1-14(成果).
次に俺が気がついた時、目の前に大きな魔石と一振りの剣があった。半身を起こして辺りを見回すがこの部屋の主であるジャイアントバジリスクの姿はどこにもない。剣はボスドロップだろう。
とりあえず…生き延びた…。安堵のあまりなかなか立ち上がる気力が沸いてこない。
『天雷』を使ったこと、雷属性を付与して斬りまくったことでMPを使い果たしてしまい気絶していたようだ。この世界ではMPの残量は表示されないので注意しなければ…。
それにしても、信じられないほどの運に恵まれた。
俺は改めて御遣様に感謝した。御遣様は瀕死ではあったが、それでもその最後の力を使えば、あの時の取るに足らない存在である俺を殺すことなど簡単にできたはずだ。あの時、御遣様は自分の死が近いことを感じ取り、このまま死んでいくより誰かにスキルを授けることを選んだのだ。誰かにスキルを授ける。それが御遣様の生まれて来た理由だからだ。この世界では『迷宮物語』と違い魔物でさえ意思を持って生きているのではないだろうか?
俺はボスドロップの剣を拾い上げた。
迷宮に配置されているボスモンスターは武器やアイテムをドロップする。ゲームであればよくある仕様だ。よくあるどころかボスドロップがないRPGなんてないだろう。ボスドロップが剣であったことは幸運だ。ゲームでは目的のモノが出るまで何度も周回したものだ。ボスがドロップする武器やアイテムは一般、レア級、伝説級、神話級の4つの等級に分かれている。ただゲームのリリース当時は伝説級までだった。この世界で神話級の武器やアイテムが存在するのかどうかはわからない。
鞘の上から全体の感触を確かめると、ゆっくりと剣を鞘から抜いた。黒に近い紫色をした美しい刀身が現れる。華美なものではなく、とてもシンプルな造形をしている。しかし、そこにはぞっとするような凄みがある。頭の中にこの剣に関する情報が流れ込んできた。
魔剣ソウルイーター(伝説級、特殊効果:HP吸収、補助効果:攻撃速度+5%、攻撃速度+3%)…取得者帰属
なんと伝説級だ! 俺はここでも賭けに勝ったようだ…。
取得者帰属とは俺以外使えないという意味だ。伝説級以上の装備品は取得者帰属となるケースが多い。自分で迷宮を攻略していないのにお金の力で強くなれるのを避けるための仕様だ。ゲーム内においては、取得者帰属の武器を他の者は装備することはできない。だが、現実であるこの世界ではどうだろうか? 他の者が使用しても剣本来の力を発揮することができないとか、そんな感じかもしれない。
それはともかく、この剣は俺が最も欲しかったものの一つだ。この剣の主な効果は相手に攻撃を当てる都度、HPを少しだけ回復するというものだ。『死線』とこれほど相性の良い武器もない。『死線』は一度発動するとその効果は30秒間維持される。その途中でHPを回復しても効果が途切れることはない。
ボスは迷宮の5階層毎にいてどのボスでも全ての等級の武器やアイテムをドロップする可能性がある。しかし、あくまで可能性があるというだけで、深い階層のボスほど高い等級のものを落とす確率が高く設定されている。
まあ、ゲームなら当たり前だ。
10階層のボス程度であればレア級が出れば運が良い。10階層のボスから伝説級がドロップする確率はゲーム通りなら1%もない。神話級であれば小数点の後に0が何個も並ぶレベルの確率だ。前世の『迷宮物語』でそんな事が起こればネットなどで話題になっただろう。
伝説級の武器やアイテムのドロップ確率が現実的なものになるのは20階層のボスからだ。神話級なら30階層からだろう。それですら決して高い確率ではない。それでも、ゲームなら何度でもチャレンジできるから問題ない。『迷宮物語』のリリース時点では迷宮は最高でも25階層までしか解放されていなかったし神話級の武器やアイテムは実装されていなかった。
この世界ではどうだろうか?
