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9-9(襲撃1).

「お母様、そろそろアルメッサー辺境伯領を出ます」

「な、なぜ、こんなことに…」

「お母様…」


 クリスティナの母の実家であるアッパーヒル侯爵家に滞在中、その報せは届いた。クリスティナの父であるゴドウィン王が暗殺されたというのだ。しかも王宮の自室でだ。護衛を務めていた騎士達も殺された。その一人はなんとあのセシル・バークリーだという。


 その報せを聞いた時、クリスティナは体温が急低下するような感覚に見舞われた。王国の北東に位置するアルメッサー辺境派であるアッパーヒル侯爵家の領地とはいえ、この時期はそこまで寒くない。これが血の気が引くってことなの…。ぼんやりとそんなことを考えていた覚えがある。


 馬車はロスノル湖を東に迂回して進む。整備された湖畔の街道に入ると、馬車が立てる車輪の音だけでなく空気の匂いも変わる。湖畔を抜ければ王家の直轄地だ。その時、馬の嘶く声と共に馬車が急停車した。


「前方から馬車が…」


 クリスティナ達が乗る馬車の外から声がした。誰かが馬車で近づいてきたようだ。しばらくすると「サイモン様の嫡男のアモス様です」と護衛を務めているジギルバルト王国騎士団長の声がした。クリスティナが馬車の外を見ると、なるほどクリスティナも面識があるアモスがいた。隣には側近らしい痩せて落ちくぼんだ目をしている男が立っている。珍しい黒髪だ。


「偶々、王都へ滞在中でしたので、地理に明るい私がお迎えに参りました」


 アモスの言葉にクリスティナは頷いた。


「王国騎士団は一緒ではないのですか?」

「この後すぐに参ります。我々の方が一足先に王都を立ちましたので」


 なるほど、クリスティナの父であるゴドウィン王が暗殺され王都は大混乱だろう。そんな中、アモス達はいち早く王妃とクリスティナを迎えるために出立したようだ。これからのことを考えて王妃に恩を売るためか、それともアルメッサー辺境伯の指示なのか…。アルメッサー辺境伯は王族に近い。クリスティナの母である王妃はアルメッサー辺境伯派の重鎮アッパーヒル侯爵の娘だ。


「すぐに王国騎士団も合流するでしょう。それまでは我々が」

「わかりました」


 とはいえ、そもそも王妃とクリスティナにはジギルバルト王国騎士団長を始め優秀な護衛が付いている。当たり前だ。だが、こんなことが起こった以上、護衛が多いに越したことはない。王妃とクリスティナ王女はもともとの護衛にアモス達を加えて王都を目指して移動を再開した。


 だが、それは長く続かず、またもや馬車は停車した。今度は一体何が…。


「襲撃です!」


 馬車の外から緊迫した声が聞こえた後、複数の者が争う音が馬車の中まで聞こえてきた。怒号や剣を打ち合う音がどんどん激しくなる。


「お母様、私も行ってきます」

「クリス…」

「大丈夫です」


 ゴドウィン王が亡くなったことにより王妃の心は弱くなっている。クリスティナとしても母親である王妃を残して馬車の外に出るのは躊躇われたが、クリスティナのレベルは既に27であり、たいていの騎士よりも上だ。それに、外から聞こえてくる声で判断する限り、あまり良い状況ではない気がする。回復役であるクリスティナの出番は多そうだ。


 クリスティナが馬車から飛び出すと、クリスティナの予想通り、馬車の周りには多くの騎士が倒れている。既にこと切れている者もいるようだ。だが…。


「『範囲回復』!」


 クリスティナは倒れている騎士が固まっている辺りに『範囲回復』を使った。襲って来た者は騎士ではない。少なくとも騎士の格好はしていない。一般的な探索者と言ったところだろうか。ただ、クリスティナは彼らが使っている武器や身に着けているアイテムがかなり高価なものであることに気がついた。


「アルバートお兄様…。いえ、ストレイドお兄様の…」


 クリスティナは聡い。だが、どちらの兄の手の者であっても不可解だ。既に父である王は暗殺された。であれば何もしなくても次の王は王太子であるストレイドに決まっている。いまさら王妃やクリスティナを襲う理由がない。それとも4大貴族の誰かが、混乱に乗じて王家を混乱させようとしているのだろうか?


