9-11(襲撃3).
「『雷弾』、『二段斬り』、『ダッシュ』、『スラッシュ』!」
「がはぁぁーー!!」
俺は『回転斬り』でフラフラになっていた最上級らしい槍士の男を『雷弾』で硬直させると得意のコンボで止めを刺した。俺は魔法使い系の職らしい女に目を向けた。
「ひっ!」
口から血を吐いて倒れている最上級らしい槍士の男と俺を見比べた女は、背を見せて逃げ出した。残った数人の襲撃者が及び腰で俺を囲もうとしている。こいつらのほとんどは親衛隊じゃない。そこまでの強者には見えないからだ。たぶん、こいつらが本来の襲撃者であるシズメア教の過激派なんだろう。どういうわけか、それにストレイド王太子の親衛隊が加わっているという構図だ。
『迷宮物語』のストーリーからいろいろとズレている。だが、不思議なことにイベント自体は発生している。これまでもずーっとそうだ。これがゲームの強制力なんだろうか?
いや、それよりも…なんだか誰かの掌で踊らされているような気がする…。
「ぐわぁー!!」
叫び声がした方を見ると、アルスがリーダー格の最上級戦士と思われる男に止めを刺したところだった。さすがアルスだ。
「マグナス様が…」
驚いたような声が俺の耳にも入った。よし、いける!
マグナスとやらの周りにいた奴らもサラやシルヴィーの遠距離攻撃で数を減らしている。当然だ。20階層のヒュドラをクリアした俺達のレベルは既に50に近づいている。
「この人達の中に、魔獣狩りの時に見たストレイドお兄様の親衛隊が含まれているのは間違いありませんわ」
「クリスティナ様、ほんとうですか?」とアモスが訊く。
「ええ、間違いありません」
「お兄様、最初からそう言っているでしょう」
「本当に王太子の手の者が……」
アモスは考え込んでいる。
「俺も思い出した。見覚えのあるやつがいる」
そう言ったのは、数人の強者に囲まれた状態から抜け出してクリスティナ王女の前まで移動して来たジギルバルト王国騎士団長だ。
「こいつら全員生きて返すな」
残った親衛隊らしき剣を持った襲撃者の男はそう言いながらも、アルスに押されている。
「よし、お、俺が父上に報告する。もしかしたら陛下を暗殺したのも王太子の手の者かもしれない」
さすがのアモスもやっとそこに気がついたようだ。
癪だが、アモスの言う通りで、まずはサイモン様に報告して、できれば他の4大貴族の協力も得てストレイド王太子をなんとかする必要がある。このままでは父親殺しのストレイドがこの国の王になってしまう。
「よ、よし、もう少しだ。お前ら、早く襲撃者達を殲滅しろ!」
アモスが偉そうに指示を飛ばす。クリスティナ様に恩を売ると同時にサイモン様に早くストレイド王太子のことを報告して手柄にしたいんだろう。
その時、俺は違和感を感じた。そうだ! デイラムがいない。いつも影のようにアモスのそばにいたのに…。
どこだ…。
「ぎゃーー!!!!」
突然、アモスが悲鳴を上げた。アモスの首から血が噴水のように噴き出している。その場に崩れ落ちたアモスの後ろには血の滴る短剣を持ったデイラムがいた。
そうか…デイラムもストレイド王太子と繋がっていたのか…。
俺はデイラムに殺されたのがアディでなくてほっとしていた。もし、デイラムがストレイド王太子の手の者だとしたら最初に口を封じるのはアモスでもアディでもクリスティナ王女でもよかったはずだ。だが、最初に狙われたのはアモスだった。アモスには悪いがこれは僥倖だった。これは俺にも初見では防げなかった。
「デイラム、おまえ、アサシンだな」
「……」
この世界では伝説職は解放されていない。であればイヴィルアサシンではなく最上級職のアサシンだろう。そして、こいつがアサシンだとすると、元『迷宮物語』のプレイヤーだ。しかも、この職を選んでいることからして、PVPの中でもPKを好んでいた奴だ。『迷宮物語』は通常のフィールドでも時間帯や場所によってPKが許されているゲームだった。
そしてアサシンになる条件を満たしているということは…こいつはこの世界でも多くの人を殺している。
「ふっ」
俺は薄く笑みを浮かべた。安心感からだ。デイラムは俺にとって常に不気味な奴だった。だが、正体がわかってしまえば…。
俺達は睨み合った。たぶん、こいつは時間を稼いでいる。あの姿を消すスキルのCTは長い。だが、俺は迂闊には飛び込まない。アサシンには他にも注意すべきスキルがあるからだ。むしろ、それを使わせてからがチャンスだ。
突然、デイラムの姿が消えた。
「みんな集まるんだ!!」
アディ達は一瞬戸惑っていたが、サラが「みんなレオのそばに」と言って俺に近づいた。サラの行動で俺が言った意味が分かったのか、アディ、アルス、シルヴィーも集まった。ジギルバルト団長はクリスティナ王女を馬車の中に押し込んで、自分は馬車の前に仁王立ちしている。
「みんな背中を合わせて武器を構えて防御して」
さらに俺は指示をした。
「あいつは突然現れる。注意するんだ」
みんなの緊張が高まっているのを感じる。もちろん俺もだ。俺は全身の感覚を研ぎ澄ませてデイラムを待ち受ける。デイラムが使っているのは『隠密』というスキルだ。これを使うと姿が消える。『隠密』を強化すると消える時間が延びる。だが、多少強化しているとしても永久に消えているわけではない。そろそろだ…。
サクッ…。
俺の耳はその僅かな音と気配を見逃さなかった。
突然、固まっていた俺達のうちアディの前にデイラムが現れた。手には短剣を持っている。デイラムは、アディが防御のため胸の前に構えている杖の隙間からアディを刺そうとしている。
「『シールドバッシュ』!」
俺は横から『シールドバッシュ』でデイラムを弾き飛ばそうとした。しかし、デイラムはクルリと回転すると、俺の『シールドバッシュ』を躱した。『回避』を使ったのだ。当然、デイラムは硬直していない。
なかなかやる…。
俺はデイラムの方に『ダッシュ』で突進した。
『ダッシュ』でデイラムの目の前まで移動した瞬間、またデイラムが消えた。『隠密』ではない。『隠密』はアサシンを特徴付ける強力なスキルだが、その代わりCTが長い。すぐには使えない。
ガシッ!
