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9-7(神オルデン聖国).

 俺達がいるのは大神殿の最奥にある部屋だ。たぶん由緒あるものであろう絵画やタペストリーなどが部屋の壁を飾っている。俺にその価値はわからない。ここは、ついこないだまでは教皇の部屋だった。今では大聖女の間と呼ばれている。あまり趣味が良いとはいえない豪華な椅子に座っているのは部屋の主である大聖女メアリーだ。その隣に俺は立っている。


「大聖女様、ヴィルトゥオーゾ様、マグブライト一派の残党はほとんど駆逐しました」

「そうですか」


 相変わらずどこを見ているのかわからない目をしたメアリーが大司祭ザカリアの言葉に頷いた。メアリーの美しい銀髪が揺れる。メアリーの髪はもう短髪とは言えないくらいに伸びている。


 俺達が教皇マグブライト13世を排除した後、ザカリアを中心とした反マグブライト派が立ち上がった。当然、武力衝突が起こった。反マグブライト派には俺とメアリーがいるんだからマグブライト派に全く勝ち目はなかった。それにメアリーの見た目とメアリーが使う回復魔法スキルを見た人々の多くは、メアリーがシズメア様から遣わされた大聖女だと認めて反抗を止めた。『迷宮物語』的にいえば、メアリーはレベル50を越えた聖女だ。


 俺がザルバ大迷宮25階層のボスでパワーレベリングした結果だ。


 レベル79で神話級の装備の数々を身に付けた俺にとって25階層のボスなど相手ではない。まあ、メアリーに攻撃がいかないように多少注意は必要だったが、それだけだ。


 だから、メアリーは伝説職の大聖女ではない。だが、メアリーが装備している杖やアイテムは本来まだこの世界には存在しないはずの神話級だ。人々がメアリーを大聖女だと勘違いするのも無理はない。その結果、武力衝突といっても大した死傷者が出ることなく俺達の勝利に終わった。


「これから、この国は神オルデン聖国として、新たな歴史を歩み始めます」と大司祭ザカリアは宣言し、大聖女メアリーを中心とした新しい宗教国家が誕生した。もともとシズメ教の教義には過激な面があった。それが功を奏したともいえる。俺は大聖女メアリーの守り手としてシズメア様から遣わされた存在だと認識されている。


 俺の職は魔王なのだが…。


 まあ、いい。これが、いきなりこの世界に転移した俺に、神が与えた役割のような気もする。


「神オルデン聖国…。それは良いですね。シズメア様もお喜びになるでしょう。それに、コールマン、グレン、シーラも…」


 コールマン達の名を口にしたとき、普段何も映していないようなメアリーの目に一瞬光が戻ったような気がした。


「大聖女様、その…コールマン、グレン、シーラとは?」

「私の仲間達です」

「大聖女様の仲間?」

「ええ、コールマン達3人は私を背教者マグブライト13世の刺客から守って死んだのです」

「なんと!」


 大司祭ザカリアは芝居がかったように大きく頷くと「殉教者ですね。大聖女様を守って殉死するとは紛れもない聖人です。早々に聖人様方の像を大聖堂に建立しましょう」と言った。

「ザカリア、それはいいアイデアですね」


 メアリーはたおやかに微笑んだ。だが、その目には既に何も映っていない。


 間もなく各国に、教皇マグブライト13世の失脚と大聖女メアリーを中心とする神オルデン聖国の建国が伝えられた。





★★★





「ヴィルトゥオーゾそれは何ですか?」

「メアリー、これはファミール王国の貴族から届けられた手紙だ。だが、送り手はその貴族ではない」


 この手紙に送り手として書かれているのは俺には馴染みのある名前だ。それもあって、俺はこの手紙を真剣なものとして受け取った。


「そして大聖女メアリー宛てだ」

「私に?」

「ああ」

「何が書いてあるのですか?」


 俺はメアリーに言われるままに手紙の内容を読み上げた。徐々にメアリーの顔が歪む。ほんの少しだが目に生気が戻っている。


「ヴィルトゥオーゾ、そこに書いてあることは本当なのですか?」

「たぶん」

「そうですか。でしたら、私は行かねばなりません。コールマン、グレン、シーラのためにも、背教者はすべて地獄に送る必要があります。シズメア様もそう望んでおられるでしょう」


