3-14(全学年合同訓練1).
今日はいよいよ迷宮での全学年合同訓練の日だ。全校生徒150人余りが揃うと壮観だ。だが、あのケルベロスことを考えると相変わらず俺の気分は晴れない。
とにかく、何があってもアディを守る! 俺は自分に気合を入れて頬を叩いた。
俺達は一階層入り口の町のような安全地帯にある広場に集合した。引率の先生たちの指示で予め決めていたパーティーごとに別れる。
俺の参加するパーティーは魔法使いのアディ、上級剣士で三年のホレイショ・アッパーヒル、僧侶で二年のコーネリア・グラス、そして俺の四人だ。俺はいつものように魔剣ソウルイーターとキマイラの盾を装備している。
「へえー、結構立派な剣と盾を持っているのね」とコーネリア先輩が話しかけてきた。
「ええ、まあ」
「レオニード、アデレード様の推薦だ。期待しているぞ」
「今は、派閥の集まりじゃないから様はいらないし敬語も必要ないわ、ホレイショ先輩」
「分かりまし、分かった、アデレード」
結局、アルメッサー辺境伯派のメインパーティーはこの4人に決まったわけだが、三年の特待生であるサミュエル・レッドリバーを中心としたパーティーなど他にも派閥で組んだパーティーがいくつかある。コーネリアは特待生でもないのにメインパーティーに抜擢されて二年生の特待生から後で嫌味を言われたと愚痴っていた。人間関係は難しい。幸い一年のアルメッサー辺境伯派の特待生はアディだけだ。ただ、サミュエル先輩たちが相変らず俺のことを胡散臭げに見ている。
少し離れたところに、アルスとステラの姿が見える。二人は平民だけのパーティーに参加しているはずだ。
えっと…サラは…。
「サラはあそこね」
アディの指さす方を見ると。確かにサラがいた。あれがアマデオ侯爵派のメインパーティーか…。
エイクリー先生の「そろそろ行くぞ!」の掛け声で、まずクリスティナ王女のパーティーが広間から先へ進む通路に入った。先頭に上級剣士のラインハルト・ダウスゴー、魔法使いのエレニア・ブレンティス、そしてクリスティナ王女、最後が二年の上級重槍士ブレイク・ワーズワースだ。長身の上級重槍士ブレイクも王族派の伯爵家の子弟だ。エレニア以外の3人は上級職だ。どう考えても頭一つ、いや二つ抜けている。
クリスティナ王女のパーティーに続いたのはアルベルト・シュタインのパーティーだ。アルベルトはまだ上級職になっていない。一年生なんだからいくら特待生といってもそれはしかたがない。もう一人一年生が参加している。アルベルトの金魚のフンの一人で長身のウィルコックスではなく中肉中背のピエールのほうだ。ピエールが盾役らしい。あとの三年と二年はよく知らない。三年のほうはデラメアの情報によると上級職のクレリックだ。
「それじゃあ、私たちも行きましょう」
アディの言葉に俺たちはアルベルトのパーティーに続いて3番目に通路に入った。先頭は盾役の俺だ。殿をホレイショ先輩が務めている。
今の俺のステータスは前と変わらずこんな感じだ。
【レオニード・メナシス 15才】
<レベル> 27
<職業> 魔剣士4
<スキル> スラッシュ、二段斬り、ダッシュ、回避、集中、雷剣、死線
<魔法スキル> 雷弾、天雷
<称号> 雷神の守護者
<武器> 魔剣ソウルイーター(伝説級、特殊効果:HP吸収、補助効果:攻撃速度+5%、攻撃速度+3%)
キマイラの盾(一般級、補助効果:HP増加+1%)
<装備アイテム> 力の指輪(一般級)、知恵の指輪(一般級)
そして俺がアディに見せてもらったアディのステータスはこうだ。
【アデレード・アルメッサー 15才】
<レベル> 17
<職業> 魔法使い9
<魔法スキル> 炎弾、炎槍(A+1)、炎盾、瞑想
<武器> キマイラの杖(レア級、補助効果:魔法攻撃力+5%、魔法攻撃力+3%、魔法攻撃力+1%)
<アイテム> 知恵の指輪(レア級)
アディはレベル17、魔法使いの職レベル9になったことにより魔法使いで覚えるスキル5つを全部覚えた。最後に『瞑想』を覚えるとこができたのは幸運だった。瞑想は剣士の『集中』に似たスキルだ。1分間ステータスのうち知力と精神を1.2倍に上昇させ魔法攻撃スキルのCTを短縮させる。