俺は振り向いて『ガード』を使ってデイラムの必殺の一撃、おそらく『暗殺剣』を防いでいた。アサシンはサラのような弓士と並んで一撃必殺の技に優れている。なかでも『暗殺剣』は威力が高く、それ以上にクリティカル率が高い。
『回り込み』からの『暗殺剣』、これはアサシンの最も強力なコンボだ。『回り込み』はいきなり背後を取るスキルだ。さっき消えたように見えたのはこれを使ったためだ。『隠密』とならんでアサシン系の職を特徴付けるスキルだ。
アサシンはPKを得意とする職だが、最も重要なのは相手の不意を突くことだ。『隠密』や『回り込み』で不意を突けば格上の相手でも、クリティカル率の高さもあって、簡単に倒すことができる。実際に『迷宮物語』では、名のあるプレイヤーであっても、PKを得意とするアサシン系の職に殺されることはよくあることだった。
だが、逆に正体がバレてしまっては不意を突くことはできない。俺は『隠密』を防いだ後は、次に『回り込み』から『暗殺剣』のコンボがくると読んでいた。アディ達に使われたら厄介なので、『シールドバッシュ』でデイラムを弾き飛ばした俺はすぐに『ダッシュ』でデイラムに近づいたのだ。デイラムは予想通り近づいた俺に『回り込み』を使ってきた。俺は『ダッシュ』を使ったあとすぐに振り向いて『ガード』を使ったのだ。まあ、背中を見せるのは多少勇気はいったが…。
「残念だったな」
俺はデイラムを挑発するように言った。腹が立っていたからだ。デイラムは、さっきアディを殺そうとした。許せない!
「ゴドウィン王を殺したのもお前だな。お前なら警備が厳重な王のプライベートエリアに忍び込むことも簡単だっただろう」
この世界では最上級職のアサシンは知られていない。防ぐのは無理だっただろう。
「だが、正体がバレてしまえば、アサシンはそれほど強い職じゃない。普通に攻撃すればいいだけだ。例えば…こんな風にな」
弓、炎の槍、氷の槍、そして風の刃が次々とデイラムを襲った。アディ達だ。『隠密』と『回り込み』がCTの間に勝負を決める。対アサシンではこれが鉄則だ。
「こいつは俺がやる。みんなは引き続き遠距離攻撃で援護してくれ!」
デイラムはこの場から逃げようとするが、遠距離攻撃を避けながらなので、すぐに俺が追いついた。それでも、ほとんどの遠距離攻撃を『回避』などのスキルも使いながら躱しているのだから大したものだ。おそらく名のあるプレイヤーだったのだろう。
「デイラム、どうしても許せないことが二つある。もちろん、その一つはアディを殺そうとしたことだ。そして、もう一つはアモスを殺したことだ。あいつには俺が罰を与えるはずだったんだ…。『雷弾』!」
バリッ!
俺が放った『雷弾』をデイラムは避けた。デイラムは硬直もしていない。おそらくスーパーアーマー効果のある『ダッシュ』で移動して避けたのだろう。やっぱり、こいつはなかなかやる…だが…。
「『挑発』!」
デイラムは俺のそばに引き寄せられ移動不能になった。デイラムは多くの攻撃を躱すためにさっきから様々なスキルを使っていた。さすがに、もう『挑発』の効果を防ぐことのできるスキルは残ってなかったのだろう。
「『二段斬り』、『ダッシュ』、『スラッシュ』」
俺は得意のコンボを放った。さらに…。
「『シールドバッシュ』、『回転斬り』!」
デイラムを 『シールバッシュ』で攻撃した後、硬直しているデイラムに近づいた俺は『回転斬り』を放つ。
「ぎゃーーーー!!!」
デイラムの悲鳴が響く。アディ達が遠距離スキルで攻撃しようと控えていたが、その必要はなかった。もともとアサシンは『隠密』と『回り込み』を防いでしまえば、それほど恐れる職ではない。耐久力も高くはない。
さて、あとは残った奴を片付けるだけだ。ストレイド王太子の親衛隊だと思われる強者はもう半分も残っていない。しかも、その中でも特に強いリーダー格の奴らは、俺とアルス、それにジギルバルト団長に倒されている。もともとの襲撃者達…シルヴィーの話ではシズメア教の過激派だ…は俺達の相手ではない。
すでに大勢は決している。




