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3-8(サラの悩み).

 俺がカイル探索者養成学園に入学して既に半年以上が経過した。俺の探索者養成学園生活はまずます順調だ。ときどき特待生とか高位貴族の奴らに皮肉を言われる程度だ。探索者養成学園に限らずこの世界には貴族がいてはっきりと階級差があるんだからよくあることだ。


 俺は食堂でいつものパーティーとステラたちのパーティーとの8人で大きなテーブルを囲んでいた。最近はいつもこんな感じだ。この時期になると、だいたい昼食を取るメンバーとかその席まで固定されてくる。高位貴族の連中にはあまり近づかないのが吉だ。もちろん隣に座っているアディは別だ。


「アデレード達はもう4階層に行ってるんですよね?」


 最初はステラが主人公かと思った時期もあったが、あのチュートリアルが起こったのでアルスが主人公で間違いない。ステラはアディに言われてアディに様を付けないで話している。


 ステラの質問にアディは「レオの盾が安定しているから安全に討伐できてるわ」と答えた。


 相変らず俺は盾役を引き受けている。だけど、疑問を持たれることもない。この世界では剣士が盾を持ってはいけないと言う決まりはないからだ。それに前世風にいえばレベル、職、スキルというのは重要な個人情報だ。人に詳しく話すことではない。


「うぐむー、それでも4階層は凄いよ」

「モズ、食べるのか話すのかどっちかにするデスよ」


 魔法使いのデラメアに注意されたモーズリーは、ふがふがと返事をしている。


「でも、私は今一なんだよねー。相変らず弓はあんまり当たらないし。3人のおかげで4階層まで行ってるだけなんじゃないかってね」

「いや、サラの矢は威力が高いよ」とアルスが言う。


 実際、サラの矢はクリティカル発生率高い。


「うーん、でも当たらなくちゃね」

「でも、よく最近は朝練とかもしてるよね」とステラが言う。

「うん。レオにレベルを上げるのも大事だけど基礎練習をおろそかにしちゃだめだって言われてね」


 最近ではアルスやサラも俺のことをレオと呼んでいる。アディのことはアデレードのままだ。これはアディが4大貴族の娘だからではない。いや、ちょっとはそれもあるかもしれない。だけど、それよりも…なんというか、俺だけがアディと呼ぶ。そのことを尊重しているようなのだ…。

 

「なるほどデスよ。入学以来、レオニードの朝練は有名デスからね」


 この世界にも『迷宮物語』のときのPSプレイヤースキルに相当するものがある。だが、それはゲームである『迷宮物語』でのPSと同じものではない。日頃の訓練で身に着けるものだ。それが俺の考えだ。だからパーティーのみんなにも日頃の訓練の大事さを力説している。


「でも、やっぱり私って4階層ではあんまり役に立ってない気がするよ」

「そんなことないよ。サラが弓で牽制してくれるから僕も戦いやすいよ」

「もう、アルスったら」


 サラの顔が赤い。これは主人公補正なのか…。


「お前ら、4階層くらいでそんなこと言ってるのか」


 この声はアルベルトの金魚のフンのうちヒョロっとしたほうのウィルコックスだ。俺はその時、粘りつくような視線を感じて顔を上げた。


「俺たちは、そろそろ5階層のボスに挑戦しようかと思っているんだ。ねえ、アルベルトさん」


 気のせいだったのか…。


 アルベルトはウィルコックスの言葉に頷いて「まあ、もう少ししたらな」と言った。一見落ち着いているように見えるアルベルトだが実は焦っているのを俺は知っている。最近、クリスティナ王女たちのパーティーが5階層のボスを攻略したからだ。そもそもクリスティナ王女やアルベルトは入学前に自分の騎士達と一緒に5階層のボスを討伐した経験があるはずだ。ただ、パワーレベリングではなく自分達だけでとなるとまた別だ。


 『迷宮物語』の運営の設定した5階層のボスの攻略適正レベルは10前後だ。もちろんパーティーでだ。特待生のパーティーなら最初からクリアしたっておかしくない。ただ、リアルであるこの世界では安全マージンをみてレベル15近くになってから挑戦するのが普通だ。アルベルトは入学時からレベル15前後だったはずだから問題ないが、他のメンバーがどのくらい成長しているかによる。そろそろ挑戦してもいい時期ではある。