ただ、アディが『後方回避』を覚えていないのが気になる。上級職になってから覚えられる可能性はあるが…。攻撃を回避すること自体は自分の技術でもできる。ただ、『後方回避』や『回避』には無敵時間がある。それに確実に回避行動が取れる。ゲームなら回避系スキルを持っていないなんてあり得ない。
俺達はザルバ大迷宮1階層を進む。
全学年合同訓練のルールはたとえパーティー全員が5階層のボスをクリアしていても1階層から順に降りていかなくてはならない。俺達の今日の目的地は5階層の安全地帯だ。5階層の安全地帯にはなんとカイル騎士探索者養成学園専用の宿泊施設がある。今日の目的地である5階層の安全地帯までは最短距離を進む予定だ。俺とアディが5階層のボスを周回していた時は一日で5階層のボスまで辿り着いていたが一日としてはギリギリだった。迷宮は最短距離を進んでもかなり広い。深い階層になるほど広くなり転移魔法陣を使ってもボスまで辿り着くのに時間が掛かるようになる。ゲームのように一日に何度も挑戦することはできない。そもそも死んだら終わりだ。
前の二つのパーティーが倒してくれているのか魔物には全く出会わない。俺達が初めて魔物に出会ったのは2階層に降りてしばらくしてからだった。
「ゴブリンが3匹だ」
先頭の俺がみんなに告げる。
「ギャー!」
「ギャー!」
「ギャー!」
奇声を上げて3匹同時に襲い掛かって来た。
ガシッ!
ガッ!
バーン!
俺は落ち着いて盾で攻撃を防いだ。3匹目は試しに盾で弾くように攻撃してみた。専門の盾職には『シールドバッシュ』という盾で攻撃するスキルがある。当然、俺は持っていない。だが、3匹目のゴブリンは俺に弾き飛ばされて既に魔石に変わっている。やっぱり、この世界ではスキルがなくても技術があればスキルと似たような攻撃はできる。
「『炎弾』!」
「ぎゃーー!」
残り2匹のゴブリンのうち1匹はアディが魔法で倒した。
ズサッ!
最後の1匹はホレイショ先輩が剣で斬り捨てた。
「順調ですね」と言いながら、コーネリア先輩が3つの魔石をアイテムボックスに収納した。魔石などの戦利品は僧侶のコーネリア先輩が管理することになっている。魔物を倒した数もアピールできるポイントだ。
「『シールドバッシュ』のような技を使っていたな。専門職でもないのに大したもんだ。というより三年の重剣士の『シールドバッシュ』より威力があったように見えたぞ。それにアデレード様の魔法の威力は思った以上に高いですね」
ホレイショ先輩が感心したように言った。まあ、俺のレベルは27だし、アディは武器の補助効果もあり魔法威力が高い。
「ね、レオを誘って正解だったでしょう」
アディが得意そうに言った。
「それと、ホレイショ先輩、ここは派閥の会合の場ではないのですから様はいらないわ。さっきそう言ったでしょう」
「そうでした」
こんな感じで、ゴブリンのほかにも角兎や魔狼を倒しながら進む。これまでのところ最大でも一度に3体しか出現しないので、俺も無難に盾役を熟している。
こうして俺たちは特に苦戦することなく、その日の夕方には5階層の安全地帯に到着した。そこには数人の先生もいて宿に案内された。宿の前で俺がしばらく待っているとアルスやステラの姿が見えた。平民パーティーでもここまでこれたらしい。アルスがいるおかげだろう。サラの姿も見えたので手を振って挨拶した。ほとんどのパーティーがここまで来ている。だがこのうちのどのくらいのパーティーが5階層のボスをクリアできるだろうか?
撤退の腕輪を持っている者以外は、ボス部屋に入ってクリアできなかったら待っているのは死なのだ。よほど余裕がないと挑戦しないだろう。いや、そもそも初見の時は全員が帰還の腕輪を着けるのが普通だとアディが言っていた。学園のイベントだからといっていきなり挑戦する馬鹿はいないだろう。それでも危険なイベントであることに変わりはない。
貴族の子弟がほとんどである学生にこんなことをさせてもいいのだろうか?
いや、それを言うならそもそも迷宮に潜ること自体が危険なのだ。この世界ではそれだけ迷宮を探索することが重要視されている。魔石は魔導技術の要であり、迷宮で手に入る武器やアイテムは国の軍事力を左右する。国だけでなく各貴族の力もだ……。
とりあえず迷宮での合同訓練一日目は無事に終わった。静かな滑り出しだが、俺の緊張感はジリジリと高まっている。




