3-5(ゴブリン討伐).
「あれじゃないの?」
サラの指さした方を見ると確かにゴブリンらしき人型の魔物が3体いるのが見えた。
あれから4人で南西の森のゴブリン討伐の依頼を受けてここに来ている。カイル探索者養成学園の生徒は自動的に探索者の資格得ているので依頼を受けるのに問題はなかった。ただ、午後から依頼を受けたのであまり時間がない。それにしても王都からこんなに近いところにゴブリンが出るなんて…。ゲームでは特に不思議には思わなかったが、やはり危険な世界だ。
俺のステータスはこんな感じだ。
【レオニード・メナシス 15才】
<レベル> 27
<職業> 魔剣士4
<スキル> スラッシュ、二段切り、ダッシュ、回避、集中、雷剣、死線
<魔法スキル> 雷弾、天雷
<称号> 雷神の守護者
<武器> 魔剣ソウルイーター(伝説級、特殊効果:HP吸収、補助効果:攻撃速度+5%、攻撃速度+3%)
<装備アイテム> 力の指輪(一般級)、知恵の指輪(一般級)
ちょっと迷ったが魔剣ソウルイーターを装備した。魔剣ソウルイーターは業物の雰囲気を醸し出している一方で華美な装飾等はないので開き直った。どんないい武器も使わないと意味がない。使わない時はアイテムボックスに仕舞っておけばいいんだから盗まれることもないだろう。装備アイテムはゴレイア迷宮の5階層で手に入れたものだ。『迷宮物語』ではアクセサリーと呼ばれていて5つまでしか装備できなかった。同じ種類のものを二つ装備することもNGだ。俺の知っている限りその辺りの制限はこの世界でも同じはずだ。
「よし、いくわよ。ゴブリン3体なんて私達の敵じゃないわね」
サラはそういうと背中に背負っていた弓を構えた。弓士の特徴は遠距離から物理ダメージを与えられること、敵に状態異常などのデバフを与えるスキルが多いということだ。弓と矢はセットになっていて特に矢を補充する必要はない。不思議と言えば不思議だが、ゲームでも矢の補充とかは必要なかった。ちなみに味方にバフを与えるのは回復役の役目だ。
ステータスの一番高い俺が先頭に立って駆け出した。アルスも俺の後を追っている。
「『強射』!」
『強射』は弓士の基本スキルで剣士の『スラッシュ』のようなものだ。
「あちゃー!」
残念ながらサラの『強射』はゴブリンに掠っただけだ。
「『風刃』!」
俺がゴブリン達に近づいて相手にしようとした瞬間、3つの風の刃が3体のゴブリンに一発ずつ命中した。
アルスの魔法だ!
俺はアルスの魔法で傷ついたゴブリンの一体を斬り捨てた。
「『炎弾』!」
「ぐぎゃ!」
アディが放った炎の弾が二体目のゴブリンを倒した。
「『強射』!」
「ぎゃー!」
三体目のゴブリンはサラの二射目の餌食になった。
それにしてもアルスは一度に3発の風の刃を放った。アルスはスキル『風刃』と『風刃強化C』を取得しているようだ。スキルによって多少違いがあるが多くの場合強化Aはスキルの威力を上げ強化Bは攻撃速度を上げる。そして強化CはCT(再使用時間)短縮とか、その他の強化だ。『風刃』の場合の強化Cは一度に発射できる数を増やす。
「アルスやるわね」
サラの言う通りで一度に3つの風刃を放って3つとも当てた。それも俺とサラの後ろからだ。風属性の魔法は速さに優れている。それにしても3発とも命中させるとは…。ゲーム的に言えばアルスは器用が高い。
ただ、それだけではないはずだ…。
この世界ではレベルやステータスが高ければ強いというわけではない。ゲームでいうところのPSに相当するものがこの世界にもあって、それは訓練することで得られる。
俺が小さい頃からやってきた父さんやシグルド様との訓練は無駄ではなかったのだ!
『迷宮物語』はかなりPSが重要なゲームだった。お金で最強の装備を揃えた相手をPSで圧倒するのはとても気分が良かった。器用が高ければもの覚えは良くなる。だが、日頃の訓練なくしてそれを生かすことはできない。アルスは日頃の訓練を怠っていないようだ。
「うん。サラの言う通りだ。命中精度も申し分ないね」
「あ、ありがとう」
アルスは照れながらも嬉しそうに微笑んだ。男なのになんかかわいい。横にいるサラを見ると顔が少し赤い。
「でもアデレードの炎弾って威力が高いよ。僕の風刃は必要なかったね」
「え、そう、まあ、当然ね」
アディは照れているようだ。可愛い。
アディは特待生だから当然各種のステータスがアルスたちより高い。同じ魔法でもステータスの高い者が使うと威力が高く速度も速い。ステータスは命中率にも影響するが、もちろん訓練も必要だ。
「えっと、討伐の証拠は…」
「サラ、耳だったと思うよ」
アルスがサラに教える。
迷宮の魔物と違い外の魔物は魔石になって消えたりしない。『迷宮物語』では自動的に素材や金に変わったのに…。解体は結構めんどくさい。ゴブリンの場合は素材として使える部分もないので討伐の証拠である耳を切り取ると死体はアディが魔法で燃やした。
「アルス、次は剣を使ってみてね」とサラが言った。
「え! アルスって剣を使えるのか?」
俺は、驚いてアルスに尋ねた。そういえば、腰に剣を差している。それに実践授業で、アルスは俺と同じ近接のほうにいた。ということは、もしかして…。
「僕は剣士なんだ」
「ええ!」
アディも驚いている。当たり前だ。アルスはさっき素晴らしい魔法の腕を披露した。アルスは少なくとも『風刃』と『風刃強化C』の二つの魔法系スキルを持っているはずだ。なのに剣士だなんてあり得るんだろうか?
