2-5(偽神の杖と二人の旧友).
僕は『B・リュス』の本店の執務室で、シュタイン侯爵領にあるバセスカ迷宮10階層でのボス戦を思い出していた。
バセスカ迷宮10階層のボスはスケルトンロードだ。合わせてスケルトンメイジとスケルトンソルジャーが出現する。
結論から言えばクリアはできた。まあ、失敗していればここにはいない。ちなみにドロップは一般級の弓だった。10階層でも一般級がドロップするのは普通のことだ。
僕は『迷宮物語』の知識によリスケルトンロードたちの動きをよく知っていた。ランダム攻撃がくる前兆もだ。そもそもバセスカ迷宮は攻略済みなのでこの世界の人もスケルトンロードの特徴やボス部屋のギミックを知っている。知っていれば4人のレベルから言ってもなんの問題もないはずだった。
だけど…。
僕以外の3人はバセスカ迷宮10階層のボスは初めてだった。僕もこの世界では初めてだったんだけど…。とにかく最初から動きが硬かった。
あれだけ事前に打ち合わせていたのにスケルトンロードのHPが20%を切ったときに発動した全体攻撃に3人とも慌てていた。僕が大声で「ラングレーの盾の後ろに集合だ!」と叫ばなければ危なかった。『迷宮物語』のボスはHPが少なくなると狂乱状態と呼ばれる状態になって攻撃力が上がりランダムに攻撃をしてくるタイプが多い。スケルトンロードのように特殊な全体攻撃をしてくることもある。いずれにしても残りのHPがそのきっかけになっているのだ。狂乱状態になると防御力は下がって攻撃が通りやすくなるからチャンスでもある。そこを乗り切れるかどうかがボス攻略の鍵なのだ。
とにかく僕が予想していたよりは苦戦した。
実際にノイマンは怪我をした。僕の魔法では完治できず、高額な上級ポーションを使った。この世界ではポーションはとても高価だ。特に上級は。そして伝説級ポーションは知られていない。『迷宮物語』なら運営が設定した攻略適正レベルより低くても多くのプレイヤーがクリアしていた。だが、よく考えてみれば、それはほとんどの場合何度か失敗した後のことだ。初見でクリアするプレイヤーは少ない。そしてこの世界では失敗は死を意味する。僕は、この世界でまだ20階層すらクリアされていない理由を実感した。
なんとか10階層をクリアした僕たちは、11階層で隠し部屋を見つけてお宝をゲットした。
伝説級の杖、偽神の杖だ!
隠し部屋はかなりわかり難い場所にある上、正確な場所に魔力を流さなければ隠し部屋に通じる扉は現れない。「まさかこんなところに」とラングレーは驚き、僕を恐ろしいものでも見るような目で見ていた。他の3人も同じだ。
偽神の杖は『迷宮物語』では主人公がいわゆるお使いクエストをこなすと手に入れることができる。たしか『バセスカ迷宮11階層のサラマンダーを10匹倒せ!』とかなんとかいうやつだ。このクエストはストーリーの本線とは関係なく、やってもやらなくてもいいクエストだ。ただ、これを受注するとクエスト進行中に隠し部屋が発見され、偽神シリーズの武器が手に入る。だけど、僕はクエストなんかしなくても隠し部屋のある場所を覚えていた。ゲームではクエストをしないと見つけられない仕様だったが、この世界ではあっさり見つかった。手に入れられる武器の種類は主人公の職によって変化する。今回は僕が魔力を流して扉を開けたから杖になったんだと思う。
僕はアランに命じて偽神の杖をアマデオ侯爵に献上した。アマデオ侯爵はたいそう喜び僕も謁見の栄誉を賜った。なんせ伝説級である偽神の杖は国宝級の宝物だ。
最初、偽神の杖をアマデオ侯爵に献上すると言ったら。アランは「セルゲイ様、いいんですか? 伝説級の杖ですよ」と驚いた様子で尋ねてきた。まあ、そうなるとは思っていた。これを手に入れた時のラングレー達の反応も似たようなものだった。
僕はアランとの会話を思い出す。
「いいんだ。これは伝説級の杖の中では性能は最低レベルだ」
「しかし、それでも伝説級には変わりありません」
「アラン、僕の目的はもっと先にあるんだ」
結局アランは僕をしばらく見つめた後「わかりました。セルゲイ様がそう仰るのなら」と言って納得してくれた。
