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3-13(合同訓練前夜).

 最近の俺は緊張している。なぜならアディが死んでしまうイベントが目前に迫っているからだ。


 アディを殺す魔物はケルベロスだ!


 ケルベロスと言えばザルバ大迷宮15階層のボスを務めるほどの魔物だ。レベル30以上はあるだろう。魔物のレベルというのはこっちが4人パーティーで相手をしたとき同等という意味でのレベルだ。それにもっと悪いことにアディの前に現れるケルベロスは御遣様、要するに特殊個体だ。特殊個体は一般的に通常の個体よりレベルが高い。ただ、ボス部屋にいる奴と違ってギミックや特殊攻撃はないような気がする。どっちが強いのかは俺には判断できない。そもそも、あれは『迷宮物語』においてアディの死が確定しているイベントだ。


 ふーっと、俺は溜息を吐いた。


 最近は毎日こんな感じだ。何度もアディを強引にイベントに参加させないことも考えた。だが、ゲームの強制力とやらで俺の知らないところでアディに危機が訪れたらと思うとそれも躊躇われた。必ず起こるとわかっているほうが、まだ対処し易い。


 これまでの俺は、ゴレイア迷宮のおかげでちょっとレベルが上がったことで、甘く考え過ぎていたと思う。


「レオ、また合同訓練のことを考えているの?」

「え、う、うん…」


 俺は曖昧に頷いた。俺はいつのも8人で昼食を取っている。


「やっぱりアルス達って凄すぎますねー」 


 ステラがしみじみとした口調でいった。俺達が5階層のボスを突破したと噂になっているからだ。ステラ達はといえば最近4階層に到達したらしい。これは一年生の一般生徒としては十分に優秀だ。


「いやー、たまたまだよ」


 アルスが謙遜する。


「それに、これはレオのおかげなんだ」


 俺とアディはアルスやサラと一緒に5階層を突破したことにより一層二人との信頼関係を深めた。最近二人はアディのこともアディと呼び始めた。二人は俺とアディの関係に気を遣ってアディのことをアデレードと呼び続けていると俺は睨んでいたのだが、アディのほうは自分が4大貴族アルメッサー辺境伯の娘なので遠慮があるからだと思ったようだ。俺のことをレオと呼ぶ二人を見たアディが「私のこともアディと呼んで」と言ったのだ。それに対して最初は「でも…」とか言っていた二人だが、アディが両足を肩幅に開いて腕を組む例の悪役令嬢スタイルで「呼びなさい」と言ったことにより、そうなった。やっぱり、アディは大貴族の令嬢らしい。でも、とても可愛いらしい令嬢だ。


 こんなアディを死なすわけにはいかない!


「アルスの言う通りでレオの貢献が大きいわ」とアディが得意そうに言った。

「いやいや、アルスも十分凄いよ」


 実際、アルスは主人公だけのことはある。それに、最近では、毎朝の自主的な訓練にアディ、アルス、サラも参加していることが多い。みんな頑張っている。


「そうだよ、アルス。私、みんなについて行けてるのか未だに心配で…」

「サラ、心配ないよ。大丈夫だよ」


 アルスとサラは顔を見合わせている。急にお腹いっぱいになった…。


「確か…レオニードがぁー盾役うを…してるんだよね?」

「もう、モズ、だから食べるか話すかどっちかにしなさいっていつも言っているデスよ」


 デラメアがモーズリーの口についた食べかすをハンカチで拭いている。うーん、大きくて丸いモーズリーに小さくて可愛らしいデラメア、意外とお似合いなのか…。


「モーズリーの言う通りで、俺が盾役をしている。別に重剣士でなければ盾を持っちゃいけないなんて決まりはないからね」


 剣士ではヘイトを集めるスキル『挑発』など盾職のスキルは覚えられない。だが、自分自身の技術を使って似たようなことはできる。レベルやステータス、それにスキルとは別の、日頃の訓練で得られる技術がこの世界には確実に存在する。


 俺達は転移魔法陣で5階層まで移動して更に下層を攻略中だ。最近7階層まで到達した。アルスは既にレベル19になった。アディとサラは17だ。俺のレベルは変わっていない。

 7階層辺りになると探索者の数も減ってくる。こないだ7階層にいるところをクリスティナ王女のパーティーに目撃されてしまった。クリスティナ王女は、剣のベルンハルト・ダウスゴーや魔法のエレニア・ブレンティス達と一緒に攻略中で俺達を抜いていった。この分だと一年生だけで10階層のボスをクリアするのも時間の問題だろう。 


 とにかくクリスティナ王女が俺達を7階層で目撃したことで俺たちのパーティのことがちょっとした話題になっている。


 それから話題は全学年合同訓練のことに移った。全学年合同訓練のことを考えると心の中の不安が黒いもやのように広がってくる。とにかくアディを逃がすことそれに集中するしかない。あんな奴を倒そうとしても無駄だ。時間を稼いで逃げる。それしかない…。


