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3-11(学園生活).

 俺とアディがカイル探索者養成学園に入学して既に9ヶ月が経過した。俺のレベルは変わらないがアディのレベルは17まで上がっている


「今日はパーティーで魔物の討伐数を競ってみよう。一ケ月後にはお前らが楽しみにしている全学年合同訓練があるしな。予行演習みたいなもんだ」


 エイクリー先生は、午後からの実践訓練でザルバ大迷宮1階層の安全地帯の広場に集まった俺達にそう言うとニヤリとした。全学年合同訓練とは例えるなら体育祭のようなイベントだ。最近では貴族の派閥間の対抗戦のようになっている。アルメッサー辺境伯派で一番地位の高い生徒であるアディにとってはかなり重要なイベントだ。そして、俺にとってはもっと重要な意味を持っている。


 全学年合同訓練中にアディは狂暴な魔物に襲われて命を落としてしまうからだ!


 全学年合同訓練という言葉に俺の体は無意識のうちに強張った。俺のレベルは一年生ではもっと高いと思う。だが、あれは普通なら絶対にアディの死を防げないイベントだ。俺は、例えあの魔物を倒せなくてもアディを逃がす。そのことに集中しようと決心している。


「階層はどこでもいい。ただし、競うのは倒した魔物の数だけだ。魔物の強さは関係ない。時間は3時間だ」


 エイクリー先生の合図で俺達は一斉に迷宮探索を開始した。


 アルベルトと金魚のフンの二人は回復役の子爵令嬢を加えて4人でパーティーを組んでいる。前に見た時は魔族の血を引いているというギルリーム伯爵家のシルヴィアと一緒だったが、さすがに回復役がいると判断したようだ。


 アルベルトが「今回は負けないぞ」と俺に話し掛けてきた。


 実は、ちょっと前の物理攻撃系の近接職だけの実践訓練で、訓練用の武器を使って1対1で戦う訓練をした。その時、俺はアルベルトと対戦した。


 結果は引き分けだった。


 俺が防御主体に戦ったからだ。4大貴族の嫡男であるアルベルトのプライドを無駄に折って恨みを買う必要はない。それに、アルベルトは口だけではなく思ったより強かった。俺はいろいろ試してみたが、やはりコンボなどの知識は『迷宮物語』のプレイヤーほどではなかった。だが、全く知らないわけではない。この世界の人達だっていろいろ研究はしている。死んでも何度でもやり直せる『迷宮物語』のプレイヤーより多少知識が劣るのは已むを得ない。決してこの世界の人達は馬鹿ではない。


 まあ、そういうわけで前回が引き分けだったので、今回は絶対に負けないと言っているのだ。それにシュタイン侯爵家とアルメッサー辺境伯家はライバルでもある。


「アルベルト様、優勝は俺達に決まったようなもんですよ」


 金魚のフンのうち中肉中背で特徴のないピエールが媚びるように言った。一方ヒョロっとしたウィルコックスのほうは「お前らもせいぜい頑張れよ」と馬鹿にしたよう言った。その後二人はステラ達にもちょっかいをかけていた。相変わらず成長しない奴らだ。


 一方、剣のダウスゴー家のベルンハルトと魔法のブレンティス家のエレニア、それに特待生ではないが王族派貴族家の重戦士を従えたクリスティナ王女は探るように俺達を見ている。実はこないだの休日に7階層でクリスティナ王女達と会ったからだ。


「アデレードのパーティーが優勝しそうだよね」と話し掛けてきたのはステラだ。ステラ達は俺達がかなりの深層を探索していることに気がついている。


「当然よ!」


 ステラの言葉にアディが悪役令嬢ポーズで答えた。 


「それでレオ、どこでやるの?」


 アルスが冷静に訊いてきた。


「たくさん魔物が湧く場所といえば一番は7階層の岩蜥蜴だけど…」


 最近の俺達のパーティーの狩場は7階層だ。


「岩蜥蜴だと強すぎるわね。もう少し速く倒せる魔物がいいわ」

「やっぱり、3階層の魔狼かな? 6階層の真神も似たような感じだよね」とサラが言った。


 狼の魔物である魔狼は2階層から出現する。そして3階層では複数で現われる。そして5階層から出現する魔狼の上位種である真神は6階層では複数で出現する。それに5階層ボスをクリアしていれば6階層手前まですぐに移動できる。


「2階層のゴブリンのほうが弱いからたくさん倒せるかもしれないね」とアルス。


 確かに今回競うのは数だ。だが、2階層のゴブリンは遭遇率がそうでもない。


「6階層の真神にしようか。転移魔法陣ですぐに行けるし」


 俺の言葉にアディが「そうね」と言って俺達は6階層の真神を狩ることにした。俺達は1階層の安全地帯にある巨大な転移魔法陣で5階層のボス部屋を抜けたところまで一瞬で転移した。


 6階層まで降りた俺達の前にはアルベルト達の姿が見える。俺達と同じで狙いは真神なんだろう。巨大な迷路のような迷宮の中なので、前を行くアルベルト達の姿はすぐに見えなくなった。アルベルトは入学時にレベル15くらいだったと思う。現在はアルスと同じくらいだろうか?


「確か、以前はこの辺りで頻繁に真神に遭遇したと思ったんだけど…」


 サラが呟く。


「いたわ!」


 アディの示した方向を見ると5体の真神が見えた。


「『雷弾』!」


 『雷弾』は直撃した魔物だけでなく近くの魔物まで硬直させる。


 ん?