偽神シリーズの武器は主人公がレベル40を超える辺りまで使える。その頃になればプレイヤーは迷宮のボスからもっといい武器を入手しているからお役御免になる。要するにストーリの序盤から中盤にかけてを主人公を手助けするために用意された武器だ。伝説級ということにはなっているがレア級で良い補助効果がついていればそっちの方がいい場合もある程度の武器なのだ。全く惜しくないといえば嘘になるが計画のためには已むを得ない。
その後アランの根回しのおかげもあり、僕は14才にしてミスリル鉱山と迷宮がある辺り一帯を領地とするヴィガディール男爵となることが決まった。アマデオ侯爵が王国へ推薦してくれたからだ。もともと、既にあの辺りの土地のほとんどを僕が買収していたから誰も損はしていない。これで僕は領地持ちの貴族となる。商会を経営しているとはいえ14才の子供の僕がこれを成し遂げたのだ。
ここまでは計画通りだ。
ミスリル鉱山を含めた一帯は、鉱山で働く者やそれらを相手に商売する者で人口も増えてきた。まるで『B・リュス』という小さな国のようになりつつある。僕がアマデオ侯爵領の金持ちの商家に生まれたのは本当に運が良かった。父も母も大いに喜んでくれた。
きっとこれが僕がこの世界に生まれ変わった理由であり神様の望んでいることなんだろう。
「それで、セルゲイ様、迷宮はどうされるので」
僕は既に例の迷宮を発見していた。
「新しい迷宮のことを公表するのはもう少し先にしよう」
「それがいいでしょう。セルゲイ様が領主になっていきなり迷宮が発見されたら不審に思われます」
アランも同意する。
「うん、僕もそう思う。当面、このことはアランとラングレー達以外には秘密にする。それより今のうちに護衛団、いや従者団の規模を拡大しておこう」
4大貴族以外が自前の騎士団を持つことは許されていない。その代わりに従者と呼ばれている者達がいる。男爵であれば街の自警団とは別に治安維持のため50人程度の従者団を組織することは許される。
★★★
僕の計画が順調に進んでいく中、僕は「TROF」の仲間二人に再会した。二人はエトワールと違って僕の計画に参加し仲間になってくれた。とても心強い。アランやラングレー達のことは信用しているが、やはり同じ転生者が仲間になってくれることには格別な思いがある。
先に『B・リュス』の存在に気がついて僕を訪ねてきたのはプリマドンナだ。プリマドンナは王都で平民の娘として生まれた。確かに服装は質素だが、僕には平民にしては品が良さそうに見えた。僕はプリマドンナにこの世界で覇権が取りたいと言った。
プリマドンナは「いいわね。せっかく転生なんて面白いことが起こったんだから。それにやっと質素な生活からも抜け出せそうだわ」と喜んだ。
次に僕を訪ねてきたのはマエストロだ。王都に支店を出したことで『B・リュス』に気がついたらしい。マエストロは偽神の杖を手に入れたバセスカ迷宮のあるシュタイン公爵領と同じ王国南東部に領地を持つシュタイン侯爵派の貴族の三男だ。裕福そうだが一人では『迷宮物語』の知識を生かせず退屈していたらしい。僕と再会できたことを凄く喜んでいる。
そして僕がこの世界でも『迷宮物語』の時と同じように覇権を取ると言うと「『TROF』時代が懐かしいっスね。この世界でもやってやりますよ」とすぐに協力すると言って顔を輝かせた。全く貴族らしくないが、これでも一応貴族としての教育は受けている。
平民のプリマドンナを『B・リュス』に雇うのは簡単だったが、マエストロのほうは貴族の子弟だ。だが、ここでも僕が貴族になっていたことが功を奏した。しかも男爵とはいえ最近勢いのある商会を経営している金持ちだ。『B・リュス』は王都でも名を知られるようになってきている。今ではマエストロの両親はマエストロが僕と親しくすることを歓迎している。マエストロが跡継ぎではなかったことも良かったのだろう。
現在、マエストロは自分の家の領地から遠く離れたヴィガディール男爵領にある僕の屋敷に長期滞在してプリマドンナと一緒に迷宮でレベルを上げている。もともと貴族であるマエストロのレベルはそれなりに高い。それに対してプリマドンナはこれからだ。だがプリマドンナなら大丈夫だろう。僕は『迷宮物語』時代のプリマドンナの実力をよく知っている。
ちなみに二人とも僕と同じ年だ。やはり、全員『迷宮物語』の主人公と同じ年代に転生したらしい。
それにマエストロは…。