「僕はステラと一緒に二年生と三年生の平民の先輩と一緒に参加するんだ」


 アルスとステラは平民だけのパーティーに参加するようだ。ステラ以外のステラのパーティーメンバーは下級といっても貴族の出身だからそれぞれの派閥のパーティーで参加することになるんだろう。


「まあ、派閥のパーティーって言っても俺が参加するのはアデレードやレオニードと違ってメインパーティーでもないし気楽なもんだよ」


 金髪碧眼のイケメンのロジャーが肩を竦めて言った。なんか様になっているけど、ちょっとイラっとした。今の俺がケルベロスことばかり気にしているせいかもしれない。


「レオ、どうかしたの?」

「アディ、なんでもないよ…」

「僕は一応貴族だけどさ、中立派だから適当なパーティーで参加するよ」

「モズ、まだパーティーが決まってなかったんデスか?」


 デラメアも初めて聞いたらしい。普段、上級生とそんなに交流があるわけじゃないからモーズリーに限らずパーティーが決まってない生徒はいる。まあ、その辺は先生達が上手くやるはずだ。


「サラ、フィッシャー家はアマデオ侯爵派よね」

「ええ、そうなんだけど…」

「どうかしたの?」


 アディは怪訝そうにサラを見た。


「それがメインパーティーに入ることになっちゃって…」


 そうか、アマデオ侯爵派は一年生からサラを抜擢したのか…。なかなか見る目がある。


「うちはアマデオ侯爵派って言っても弱小田舎領主なのよ。アマデオ侯爵派の一年の特待生に嫌味は言われるし…。それにみんな絶対優勝だとか言ってるんだよ。まいっちゃうよ」


 勝手に派閥間で競争しているだけで順位とか優勝とかがあるわけじゃない。あくまで親睦を兼ねた訓練だ。


「ということはサラはライバルね。負けないわ!」


 アディはやる気だ。もしかして、サラを元気づけようとしているのだろうか?


「そうだよね。アディ、お互いに頑張ろうね」


 サラのほうもアディの言葉に前を向いた。


「やっぱり、一番活躍しそうなのはクリスティナ様のパーティーでしょうか?」

「まあ、ステラの言う通りだろうな。なんせクリスティナ様とラインハルト様がいるんだから」


 ステラの言葉にロジャーが同意した。


 クリスティナ王女は一年生とはいえ上級職についている。10階層のボスを攻略する力はある。いや、既にクリアしているかもしれない。ラインハルトのほうは10階層のボスをクリア済みだとホレイショ先輩が言っていた。


「クリスティナ様以外にも一年生が参加するらしいデスよ」とデラメアが言った。

「魔法のエレニア・ブレンティスか…」

「そうそう」


 俺の言葉にデラメアが頷く。王家を支えるのは剣のダウスゴー家と魔法のブレンティス家だ。


「次に有力なのは、やっぱりアルベルトのパーティーね」


 アディの言う通りでクリスティナ王女のパーティーの次に有力なのはシュタイン侯爵派のアルベルトのパーティーだ。一年からは当然シュタイン侯爵の嫡男であるアルベルトが参加する。


「二年生と三年生も特待生で、特に三年生はクレリックらしいデス」


 クレリックは僧侶の上級職だ。同じ僧侶の上級職の神官と違って攻撃魔法も使える。ただ、回復力については神官のほうが上だ。僧侶から神官になるのと違ってクレリックになるにはちょっとした条件がある。シュタイン侯爵派の貴族の子弟がクレリックなのは納得できる。王家とか4大貴族は職やスキルに関していろいろ隠している。俺はそう想像している。


「デラメアは詳しいわね」

「今はこの全学年合同訓練の話題で持ちきりなのデス。だいたい、アデレードはアルメッサー辺境伯派のリーダーなんだからもっと情報収集しないとデスよ」 

「アディ、こないだの会議でもホレイショ先輩が説明してたよ」

「そうだっけ?」

「アディらしいよね」とサラが言って「うん」とアルスが頷いた。

 デラメアが「それにね。アルベルト様のパーティーにも一年生がもう一人参加するらしいデスよ」と言った。


 もう一人一年が…。


「これで、アデレードのパーティー、クリスティナ王女のパーティー。アルベルト様のパーティーの3つの有力なパーティーに一年生が2人ずつ参加することになるのデス」

 

 実際にはアディのパーティーはそこまで有力とは思われていない。アマデオ侯爵派とビットリオ侯爵派のパーティーもそうだ。そもそもアマデオ侯爵派とビットリオ侯爵派は現在両家の直系の子弟がカイル探索者養成学園に在籍していないからそこまで力が入っていない。その点、アディはアルメッサー辺境伯の娘だ。本来なら一番目立ちたいところだが、大方の見るところ相手が悪いと思われている。ホレイショ先輩ですらそう思っているのは明らかだった。


 だが、全学年合同訓練の勝ち負けなんかはどうでもいい。俺にはもっとやるべきことがある。俺はそっとアディの横顔を見た。俺は絶対にアディを守る…。

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