3-15(全学年合同訓練2).
迷宮での合同訓練も二日目に入り、俺の参加しているアディを中心としたパーティーは予定通り5階層のボスに挑むことになった。
「一度ボス部屋に入ると戦闘が終了するまで出られないことは知っているな」
ボス部屋の前にはエイクリー先生が立っていて俺たちに注意を促した。この中で帰還の腕輪を持っているのはアディだけだと思う。もしかしたらホレイショ先輩辺りは持っているかもしれないが…。
「もちろんですわ」
アディがいつものご令嬢モードというか悪役令嬢みたいに返事をした。
エイクリー先生はパーティーメンバーを眺めると「分かってるのならいい。まあ、お前たちなら問題ないだろう」と言ってちょっと横に避けて俺たちを通してくれた。
こうして、俺たちは5階層のボス、お馴染みのキングオーガとオーガ2体に挑んだ。
結論からいうとなんの問題もなかった。
俺とアディは何度も経験済みだし、ホレイショ先輩やコーネリア先輩もだろう。それでも、コーネリア先輩はかなり緊張していた。
「やっぱり、ボス部屋に入ると緊張するわ。私、1回しかクリアしたことがなかったの。帰還の腕輪がなかなか手に入らなくて…。今回は回復魔法を1回しか使わなかったけど…」
やっぱり、最初は帰還の腕輪を手に入れて挑戦するのが普通なのか…。考えてみれば当然な気がする。
「いえ、その1回が役立ちました」
ホレイショ先輩も頷いている。その1回の回復魔法をかけてもらったのはホレイショ先輩だ。
「それに、先輩の『攻撃速度上昇』バフは役に立ちましたよ」
俺の言葉にコーネリア先輩が少し顔を赤くして「だったらいいんだけど…」と言った。アディを見るとなぜか足を肩幅に開いて腕を組んでいた。やっぱり悪役令嬢みたいだ。
「コーネリア、レベルが上がったんじゃないのか?」
何かに気がついたのかホレイショ先輩が尋ねた。
「はい」
ホレイショ先輩の言葉にコーネリア先輩は頷いた。確か、コーネリア先輩はパーティーメンバー決めの会議のとき自身のレベルを14だと言っていた。
「そうか」
ホレイショ先輩はそれ以上詳しくは聞かなった。レベルは重要な個人情報だし。14から一つ二つ上っても新しいスキルは覚えないから、さほど戦闘には関係ないと思ったんだろう。
コーネリア先輩は「ねえ、これでボス戦は終わりだよね」と俺に話しかけてきた。
「そうですね。俺達では10階層のボスはさすがに危険すぎますから。あとはどこまで下の階層に行くかだけですね」
俺の答えを聞いてコーネリア先輩はほっとしたように頷いた。
6階層でも俺たちは最短距離で次の階層に向かっていた。ここから先に行けるパーティーは少ないはずだ。そういえば、クリスティナ王女のパーティーとアルベルトのパーティーはもっと先だろうか?
ところどころにカイル探索者養成学園の教師が待機していおり事故がないように目を光らせている。
「真神です」
俺はメンバーに注意を促し盾を構えた。真神は狼の魔物で魔狼よりかなり大きい。5階層から出現する。だが、今回は3体だ。そういえば真神の特殊個体が主人公アルスのチュートリアルの相手として出現した。真神は5階層から出現する魔物だ。しかも特殊個体だった…。今考えても俺がいなかったら危なかった。『迷宮物語』のチュートリアルってあんなに危険だっただろうか?
何か引っかかる…。
「ガルルゥー!」
「グルルゥゥー!」
3体の真神は態勢を低くして威嚇するように唸っている。俺が真神を観察しているといきなり一体が飛び掛かってきた。
ガシッ!