 やはり、こうなるのか…。


 なら、俺も行くことになるのだろう…。これが、奴の狙いだとしたら…。いつも通りじゃないか…。俺は、いや、俺達は奴の掌で踊っている。





★★★





 俺達は20階層のヒュドラを倒して、現在は21階層より下に降りてレベル上げをしている。みんなのレベルも順調に上がっている。ここまでくれば、魔獣狩りで見たストレイド王太子…おそらく転生者で『流浪の傭兵団』辺りのメンバーだと俺は睨んでいる…にもかなり追いついてきたのではないだろうか? ただ、あの親衛隊は厄介だ。一人一人のレベルでは俺達がすでに追い抜いているとは思うのだが、あの人数は脅威だ。


「みんな、お、オルデン聖国の…う、噂は聞いた?」

「だから、モズ、食べるか喋るかどっちかにしなさいっていつも言ってるでしょう」


 モーズリーとデラメアは相変わらずだ。


「オルデン聖国は、神オルデン聖国として生まれ変わったらしいわね」

「そうみたいだね」


 ロジャーがアディの言葉に気取った口調で答えた。実際、最近はその噂で持ち切りだ。なんとオルデン聖国に伝説の大聖女が現れたというのだ。そして、その伝説の大聖女はたちまち国の実権を握って新しい国を作ったという話だ。


「大聖女のそばには神から遣わされた守り手がいるとか」


 ステラが真剣な口調で大聖女とその守り手のことを口にした。


「ああ」


 俺はステラに同意しながら、『南斗死星』の拠点での出来事を思い出していた。あの時、俺はヴィルトゥオーゾに訊かれるままに、探索者狩りの黒幕がオルデン聖国だと答えた。たぶん、大聖女はあの銀髪の女性だ。大聖女はメアリーという名前らしい。そして、その守り手とはヴィルトゥオーゾのことだろう。


 俺の一言が歴史を変えてしまったのだろうか? 


 いや、俺が教えなくてもヴィルトゥオーゾならいずれ思い出した可能性が高い。それより、この出来事が俺達に関係してくることがあるのだろうか?


「レオ」


 気がついたらシルヴィーが俺を見ていた。最近はシルヴィーも一緒に昼食を取ることが多い。すっかり俺達の仲間の一員だ。シルヴィーには『南斗死星』の拠点での出来事を話してある。


 アディは俺とシルヴィーを見ている。いつもこんな感じだから、当然アディは俺とシルヴィーに何か秘密があることに気がついている。アルスやサラだってそうだ。そろそろ話す時期だろうか?


「アディ、とにかくみんなで、できるだけレベルを上げよう」


 俺は、つい別のことを話した。ここまできて、我ながら優柔不断だと思う。


「それは、わかっているけど…」


 実際のところ、神オルデン聖国がどう俺達に関わってくるにしても、ストレイド王太子の正体が誰であるにせよ、さらにはインプレサリオ達がこれからどう出てくるにしても、とにかく俺達が強くなるに越したことはない。


 俺は、少し離れたテーブルにいるアルベルト達を見た。シュタイン侯爵派の領地はオルデン聖国、いや神オルデン聖国と国境を接している。今回の件は他人事ではないはずだ。そして、ストレイド王太子が『迷宮物語』の時よりも強い力を持っていることはシュタイン侯爵家を始めとした独立派の貴族には面白くないはずだ。ただ、ストレイド王太子がゴドウィン王の後継者としての立場を盤石にすることで戦乱の時代になることが避けられるのなら、それはそれで良いことなのかもしれない。


 だが、それならジギルバルト団長が闇落ちするのを防ぐ必要がある…。俺は今度はクリスティナ王女のいるテーブルを見た。


 俺のすべきことは何か? 


 慎重に考える必要がある。その時はそう思ったのだが、この世界の神は俺にそんな余裕を与えてくれなかった。

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― 新着の感想 ―
今更ですがヴィルトゥオーゾさんだけ転移なのは何か理由があるのかな? 職が魔王なのが関係あるのか否か。
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