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3-6(チュートリアル1).

 今日はカイル探索者養成学園に入学して始めての迷宮での実践訓練だ。


「お前ら4人パーティーはできてるな」


 迷宮はゲームの時と同じで4人パーティーで攻略するのが基本だ。4人以上の人数で攻略しようとする経験値が入らない。『迷宮物語』ではそもそも4人までしかパーティーに加えることができない仕様だった。


 俺はアディ、アルス、サラとパーティーを組んでいる。一緒にゴブリンを討伐してから何かと二人とは仲良くしている。アディは『迷宮物語』でも主人公の友達キャラだったから、これがゲームの強制力ってやつなのだろうか。アディが死んでしまうイベントはもう少し先のはずだが油断はできない。それと俺達4人の中に回復役も盾役もいないのが気になる。


 まあ、俺や特待生のアディがいれば当面は問題ないと思うが…。ポーションだってある。『迷宮物語』ではどうだっただろうか? 節目節目のイベントではプレイヤー同士で協力したり、プレイヤー自身が仲間にするNPCを選ぶこともできた。だがプレイヤーが操作することのできない強制的なイベントではメンバーが決まっている。アディが死んでしまうイベントもそうでありアディを参加させないとかはできなかったはずだ。今がどういう状態のなのかさっぱりわからない。


 俺達はカイル探索者養成学園に隣接しているエリアにある探索者ギルドで迷宮に入る登録をするとザルバ大迷宮の入口に向かった。カイル探索者養成学園の生徒は探索者としてザルバ大迷宮に入ることが許可されている。基本的にザルバ大迷宮に入れるのはファミール王国から許可を得た探索者と騎士だけだ。ザルバ大迷宮の入口はまるで神殿の入り口のようだ。壁にレリーフが施された広い通路をしばらく下ると大きな空間に出る。そこは安全地帯であり町のようになっていた。


「凄いねー」とアディが辺りを見回す。

「ほんと、凄く広いよね」とサラも同意する。


 俺には『迷宮物語』で見慣れた光景だ。


「ここは広いけど、ここからは幾つかの通路が迷宮の奥に繋がっていて迷路のようになっているのよ」


 俺達を引率しているの先生の一人であるジャネット・ヴェラー先生が説明してくれた。ジャネット先生は上級魔法使いらしい。


「先生、僕たちは1階層で訓練するんですよね」とアルスが確認した。

「ええ、本当は君たちなら2階層くらいでもいいんだけど、アルスくんとレオニードくんは迷宮が始めでしょう。まずは慣れることから始めましょう」

「わかりました」


 カイル探索者養成学園の生徒は新入生であってもレベル5以上だ。したがってレベル上げの適正階層は2階層より上である。だか、生徒の中には迷宮が初めての者もいる。逆に言えば迷宮でのレベル上げをせずにカイル探索者養成学園に入学できた者は間違いなく才能がある。


 その後、ジャネット先生の指示で俺達は1階層探索を開始した。責任者のジャネット先生以外にも二人の先生が補助として同行している。レベルの高いパーティーは先を目指すようだ。


「アルス、そっちに行ったよ!」


 サラの声に「任せて!」と答えたアルスが、サラが矢を外したスライムを剣で斬り捨てた。アルスの剣は見事に核を捉えてスライムは魔石に変わった。同時に出現したもう一匹のスライムはすでにアディが魔法スキルで倒している。


「さっきからスライムばっかりで歯ごたえがないよね」

「サラ、1階層だからこんなもんだよ」


 ゴレイア迷宮でもこんな感じだった。


「レオニードは迷宮は初めてじゃないの?」

「え、いや、もちろん初めてだよ」


 迷宮に入れるのは騎士か探索者でなければ、迷宮を所有する貴族や王国からの許可を得た者だけだ。15才になったばかりの平民である俺が迷宮に入ったことがあるのはおかしい。


「レオニードは僕と同じ平民だもんね」

「それにしては落ち着いてるよね」とサラ。

「いや、アルスもかなり落ち着いてるよ」

「そうかな」


 首を傾げたアルスは、なかなか可愛らしいというか女の子にモテそうだ。さすが主人公だ。


 そのとき、後ろから来たパーティーが俺たちを抜いていった。特待生のアルベルトを中心とするパーティーだ。


「お前らいきなり死んだりしないようにな。カイル探索者養成学園の恥になるからな」


 そう揶揄してきたのはアルベルトの金魚のフンの一人で背が高くヒョロっとしたほうのウィルコックスだ。またこいつか…。もう一人の手下で特徴のない中肉中背のほうは、確かピエールだったと思う。 


「貴方誰にものを言っているの?」


 アディが令嬢モードで睨みつけた。


「い、いえ、アデレード様に言ったわけじゃあ…」


 アルベルトはチラっとアディを見たが何も言わなかった。今のファミール王国で権力を持っているのは王家と4大貴族だが、さらに大きく分けるとアルメッサー辺境伯家は王家に近く、4大貴族の内残りの3家は貴族の権力を高めようとする派だ。その中心がシュタイン侯爵家である。 


 結局、つまらなそうな顔をしたアルベルトと金魚のフンの二人、それにもう一人の女生徒を加えたパーティーは俺たちを追い抜いて行った。あれは…伯爵令嬢のシルヴィア・ギルリームだ。盾役はピエールらしいが回復役がいない。


