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2-2(ミノタウロス).

「ぼっちゃん、いよいよボス部屋です」

「いつも、セルゲイと呼ぶように言っているでしょう。僕ももう少しで成人ですよ」


 僕は13才になった。


 『迷宮物語』のスタートするのは15才だ。僕が『迷宮物語』の主人公と同じ年齢であることは確かめてある。例えば主人公の同級生のクリスティナ王女は僕と同じ年だ。といっても、僕はカイル探索者養成学園に入学する気はない。ゲームではプレイヤーの分身だった主人公が誰なのかもわからない。父からはカイル探索者養成学園に行くことを勧められた。別に探索者や騎士にならなくてもカイル探索者養成学園卒業というのはこの世界では大変なステータスだからだ。だが、僕は他にやりたいことがあるからと断った。興味はあるが、ゲームの中でさえストーリーはさほど重要ではなかった。


 重要なのは強さだ。そして強さとはレベルだ。


 というわけで、僕はいよいよヒューロン迷宮5階層のボスに挑戦する。ヒューロン迷宮はアマデオ侯爵領の最大の港町で領都であるチュニにから北へ 馬で2日ほど行った山岳地帯にある。一番近い街はベンドラだ。


 僕が11才の時設立した商会『B・リュス』はその後順調にその規模を拡大している。当初の目的だったミスリル鉱石を扱うほか武器や防具、それに魔道具なども扱っている。

 『迷宮物語』では武器やアイテム(5つまで装備できる)は迷宮のドロップ品を使うのが普通だったが防具は制作するものだった。武器やアイテムだって制作することも可能だ。『B・リュス』で扱っているのはそんな制作品で職人も確保している。

 よくラノベにあるような前世の知識を利用した商品だのは扱っていない。僕も最初は日本の知識でと考えた。だが、この世界の人達は馬鹿ではない。例えば、この世界の素材で作る料理についてはこの世界の料理人が一番工夫している。化粧品だって同じだ。服だってこの世界の流行がある。それでも、『B・リュス』は着々とその商売を拡大させている。任せているアランも優秀だ。なので最近の僕は自分のレベルを上ることに時間を割いている。


「セルゲイ様は、まだレベル8なんですから常に俺の後ろに陣取って下さい。ほんとはまだボスには早いと思うんですが」

「ラングレー、それは何度も話したでしょう。ランダム攻撃から僕を守ってくれさえすれば問題ありません」


 ラングレーの僕の言葉にしぶしぶと言った感じで頷いた。


 ラングレーはベンドラを拠点として活動している大手探索者クランに所属しているところを僕が引き抜いた人材だ。戦える部下を探している僕の意を酌んだアランが、優秀な探索者だがクランマスターとあまり上手く行っていないラングレーのことを僕に報告してきた。そして僕専属の護衛として雇ったのだ。残りのパーティーメンバーの二人は信用できる者ということでラングレーが連れてきた。

 ラングレーは盾役の上級重剣士でレベル25、イリヤは火属性魔法を得意にしている上級魔法使いでレベル23、上級槍士のノイマンはレベル22だ。いずれもレベル21を越えて上級職になっている。この世界の探索者の中ではトップクラスの者達だ。この中でラングレーだけは10階層のボスを攻略済みだ。『迷宮物語』ならレベル21を越えれば10階層のボスにチャレンジするのが当然だが死んだら終わりのこの世界ではそうもいかない。そのためイリヤとノイマンの二人はまだ10階層のボスをクリアしていない。


 今日挑戦するのは5階層のボスだからなんら問題ない。


「『攻撃力上昇』!」


 僕は槍士のノイマンにバフスキルをかけた。


「セルゲイ様、ありがとうございます」

「当然だよ。ミノタウロスを倒すのはノイマン達の役目なんだからね。スキルの効果には時間制限があります。さあ、いきましょう」


 僕たち4人はボス部屋の飛び込んだ。


 ボスはミノタウロスだ。斧のような武器を持っている。先頭は盾役のラングレーではなく上級槍士のノイマンだ。本来なら上級重剣士のラングレーが『挑発』を使ってボスのヘイト(敵意)を稼いでタゲを取る(ターゲットとなる)のが常道だ。しかし、ラングレーは僕を守ることが優先だと言って聞かない。攻撃はノイマンとイリヤに任せるという。だからノイマンにバフスキルを使った。まあ、僕以外は全員レベル21以上で上級職だから念のためだ。


 そのノイマンは落ち着いてミノタウロスの攻撃を捌いている。イリヤは魔法スキルを放つチャンスを窺っているようだ。かなりのレベル差があるので安心して見ていられる。


「うおぉー!」


 ノイマンはミノタウロスの斧を器用に捌いて「『刺突』!」と叫ぶと槍を突き出した。


「グボッ!」


 槍で腹を突かれたミノタウロスは奇妙な呻き声を上げた。同時に仰け反っている。


『スラッシュ』!」


 ノイマンは『刺突』の効果でミノタウロスが仰け反ったところを流れるように槍を払って『スラッシュ』で追撃した。槍士の基本的なコンボ攻撃だ。『スラッシュ』は剣士や戦士にもある基本スキルだ。通常の攻撃に比べて威力がアップする。


