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3-9(キングオーガ).

 あれから俺は、アルスとサラに、俺のレベルを告げて5階層のボスに挑戦しようと誘った。二人は驚いていたが思ったほどではなかった。もともと二人は特待生のアディはもちろん俺のレベルがかなり高いのではと疑っていたらしい。まあ、思った以上に高かったらしいが…。


 そして週に1回の休みの日である今日、迷宮に潜った俺たちは既に5階層のボス部屋の前だ。俺は実力をフルに解放してここまでみんなを連れてきた。とはいっても俺達は既に4階層までは到達していた。


「レオニードは凄いね。もう5階層のボス部屋の前に着いたよ」


 アルスがボス部屋の扉を観察しながら言った。


「ほんとだよね。なに、あの『雷剣』だっけ、魔物が麻痺しちゃうやつ。周りの魔物まで麻痺しちゃうし反則だよね」

「いやー、麻痺させる効果は30秒に1回だから」

「いやいや、30秒に1回麻痺させたら十分でしょう」


 だけど対人戦ではその30秒が意外と長いんだよ。


「ちょっとボス戦について説明するね。この扉の向こうにボスがいる。ボス部屋に一旦入ると戦闘が終了するまで出られない」


 よく考えたら、全員死んだら情報を持ち帰れないんだから、最初にクリアした人達は大したものだ。いや、帰還の腕輪を使ったのか…。


「うん。それは知っているよ」とサラが返事をした。

「それから、ボス部屋には4人しか入れない。4人目が入れば扉は閉まる」

「それも知ってるよ」

「うん」


 カイル探索者養成学校の生徒ならみんな知っていることだ。俺は改めて確認しているだけだ。


「これをクリアしたら私もかなりレベルアップできるのかな」

「正直に言うと、俺のレベルが高いからどのくらい上るのかわからない。でも、ボスを倒せばサラのレベルが一番上るのは間違いない」

「そっか。じゃあ頑張らないとだね。私、みんなに遅れないで付いていきたいんだよ」


 サラは本当に真っすぐだ。なんとか力になりたい。アディも隣で頷いている。肝心のアルスは「でも、無理はしちゃだめだよ」と心配そうだ。


「じゃあ、作戦を説明するよ。と言っても大したもんじゃないけど…」


 その後、俺は5階層のボスであるキングオーガの攻略法について説明した。まあ、この世界でも知られていることだ。キングオーガは5階層のボスであると同時に8階層辺りからは普通に出現する魔物だ。まあ、『迷宮物語』ではお馴染みの魔物の一体ってことだ。ただ、ボスとして出てくるキングオーガには特殊攻撃がある。


「えっとあとは、みんなポーションは持っているよね」


 あくまで確認だ。事前に中級ポーションを3つずつみんなに配っている。上級ポーションは貴重すぎて買えない。中級でもかなり高額だった。それでも、俺達の中には回復役がいないのだからポーションを用意するのは当たり前だ。だが、ポーションとて万能ではない。まずポーションにはスキルと同じでCTがある。CTは1分だ。これは結構長い。そしてボス部屋の中では3回しか使えない。これは『迷宮物語』の時と同じ仕様だ。ポーションだよりでボスをクリアすることはできない。


「それじゃあ、行こうか」


 俺達はボス部屋の扉に近づいた。俺達が近づくと扉はゴーっと低い音を立てて真ん中から左右に分かれて動き出した。それほど耳障りな音ではない。扉は巨大な割には意外なほどスムーズに開いた。


 左手に魔剣ソウルイーター、右手にキマイラの盾を持った俺を先頭に全員がボス部屋に入ると扉は自然に閉まる。まさに排水の陣だ。


  部屋の中央には二本の角を生やした人型の魔物キングオーガの姿があった。両側にキングオーガより少し小さいオーガがいる。


「中央のがキングオーガ、両側のが普通のオーガだ」


 キングオーガは巨大な斧を、オーガは棍棒のようなものを持っている。人型だけあって武器を使う。俺は素早くキングオーガに近づく。2体のオーガがそれを邪魔するように立ちふさがるが、俺は剣で次々と2体のオーガを斬る。もうキングオーガは目の前だ。今日も魔剣ソウルイーターの切れ味は抜群だ!


 ドン!


 キングオーガが斧を俺に向かって降り下ろしてきたが、すでに俺はそこにはいない。これだけレベルが違えばこんなものだ。


 バシュッ!