あり得る。アルスが主人公なら…。
主人公は主人公との特典として、選んだ職業に関係なくランダムに2つのスキルを付与される。ただ、付与されるのはどれも初級スキルだ。
アルスは間違いなく主人公だ。平民で自分の職業以外のスキルを二つ持っている…。
アルスが主人公だとすると、サラはストーリーに関係あるキャラクターなのだろうか? 思い出せない。アディと同じく主人公の友達になるキャラクターの一人なのかもしれない。この辺の記憶は曖昧だ。だいたいレベルがカンストする前のストーリなんて会話もスキップしてどんどん先に進める程度のものだ。覚えていないのは無理もない。
「それじゃあ、次のゴブリンを探しましょう」
サラは相変わらず元気だ。
それから1時間ほどゴブリンを探してようやく5体のゴブリンが固まって行動しているのを見つけた。ゴブリンはある程度社会性がある魔物なのでこうやって集団で行動していることが多い。
「今度は5体か。ちょっと数が多いね」
アルスは心配そうだ。
「5体程度余裕だわ」
アディは強気だ。
「それじゃあ行くよ。アルスは俺の後について来て、アディとサラは援護を頼む」
三人の返事を背に俺はゴブリンに向って走る。すぐ後ろにはアルスの気配を感じる。俺たちに気がついたゴブリンたちが固まって向かってきた。俺はスピードを上げてゴブリンに近づく。俺はゴブリンを誘導するようにアルスから離れた。俺のレベルは三人に比べてとても高いので身体能力が段違いだ。俺はゴブリンに向き直ると剣で相手をする。アルスは俺に誘導された一番後ろのゴブリンにやっと追いついて斬り掛かった。
俺はアルスがゴブリンと1対1になれるように立ち回って残りの4体を相手にする。
「『強射』!」
サラだ!
サラが放った矢が飛んできて俺が相手にしている4体のゴブリンの真ん中辺りに着弾した。
「むぅ……」
やっぱりアルスの『風刃』と違い狙いがアバウトだ。それでも一瞬ひるんだゴブリンたち3体を俺は次々と斬り捨てた。
あとは俺が相手している残りの一体とアルスが相手にしている一体の合わせて2体だ。
「『炎弾』!」
「ぎゃあー!!」
俺が相手にしていた一体をアディが魔法で倒した。
「アルス、ちょっとどいて!」
サラの声にアルスは相手にしていた最後のゴブリンからバックステップで距離を取った。
「えい!」
サラの放った矢がゴブリンに向かう。スキルではなく通常攻撃だ。
「ぎゃー!」
サラが放った矢はゴブリンの右肩に命中した。持っていたこん棒のような武器を落としたゴブリンにアルスが斬り掛かかる。
「『スラッシュ』!」
哀れな最後のゴブリンはアルスの剣の露となった。
「サラ、ありがとう。それにしても肩を狙って武器を封じるなんて凄いね」
「当然よ」
いや、あれはたまたま肩に当たっただけな気がする。もちろん俺はそんなことは口にしない。
「それにしてもレオニードは正直凄かったわ」
「最初の実践授業でエイクリー先生にレオニードが一番善戦してたよね」
「そうだったの?」
アディが嬉しそうに尋ねた。
「そうだよ。特待生の生徒も驚いていたよ」
「まあ、確かに今のは凄かったよね。一人であっという間に3体倒しちゃったもの。褒めてあげるよ」
サラはない胸をそらした。令嬢モードの時のアディに似てる。
「そうか、ありがとう」
「もう、もっと喜びなさいよ。そんなんじゃ彼女もできないよ。あれもういるのか…」
サラがアディを見るとアディはニコっとした。
この後もう1回ゴブリンを見つけることができた。結局、俺達は合計で12体のゴブリンを討伐した。だいぶ遅くなってしまったが探索者ギルドに報告するとゴブリン一体あたり大銅貨2枚なので全部で銀貨2枚と大銅貨4枚になった。一人当たり大銅貨8枚だ。大銅貨1枚あれば一日の食費くらにはなるし2枚か3枚くらいで安い宿なら一泊できる。ゴブリン討伐とはいえ命懸けの仕事でこれが高いのか安いのかは微妙なところだ。
カイル探索者養成学園の生徒は探索者になるにしても騎士になるにしても将来の幹部候補生、すなわちエリートである。そのカイル探索者養成学園の生徒でこれなら探索者も決して楽な商売とはいえないと思う。
「それじゃあ、また学園でね」
「またね」
「ああ」
「また」
二人と別れてアディを王都のアルメッサー辺境伯の屋敷に送っていると「レオ、今日は楽しかったわ」とこっちを向いたアディが言った。赤い髪は燃えているようで顔も赤い。夕日に照らされているせいだろうか。
「アルスとサラも気持ちのいい奴らだったな」
「そうね」
こうして俺とアディの王都カイルでの探索者としての初めての仕事は終了した。それに主人公を見つけることができた。
一日の成果としては上々だ。