「イリヤ、今だ!」

「『炎弾』!」


 ノイマンの合図にイリヤが魔法を使った。イリヤの『炎弾』は2段階強化されている。スキル欄には『炎弾A+1、B+1』と表示されているはずだ。A+1とは威力が一段階、B+1は攻撃速度が一段階強化されていることを示している。ただ、僕が聞いたところイリアはまだ『瞑想』を持っていない。『迷宮物語』では魔法系の職なら必ず持っていたスキルだ。それに『炎弾』を強化するよりほかにもっといい魔法スキルがある。そういえば、ノイマンも『集中』を持っていないと言っていた。『迷宮物語』のスキルの数はそれなりに多い。そしてこの世界では自分で選択できないのだからしかたがない。ただ、僕はなぜか選択できる。僕が前世でプレイヤーだったことが関係しているのだと思う。ただ、そもそも選択ウィンドウに表示されなけば選択もできないので運の要素もある。


 イリヤの『炎弾』がミノタウロスの左肩を捉えた。「ギャー!」と叫び声を上げたミノタウロスをノイマンがさらに攻撃する。


「イリヤ! こっちに!」


 僕は鋭くイリヤに呼びかけた。イリヤが慌てて僕とラングレーの方に走ってくる。


「『ガード』!」


 ガキッ!


 突然、イリヤのほうに走ってきたミノタウロスをラングレーが盾職のスキル『ガード』で防いだ。ランダム攻撃だ。この攻撃をする前にミノタウロスの右肩がわずかに下がり左足が攻撃対象の方に半歩ずれるように動く。僕はその動きを見逃さなかった。『迷宮物語』での経験のおかげだ。


 この後も一番危険なランダム攻撃を僕が確実に予想することで特に危険にさらされることもなく、あっさりとミノタウロスを倒した。HPが20%になった後の狂乱状態は皆が盾役のラングレーの後ろに避難して、イリヤが遠距離から魔法攻撃することで凌いだ。狂乱状態になると攻撃力や速度が増す一方防御力は下がるのだ。


 ラングレーは優秀な盾役だ。僕の指示通りボスであるミノタウロスのランダム攻撃が僕やイリヤに当たらないように上手く立ち回ってくれた。ボスの経験値は貢献度ではなくパーティーに均等に配分されるから、極端な話、僕は何もしなくても経験値を得られる。それでもランダム攻撃や狂乱状態が危険であるためボスはあまりパワーレベリングには使われない。


「みんな、ご苦労さん」


 僕はフーっと溜息を吐いてボスであるミノタウロスを魔石を拾い上げた。やはり、僕も緊張していたんだろう。『迷宮物語』時代なら5階層のボスなど雑魚だ。僕はレベル79だったのだから。レベルキャップ解放前でも59だ。

 僕は15才までにはレベル15くらいにはなりたいと思っている。これはカイル探索者養成学園に入学するエリートの中でも最優秀に近い。だが、僕はそんなことでは満足しない。実際この世界で最強と言われている王国騎士団長のジギルバルトのレベルは45くらいと聞いた。僕はこの世界最強になりたいのだ。それも個人でだけではない。


「セルゲイ様、レベルは?」

「ああ、ちょうど10まで上ったよ。しばらくは5階層のボスを周回してとりあえずレベル15までは上げときたいかな」


 15近くになると5階層のボスでは上り難くなるだろうが、この世界では必要以上の危険は冒せない。『迷宮物語』を知っている身としてはイライラするがしかたがない。


「ふむ。『迷宮物語』の時と同じでこのスキルにしとくか…」


 僕の頭の中のステータスウィンドウには10以上のスキルが並んでいる。僕はその中から『浄化』を選択した。




【セルゲイ・ヴィガディール 13才】


 <レベル>   10

 <職業>    僧侶5

 <魔法スキル> 回復、攻撃力上昇、浄化

 <武器>    メデューサの杖(レア、補助効果:回復効果+3%)

 <アイテム>  魔力の指輪




 『浄化』は状態異常を解除するスキルだ。それに僕の目的にも必要だ。実は『浄化』はPVPで役に立つ。硬直や移動不可なども解除できるからだ。ただ、もの凄い技術がいる。相手が硬直を与えるスキルを放つとほぼ同時に『浄化』使う必要がある。敵の攻撃を予測していなければ無理だ。


「『回復』が必要な人っている?」


 全員が首を横に振る。まあ、彼らのレベルからすればそうだろう。とりあえず今日の目的は達成した。しばらくはこの調子でレベルを上げだ。


 そして…。


 僕の目的のためには、あれを確保する必要がある。そのためには金がいる。だからミスリル鉱山を確保して『B・リュス』を設立した。僕は、この世界の商会の経営については素人だ。だから優秀なアランを確保した。それでも時間がかかる。


 まあ、あまり焦ってもよくないだろう。ここはゲームの世界ではない。人生は長い…。

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