 

 『雷弾』が直撃した真神は既に魔石に変わっている。クリティカルが出たのか…。さらに硬直している周りの敵をみんなで次々に討伐していく。


「『炎弾』、『炎槍』!」

「『チャージショット』!」

「『跳躍斬り』、『回転斬り』!」

「『二段斬り』!」


 あっという間に5体の真神が魔石に変わった。サラの『チャージショット』は溜め攻撃で威力が高い。アルスは俺のアドヴァイスで『跳躍斬り』で硬直させてからの『回転斬り』という強力なスキル同士のコンボを練習中だ。『跳躍斬り』の始動モーションが大きいのがネックだが硬直している相手なら問題ない。


 順調だ!


 チュートリアルが発生した時、アルスに倒させる必要があったとはいえ、一体の真神の御遣様にずいぶん時間を掛けたことを考えると俺達も成長した。


 俺達は同じやり方でどんどん真神を倒していく。


「やっぱり、この辺りは魔物との遭遇率が高いわね」


 アディが満足そうに言った。


 そういえば、『迷宮物語』では最短でレベルアップするルートなんてものが研究されていた。魔物との遭遇率が高いのはもちろんだが、魔物には倒しやすい割には経験値が高いやつが存在する。中にはバグのように大量の経験値を持っている魔物もいるらしい。サブキャラを育てるのにストーリーに沿って攻略をしないで、とにかく早さだけを重視して育成するプレイヤーがいた。 


「お前達、ここから先は俺達の狩場だ」


 俺は前方を塞ぐように立っている探索者の声に我に返った。ちょうど今考えていた『迷宮物語』でお得な狩場を独占していた悪質プレイヤーのような発言だ。


「迷宮は誰のものでもないわ。しいて言えば、ここは王家が管理してる迷宮でしょう」


 アディが一歩の引かずに言い返した。


「お前達『グリフォンの鬣』に逆らうのか!」


 サラが俺とアルスに「カイルを拠点する大手探索者クランよ。王家と繋がりがあるとも噂されているの。『グリフォンの鬣』出身の王国騎士も結構いるらしいの」と小声で説明してくれた。


「別の場所に行こう。迷宮は広いんだから」


 アルスが冷静に言った。アディは不満そうだ。


「アディ、こんな奴らに何を言っても無駄だよ」


 俺はわざと大きな声で言った。


「お前ら!」

「そうね。こんな奴らを相手にしても時間の無駄だわ。行きましょう」


 アディも、わざと大きな声で返事をして、俺達は来た道を引き返した。後ろから何か怒鳴るような声が聞こえたが、当然無視した。


 結局、その日一番多くの魔物を討伐したのは俺達のパーティーだった。俺達は2位のアルベルトのパーティーの倍以上の数の魔物を倒していた。


「なんか、またズルでもしたんじゃないのか? 魔石を隠してたとか」


 またとはなんだ。またとは…。


「たまたま、魔物湧きにでも遭遇したのか…」


 相変らずウィルコックスとピエールが絡んできたが、俺は相手にしなかった。俺は硬直効果のある雷系のスキルを複数持っている。予想された結果だ。自慢することでもない。アルベルトは悔しそうな顔をして俺達を睨んでいる。だが、アルベルト達は俺が思った以上の数の真神を倒していた。レベルからしてなかなかの数だと俺は素直に感心した。


 そう、俺は相手にしなかったんだが……。


「私達の実力よ」とサラは言えば、アディが「今日は調子が悪かったから、思ったほど倒せなかったわ」と言って胸を張った。俺とアルスはそれをちょっと呆れたように見ていた。


 クリスティナ王女のパーティーはといえば、7階層と8階層辺りで狩りをしたらしく岩蜥蜴だの、サラマンダーだの、オーガだのレベルの高い魔物を倒していた。エイクリー先生が数の勝負だと言ったのに最初から倒した魔物の質で勝負しようと思っていたみたいだ。


 俺がクリスティナ王女を見ると、なぜか目が合ったクリスティナ王女がニコっと品良く笑い返してくれた。なるほど、プライドを保つ戦略としてはこれはこれでありなのだろう。


 クリスティナ王女…ただの可愛らしい王女ではないようだ。


 まあ、優勝したからといってエイクリー先生から成績が発表されるだけで、特に何か貰えるわけでもない。あくまで授業の一貫だ。それでも貴族達はプライドの塊で負けず嫌いだ。


 一番素直に関心してくれたのは予想通りステラ達だ。


「私はこうなると予想していたよ」とステラが言えば、金髪碧眼のロジャーが「僕達も頑張りましたけど、アデレード達はさすがですね」と言って白い歯を見せて笑った。


 眩しい…。


 デラメアは相変わらずモーズリーの世話を焼きながら「モズの盾もなかなかだったデスよ」と言っていた。ステラ達はゴブリンや魔狼をターゲットしていたらしく数としては5番目だった。この結果、多くの貴族達が俺、アルス、ステラの平民3人より少ない数しか討伐できなかった。特に高位の貴族達はなんとも言えない表情で悔しがっていた。


 俺のレベルが高いのは『迷宮物語』の記憶があるおかげではある。かといって、それだけではない。幼い頃から父さんやシグルド様と訓練を積んできたことが役に立っていることも確かだ。


 まあ、少しは胸を張ってもいいんだろう。それより、いよいよあれが近づいてきた…。

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