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2-1(商会『B.リュス』).

 僕の生まれたのはファミール王国のアマデオ公爵領だ。


 僕の生まれたアマデオ侯爵領とその派閥に属する貴族たちが領主を務めているファミール王国の南西部は大きな半島のような形をしている。半島に沿って東から南そして西にかけて海に面している。半島の先にある都市チュニは東西の海洋交通の要衝として栄えている。

 アマデオ公爵派の領地の北の領線は中央が膨らんで湾曲した形になっている。海に面した西から北の内陸に向かう領線はギグス王国に接している。

 ギグス王国はファミール王国に比べれば小国だ。実はギグス王国はもともとはファミール王国の一部だったのだ。そう、僅か100年ほど前まではファミール王国のギグス侯爵領であったのだ。このギグス侯爵領はそのさらに北にあるミタリ帝国との貿易と領内にある比較的規模の大きな迷宮のおかげで豊だった。ファミール王国でも経済的にも軍事的にも勢いのあったギグス侯爵は王国内で発言力を強めそれを面白く思わない他の大貴族や王家との関係が悪化した。王家もいくらギグス侯爵家が豊かであるとはいえ最後は王家に従うと考えていた。当時はまだ賢王ウルザルが没して100年くらいであり、王家の力も今より強かった。しかし王家の予想に反してギグス領は独立を宣言した。しかもそれをいち早く認めたのはミタリ帝国だった。当時のギグス侯爵はミタリ帝国に根回ししていたのだ。もともとギグス侯爵領は北でミタリ帝国と国境を接しており関係が深かった。

 独立した直後ファミール王国とギグス王国とは当然のように戦争になった。しかしその戦争は5年くらい続いたのち停戦となった。もともとは同じ国の国民であった上、ミタリ帝国がギグス王国を援助したため決着がつかなかったのだ。それ以来ファミール王国とギグス王国、ミタリ帝国連合は緊張感のある関係だ。


 そんなアマデオ侯爵領で生まれた僕は、5才の頃、この世界が僕が前世でプレーしていたゲーム『迷宮物語』の世界だと気がついた。だが、僕の記憶している限りでは、僕はゲームの登場人物ではない。最初は、こういう場合主人公とか、そうでなければ悪役とかに生まれ変わるもんじゃないのかと僕は憤ったものだ。確かに最近のラノベではモブに転生するのも流行りではある。それにしても登場人物ですらないって、それはないだろうと思ったのだ。

 だけど、11才になった僕は、今ではそれもありかなと思っている。秘密裡にいろいろと行動できるのはメリットもある。僕が生まれた家はアマデオ侯爵領でも有名な、いや王国全体でもそこそこ名を知られた商家だ。まあ、金持ちである。


「セルゲイ様、セルゲイ様の指示で調査させていたアルディス山脈の麓にミスリルの鉱脈がありそうです。ビットリオ侯爵派のスレイン伯爵領に近いの気になります。早めに押さえておいた方がいいでしょう」

「そうか」


 アルディス山脈はアマデオ侯爵派が治める領地の北東にありビットリオ侯爵派の領地に近い。僕はあそこにミスリル鉱脈があることを『迷宮物語』の知識で知っていた。『迷宮物語』はMMORPGで多くのプレイヤーが一緒に楽しむことができるゲームだ。その目玉はプレイヤーのレベルがカンストしてから挑戦できる各種のエンドコンテンツだ。なかでも二つの陣営に分かれて争う陣営戦は人気があった。だから途中のストーリーはあまり重要ではない。

 それはともかく、『迷宮物語』には制作職というものもある。制作職にとってはどこでどんな素材が採取できるかという情報は重要だ。僕は制作職ではなかったがあそこにミスリル鉱脈があることは知っていた。実は他にもっと価値のある鉱山がある。だが、そっちはリアグルク連合国との国境付近にあるので今のところ手を出すのは無理だ。 


 この世界では15才が成人だ。日本よりも成人になるのが早いがそれでも11才はまだ子供である。だが、僕にはアラン・ワトキンズという味方がいる。僕がアランと最初に会った時、アランは僕の父が経営しているヴィガディール商会が新しく出した店の副支配人だった。新規出店に当たって支配人と一緒にアマデオ侯爵領の領都チュニにある僕の家に挨拶に来たのだ。最初、アランはヴィガディール商会トップの子供である僕に愛想を振りまいていただけだった。一方僕のほうはすぐにアランがなかなかの野心家であることに気がついた。

 僕は、アランが父に新しい店の経営状態を報告に来るたびにファミール王国の状況を説明してみせた。アランは僕のことをなかなか聡い子供だと評価したようだった。次世代の会頭と仲良くしておいて損はないとも思ったのだろう。


 そしてある程度アランの信用を得た僕は、満を持して今回のミスリル鉱脈の話をアランに伝えた。僕は過去の文献などを調べて予想したとアランに伝えている。もちろん、そんな文献など存在しない。


