4話【自惚れ】
「ちょっと話そうぜ。」
僕は公園のベンチを指した。たったこれだけの誘いだが、僕のありったけの勇気を出して上ずりそうな声を抑えて言った。
「うぅ、寒っ。」
流石12月だ。マフラーを巻いているとはいえ止まると体が冷える。僕はポケットからカイロを取り出し、彼女へ投げた。
「ちょっとはマシになると思う。」
「ありがとう…て、なんでちょっと離れてるの?」
「誰かに見られたら小白が困るだろ。」
「あぁ、たしかに。やっぱり神田くんって…。」
「なんだよ?」
「なんでもないよーう。」
彼女は笑い、少し元気を取り戻したように思えた。そして彼女は話し始める。
「上手くいって無いわけじゃないんだよ。」
「うん。」
「ただ最近、渚くん友達といる事が多くて。あまり一緒に帰る事も少なくなったし、私といるのつまらないのかな〜なんて考えたりするだけ…。」
僕は初めて彼女の口から月城の話を聞いた。彼女が渚くんと呼んでいる事。一緒に下校していた事。愚痴に被せた不安な心。
知らない事だらけだ。それなのに僕は彼女の事が好きだなんて。一体何を見てどこが好きなのか、僕は未だ答える事が出来ない。急に自分が小さく惨めに思えてならなかった。
「なんか私だけが好きなのかな〜とか、思ったりしなくもなくもないんだよね。」
「どっちだよ。(分かっているつもりではいたけど本人から好きって聞くと結構ダメージあるな…)」
「そんな事をうじうじ考えちゃうってだけなんだけどねー。」
「別に変な事じゃないだろ、小白が真剣に向き合ってるって事だろ?俺は素敵だと思う。それに月城は友達も小白と一緒ぐらい大事にしたいんじゃないかな。」
「そうなのかな。神田くんって渚くんと仲良かったっけ?」
「仲良くはないけど、男だからな。何となくわかるよ。(本当は全く分からねぇけど…)」
「アハハ、ホントに〜?じゃあちょっと愚痴とか聞いてもらおうかな。」
「吐き出すと楽になるかもだし聞くよ。」
僕は少し呆れた表情を見せた。
(どんな地獄だよ、ちょっとは期待してたのになあ。月城の事めっちゃ好きじゃねーか。こんな事なら大人しく帰ってれば良かったぜ…)
それから彼女は口では悪くいいながらも、楽しそうに月城の話をする。
「(あぁ、やっぱり。聞くんじゃなかった。)」
こんなにも真っ直ぐに喜怒哀楽の全てを向けられるあいつが素直に羨ましいと思った。彼女にとって彼氏というのは特別なのだと改めて実感させられた。僕は何を思い上がっていたんだ。「俺なら彼女にこんな顔をさせない。」だと?「こんな顔をさせられない」の間違いだろ。2人で築いてきた時間、想い、その全てが僕を否定している様だった。僕は月城の土俵にすら上がれていないと痛感した。
なのに、どうしてだろう、こんなにも心が痛いのに、苦しくて辛いのに。
月城の事を話す彼女は今まで見てきた中で1番可愛いと思ってしまった。
「ん、結構暗くなってきたね。」
「そうだな。そろそろ帰るか。」
結局、僕は惚気を聞くはめになってしまった。
(ほんと、心配して損した。大人しく帰ってればこんなにへこむ事もなかったのにな。)
「神田くん、ありがとね。話聞いてくれて。」
彼女は少し照れながら笑顔をみせる。
「気にしなくていいよ。(くそ、その顔はズルいな。嫌な気持ちを帳消しにしやがって。)」
「あれ、そーいえばおつかい頼まれてるんじゃなかたっけ?」
ニヤニヤと意地悪そうな顔がこちらに向く。
「うるっせぇ、じゃあな!」
「うん、またね〜。」
別に何が変わった訳でもない。彼女は月城を好きだったし、僕は全然意識してもらえていないし。帰り道に少し話した程度だ。それでも、僕の胸は満足感やら幸福感でいっぱいになっていた。
(けど、俺は結凪とどうなりたいんだ。勿論好きだし付き合いたい。けど結凪は月城の事が好きで月城と付き合ってる。それを見守るなんて普通に嫌だし耐えられない。じゃあ奪い取る?いや、それはあまりに結凪が可哀想だ…諦める…しかないのかな。)
恋、つまり好きという感情は不思議だ。何がとか何処がなどと聞かれても明確に答えが出ない。現に僕は彼女の事をほんの少ししか知らないのに"好き”という感情を抱いている。曖昧で意味も意義も無いはずなのに、それが僕の原動力であり更には生きている理由とさえ錯覚させている。
「あーあー、俺の事好きになってくんねぇかなー」
帰り道僕は1人で叶うはずのない願望を呟いた。
僕は帰宅し、またメッセージを確認する。
「え、なんで分かったんだよ、」
僕は鈴華からのメッセージに驚きを隠せなかった。
「晴空の好きな人ってもしかしてユナちゃん?」
(どうしよう、素直に答えるか。いや、絶対からかわれるし第一彼氏がいる子を好きってどんなんだよ。引かれる可能性もあるな。でもなんで分かったんだろう、俺の中では冷静に振舞ってるつもりなのに。顔に出すぎてるのか、だとしたらヤバいな気をつけなければ。てか今は返信だ!なんて返す?くっそー、こうなったら…)
僕は無視した。これが最善な選択だ。異論はない。




