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第3話 なんかちょっと楽しくなってきた感じ!

「気分はどうだい?」

「最悪ですよッ‼」


 草原を抜けた先の森の中、私は叫んだ!

「いくら助けるからって言って、こんな森の中まで逃げなくても良くないですかっ⁉」

 木々に囲われ、時折バサバサと鳥の羽ばたきや、風のざわめきでソワソワしてくる。私は都会人なんだ、こんな草木の匂いは慣れてないし、不気味で怖くなってくる。

「そうは言うけれど。ではどうすれば君は納得してくれたと言うんだい?」

「普通に街降りてれば良かったじゃないですかっ!」

「僕はね。人混みは苦手なんだ」

 知るかー!

 なんか、疲れてくる、この人と話すの。ずっと飄々としてて、スナフキンじゃないんだから。

「はぁ……もういいです……助けてもらったのはありがとうですけど、これ以上はもういいです……」

「……、行くあてはあるのかい?」

「……」

「この森はね。僕の秘密基地のようなものさ。隠れ家と言ってもいい。この森のことなら、僕はなんでも知っている。だから安心してくれていい、僕に着いてきてくれれば、君を望む場所へと案内しよう」

 ……ますますうさんくさい。

「光栄だね」

「心を読まれたっ⁉」

「君は結構表情に出るタイプのようだね」

「だとしてもでしょ今のは!」

 ふぅ、流石にツッコミ疲れた。もういいやと思って、制服姿のまま地べたに座り込んだ。

「さて。君も少し疲れただろう。休憩がてら、自己紹介と行こうじゃないか。僕はフィル・テスティ。気軽にフィルと呼んでくれ、仔猫ちゃん」

 フィルと名乗った男の人も、私と少し距離を離して座り込む。

「やめてくださいその呼び方。私にも、門若……ユウカ・カドワカって名前があるんです!」

 あえて、名前を逆にしてやった。せっかくの異世界っていうんなら、少しくらいカッコつけたいよね!

「そうかい。ユウカ……ここらじゃ馴染みのない名前だ、かわいらしくて僕は好きだよ」

 気軽に女の子に好きとか言うの、ホントにやめた方がいいと思います。

「にしても。さっきの人たちは、ユウカの知り合いなのかい? やけに固執していたようだけど」

「違います。あの人たち、私を誘拐しようとしてたんですよ! ってか実際されましたし!」

「そりゃまた、物騒な話だ」

 私の話に耳を傾けながら、フィルは肩をすくめてた。

「けど、ここらじゃよくある話だよ。あまり気に病む必要はないさ」

 あっさりとした口ぶりでフィルは、ふっと遠くを見つめてるけど、私の場合ちょっと事情が違うんだよなぁ。

「いや、そもそも私この世界の住人じゃないですから」

「……、なるほど、それもまた、()()()()()()

「え……」

 その反応は、私の予想と全然違ってて。

「見たところ、君の服装も、この地域のものではまるでないね。とても不思議な格好だ。うん、僕は好きだけどね」

 淡々とフィルは、〝以前にも同じ事例があった〟ような言い方で。

「君の疑問に、少し答えようか」

 私が黙りこくってるのを見て、何かに気付いたフィルは、それでも眠そうな目でつらつらと語るのだ。

「たまにね、〝迷い猫〟が遊びに来るのさ、この世界に」

 迷い猫。そう表現するフィルは、少し上を見上げて、何か別の景色を見ているようだった。

「君のように、訳もわからないまま、何も知らないまま、この世界にたどり着く。漂流者と言い換えてもいいだろう。不安、期待、錯乱。色んな感情を抱える人が、今までにも何度か来た。当然だろうね、僕だって、君たちの言う異界ってやつにたどり着いたなら、同じ反応をするだろうさ」

 飄々としながら、目を細めて言う。

「それから、勢いで飛び出してそのまま帰らない人も幾らかいたね」

 ひいぃ。物騒!

「ああ、だからこそ安心してほしい。僕は君たちのような迷い猫を導く存在だと思ってもらって差し支えないよ」

「……ホントいちいちうさんくさいなぁ」

 くすっと、小さく微笑むフィルの顔は、年相応の柔らかさがあって少しドキッとする。年わかんないけど。

「さて。長居はあまり好みじゃないんだ、そろそろ出発しよう。追ってきてたらユウカも困るだろう?」

「あ、うん……」

 立ち上がり、紳士っぽく手を差し出してくれた。まだそこまで気を許した覚えはないけど。

 なんとなく、手を取りたくなった。

「……柔らかいね」

 バシッ、とすぐに払いのける。感想を述べるなっ!