「うおっ!」
俺は真神の体当たりを盾で受けると同時に弾き返すように盾で攻撃した。『シールドバッシュ』という盾を使って攻撃するスキルがあるのだがその動きをトレースしている。
「ぎゃうん!」
俺に弾き飛ばされた真神はふらふらになっている。俺は『シールドバッシュ』は持っていない。しかしこの世界では自力で似たような動きはできる。ただし、スキルを使ったほうがスムーズに発動できるし、おそらく威力も高い。考えてみればゲームの世界では通常攻撃だって決まった動きだけだったが、この世界ではもちろんそんなことはない。やはりこの世界はゲームと全く同じではない。
「『スラッシュ』!」
「ぎゃーー!!」
俺に弾き飛ばされた真神に上級剣士のホレイショ先輩が剣士系の最も基本的なスキルである『スラッシュ』で攻撃した結果、真神は魔石に変わった。
「ぎゃん!」
もう一体の真神がアディを攻撃しようとしたところを、俺がまたもやシールドバッシュモドキで弾き飛ばした。
これって、スキルと違ってCTもなしに何度でもできるな…。
「『炎槍』!」
もう一匹の真神もアディの『炎槍』であっという間に魔石に変わった。
「きゃあー」
「アデレード様!」
3体目の真神が回り込んでアディに飛び掛かってきたのだ。さすがに3体全部を盾で完全に防ぐことはできなかった。真神は素早い魔物だ。
「『ダッシュ』!」
俺はすぐに『ダッシュ』で背後から3体目の真神に近づくと剣を振るった。
「『スラッシュ』!」
3体目の真神は「ぎゃうん!!」と一声鳴くと魔石に変わった。
「『回復』!」
「コーネリア先輩、ありがとう」
やっぱり、パーティーには回復役が必要だ。ポーションには1分という結構長いCTがある。それに、ボス部屋に入ると3回までしかポーションの効果がない
「やっぱりレオニードの『シールドバッシュ』に似た動きは大したものだ。それにアデレード様、じゃなくてアデレードの『炎槍』の威力も凄い」
アディの『炎槍』は一段階威力が強化されている。それにアディの持っているレア級であるキマイラの杖には3つの魔法攻撃威力を上げる補助効果が付いている。魔法攻撃威力だけなら伝説級に近い性能を誇る武器だ。
「この調子なら10階層までいけそうだ。ボス戦に挑戦してみるか。帰還の腕輪を持ってない者はいるか?」
「先輩、無理ですよ」
「わかってるよ、コーネリア。冗談だ」
クリスティナ王女のパーティーは10階層ボスに挑戦する気だと思う。エレニア以外は全員クリア経験がありそうだ。エレニアも帰還の腕輪を用意していれば…。アルベルトはどうだろうか? 帰還の腕輪を人数分用意してるんだろうか? シュタイン侯爵家なら可能かもしれない。
それでも、俺達はもちろんクリスティナ王女やアルベルト達が10階層まで行くことはない。その前にこの全学年合同訓練は中止されるからだ。
その、原因はアディの死だ!
俺はこの後、普通ではないことが起きることを知っている。俺達は決して10階層に到達することはない…。
「どけ!」
「なっ!」
そのとき後から俺達を追い越して行こうとする一団が現れた。
「アデレード様のパーティーに失礼な!」
ホレイショ先輩が怒っている。
「なんだと」
そのパーティーの一人の大柄な男がホレイショ先輩を睨み返した。
「先輩、王国騎士団の人たちのようです」
コーネリア先輩がホレイショ先輩を宥めた。
王国騎士団、この国最強の軍事力だ。しかも、ここにいるってことは…。
王国騎士団は通常は王家の直轄領にあるベングラウ迷宮でレベル上げを行っている。ベングラウ迷宮は王族派のダウスゴー伯爵家が管理を任せれている迷宮で一般には開放されおらず実質王国騎士団専用となっている。ベングラウ迷宮は最下層の15階層まで攻略済みだ。15階層まであればレベル35くらいまで、場合によっては、もう少し上までレベル上げできる。レベル35といえば、王国騎士団でたった20人しかいない強者である大隊長の平均レベルがそのくらいだ。
目の前にいる王国騎士団のパーティーはそのベングラウ迷宮でなく、わざわざここザルバ大迷宮に来ている。見たところ全員まだ若い。もしかすると、彼らは将来たった4人しかいない師団長にすらなれるかもしれないエリートなのかもしれない。
ん? それにしては、10階層の転移魔法陣を使ってない…。
そうか、ザルバ大迷宮の10階層が初めての者がいるのかもしれない…。なんせボスは最高でも15階層までしかクリアされていないんだからあり得る。
「ゲイル、乱暴はよせ」
「君たちすまないね。ここで訓練できる時間にも限りがあってね。先を急いでいるんだ。ちょっと譲ってもらってもいいかな」
「そ、そういう事情なら」
王国騎士団と聞いてホレイショ先輩も引き気味だ。
「感謝するよ。私は、王国騎士団のセシルだ。カイル探索者養成学園の生徒だろうけど、ここまで来るんなんて将来有望だね」
「いえ…」
「それじゃね」
美しい金髪のセシルを先頭に4人が道を譲った俺達を追い越していく。背中を向けたまま片手を上げた姿がなかなか様になっている。
「王国騎士団のセシル、あれがセシル・バークリーだったのね…」
「アディ、有名なの?」
アディの呟きが聞こえた俺が質問した。
「あれは、王国騎士団第一師団の第一大隊長セシル・バークリーよ」
「セシル様が大隊長を務める第一師団第一大隊は王族の親衛隊でもある。他の大隊よりレベルが上で、大隊長は師団長クラスだと聞いたことがある」
ホレイショ先輩がそう説明してくれた。
「ということは今のセシルとかいう人は師団長クラスの実力者ってことですか?」
「そういうことだ」
王国騎士団の師団長クラスといえばレベル40前後だ。41を超えれば最上級職になれる。アルメッサー辺境伯騎士団なら団長にさえなれるレベルだ。
騎士団では入団してからも20代の前半くらいまでは迷宮でのレベル上げを積極的に行っている。レベルは10代後半、まさに俺たちの年代からが一番上がりやすく20才を超えるとだんだん上がり難くなり20代半ばまでにはその人の最高到達レベルが確定すると言われている。
俺たちはセシル大隊長達を見送った後、再び下層を目指して前進した。だんだん、その時が近づいている…。




