3話【よく笑う女の子】
「ユナちゃん!久しぶり!」
「知り合い?」
「うん、1年の時一緒のクラスだった小白結凪ちゃん。今は隣の4組にいるよ。」
「そうだったんだ。小白さん初めまして!島和斗、カズって呼ばれる事が多いよ。」
「初めまして、私は水瀬夏奈です。」
「カズくん、夏奈ちゃん、よろしく!」
「入学式か。」
「おっ、神田くん今日も無気力だね〜。」
「今日も楽しそうだな小白。」
と、いつものように彼女は僕をからかってきた。しかし、僕が彼女の前でもテンションが低く、無気力なのは普段とは別の理由だった。普段は疲れるだとか、落ち着きがないと思われるのが嫌なのだが、彼女の前だと好きな事がバレないようにとか、落ち着いている方がかっこいいと思っているからだったのだ。そんな態度とは裏腹に僕の心はひどく乱れていた。
(結凪としゃべれた!嬉しい。今日はツイてるぜ。いや待て、顔には出ないように気をつけろ)
「それより、ユナちゃんどうして5組に?」
「そーだった!私神田くんに用があったんだ。」
「え、俺?」
(は、俺に用って何だ。てっきり鈴華に用があるんだと思ってた。)心臓の音が聞こえてきた。
「今日、体育館使用禁止だってさ。」
「えっ、?」
「男女共に外周ランニングらしいよ。めんどくさいよねー。」
「(なんだ、そんな事かよ。)」
「え?何か言った?」
「あー、いや!マジめんどくせえな。」
(くそっ、さっき恋バナとかしてたから余計に何か期待した。)それでも僕は彼女と話す内容がどれだけつまらない事でも楽しいと感じていた。
「神田くん達は何の話してたの?」
「俺たちは…」
「恋バナ!してたんだよ。」
横から鈴華が割って入ってきた。
「なにそれ!面白そう!」
「丁度、晴空の番だったよね。」
(げっ、そうだった!)
「へぇ、せっかくだし聞いてくよ。」
「なんでだよ、ニヤニヤすんな。」
「ハルの好きなタイプかぁ、俺も気になるな。」
「私も知りたい。」
「カズと水瀬まで…」
皆の視線が僕に集まる。僕は顔に指を当て、目線は様々な所に飛ばしながら言葉を置いた。
「よく笑う女の子…かな」
「……」
「(ん、なんでみんな反応しないんだ?)おい、なんか言えよ」
「いや、素直に答えると思わなくて。」
鈴華は驚きと少しの疑問を含んだ表情だった。
「たしかに、ハルは上手く誤魔化してくると思った。」
カズは嬉しそうに笑っている。
「私てっきり女の子に興味がないのかと思ってた。」
水瀬は感心した様子だ。
「はいはい、どーせ俺は無気力な適当人間だよ」
僕は不貞腐れながらそっぽを向いた。
「(なんだよ、人が真面目に答えたのに…)」
「アハハっ、女の子までつける所が神田くんらしいね。ちなみにそれって誰かの事だったりするの?」
小白結凪はニヤニヤしている。
「は?そんなの…(お前しかいねーだろ)」
キーンコーンカーンコーン
昼休み終了のチャイムが鳴る。
「あ、私そろそろ戻らないと。」
「えー!もう!ユナちゃんまた話そうね!」
「うん!神田くんもまた部活でね!」
「おう。」
僕は彼女と話せた高揚感に当てられて、意識がどこか遠くにあって、その後なんて何も手につかなかった。ただ漠然と幸福感に包まれ、ただただ嬉しい気持ちでいっぱいだった。
部活も終わり、男バスの仲間といつも通りのくだらない話で盛り上がっていた。部室を出ると丁度女バスも下校する所だったみたいだ。
「男子も今終わり?」
「おう、同じメニューだったしな」
僕は後ろの方で会話を聞きながら、一緒に帰る雰囲気か?など考えていると、誰かに肩を叩かれた。
「お疲れ〜、今日はよく会うね。」
「小白か、お疲れ。昼は巻き込んでごめんな。」
「全然!恋バナ楽しかったよ。…ところで神田くんって好きな人とかいるの?」
「は?い、いねぇよ。」
「(びっくりした。結凪のやつ急にどうして俺の好きな人なんか。)」
「そーなの?てっきりスズが好きなのかと思った。」
「なんで鈴華?」
「なんでって、2人仲良いしそれによく笑う女の子ってイメージがぴったりだからだよ。」
「もう俺のタイプは忘れてくれ。」
「忘れないよー、神田くんの女の子の好みなんてレアだからね。」
「またからかいやがって。」
「ホントだってば、神田くんの事気になってる子少なくないんだよー。」
「え、マジで!?」
「(なんだよ、最近嬉しい事続きだな。まさかモテ期ってやつが来てしまっているのか!)」
僕は彼女が好きだが、他の女の子から少なからず好意を向けられるのはとても嬉しい事なのだ。
「嬉しそうね。男子って好きになってくれる子なら誰でもいいわけ?」
彼女は少し呆れた様子で僕に言った。
「(ついはしゃいでしまった。)そんな訳ねーだろ、てかそっちはどうなの?順調?」
聞きたくないのに、知りたくて聞いてしまう。理由や意味なんて無視して行動してしまう。全く不可解なことばかりだ、この好きって感情は。
「うーん、どうなんだろうね。順調だと思うよ。」
なんとも歯切れの悪い返し方をしてきた。
「(なんだ、あまり上手くいってないのか。まぁ上手くいってないなら俺にとっては好都合だな。)」
「思うってなんだよ、自分の事だ…ろ…」
冗談っぽく発しながら、彼女の顔が曇っている事に気がついた。
「月城と何かあった?」
「別に何も無いよ。」
彼女は平静を装い、悲しげな笑顔でそう放った。
「ハルー!帰ろうぜー」
「……」
「…?帰らないの?」
「ごめん!俺母さんに買い物頼まれてたから今日こっちだわ!」
「そっかー!じゃあまたなー!」
「おう!また明日!」
下校道が1人違う彼女とおつかいを頼まれたと言った僕は校門で男バス女バスの皆と解散した。
「…なんで?」
「別に、なんとなく。(ほっとけるわけねえだろ、くそ月城のやつ。俺ならこんな顔させねえのに。)」
彼女と月城の関係の悪化なんて僕にはなんの問題もない。むしろ都合がいいまである。だから勘違いしないで頂きたい。別に聖人主人公様になったわけではない。ただ、彼女が悲しんでいるのが気に食わないだけだ。