現在この世界では15階層のボスまでしか討伐されていない。20階層のボスはまだ討伐されていないのだ。神話級の武器やアイテムを取得した者はいないのではないだろうか? とすれば、伝説級の魔剣ソウルイーターはこの世界最高の武器の一つということになる。
ボスドロップの武器には武器固有の効果(ソウルイーターならHP吸収だ)の他にランダムで最高3つまで付与される補助効果がある。補助効果は1つから3つまでランダムに付く。この仕様のため同じ武器や防具でも能力が異なる。『迷宮物語』にはハクスラ要素もありプレイヤー達は希望の補助効果がついた武器がドロップするまで迷宮を周回したものである。補助効果によっては神話級より伝説級ほうが評価が高かったりするくらい補助効果は重要だ。
そして今日手に入れた魔剣ソウルイーターだが補助効果が2ついている。『攻撃速度+5%』と『攻撃速度+3%』だ。最高の3つではなかったが十分に運がいい。確か攻撃速度の補助効果には1%、3%、5%の3種類があったはずなので、そのうち上位の2つが付与されている。補助効果は全く同じものが複数付くことはない。攻撃速度は『迷宮物語』の中でも特に1対1のPVP(プレイヤー対プレイヤー)を重視する層には好まれていた補助効果だ。
10階層程度のボスから伝説の魔剣ソウルイーターを手に入れることができたのは本当に運が良かった。補助効果も上々だ。ゲームではより厳しい条件でクリアするほど良いドロップ品を得やすいという噂があった。あれは本当だったのかもしれない。レベル25まで上がっていたとはいえソロで討伐したのだから…。
俺はステータスを確認する。
【レオニード・メナシス 14才】
<レベル> 27
<職業> 魔剣士4
<スキル> スラッシュ、二段斬り、ダッシュ、回避、集中、雷剣、死線
<魔法スキル> 雷弾、天雷
<称号> 雷神の守護者
<武器> 魔剣ソウルイーター(伝説級、特殊効果:HP吸収、補助効果:攻撃速度+5%、攻撃速度+3%)
レベルが27まで上がり魔剣士がレベル4になっている。さすがにボスモンスターを単独討伐しただけのことはある。ボスドロップ品の魔剣ソウルイーター も表示されている。これまで使っていた父さんの形見の剣は俺にとっては高価なものだったが迷宮のドロップ品ではなかった。迷宮のドロップ品を装備するとステータスに表示されるってことなんだろう。ただ、いくら魔剣ソウルイーターの表示を頭の中で睨んでみても今表示されている以上の情報を読み取ることはできなかった。武器には攻撃力、魔法攻撃力、攻撃速度、魔法攻撃速度、クリティカル率などの基本的な性能が設定されているはずだ。しかしこの世界ではそれらは表示されないようだ。
それと称号の欄にある雷神の守護者とはなんだろうか? 前世の記憶にもない。頭の中のウィンドウの雷神の守護者の表示に意識を集中する。今度は説明文が現れた。
雷神の守護者…ゴレイア迷宮の初攻略をレベル25以下のソロで成し遂げた者に与えられる。俊敏が常時1.1倍となる。
これは、ありがたい。ソウルイーターの補助効果も合わせれば特に攻撃速度には期待できる。俊敏1.1倍は、一見大したことなさそうに見えるが最終コンテンツがPVPを主体としたMMORPGである『迷宮物語』においてはかなりのアドバンテージである。対人戦ではスピードこそが命だからだ。運営がおいそれとは特定のプレイヤーだけに与える訳にはいかない効果だ。
雷属性の魔法を取得しやすくする目的でゴレイア迷宮が実装された時点では既にほとんどのプレイヤーのレベルはカンストしていた。だからソロでの攻略自体は別に難しくはなかった。だが、レベル25以下で、しかも初攻略でとなれば話は別だ。迷宮物語でこの称号のことを聞いたことがなかったのは当たり前だ。おそらく、この称号は隠し要素的なものだったのだろう。
さて…。
ボス部屋の先に通ずる扉が開いているので近づく。扉の先にある部屋には、何かの遺跡のようにも見える直径が5メートル程もある円形の台がある。近づいてよく見ると台の上には魔法陣が描かれている。
俺が転移魔法陣を見つけた瞬間だった。




