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3-2(エイクリー先生の授業).

「午後からは、初めての実技訓練よ」

「ああ、アディは魔法使い、俺は剣士だから別々になるな」

「そうね」


 俺とアディは午前中の授業を終えて食堂に向かっている。午後からは始めての実技訓練が予定されている。4大貴族の令嬢であるアディと平民の俺が一緒に歩いていると視線が痛い。ほとんどが俺への悪意ある視線だ。残りはアディに対するもの好きだなという興味の視線か…。 


「きゃあー!」


 悲鳴を上げて蹲ったのは俺と同じ平民の一年生ステラだ。ステラの職は僧侶で貴重な回復役だ。


「お前、何をするんだ!」


 怒鳴っているのは背の高い一年生だ。こいつはシュタイン侯爵派の貴族の息子で、いつもシュタイン侯爵の嫡男アルベルトに金魚のフンのように付いて歩いている二人の子分のうちの一人だ。たしかウィルコックスだったか…。もう一人の子分は特徴のない中肉中背だ。こいつらはゲームの時と同じで何かと平民とかレベルの低い生徒を馬鹿にしてからかってくる性格の悪いやつらだ。親分のアルベルトともう一人の子分は面白そうに成り行きを眺めている。


「ステラの前にわざと足を出したのはお前のほうだろ」

「なんだと! お前は平民の…。そうか、平民同士庇い合ってるのか。嘘までついて、やっぱり平民は性格が悪いな」

「レオが嘘をついてるって、聞き捨てならないわね」


 アディは足を肩幅に開いて腕を組んでいる。やっぱり悪役令嬢みたいだ。


「アデレード、それじゃあ、まるでウィルコックスが嘘をついているみたいに聞こえるぞ」


 そう言ったのは4大貴族シュタイン侯爵家の嫡男アルベルトだ。


「アルベルト、みたいじゃなくてそう言ったのよ」

「なんだと!」


 4大貴族アルメッサー辺境伯の娘のアディと同じく4大貴族シュタイン侯爵の嫡男アルベルトは廊下の真ん中で睨み合った。他の生徒達は廊下を通れず迷惑している。いや、むしろ興味津々なのか…。

 先に目を逸らしたのはアルベルトだ。アルベルトはふんと鼻を鳴らすと「行くぞ」と言って子分二人を連れて立ち去った。アディは仁王立ちのままそれを睨みつけるように見送った。やっぱり、アディのほうが悪役に見える。


「あ、あの…ありがとうございます」

「いいのよ。レオが嘘を言うはずがないもの。悪いのはあいつらよ」


 お礼を言うステラは小動物のような可愛らしさを持っている少女だ。平民のステラは主人公の可能性がある。





★★★





 実技訓練のため一年生全員が武術鍛錬場にまっている。これまでは座学ばかりだったので初めての実技訓練だ。武術鍛錬場は広い円形状の広場のような場所で周りをぐるりと観客席が囲んでいる。ここではカイル探索者養成学園の武術大会等が開催されることがあるためこのような造りになっている。


「よし、まず近接職は俺の周りに集まれ!」


 今日の実践訓練には3人の先生が集合している。その内の一人がそう声をかけた。


 物理攻撃系の初期職業には剣士の他、槍士、戦士、弓士、重剣士、重槍士、重戦士などがある。剣士、槍士、弓士はその名の通りの武器を使って戦う職業だ。戦士は巨大な斧や棍棒のようなもので戦うゲームにはよくあるパワーに特化した職だ。重が付く職は盾役だ。『迷宮物語』では迷宮の攻略は4人パーティーで行うのが基本であり、その場合、盾役は回復役と並んでパーティーには必須な職だ。基本スキル『ガード』や強制的に魔物のターゲットを取る『挑発』という盾役に必須なスキルを取得できる。ただし『挑発』はプレイヤー同士の戦いでは強引にタゲを取る(目標となる)ことはできない。その代わり対人戦での『挑発』は相手を強引に自分の近くに引き寄せた上、一時的に移動不能にさせるという極悪なスキルに代わる。これはPVP(プレイヤー対プレイヤー)においては極めて強力なスキルだ。PVPではスピードが大切なのだが、基本盾職はスピードでは劣る。それをカバーするため盾職に与えられているスキルだ。

 弓士は遠距離職である。遠距離から物理ダメージを与えることのできる職であると同時にとてもクリティカルの発生率が高い職だ。


 先生の指示によって俺も含めた近距離物理攻撃系の職を持つ生徒が闘技場の一角に集められた。遠距離職である弓士や魔法職はそれぞれ別の先生が教えるようだ。


「まずは、それぞれの実力を見るために一人ずつ俺と模擬戦をしてみるか」


 エイクリーと名乗った先生はそう言うと、最初に特待生のアルベルト・シュタインを指名した。


「ああ、言い忘れたが、もし持っていても魔法スキルは使用禁止だ」


 アルベルトはシュタイン侯爵領の迷宮で御遣様を倒して上級魔法スキルを取得したとの噂だ。俺は『迷宮物語』の知識でそれが『炎爆陣』と呼ばれる範囲攻撃魔法スキルだと知っている。


