証
あれから三日ほど歩いた。その人がいるのは都市といっても目覚めた場所ほどの大規模都市ではなく、離れたところにある小さな都市らしい。実際、あそこほど高い建物は多くなかった。
そして、そんな都市の入り口に丸太のログハウスのようなものがあった。
「着いたよ。」
「長かったぁー。」
「まぁずっと歩いて三日だもんね。慣れてないと疲れるよ。」
そうシロは苦笑して、家に入っていった。
家の中にはパンやランプ、缶詰に小物。そして、
「...機械?」
棚の上には機械が置いてあった。といっても、自分が既視感を覚えるものは何一つ無かった。
「ああ、その人は造ったりするのが大好きな変態だから。」
「誰が変態だって?」
カウンターの奥の扉から、その人は来た。薄い紫の髪と瞳をした女性で、同じ身長なのに大人びた雰囲気があった。
「やあ、久しぶり《《ミール》》。」
彼女──ミールは穏やかに微笑んだ。
「それで、アレは整備できた?結構ガタが来てたと思うけど。」
「ああ、特に問題はなかったさ。ただ、」
ミールは血管をピキピキさせながら拳を震えさせていた。
「何をどうしたらああなるんだい!?車輪は歪んでるわエネルギー回路は派手に弾き飛んでるわで目茶苦茶だったよ!?もっと大切に──!?」
「あーもうわかったから。」
「絶っ対わかってないよね!?これで何回目かわかってるのかい!?」
めっちゃ仲よしだ。というかシロってそんなに物壊してるの?何やってるの?
「はぁ、全く...。それで、その子は誰なんだい?見かけない子だね?」
言い合いは終わったようだ。あの状態だといつまで続くかわかんなかったけど以外とあっさりだ。いや、シロがやらかしすぎててもう怒りを通り越して呆れているのか。
「うん、この人はレイだよ。例の都市で会ったんだ。」
「都会でかい?珍しいね。」
ミールは微笑みながら手を差し出したので、手を握った。
「私はミールだよ。ここで質屋兼発明をしてる。」
「はい、よろしくお願いします、ミールさん。」
「あー、敬語もさんも要らないよ。そういう堅っ苦しいのはきらいなんだ。タメでいいよ。」
「そうです...そうなんだ、わかった。よろしくねミール。」
よろしく、そうミールは返してくれた。この人微笑むとさっき言い争ってたとは思えないほど柔らかい印象があるんだよね。おしとやかというかなんというか、気品が少しある感じがする気がする。
「発明って何を作ってるの?」
発明...ということはさっき見ていた機械とかは全部この人が造ったってことになる。凄いな。
「んー、まぁ色々さ。大きいものから小物とか色々。なにか気になるものでもあるのかい?」
「いや、少し気になっただけ──。」
ふと、目に入った物があった。ミールがいるカウンターにのっている。あれは──。
「マフラー?」
そこには、赤色の長いマフラーがあった。綺麗に畳まれており、大事にされていたことがわかる。
ミールに視線を戻すと、彼女は驚いた表情をしていた。
「...あれが、気になるのかい?」
一つ一つ言葉を絞り出すようにそう言った。
...あれ、なにか不味かったかな?
「うん、なんというか、目が離せないというか、」
あれには、なにかを感じた。うまく言葉にできないけど、大切なもののような、懐かしいような、まるで、
「もともとそれを見たことがあるような気がして。」
「──そうかい、じゃあ、ちょっと着てみるかい?」
「え、いいの?」
明らかにおいてある場所、雰囲気的に商品とかではない。それを試着させてもらえるなんて。
「ああ、いいよ。ちょっと待ってな。」
そう言い、ミールはそれを持ってきた。それは鮮やかな色味で、巻いても腰より長くなりそうなほどの長さだ。それを試着させてもらった。
「レイ、やっぱ似合うね。」
「だねぇ。」
「...そういえば、自分の姿見たこと無いんだけど、どういう容姿なの?」
いまっさらだけどそれに気づいた。服はブカブカのワンピース?のような白い服に黒い短パンなのは確認していたけど、容姿は見ていない。まぁ鏡がなかったからしょうがないか。
「鏡ならそこにあるから確認してみな。」
ミールは部屋の端にある姿見を指差した。姿見の前まで来た。
そこには黒髪黒目をした自分がいた。
「自分の姿ってこんな感じなんだね。」
「そうだったね、確か記憶が無いんだったね。」
すると、シロが首もとを指差した。
「レイ、ちょっとマフラー重ねてるところに手を入れてみて。」
「?いいけど、何がある──え?」
手を入れてみると、すっぽり腕が入っていった。首に触れている感覚はなく、空間が広がっていた。
「どうなってるのこれ?」
明らかに化学的じゃないけど、もしかしてこれが魔法なのかな?!
「そこにスペースがあってね、色々物を入れれる優れものさ。といっても、入る量には限りがあるんだけどね。」
へー、ものすごく便利だ。つまりこれさえあればシロが持っていたリュックと合わせれば二倍以上の物を運べるということ。しかも手が空いた状態でだ。
「...よかったら、そのマフラーあげるよ。」
「え、いいの?」
「知り合った記念だよ。それに、自分が持っていても使ってあげられないしねぇ。だったら旅人にあげた方がいい。」
「そっか、ありがとう。」
このマフラーは大切にしよう。この世界で、はじめてもらったものだし。
「あー、それで、ひとつお願いがあるんだけど、いいかい?」
「お願い?ミール珍しいね。何かあった?」
「ああ、ね。」
そう言うと、ミールはにっこりと笑った。
「ここの都市...ミカエラの探索をお願いしたいのさ。」