 俺は斧を振り下ろして屈んでいるキングオーガに剣を振り下ろす。


「ぐおっ!」


 キングオーガは俺の剣を避けようとしたが、魔剣ソウルイーターはキングオーガに肩の辺りを捉えた。


 今の一連の動きでキングオーガを含む3体のヘイト(憎しみ、狙われやすさ)は俺に集まった。俺は専門の盾役じゃないので魔物のヘイト集めるスキルとかは持っていない。だけど、レベル27の俺が3体の魔物に一撃ずつ入れたことにより3体のヘイトは俺に集まった。


「みんな! 今だ!」


 俺が3体のヘイトを集めている間に3人が次々と攻撃する。


 アルスは「『風刃』!」と叫んで3つの風の刃を飛ばした。風の刃は次々に3体のオーガに命中した。アルスは既に剣を手に走り出している。


「『強射』!」


 サラが弓の基本スキル『強射』で左側のオーガを狙った。


「ぐぎゃー!」


 サラの放った矢はアルスの風の刃で態勢を崩していた左側のオーガに見事に命中した。


「やった!」


 サラが小さくガッツポーズをしている。だが、オーガはまだ死んでいない。文字通り鬼のような形相でサラに迫る。


「サラ!」と叫んだアルスがサラの前に飛び出した。


 ガキン!


 オーガの棍棒とアルスの剣が交錯して火花を散らす。


「あ、アルスありがとう」

「サラ、油断は禁物だ」

「うん」


 アルスはサラを背にしてオーガと鍔迫り合いをしている。フッとアルスが力を抜いた。オーガが前のめりになった。


「『回転斬り』!」


 前のめりになって隙ができたオーガにアルスが『回転斬り』を使った。


 上手い! 


 『回転斬り』は威力の高いスキルだが発動モーションが大きい。アルスは上手くオーガの隙をついて発動した。『回転斬り』は剣士で唯一の範囲攻撃だが単体に使っても3回ヒットする。それに一旦発動さえすれば硬直や中断などの効果を受け付けない。これは『迷宮物語』ではスーパーアーマーと呼ばれていた効果だ。ただ、無敵ではないので相手が攻撃すればダメージは受ける。実際にアルスは暴れているオーガーからダメージを受けている。


 『回転斬り』を打ち終わったアルスは、オーガの前でしゃがむと「サラ!」と声を掛けた。


「任せて、アルス! 『チャージショット』!」


 アルスの呼びかけに呼応したサラが弓士の主要スキルで威力の高い溜め攻撃である『チャージショット』を放った。アルスが攻撃している間にチャージしていた(溜めていた)のだ。さすがにこの距離ならサラも外さない!


「ぐわぉぉーーー!!!」


 オーガが悲鳴を上げる。


「『跳躍斬り』!」


 アルスがジャンプしてオーガの頭上から斬りつけた。『跳躍斬り』だ! オーガはアルスの剣を棍棒で防ぐ。


 ガン!


 アルスの剣とオーガの棍棒がぶつかる。オーガは『跳躍斬り』の効果で硬直した。


「『スラッシュ』!」

「『強射』!」


 硬直したオーガをアルスとサラが次々とスキルで攻撃するとオーガは魔石に変わった。 


 一方のアディは、アルスとサラが左側のオーガーと戦っている間、右側のオーガに狙いを定めて魔法スキルで攻撃していた。


「『炎槍』!」

「『炎弾』!」


 アディの攻撃を受けた右側のオーガは大声で喚きながらアディを攻撃しようとするが俺がそれを許さない。俺が魔剣ソウルイーターで一撃入れるとすぐにタゲ(目標となること)は俺に戻る。俺のレベルが高く攻撃威力が高いからだ。俺は右側のオーガだけでなくボスであるキングオーガからも目を離さない。


 俺は盾でキングオーガの攻撃を防ぎながらアルスに声を掛けた。


「アルス、今のうちにポーションを使うんだ! さっきダメージを受けただろう」

「わかった」


 とにかく慎重にやらなくては…。ここでは1回の失敗も許されない。 


 中級ポーションのおかげで体力を回復したアルスは次の目標をキングオーガに定めたようだ。アルスは俺がタゲを取っているキングオーガの背後から斬り掛かった。同時にサラの矢がキングオーガに向かって飛んできた。サラの矢は躱されたが、その隙を見逃さずアルスがキングオーガに一撃を入れた。


「ぐおー!」


 キングオーガが叫ぶ。


「『ダッシュ』!」


 俺は、アルスとサラにキングオーガを任せてアディが攻撃していたオーガに盾を持ったままダッシュで突撃した。


 グボッ!!