 まあ、俺達には盾役も回復役もいないんだが…。この辺りなら問題ないってことだろう。


「もっと下の階層で訓練するんだろうね」とアルスがアルベルト達の後ろ姿を見ながら言った。

「いつも感じ悪いよね」とサラが怒っている。

「サラ、落ち着いて」

「もう、アルスは腹が立たないの?」

「僕は平民だからね。貴族の横暴には慣れてるよ。あ、ごめん。アデレードやサラは別だよ」

「まあ、私の家は辺境の子爵家だけどね。でも、アディは4大貴族の娘なのにそうは感じさせないよね。あ、でもさっきのは4大貴族の令嬢っぽかったよね」

「それって誉め言葉?」

「うん、うん、最大限の褒め言葉」


 サラが大きく頷いて肯定した。


 サラのフィッシャー家は王国の西の辺境にある。一応アマデオ侯爵派である。サラが言うには大した影響力はない家だそうだ。それでもサラはその才能を見込まれてアマデオ侯爵家が持つ迷宮でレベルを上げることを許可された。そして見事カイル探索者養成学園入学を果たしたのだ。


「気を取り直して、討伐を続けよう」


 俺の一言に全員頷くと探索を再開した。


 その後はスライムのほかにゴブリンが出た。と言っても、最高で2体なのでなんの問題もなかった。こないだの地上での依頼では最高一度に5体出現した。まあ、ここは一階層だからこんなもんだ。先生も今日はあくまで慣れることが目的だと言っていた。


 俺達は危なげなくスライムやゴブリンを倒し続けた。誰もレベルは上がらない。


「レオ、そろそろ引き返す時間だわ」

「ほんとだ」

「やっぱり一階層じゃあレベルも上がらないし物足りないよね」

「でも、僕は迷宮は初めてだったし楽しかったよ。やっぱり迷宮の魔物って魔石に変わるんだって感動したよ」


 アルス、わかるぞ。俺も初めて迷宮の魔物が魔石に変わったのを見た時には感動した。


 ん!?


 その時、俺はこれまでとは違う魔物の気配を感じた。


「みんな、魔物だ!」


 俺の口調に何かを感じたのかみんなの間に緊張が走る。


 しばらくしてそいつは現れた。


「なんで一階層にこんなのが…」


 サラの弓を持つ手が白くなっている。無理もない俺達の前に現れたのは真神と呼ばれる狼の魔物だ。魔狼の上位種といったところだ。主に5階層くらいから出現する。5階層といえば『迷宮物語』ではレベル10前後で挑戦する階層だ。この世界ならもっと上のレベルで行くのが常識だ。しかもこれはどう見ても特殊個体だ。普通の真神よりかなり大きい上に黒っぽい色をしている。


「これは真神だよ」

「真神?」


 俺の言葉にアルスが訊き返す。


「アルス、真神は5階層くらいから出現する魔物だ。しかも、これはどうやら御遣様のようだ」

「5階層…」

「レオニード、わかるの?」

「う、うん。たぶんだけど…」


 俺はサラの問に言葉を濁す。


「レオニードの言うことが本当ならこれってまずいんじゃないの?」


 サラが心配するのは当然だ。サラやアルスのレベルは5か6だろう。『迷宮物語』なら3階層、この世界なら2階層くらいが適正だ。それが5階層から上に現れる真神のしかも特殊個体が目の前にいるのだ。特殊個体だとすると5階層のボスに近い強さを持っている相手だ。


 それでも、レベル10を超えているアディとレベル27の俺がいれば何とかなるだろう…。それよりも俺は重要なことを思い出した。これはチュートリアルだ。


 主人公は初めての迷宮探索で手強い相手に遭遇する。相手は強いがゲームだとチュートリアルに従って攻撃すると倒せる。このことにより主人公のレベルはいきなり上がり同級生の注目を浴びることになる。まあ、主人公らしい立場を獲得するわけだ。それよりもっと重要なことがある。主人公はこの特殊個体(御遣様)から重要なモノを獲得するのだ。それは主人公を主人公たらしめるモノだ。

 

 だとしたらこの御遣様はアルスが止めを刺さなくてはならない。俺はよくあるラノベの主人公のように本来の主人公が得るべきスキルやお宝を強奪する気はない。アルスはいいやつなんだから当然だ。


 御遣様は一般魔物と同じで討伐の貢献度に応じて一定の経験値が配分される。だからレベル27の俺がいたとしてもアルスが止めを刺せば必要な経験値は配分される。もちろん例のモノも止めを刺したものが得ることになるだろう。


 これがボスだったらそうはいかない。


 ボス討伐の経験値はパーティーメンバーに均等に配分される。その代わり、メンバーにレベルが高すぎる者がいたりメンバーの平均レベルが適正よりあまりに高かったりすると経験値は少なくなりボスドロップ品もあまりよいものが落ちなくなると言われていた。逆に難易度が高ければ経験値を多く獲得でき、ボスドロップ品も良いものになると言われていたのだ。あくまで『迷宮物語』の中でそう言われていたというだけで正確な計算方法は不明だ。だが、俺はゴレイア迷宮で実際に魔剣ソウルイーターを獲得した。 


 だが、気になるのは、アルスがいくら優秀だといってもレベル5程度で目の前の真神の特殊個体を倒せるものだろうか…? ゲームならチュートリアルに従って攻撃していれば倒せるのだが…。現実にはどうだろう? 

 もしかして、だからこそ俺やアディがアルスの友達になったのだろうか? いや、俺はゲームとか関係なくアルスやサラが気に入ったから友達になったのだ。


 そんなことを考えていると、突然真神が飛び掛かってきた。

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