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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第77話 【Side:エルフ】東の賢者

西方エルフ国家。

それは対外的に国という体をなしてはいるものの、その実態は過去数千年に渡って一度も人や魔族の手の入ったことのない広大な原生林だ。


その国を中心点で縦に半分に割った東側の方、そこに巨大な " 世界樹 " はある。その何百万本と伸びるであろう枝葉を周囲へとドーム状に広げてできているのは一つの巨大な緑の空間。そこが、西方エルフ国家の東側に所属するエルフたちが暮らす集落であった。



「──失礼いたします」



その集落の中心点……世界樹の幹にポッカリと空いた広く深い洞。その中に造られた広間へと一人の男エルフが立ち入った。

奥には横一列に並ぶ十人の女のエルフたちがいて、その中央には厳かな玉座。男エルフはその正面でかしこまって膝を着く。



「ご報告いたします。魔国幹部ウルクロウを孤立させることに成功いたしました」


「フン、脳筋のバカめが、ようやく釣り餌にかかったか」


「はっ、ひとえに " マロウ様 " のご洞察に富んだ作戦のご立案と、その卓越したご指揮のたまものかと」


「何を当たり前のことを言っている。それが世辞になるとでも?」



その玉座へと浅く腰かけたマロウと呼ばれた男のエルフは、その面長の顔に粘土ベラで線を入れたような目をさらに細くして、



「それで、ウルクロウの死骸はいつ届くのだ?」


「……いえっ、それが……」


「まさか、まだ()っていないのか? 孤立させ追い込んだというのにかっ?」



パキリ。世界樹の洞の部屋が渇いた音を立てて小刻みに揺れ始める。顔を青ざめさせた広間のエルフたちの視線が向かうのは、マロウ。



「グズどもが……! 俺がいなくては何もできないのか……?」



マロウの体から発せられるのは、尋常ならざる量の聖力。空間をたやすく飽和させたそれがなおも押し広げられて、世界樹に悲鳴を上げさせていた。



「もっ、申し訳っ、ございませんっ……!」



震えながら、男のエルフは喉を絞り上げるようにして言った。



「現時点で接近した三人のエルフたちが返り討ちに遭ってしまい、そのため遠距離からの攻撃を続けて様子を見ているのですが……殺すには至らず、」


「結論を述べよ。おまえは何が言いたいのだ」


「……はっ。ウルクロウを仕留めるのに、われらがエルフ国家が誇る三賢者の内の御一人であり、 " 東の賢者 " であらせられる御身……マロウ様のお力をお借りしたく存じます」


「……」



東の賢者マロウは無言でゆっくりと、その玉座から立ち上がった。

そして、目の前で首を垂れる男エルフへと、



「顔を上げろ」


「……はっ」



マロウは、恐る恐るといった様子で上げられた、眉を八の字にして唇を震わせる男の顔をジッと見やる。



「おまえの言う通り、俺が動けばあの脳筋魔族を八つ裂きにするくらい、赤子の手を捻るほどに容易いことだ」


「さ……さすがは、マロウ様……」


「では問題だ。どうして私はそうしないのだと思う?」


「え、それは──」


「時間切れだ」



マロウの指先が一瞬光ったかと思いきや、目の前の男のエルフの顔に丸い風穴が空く。その体は力なく床へと倒れ伏した。



「なぜこの俺が魔族の相手程度のことに自らの力を振るわなければならない? そのような些事(さじ)はおまえたちがやっておくことだろうが」



マロウは死体と化した男へとさらに指を向けた。



「それにしても、この無能は幾年月を無駄に生きていたんだか」



フワリ、と。息絶えた男のエルフが持っていた木の杖が宙へと浮かぶ。それは二つにバキリと折れると、筒状になっていたその中身からは羊皮紙が現れた。それを手に取り目を通したマロウは、



「だいたい五百から六百年といったところか……無駄な歳月だったな」



一瞬で興味の失せた顔をすると、羊皮紙を手放した。

空中を滑るそれは途中でボウッ、と。急激に燃え上がる。

マロウはそれが消し炭になる様を見届けることもなく、十人の女エルフたちを振り返ると、



「ゆめゆめその小さな脳に刻めよ、おまえたち。この国に俺以上に価値のある脳はない」



玉座の横に並ぶ一同を冷徹な目で順々にねめつけて、



「おまえたちの知識がこれからたどり着く場所は、少なくとも千年前にはすでに俺がたどり着いていた地点だ。おまえたちはその全てが俺の下位互換……ゆえに、俺をより高みへと押し上げるための踏み台に過ぎないことをいっそう自覚しろ」