 エイクリー先生とアルベルトの模擬戦は、アルベルトが攻撃してそれをエイクリー先生が受けるという展開となった。


「『スラッシュ』!」


 アルベルトはスキルを使うがエイクリー先生はそれを軽く受け流す。


 その後も、アルベルトが続けて攻撃している。武術鍛錬場にカーン、カーンと剣が交わる乾いた音が響く。もちろん使っているのは訓練用の剣だ。


 おそらく先生はアルベルトの実力を見るためあえて受けているのだろう。先生には余裕があるように見える。それでも、アルベルトの攻撃はなかなかの鋭さだった。


「くそー!」


 アルベルトの表情には焦りが見え始めた。そのとき、俺はアルベルトの体全体が薄く発光しているのに気がついた。


 『集中』を持っているのか…。


 『集中』は1分間だけ筋力と俊敏が1.2倍になるスキルだ。物理攻撃スキルのCTも短縮される。『集中』を使用したことによりアルベルトの攻撃は鋭さを増した。


 アルベルトはここぞとばかりに『スラッシュ』、『3連撃』と連続してスキルを使う。


 しかしそれでもエイクリー先生に焦りはない。全くさっきまでと変わらない様子でアルベルトの攻撃を捌いている。先生は間違いなく上級職に就いている。模擬戦が始まって5分くらいした頃、それまでアルベルトの攻撃を訓練用の剣で受けていたエイクリー先生が、ひらりと音がしそうなほど鮮やかにアルベルトの『3連撃』を躱したと思ったらアルベルトの首元に先生の剣が添えられていた。そもそも『3連撃』は強力なスキルだが隙が多い。使うのなら硬直などの効果があるスキルと組み合わせないと…。


 だが、それを割り引いてもエイクリー先生は強い。


 特待生であるアルベルトのレベルは15くらいのはず。王国騎士団の小隊長のレベルが大体10くらいだから既にそれより上だ。そのアルベルトに対して相当余裕をもって対処していたエイクリー先生のレベルは30以上ありそうだ。レベル30と言えば王国騎士団でも大隊長クラスだ。大隊長といえば、もうその上には師団長達しかいない騎士団でもトップクラスの猛者達だ。ちなみに4人いる師団長のうち第一師団の師団長は騎士団長のジギルバルトが兼ねている。エイクリー先生はさすがカイル探索者養成学園の教師といえる実力を持っている。


 その後も次々とエイクリー先生が生徒の相手をする。しかし最初のアルベルトが一番健闘した。アルベルトの次に健闘したのは予想通り剣のダウスゴー家のベルンハルトだ。3番目に粘ったのは重槍士の生徒だ。盾を持つ職はやはり粘りがある。それら3人の生徒以外は瞬殺だ。生徒たちがなんの見せ場もないまま次々にエイクリー先生との模擬戦を終える。


 そしてついに俺の順番がきた。


「よろしくお願いします」


 俺は挨拶をするとすぐにエイクリー先生に斬り掛かった。先生は一瞬、おっというような顔して、俺の剣を躱した。その後も、先生を何度か攻撃する。スキルは使っていない。剣も訓練用だから魔剣ソウルイーターの持つ能力は加算されていない。それでも俺はレベル27だ。おそらく先生とのレベル差は5以内だろう。それに俺には『雷神の守護者』がある。


 周りが少しざわついている。エイクリー先生が平民の俺の相手を思ったより長くしているからだ。


 ちょっと試してみるか…


 まず『二段斬り』で攻撃する。エイクリー先生はそれを躱す。思った通り、先生は『二段斬り』の打ち終わりの硬直を狙って攻撃しようとした。


 だが…。


 俺は『ダッシュ』を使って『二段斬り』の打ち終わりの硬直をキャンセルすると、そのまま『スラッシュ』使った。PVPにおけるもっとも基本的なコンボだ。


「うっ!」


 不意を突かれたのかエイクリー先生は小さく声を上げた。しかし、エイクリー先生はさすがで、俺の『スラッシュ』をギリギリ剣で受け止めた。相手の動きを止められる『雷剣』か『雷弾』を使ってからなら決められたと思うが…。


 なるほど…確かに先生は強い。でも俺は基本的なコンボしか使わなかった。まあ、先生も本気ではなかった。ただ、なんとなく俺のほうがPVPなら少し強いのではと手応えを感じた。『雷神の守護者』で俊敏が1.1倍になっているのは地味に馬鹿にならない。俺もアルベルトと同じ『集中』を持っているからもっと速く攻撃することも可能だった。だが、先生のスキル構成も不明だ。それでも、俺のようにスキルを選択して取得できるのは大きな強みだと思う。


「この辺にするか」


 エイクリー先生はそう言って俺の方に近づくと、耳元で「鑑定されたレベルに誤りがあるようだな」と囁いた。


 しまった! 俺はスキルを3つ使用した。スキルを3つ取得するにはレベル9は必要だ。まあ、いいか、実際の俺のレベルはその3倍の27なのだから、その程度は誤差の範囲だ。


 その時、アルベルトが俺を睨んでいることに気がついた。悪いなアルベルト、俺のレベルはお前より遥かに高いんだ。

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