第1話 なんかヤバい感じ……?
私、門若友歌! 16歳! 趣味は音楽を聴くこととか、友達とお喋り、オシャレなカフェ巡り! あと、ゲームも!(下手だけど!)
今日はたまたま、友達が忙しいみたいだったから、呑気に一人で帰ったら──びっくり! なんか怖いおじさんが二人、私を車に連れ込んじゃった! 何これスゴイ、ドラマみたい! こわーい。
こわーいじゃないよっ‼ え、ホントになんなの⁉ これって現実⁉
「こらこら嬢ちゃん暴れんじゃねえよ、せっかく大事な顔に傷がついちゃうよ?」
わお、絵に描いたような悪人面。そして台詞。たまげたね。ナイフをチラつかせて私を脅してきたんだ。
キラッと輝く銀色が。それが本物だって、訴えていた。
「……あ、あの、私をどうするつも──んぐっ⁉」
「はーい、あんまり声出さないでねー、バレるとマズイからさ」
怯える私にそう言って、もう一人のおじさんが私の口に何か入れて、さらに顔にガムテープまで貼るんだ。止めてよ、喋れないじゃん!
「んー! むうー!」
もちろん抵抗したよ? でも、男二人に、何の力も持たない女の子が適うわけないよね。結局縛られちゃって、身動き取れなくなっちゃった。
「んっ、んぅ! ん……」
しかも、なんなのこの縄さばき、やけに凝った縛り方だし……変な趣味じゃないといいけど。
「これからちょいと、長ーいドライブなんでね。疲れないような縛り方にはしてあるから、安心しな?」
わあい、それなら安心、
出来るかッ‼ そもそも縛んなよ⁉
ってか、これもしかしなくても誘拐だよね? 嫌だよ、助けて! 誰かー!
「むー、むぐー!」
「はっ、元気な嬢ちゃんだ。だが、あまり騒ぐと、これだぜ?」
またナイフをチラつかせた男の人。声も上げらんなくて、不安でいっぱいになる。車は走り始めちゃって、もう逃げ場もない。これから私、どうなっちゃうんだろ……。
すると。男の一人が私のカバンを漁り始めた。こ、今度は何……?
「嬢ちゃんスマホあるかい? 君のスマホ」
あ、たぶんこれ、身代金誘拐ってやつだ。今どき非効率じゃないかな、そんなやり方。
従わないと、きっと殺されちゃう。私は仕方なく、制服のポケットにしまっていたスマホを、
「……んん」
と後ろ手で指差す。
「おお、そこか。サンキュ」
なんか撫でられた。気持ち悪いなあ。
そして、今度は生体認証。隙をついて警察に通報でも出来たらよかったんだけど。
……無理だよね。震える手で、私はスマホに指を置いて、ロックを解除するしかなかった。
「うし、解除完了。お疲れさん」
誘拐犯さんは私のスマホを得意げに操作して、どこかへ電話をし始めた。スマホ越しに、お母さんの声が聞こえてきて。
堪らず、涙が出た。
「んんー! んんーんー!」
名前を呼ぼうにも、塞がれた口じゃどうにもならない。むしろ逆効果。異常な事態なんだって、お母さんは思ったみたいで、
『友歌!? 本当に友歌なの!?』
と叫ぶ声が聞こえる。
「そういうこと。ああ、言っとくけど、警察には言うなよ。バレたらこの娘がどうなるか、わかんだろ?」
話は進んでって、身代金の要求額を請求してた。どうしよう、私のせいで……。
声を出すことも、逃げることも出来なくて、不安で固まった。今出来るのは、この人たちを刺激しないことだけだった。
「うっし。後は、時間の問題だな」
「ご苦労。ほんじゃ、飛ばしますかね」
どこに行くんだろう。どんどん山奥になっていく。知らない景色が、どんどん過ぎ去っていった。
どのくらい経ったかな。
不安が続きすぎて、逆にうとうとして寝ちゃってて、よくわかんないや。
ぼんやりした目で外を見ると、なんだかやっと、開けてきたところに出ていた。雑木林ばっかりだった景色に色が現れたみたいで、一瞬目が眩んだ。
そこで、目にしたんだけどね。
女の子の夢を叶えたような、おっきなお城をさ。
わー、すっごーい、お城だあー!
って! んな訳あるか‼ これラブホじゃねーか‼
なんかで見た事あるよこういうお城のピンクなお店! 女子高生ラブホに連れて来るとかコイツらホント……クズか! ……クズだったわ!
「とうちゃーく」
「ん、ああー。やっぱ遠いわここ」
「しゃあねーだろ? ここが一番、バレにくいんだからよ」
「ちげぇねぇ」
そっか、ここがこの人達の根城なんだ。……趣味悪すぎ。
当然ながら、というか、ここは既に廃墟と化してて寂れてた。なんか、怖いかも。
「そんじゃ、嬢ちゃん下ろすか」
え、私も行くの?
縛られたままの私を抱えて、二人は車を降りてそのお城に向かってく。ねえ、せめて縄ほどいてよ! どうせこんな山奥から逃げらんないんだから!
そんな抵抗も虚しく、私は抱えられたまま廃墟へと踏み込んでいった。
廃墟の中は埃っぽくて、老朽化して崩れた瓦礫が積みあがってて、とても住めたものじゃなかった。なのに2人はどんどん進んでいく。
「えーっと、確かこの奥の……」
「どこでもいいだろそんなん」
「ダメダメ、俺のポリシーなのよ」
よくわからないポリシーだなぁ。
「よくわからんポリシーだこと」
初めて誘拐犯さんと意見が合致してしまった。いらないよそんな共有。
そうして、ようやくたどり着いたのは、言っていたその部屋だ。私はなんとなく、彼の言うポリシーの理由に気付いた。
廃墟になってるこのラブホの部屋。部屋の扉はほとんど壊されてて開かないか、そもそも扉がないことが多かった。なのにその部屋にだけ、壊れていない扉が付いてたんだ。どうせなら一番綺麗そうな部屋で。たぶん、そういう考えなのかな?
「ここが、俺達の部屋」
「ま、なんでもいいけど、早く休もうぜ」
「おーけーおーけー、そんじゃ」
と、扉に触れた、ひょろっとしてる男の人が、
「いたッ! はぁ?」
何かに弾かれたように仰け反って、首を傾げていた。
「なんだよ、早く開けろって」
「あ、あぁ……。なんだ? 静電気か?」
私はよく見えなかったけど、扉に何か不思議な紋様が浮かんでるのが見えた気もして。
どことなく、奇妙な違和感があったんだ。
「……気のせいか。んじゃ、改めて、」
そして、その扉を開け──。
開けた先は、廃墟のラブホテルなんかじゃなかった。
「え?」「は?」「むぅ?」
地面には、辺り一面に草原が広がり、風に吹かれざわざわ揺れていた。
空は、眩しいくらいに晴れていた。堪らず目を細めると、赤い……月? が、その隣にあるのもわかった。
不思議な感じだった。
草原の奥を見下ろすと、壁に囲われた集落が見えた。それで、おそらくここは山なんだろうと推測が立った。
……なんで⁉