「鉱山の件はアランから父上に伝えてくれ。ただし、僕が発見したことも忘れずにな」


 僕が一人で父に伝えても子供の言うことを相手にはされないだろう。だが、アランが十分調査した上で父に伝えれば…。その上で僕の功績もきっちりと報告してもらう。


「もちろんです。それで、その後は?」

「父が許してくれるかどうかわからないが、できたら僕自身の商会を設立してミスリル鉱山の開発を行いたい。もちろん、副会頭はアラン、お前だ。そして対外的にはお前がすべてを取り仕切っているという形で構わない。なんせ僕はまだ11才の子供だ。それに具体的な商会の経営については勉強不足だ」

「ニコライ様は、坊ちゃん、失礼しましたセルゲイ様には甘いですから、私が責任を持って補佐すると言えば商会の設立を許して下さるのではないかと思います。実際にセルゲイ様の言う通りミスリル鉱脈が発見されたのですから」


 アランだけでなく父も僕が妙に聡い子供であることには気がついている。そして自分の子供が優秀そうだと単純に喜んでいるのだ。これを利用しない手はない。


 僕は自分の動かせる金が欲しいのだ。ヴィガディール商会はファミール王国でも有数の商会だが、子供の僕が動かせる金はない。僕は莫大な金を手に入れて密かにやりたいことがある。具体的にはミスリル鉱山の近くにある場所を、土地を買いたいのだ。なぜなら。そこには迷宮があるはずだからだ。しかも、この世界の勢力バランスを変える力のある迷宮だ。


「それで、もしニコライ様がお許し下さったとして商会の名前は決めておられるのですか?」

「僕の設立する商会の名前は『B・リュス』だ」

「『B・リュス』ですか。きっと坊ちゃんには意味のある名前なのでしょうな」


 アランは僕をセルゲイ様と呼ぶのを忘れて坊ちゃんと呼んでいる。まあ、見かけからすれば無理もない。


 『B・リュス』とは僕がクラン『The Rite of Fall(秋の祭典)』を設立する前に最初に作ったクランの名前だ。途中でいろいろあって名前を『TROF』に変えたのだ。いろいろというのはMMORPGではよくあるクランメンバー間の揉め事だ。

 僕と同じく僕の仲間たちがこの世界で生まれ変わっているとしたら、『B・リュス』という名前を聞けば必ず訪ねてくるだろう。コレオグラファー、ヴィルトゥオーゾ、マエストロ、プリマドンナ、エトワールの5人だ。彼ら5人は、あの時、僕と一緒に魔法陣に包まれた。そう僕の夢は『迷宮物語』の時と同じで仲間と一緒にこの世界の支配者となることだ。せっかくこんな面白いことが僕に身に起こったのだ。それを楽しまない手はない。できればこの世界では コレオグラファーではなくこの僕が真のリーダーとして彼らを率いたいものだ。 


 ちなみに僕は10才のとき僧侶の職を得た。『迷宮物語』では最初の職は自分で選択できるがこの世界では天から与えられる。僧侶は僕が『迷宮物語』で最初に選択した職だ。最終的には僕は神聖戦士という伝説職に就いていた。神聖戦士は最上級職の聖戦士のさらに上位に当たる職でレベルキャップ解放により追加された。神聖戦士は斧での物理攻撃だけだなく回復もできる職だ。もちろん専門の回復職に比べると回復魔法スキルにおいては劣るが自己回復に優れる職で、特に少人数でのPVP(プレイヤー対プレイヤー)では倒され難いので人気があった。ちなみに神聖剣士や神聖槍士も同じ系統の職だ。

 僕は金持ちの父に懇願してアマデオ侯爵領にある唯一の迷宮であるヒューロン迷宮でいわゆるパワーレベリングを頻繁に行っている。僕に甘い父は金でアマデオ侯爵に頼み込んだのだ。おかげで11才にして僕のレベルは3に到達している。僕がモブとはいえ金持ちの家に生まれたのは僥倖だった。




【セルゲイ・ヴィガディール 11才】


 <レベル>   3

 <職業>    僧侶2

 <魔法スキル> 回復

 <武器>    メデューサの杖(レア級、補助効果:回復効果+3%)

 <アイテム>  魔力の指輪(一般級)



  

 メデューサの杖 はなんとヒューロン迷宮15階層のボスドロップだ。15階層はヒューロン迷宮の最下層だ。しかも珍しい回復効果が上昇する補助効果付きだ。父が金に飽かせて僧侶の職を得た僕のために用意した杖だ。さすがに国宝クラスの伝説級の杖は用意できなかったようだが…。ちなみに魔力の指輪も父からのプレゼントだ。まあ、金持ちの家に生まれたことには感謝している。僕自身は残念ながらまだ5階層のボスもクリアできていない。今のところ3階層から4階層あたりでパワーレベリングをしてもらっている。それでも11才でレベル3というのはなかなかのものだ。『迷宮物語』のスタートするカイル探索者養成学園のこの世界での入学条件は15才でレベル5だ。


 あくまでこの世界でのだ…。


 実はこの世界の人達は『迷宮物語』の時よりレベルが低い。『迷宮物語』では、その舞台であるカイル探索者養成学園に入学する条件はレベル10だったと記憶している。まあ、僕はカイル探索者養成学園に入学する気はない。興味がないと言えば嘘になるがそれよりもやりたいことがある。


 僕の計画はまだ始まったばかりだ。

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