3-7(チュートリアル2).
俺は素早く前に出ると真神の攻撃を魔剣ソウルイーターで受けた。
「がふっ!」
速い!
俺が倒してしまうのなら簡単だけど…。どうすれば…。
「『炎弾』!」
アディが魔法使う。
「『強射』!」
「『風刃』!」
サラとアルスも続いた。アディの『炎弾』は真神に掠り、サラの『強射』は外れた。真神はとても速い。ジグザクに移動している。それでも、アルスの放った3発の風の刃のうち2つは外れたが1つが見事に真神を捉えた。
「がおぉー!!」
真神が咆哮する。
俺はアイテムボックスからキマイラの盾(一般級)を取り出した。俺の職は魔剣士であって重剣士などの盾系の職ではない。だが、この世界では盾を使うこと自体はできる。もちろん『ガード』や『挑発』などの盾系のスキルを覚えることはできない。だがゲームのように盾を装備することすらできないということはないのだ。この世界は『迷宮物語』の世界と全く同じではない。盾を装備するとステータスの俊敏にマイナス補正がかかるのだが、俺は『雷神の守護者』の称号を持っている。『雷神の守護者』の効果でマイナス補正はほぼ相殺されるはずだから通常の魔剣士くらいの速度で動ける。今更ながら『雷神の守護者』はチート級の称号だ。
「俺が盾役を引き受けるから、みんなで攻撃して」
できればアルスに倒させたい。そのためには俺が盾役をするのがいいと気がついた。レベル27の俺が盾役を引き受けたためパーティーは安定した。俺が真神の注意を引き付けている間に他の3人が攻撃する。
「『チャージショット』!」
「ぎゃん!」
今度はサラの矢も命中した。『チャージショット』は弓士の主要スキルで溜めが必要だが威力が高い。
「『炎槍』!」
「グフッ!」
アディもサラに続く。『炎弾』より威力の高い『炎槍』だ。
「『風刃』!」
「ぐうぅぅーー!!」
アルスも距離を取って『風刃』で攻撃する。
俺も盾で防御しながらバシバシと真神を剣で攻撃する。俺が真神の目標になること、いわゆるゲームで言うところのタゲが俺から剥がれないようにするためだ。
途中で俺はアディに「できればアルスに止めを刺させたい」と囁いた。アディは黙って頷いた。その後も俺はタゲが剝がれないことだけに気をつけて盾役に徹した。
「『炎槍』!」
「『風刃』!」
「『チャージショット』!」
3人が遠距離から攻撃する。
ジリジリと真神のHPは削られる。
そして、ついにその時が来た…。
「アルス!」
俺の呼びかけに応えたアルスが後方から真神に近づいた。
「スラッシュ!」
「ぐわあぉぉーーー!!!」
真神の特殊個体はアルスの剣に止めを刺されて魔石に変わった。
「やったね! アルス!」
サラがぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。誰だって御遣様を倒してスキルを手に入れたいだろうに、サラは本当にいい子だ。俺はアルスに先駆けてサラが止めを刺さないように微妙に邪魔をしていたのに…。弓はクリティカルの発生率が高いのでちょっと心配した。
逆にアルスのほうは「僕が倒しちゃってごめんね」と謝っている。
「あっ!」
アルスはどうやらレベルアップをしているようだ。俺たち3人はアルスを見守っていた。しばらくして顔を上げたアルスは「レベルが9になった…」と言った。
「ええ! レベル9ですって! もうちょっとで特待生に追いつくじゃない」
サラが驚いている。
アルスが御遣様に止めを刺したからだ。ボスと違って御遣様や一般魔物は決まった量の経験値を討伐の貢献度に応じて配分してくれる。止めを刺したアルスにもっとも多くの経験値が配分されたはずだ。それにしてもいきなり9とは…。やっぱり主人公であるアルスの成長力は高い。
「サラは上がってないのか?」
「え?」
しばらくして「あ! 私も一つ上がってる…」と呟くように言った。
二人は俺とアディにステータスを見せてくれた。ステータスは本人が許可すれば空中にホログラムのように浮かび上って他人にも見せることができる。
【アルス 15才】
<レベル> 9
<職業> 剣士5
<スキル> スラッシュ、回避、回転斬り
<魔法スキル> 風刃(C+1)
<称号> 光の守護者
【サラ・フィッシャー 15才】
<レベル> 6
<職業> 弓士3
<スキル> 強射、チャージショット
<武器> コカトリスの弓(一般級、補助効果:HP持続回復0.5%)
アルスは御遣様を倒したことによってスキルではなく『光の守護者』という称号を取得している。間違いない。アルスが主人公だ。この称号の効果によりステータス全体が底上げされ、レベルが上がりやすくなる。主人公は同じレベルでも他の者よりも強いし成長力も高い。まあ、だいたいのゲームでそうだろう。アルスの剣が表示されていないのは迷宮のドロップ品じゃないからだ。
「ねえ、『光の守護者』ってなんなの? 御遣様からスキルじゃなくて、この称号とかいうのを貰ったの?」
「えっと、どうやら全体的に強くなる感じみたい」
「そうなの! アルス、凄いじゃない!」
「う、うん。ありがとう」
ほんとにサラはアルスが大好きなようだ。自分のことのように喜んでいる。
「アルス、その称号は秘密にしたほうがいい。迂闊に人に見せないほうがいいと思う」
「レオの言う通りだわ」
「わかった」
「私達だけの秘密ね」
鑑定魔法や鑑定の魔道具でもレベルが分かる程度で人が持っているスキルまでは見抜けない。ましてや称号なんてわからないだろう。ゲームではそもそも鑑定魔法とかはなかった。ゲーム内では検索したりクリックしたりすれば誰のステータスだって見ることができた。鑑定魔法なんて必要ない。よくゲームに転移したラノベとかアニメで当たり前のように鑑定魔法が登場する。でも、ゲームでは意外と当たり前の魔法じゃない気がするのは俺だけだろうか?