「くふふ、元気が出たならなによりだ、さあ、行こうか」

 そう言って歩き出す彼の後ろに、私は慌てて付いていくことにした。そうするしか、道がなかったから。



 木漏れ日がほどよく私たちを照らすこの森は、一体どこに通じてるんだろう。時折さわさわと流れる風が少し気持ち良いけど、それで不安が消える訳じゃない。

 フィルに聞いても、

「この森はね。人によっては行く手を阻むし、また人によっては、救いの道になるものだよ」

 と要領を得ない回答だった。

「だから、僕がいるのさ」

 と微笑みかけるフィル。

 それ以上、森の話はしないことにした。わからないことだらけってのもあるけど……フィルの背中があるだけで、なんとなく安心出来たから。

 森を歩いている間、私はフィルに話を振った。

「そういえば、さっきの、なんだったんですか?」

「うん?」

 風になったみたいに、びゅーんって飛んだ、あの妙な技。もし私の期待している答えだったらと思うと、ワクワクが止まらなかった。

「ああ、あれかい? おそらくは、ご存じかな? 〝魔法〟だよ」

 キター!

「や、やっぱり! この世界、魔法があるんですね⁉ ってことは、私も使えるようになるのかなぁ⁉」

「……そうだね、魔法を適切に扱うなら、まず行くべきところがあるだろう」

「……! それって……!」

「それも、期待通りだと良いけれど。〝ギルド〟だね」

 キタキタキター! 典型的テンプレ異世界だ〜!

 最近読んでた漫画とかでも、そういう異世界ものはよく見る。私の場合は、いわゆる転移ってやつだろうけど。

 だけど。やっぱりワクワクする。

 魔法! 冒険! ダンジョン探索! 憧れるなぁ!

「くふふ、喜んでくれているようでなによりだけれど。……ただ、1つ、注意は必要だ」

「注意?」

「君は──ユウカは、女の子だ。それも、まだ年端もいかない……ええと、……処女?」

 バシン! 頭を叩いてやった。思わず私の顔が熱くなる。

「女の子にそういう話するの禁止です!」

「あぁ、済まない……でも、必要なことだから……」

 愛想笑いで乗り切ろうったってそうはいかないから……!

「……こほん。話を戻そうか。生娘、なら良いかな? そういう子は往々にして、〝そういう目〟に合うことがザラにある」

「……、それって」

 背筋がゾワッてする。フィルは気を遣って「……答え合わせは不要だね」と言葉を濁してくれた。

「まぁつまり。注意しなければならないことは、いわゆる男性冒険者のそれよりも多いという訳だ。ギルドに入って、〝冒険者登録〟をするというのは、自分の身を自分で守る責任があることが大前提になる」

 ……そっか。

 ワクワクだけじゃ、難しいよね。

「……済まないね、楽しみを削ぐつもりではなかったんだ。……だけれど、必要な話だ。特に、君はまだ若い」

「……若い若いって、フィルさんだって若いんじゃないですか?」

「こう見えて、成人済みだよ」

「嘘ぉ!」

 見えない! 背も私と同じか少し高いだけなのに!

「僕は昔から人より小さいとバカにされていたからね」

 気にしてたみたい! ごめんなさい!

「ふふっ、まぁとにかく。浮かれるのもいいけれど、少し慎重でいる方が長く生きられる、という話さ」

「なるほど……」

 このフィルという人について、わかってきた事がある。

 結構、頼りになる。それも、私みたいなメンタル気弱JKでも気を許せるほど。

 大人だからか、と納得もした。

 恵まれてるな、と思った。だって、何もわからないまま迷い込んだ世界で、初めてあった異邦人がこの人で。……もっと言えば、あの誘拐犯さんたちみたいな蛮族に会っててもおかしくなかったんだ。

 なんとなく、私は感謝を伝えたくなって。フィルに声をかけた。

「……私、フィルさんに会えて良かったです」

「光栄だね。僕も、君のようなかわいい仔猫に会えて嬉しいよ」

 ……そういうキザなとこさえなければなぁ。

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