 鈍い音を立てて右側のオーガーは大きく吹き飛ばされた。


「『炎槍』!」


 飛ばされて尻もちをついてるオーガの胸を巨大な炎の槍が貫いた。既にアディの魔法スキルでHPをかなり減らしていた右側オーガは魔石に変わった。


「アディ、ナイス!」


 俺とアディの連携は完璧だ! これで残りはキングオーガだけだ。俺はすぐに向き直ってキングオーガの方へ戻るとアルスと交代してキングオーガの前に立ちはだかった。レベル27の俺が盾役をちゃんと務めている限りみんなは安全だ。


「『強射』!」


 サラが放った弓の基本攻撃スキル『強射』が見事にキングオーガーの脇腹辺りを捉えた。


「があああぁぁぁー!!!」


 キングオーガはこれまでより長く咆哮した。


 キングオーガは突然、その巨体からは信じられないような素早い動きでサラの方に向かってきた。


 ランダム攻撃だ。


 迷宮のボスにはたいていこれがある。いくら盾役や前衛がヘイトを集めてタゲを取っていてもランダムに他の者に攻撃してくる攻撃だ。だが、俺はこの攻撃を知っていた。さっきの咆哮が前兆だ。俺は既に狙われたサラの前に陣取っている。俺のステータスなら5階層のボス程度に追いつくのは簡単だ。

 それでもランダム攻撃が危険であることに変わりない。これがあるために一瞬たりとも気が抜けない。俺は、ランダム攻撃を常に警戒していた。だからキングオーガの咆哮を聞いた瞬間行動に移せたのだ。


「『雷弾』!」

「ぐぎゃ!」


 絶対に外さない距離で放たれた『雷弾』はキングオーガにダメージを与えると同時にその動きを止めた。『雷弾』の付随効果だ。10階層のジャイアントバジリスクにも有効だったし、レベル差から考えてレジスト(抵抗)されることはないと思っていた。ただ、大体のボスは状態異常耐性が高く設定されているので油断はできない。


「『炎槍』!」

「『スラッシュ』!」


 アディがキングオーガに魔法スキルを放つのと背後からアルスが『スラッシュ』で斬り掛かったのはほぼ同時だった。


「がはっ!」

「ぐふっ!」


 二人の攻撃にキングオーガが呻き声を上げる。


「『二段斬り』、『ダッシュ』、『スラッシュ』!」


 背後に注意を奪われたキングオーガの隙を見逃さず、今度は俺が攻撃を仕掛けた。『二段斬り』の打ち終わりの隙を『ダッシュ』でキャンセルして『スラッシュ』につなぐ得意のコンボ攻撃だ。コンボは繋がると威力が増す。


「ぐおおおぉぉぉぉーーー!!」


 キングオーガーが咆哮する。今度はランダム攻撃の前兆とは違う。苦しんでいるのだ!


「『強射』!」

「『炎弾』!」

「『跳躍斬り』!」


 みんなが次々に追撃する。反撃しようとしたキングオーガの攻撃はアルスの『跳躍斬り』の硬直効果で中断された。


 アルス、ナイスだ!


「『チャージショット』!」


 そして最後に一本の矢がキングオーガの胸を捉えた! 


「がはぁぁー!!!」


 クリティカルが出たっぽい…。


 クリティカルの出やすさ、そしてクリティカル威力の高さ、これこそが弓の真骨頂だ。キングオーガは仰向けに倒れると魔石に変わった。


「わ、私が…キングオーガに止めを刺した…」

「サラ、やったわね!」


 アディの言葉にサラが頷く。


 ボス戦の経験値は均等に配分されるからサラが止めを刺す必要はない。でもサラはやってくれた。これはサラの自信にも繋がるだろう。


 俺はレベル27だしアディとアルスは10を超えている。問題ないとは思っていたが予想以上に上手くいった。実際『集中』や『雷剣』を使うまでもなかった。ポーションもアルスが一回使っただけだ。 


「狂乱状態もあっという間に乗り越えたわね」


 そういえば、そうだった…。


 ボスはHP20%を切ると攻撃力と素早さが大幅に上がる。これを狂乱状態と呼んでいる。一方で狂乱状態になると防御力が下がって攻撃が通りやすくなる。たぶん、サラにランダム攻撃をしてきた辺りで狂乱状態になっていたのだ。タゲを維持するためレベル27の俺が攻撃し続けていたからだろう。


 俺はふーっと溜息を吐いた。俺も思った以上に緊張していたようだ。この世界はゲームではなく失敗すれば死ぬかもしれないのだから当たり前だ。


 とりあえず、よかった…。

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