 いや、その可能性は薄い。


 先だっての魔獣狩りで王太子のストレイドが武力の面でも大きな力を持っていると示したばかりだ。シュタイン侯爵家を始めとする地方領主の権力を拡大しようとしている派閥にとっては面白くないだろうが、今、ストレイドに敵対するのは得策でないことは把握しているはずだ。


「ジギルバルト団長!」

「クリスティナ様、ここは…」


 いや、すでに安全な場所などなさそうだ。馬車の中にいれば安全という訳でもない状況だ。数も強さも襲撃者のほうが上だ。今のジギルバルト団長はそれほど多くの部下を連れてはいない。


「『範囲回復』!」


 クリスティナは馬車の周りを守っている騎士達に再び範囲回復魔法スキルを使った。騎士達の顔に赤みが戻り、クリスティナの方を見て軽く頭を下げる。


 バーン!

 ゴゴゴォォォー!


 襲撃者には魔法系スキルを使う者もいるようで、離れたところから攻撃魔法スキルが飛んでくる。このままでは馬車も危ない。


 お母様…。


「『跳躍斬り』、『回転斬り』!」


 ジギルバルト団長が襲撃者が固まっている辺りに飛び込んで『回転斬り』で一度に数人の襲撃者を弾き飛ばした。しかし、全体としては分が悪い。


「きゃあーー!!」


 ジギルバルト団長が馬車の近くを離れた隙に一人の剣士らしき男がクリスティナに斬り掛かってきた。とっさに避けたクリスティナだが、その頬からは血が滴っている。


「貴様、クリスティナ様に!」


 すぐにジギルバルト団長がクリスティナの下に駆け寄ろうとするが、そうはさせないと数人の襲撃者がジギルバルト団長に群がっている。そういえば、アモス達は何をしているのか?


「くそー!!」


 クリスティナの前にいる襲撃者の一人が剣を上段に構えた。クリスティナはとっさに手と杖で頭を守る。だが…そんなものが役に立つとは思えない。


「死ね!」


 バシュ!


「きゃああぁぁーーー!!」


 クリスティナは鋭い悲鳴を上げた。自分が斬られたからではない。斬られたのは、とっさに前に出てクリスティナを庇った護衛騎士の一人だ。ジギルバルト団長が連れてきた騎士達の責任感は強い。


「『超回復』!」


 倒れた護衛騎士にクリスティナが回復魔法スキルを使う。だが、騎士は動かない。一撃で護衛騎士が殺された…。


「今度は逃さん!」


 護衛騎士を斬り捨てた襲撃者は再びクリスティナに狙いを定めて剣を構えた。ジギルバルト団長はまだ数人の襲撃者を相手にしている。しかも一人一人がかなりの手練れだ。さすがの団長も動けない。襲撃者の剣は今まさにクリスティナに向かって降り下ろされようとしている。


 ここまでなのか…。


「ぐはっ!!」


 クリスティナの目の前で剣を構えた襲撃者の男が崩れるように倒れた。見ると首に矢が刺さっている。


「サラ、ナイスだ!」


 声のした方を見ると、レオニードとその仲間のアルスが走って来るのが見えた。


「『炎槍』!」


 バーン!!!


 巨大な炎の槍が襲撃者達の間に打ち込まれた。アデレードだ!


「『跳躍斬り』、『回転斬り』!」


 まるで、さっきのジギルバルト団長の動きをトレースするようにアルスがクリスティナの目の前に飛び込んできた。回転する剣に巻き込まれた数人の襲撃者が悲鳴を上げて弾き飛ばされる。


「クリスティナ様、無事でよかったです」


 クリスティナを庇うように立ったアルスが、少しだけクリスティナの方に顔を向けて言った。


 アルスの言葉にクリスティナはほっとする同時にこんなの反則じゃないと、アルスの一見大人しそうだが意思を秘めた横顔を見た。


「ぎゃー!」

「ぐおー!」

「うわぁー」


 複数の叫び声が聞こえたのでそっちを見るとレオニードがスキルで数人の襲撃者を引き寄せた上、次々に斬り捨てている。剣だけでなく盾を使った弾くような攻撃も挟んでいる。


「『剛射』、『チャージショット』!」

「『炎弾』!『炎槍』!」


 弾き飛ばされた襲撃者にサラの弓やアデレードの攻撃魔法スキルが襲い掛かる。


 その後、アデレードが何か叫ぶと複数の襲撃者達がアデレードの後を追って移動した。その時だった。アデレードを追っていた襲撃者達の周りに嵐のようなブリザードが吹き上がり鋭く尖った氷が襲撃者達に降り注いだ。辺りは襲撃者達の悲鳴に包まれた。


 凄い…。クリスティナは心の中で感嘆した。


 あれは最上級魔法スキルではないのか? ジギルバルト団長が持っている『超炎爆陣』と同じレベルの攻撃魔法スキルだ…。いや、ジギルバルト団長の『超炎爆陣』は見たことがあるが、それよりも威力が高い。普通は威力だけなら炎属性魔法が一番高いはずなのに…。


 あれは、ギルリーム伯爵家のシルヴィアだ。

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