるためには、まずはカイル探索者養成学園に入学する必要がある。


 ゲームのストーリーはカイル探索者養成学園でスタートする。ただし俺、レオニード・メナシスはゲームに登場していない。まだ記憶が曖昧なところがあるし、『迷宮物語』ではストーリーはそれほど重要ではないから覚えていないだけの可能性もある。どっちにしろ俺がモブであることは間違いない。今のところ俺は15才でレベル5というカイル探索者養成学園への入学条件を満たせそうにない。


 何か方法はないのか?


 ゲームのことを思い出すんだ! 何かレベルを上げるヒントになることを…。


「うっ! あ、頭が…」 

 

 ああ、無理に思い出そうとすると頭が痛い。


「ううぅー!」


 俺は呻き声を上げながら必死で思い出そうとするが、肝心な部分が霞がかかったようではっきりとしない。俺は「ふーっ」と溜息を吐いた。


 その時、まるで雲の間から差し込んできた光がそこだけ照らしているかのように一つの言葉が頭の中に浮かんできた。


 ゴレイアの森? 


 ノブリス男爵領…。


 確か王国最高峰の…えっと…。そうトリアデ山…トリアデ山だ!


 ファミール王国最高峰であるトリアデ山の麓に位置するゴレイアの森…。なんだ、俺がワイルドボアを狩った場所じゃないか…。今、俺がいるのはノブリス男爵領の領都ブルグだ。


 いや、違う! そうじゃない!


 俺はその名前をもっと前から知っている。俺は『迷宮物語』の中でその名前を聞いたことがある。


 思い出せ! 思い出せ! 


 やっと、俺の記憶が明確な形を取り始めた…。


 間違いない!


 ファミール王国最高峰であるトリアデ山の麓に位置するゴレイアの森、そこには、たしか3回目の大型アップデートで追加された迷宮があるはずだ。


 考えてみると、この世界ではゲームスタート時点での迷宮しか知られていない。アップデートで追加された迷宮については聞いたことがない。情報が隠されているなんてこともあり得ない。迷宮は王国の最重要資産だ。俺が全く耳にしないなんてありえないし隠す理由もない。

 迷宮は魔物が住む危険な場所であると同時に資源の宝庫でもある。迷宮の魔物を討伐すると魔石と呼ばれる宝石のような石に変わる。魔石は様々な魔道具に魔力と呼ばれるエネルギーを供給するために使われている。光を放つ魔道具、食べ物の保管などに役立つ温度を下げるための魔道具、火をつけるための魔道具など多くの魔道具が生活のために役立っている。それら魔道具を動かすためには魔石が必要であり、魔石が魔力を供給できる量は無限ではないため定期的に交換する必要がある。そのため常に魔石の需要はある。


 魔石はこの世界の魔導文明を支えている。


 俺が習った知識によると魔導技術は何千年も前に栄えた古代文明によりもたらされたものだ。古代文明の魔導技術はとても進んでいたが、その多くは現在では失われている。しかし失われた文明の遺跡などから当時の魔道具が発見されることがある。そして現在利用されている魔道具の多くは、発見された古代文明の魔道具を研究して生み出されたものだ。魔導技術は、ここ100年ほどの間に急速に発展した。この出来事のことを魔導革命と呼び、魔導革命以後、魔石はそれを支えるものとして、その重要性は高まる一方だ。前世でいえば魔石を供給してくれる迷宮は油田かガス田のようなものだ。


 そして迷宮の価値は魔石だけではない。迷宮の5階層毎に存在するボス魔物は、倒すと魔石の他になぜか武器やアイテムをドロップするからだ。


 ゲームならボス魔物が武器やアイテムを落とすのはある意味当然のことなのだが…。


 迷宮のボス魔物が落とす武器やアイテムはとても優秀だ。さらに迷宮で魔物を倒すことがレベルを上げるのに最も適している。これは迷宮の攻略が国の軍事力の向上に直結していることを意味する。各国が迷宮の攻略に注力するのは当然だ。そんな迷宮は王国や貴族によって厳重に管理されている。


 アルメッサー辺境伯とその派閥が支配する王国の北東地域には迷宮が一つだけある。それは15階層までの迷宮で既に攻略済みだ。迷宮は攻略されても魔物を一定の間隔で生み出すのでその価値は変わらない。その迷宮に入るにはアルメッサー辺境伯であるサイモン様の許可がいる。俺はサイモン様とは多少縁がある。アルメッサー辺境伯騎士団の大隊長であるシグルド様の知り合いでもある。だが、それでも平民の俺が迷宮に入る許可を貰うのは無理だ。俺だけを贔屓することはできない。それが4大貴族であるアルメッサー辺境伯サイモン様の立場というものだ。


 だけど…王国北東部には実はもう一つ迷宮がある。あくまで3回目のアップデート以降の話だが…。


 それが俺がさっき思い出したゴレイア迷宮だ!

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