とにかく俺たち4人は相談の上、アルスの得た『光の守護者』については秘密にすることにした。アルスはこの称号のおかげでこの後もどんどんレベルを上げていくことになるだろう。
それにしても、この世界はやっぱり『迷宮物語』と全く同じではない。さっきの真神の特殊個体との戦闘…。ゲームなら、あれはチュートリアルで指示に従って戦闘するだけで倒せるはずの魔物だ。だけど、少なくともアルスとサラにとってそんなに簡単な魔物ではなかった。もし、俺がいなかったら…。
「レオ、どうかしたの?」
考え込んでいる俺を見てアディが心配そうに尋ねてきた。
「いや、なんでもないよ」
とにかくアディはもちろん、アルスたちの今後についても注意する必要がある。俺たちは1階層に真神の御遣様らしき魔物が出たと報告した。2体目が出るとは思えないが念のためだ。倒したとは言わなかった。御遣様を倒したと言えば、どんなスキルを得たのか聞かれるのは間違いない。
「真神の御遣様? お前らよく逃げられたな」と言ったのはエイクリー先生だ。なぜか俺のほうをじっと見ている。
「ふん、1階層に真神が出るわけないだろう。しかも御遣様だって。他の魔物と見間違えたんだろう」と馬鹿にしたように言ったのは、ちょうど俺たちと同じように迷宮探索を終えて出てきたアルベルトのパーティーの金魚のフンの一人でヒョロっとしたウィルコックスだ。こないだも絡んできた奴だ。
「嘘じゃないよ」
サラがウィルコックスを睨みつける。
「なんだよ」
サラとウィルコックスが睨み合ったが、今にもアディが口を出しそうなタイミングでアルベルトが「やめとけ」と言うと、アルベルトのパーティーはその場を去った。
「1階層に真神の御遣様がいるとすれば大変なことだ。俺のほうから探索者ギルドにも報告しておこう」
「エイクリー先生、こいつらの言うことを信じるんですか」
「逆に聞くが、アントニー、お前は生徒の言うことを信じないのか?」
「い、いえ、そういうわけでは…」
アントニーとかいう先生は、エイクリー先生ではなく、なぜか俺たちの方を睨んで立ち去った。
「なんか感じ悪いよね」と俺に話しかけてきたのは、俺と同じ平民の生徒の一人でステラだ。ステラは平民だが貴重な回復役である僧侶の職についている。
ステラの言葉にステラのパーティーメンバーも頷いている。剣士のロジャー、魔法使いのデラメア、重戦士のモーズリーだ。ステラ以外は、それほど高位ではないが、いずれも貴族の子弟だ。3人ともステラが平民だからと差別するような様子もなく感じがいい。この場に俺、アルス、ステラの平民3人が全員揃ったことになる。
ステラは平民なのに清楚で可愛らしい感じでいかにも回復役らしい。ロジャーはアニメの主人公のような金髪碧眼の剣士だ。デラメアは三角帽子に自分の背よりも長い杖を持ったいかにも魔法使いと言った小柄な少女だ。モーズリーは名前の語感通りのむっくりとした丸くて愛嬌のある顔をした大柄な少年で大きな斧と盾を持っている。
「それにしても、1階層に真神なんて怖いよね」とステラが言った。
「でも、御遣様なんだろ」と言ったのはロジャーだ。
「御遣様なら倒せば凄いスキルが貰えたかもしれないのに、残念だったデスね」
「え、そうだね」
デラメアの言葉にアルスが頭を掻いて誤魔化している。
「真神は動きが凄く速い魔物だって聞いたことがあるよ。逃げられただけでも凄いよ」と言ったのは重戦士のモーズリーだ。
「う、うん。レオニードが盾役を引き受けてくれたから…」
「レオニードって重剣士だったんだ」
俺はモーズリーの言葉に「いや、剣士なんだけどたまたま盾を持っていて…。パーティーに盾役がいなかったから」と答えた。おいおい、アルス、俺に振るなよ…。
こうして俺たちの初めての迷宮探索は終了した。この後しばらく1階層を探索する者が増えた。俺たちが報告した真神の御遣様を倒してスキルを得ようとしているのだ。ちょっと申し訳なかった。ただ、その中にアルベルトのパーティーも含まれていたと聞いたときにはちょっと笑ってしまった。