十人の女のエルフたちはみな、引きつった表情で、機械仕掛けの人形のようにコクコクと無心で首を縦にして同意を示す。

それを見たマロウは一つ鼻を鳴らすと、ニコリと。



「よろしい。再教育が終わったところで、さて。問題はまだ解決していない。例の脳筋魔族をそうそうに殺処分してやらねば。俺も少し手伝ってやるとしよう」



マロウは十人の女のエルフたちの内、中央の一人を手招いた。



「五番。おまえを使う」


「はっ……はい……」



指名されたエルフはその顔色をいっそう悪くしつつも、しかし、逆らうことはせずマロウの前へと進み出る。

その額へとマロウが二本の指を当てると、途端に。



──強く白い、光の柱が顕現した。



それはマロウの目の前の五番エルフを包み込み、そして。



「ふむ、出せる力は二割。使用可能術式は半分を切るか……。まあ構わん。脳筋魔族の退治程度に使うにしては充分にオーバースペックだ」



その言葉を発したのは、マロウではない。先ほど光の柱に包まれた五番のエルフだ。しかし、その身から発せられる聖力は先ほどとは比較にならないほどに強くなっていた。

五番のエルフが形を確かめるように自身の体へと丹念に触れていると、



「ほう、何百年ぶりかなぁ、マロウ。おまえの神術── " 取り憑き " を見るのは」



唐突に、誰もいないはずの方向から声がした。



「「誰だっ!?」」



マロウと、五番のエルフが同時にその方へと顔を向ける。

広間の端で、あぐらをかいて座っていたのは──



「「おまえは、メリッサッ……!」」


「 " 依り代 " と同時に喋るなよ、マロウ。それ鼓膜が揺れて気持ち悪いんだ」



軽薄に笑うその薄緑の衣に身を包んだ少女の姿をしたエルフは、エルフ国家の三賢者の一人、" 南西の賢者 " メリッサ。

ニヤニヤとマロウと、依り代と呼んだ五番エルフを交互に見やる。



「おまえがわざわざその神術を使うところを見るに、なかなかに魔国軍に押し込まれているようじゃないか?」


「メリッサ……貴様、いったいどこをフラフラとほっつき歩いていたっ!」



マロウの発したその言葉は、今度は重ならない。



「貴様ら二賢者がそうそうに戦争に参加していれば、今ごろ魔国程度は容易く落とせていたものをっ!」


「ハッ、そんなオレにとって益のないことに何故手を貸す必要がある? あの係争地を得たいがために独断で戦争を吹っ掛けたのはおまえだけだ、マロウ。それでオレたちに期待するのは勝手すぎると思うがね。まあ、」



メリッサはいっそう馬鹿にしたような笑みを浮かべると、



「どうしてもと言うのならそこに膝を着いて頼むことだ。そうすれば──」



しかしメリッサのその言葉を遮るのは、燃え上がるような朱色の光。マロウの掲げた手のひらから飛び出した灼熱(しゃくねつ)の聖術がメリッサへと炸裂(さくれつ)していた……はずだった。



「おやおや、今ここでオレと戦おうとでも?」



灰色の煙が上がる中で、メリッサの体には傷一つなかった。

その体の正面でメリッサが掴んで盾としていたのは、顔に風穴の空いた男。つい先ほどまでマロウの足元に転がっていた男のエルフの死体が、いまだ残る焦熱にその身をくすぶらせている。



「チッ……貴様の神術も健在か」


「次はおまえのストックの女を盾代わりに使うぞ、マロウ……と、さらに(あお)り散らかしてやりたいところだが、冗談はこの辺にしておこうか」



メリッサは盾としていた男のエルフを放り出すと立ち上がり、



「そろそろ戦争に使えるエルフの数が少なくなってきた頃合いだろう? 私は相変わらず手を貸す気は起きないが、その代わり近い内に援軍を紹介しようと思ってね」


「援軍だと……?」


「ああ。われわれ西方エルフ国家に同調して魔国に攻め入った王国……その勇者部隊だ。なかなかに良い人材だとは思わないか?」



メリッサは魂の契約を持ちかける悪魔のごとく、その細い食指を動かして微笑んだ。



ここまでお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第78話 全然まだ行けると思うんですよね」です。

明日もよろしくお願いします!

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