 いや、待てよ…。挑戦? この世界では失敗は死に繋がる…。ゲームではない。まして学園にいるのはほとんどが貴族の子弟だ…。


「レオ、どうかしたの?」

「いや、何でもないよ…」

「それより、レオ」と食事を終えて教室に戻る途中でアディが小声で話し掛けてきた。

「ねえ、最近サラが元気がないのにレオも気がついているよね」

「うん」


 アルスは順調に成長している。既に4階層程度ではアルスのレベルからすると決して成長しやすいとは言えない。『女神の加護』のおかげでアルスのレベルは既に13で特待生のアディに追いついている。ただ、これでも『迷宮物語』の時に比べると遅い。それはともかく、サラはこのままだとアルスとのレベル差が広がってついていけなくなるのではと心配している。


 これは仕方のないことだ。


 だって、アルスは主人公だ。ゲームではプレイヤーの分身であり誰よりも強くなる存在なのだ。だけど、サラはアルスにずっとついて行きたいのだ。モブである俺にはその気持ちが痛いほどわかる。俺はモブだが前世の知識と運でここまでこれただけだ。


「レオ、なんとかならないの?」

「うん」


 アルスとサラの二人は信用できる。今後のこの世界のことを考えても信用できる強い仲間を確保しておくのもいいだろう。


「4人で5階層のボスを討伐するか」

「え? 大丈夫なの?」


 この世界の常識ではレベル15くらいが5階層ボス攻略の目安だ。


「アディ、俺のレベルは27なんだ」


 俺はアディに自分のレベルを告げた。アディは目を見開いて俺を見た。


「やっぱり…。でも思った以上に高い…」


 俺は周りを見回すと「もっと人目の無いところで俺のステータスを見せるよ」と言った。そろそろアディには話そうと思っていた。


 授業が終わった後、人目のない中庭の片隅で俺は約束通りアディに俺のステータスを見せた。




【レオニード・メナシス 15才】


 <レベル>    27

 <職業>     魔剣士4

 <スキル>    スラッシュ、二段切り、ダッシュ、回避、集中、雷剣、死線

 <魔法スキル>  雷弾、天雷

 <称号>     雷神の守護者

 <武器>     魔剣ソウルイーター(伝説級、特殊効果:HP吸収、補助効果:攻撃速度+5%、攻撃速度+3%)          

 <装備アイテム> 力の指輪(一般級)、知恵の指輪(一般級)




「迷宮ではこれに加えて一般級の盾を装備しているんだ」


 アディは目を丸くして食い入るように俺のステータスを見ている。驚きのあまりしばらく黙っていたアディだがやがて口を開いた。


「……なんか凄いわね。魔剣士だなんて初めて聞いたわ。新しい職なんて国家機密でしょう。それに、どうして国宝級の武器を持っているの? なんか凄そうな武器だとは思ってたけど…。それにどうやってここまでレベルを上げたの?」


 アディはたて続けに質問してきた。無理もない。


「うーん、その辺は全部秘密ってことで。とにかく俺なら一人でも5階層のボスくらいは倒せる。だから危険はない」


 さすがにここが前世のゲームの世界だとは言いずらい。それに現在ゴレイア迷宮は土砂に埋もれて入れない。いずれしかるべき時に発見されるんだと思う。


 アディが俺に顔を寄せてくる。アディの息が感じられるほどだ。アディ近いよ…。


「分かったわ、レオ。でも、こんなことがバレたら国に捕まるかも…」

「……」

「でも、秘密にしといてあげるわ。その代わりこれからもずっと私がレオを見張ってないとね」


 アディは俺の耳元で囁くようにそう言うとニッと笑った。ちょっと怖い…。


 アディは、少し顔を離すと「冗談よ」と言って「私にキマイラの杖をくれた時から変だとは思ってたのよ。まあ、私はレオが悪い人じゃないって知っているからそれで十分だわ」と続けると両手を胸の前で組んで頷いた。


 俺の目の前で腕を組んで仁王立ちしているアディは、やっぱり悪役令嬢みたいだ。でも、とても可愛らしい悪役令嬢だ。でも、さっきはちょっとぞくっとした…。


「いや、あの杖は交換しただけだよ。でもアディ、ありがとう」


 いずれ時がきたらアディにはすべて話そう。


「というわけで、サラのためにも5階層のボスに挑んでみようと思う」


 ボスの経験値は一般魔物や御遣様と違ってパーティー全体に均等に入る。だからレベルの低い者ほどレベルアップしやすい。ただし、俺がいることで全体的に経験値が少なくなるかもしれない。この辺りの正確な仕様は不明だ。


「確かに、レベル27の人がいれば安全ね」

「それで二人にはどう説明するの?」

「とりあえず、俺のレベルだけ伝える」

「うん、それがいいと思う。二人は信用できるよ」


 その通りだ。二人は信用できる。いずれは、レベル以外も伝えていいだろう。

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