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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第63話 黒癒の書

「──さて、次は魔導書の専門家を当たらねば」



イナサへと一通りのお仕事依頼、そして報酬(イナサには無報酬で構わないと言われたが、あり得ないので後日適正価格で契約を結ぶことにした)についてを決めると、俺は再び魔都デルモンドの道を歩く。

今度の目的地は " 魔女の魔導研究結社(サバド・ソルシエール) " だ。



「魔女ですか……確かにヤツらは魔導書を収集する習性がありましたね」



隣を歩くシェスが少し顔をしかめる。その物言いは心なしかトゲを感じるものだ。



「シェス、もしかして魔女の誰かと面識があるのか?」


「……いえ、直接の面識は。ただ、私がこの地に来たのは、当時の魔国から北に外れた地に住まう魔女を討つためでしたので」


「ほう、そうだったのか」



詳しく聞きたい気もする……というかそれ以前に、そんな因縁があるなら魔女の元にシェスを連れて行かない方がいいのでは?

なんて思っていると、シェスがそんな俺の考えを見通すように肩をすくめた。



「すべては過去のこと。ご安心を。短絡的な考えは起こしません」


「……そうか。それは助かるよ」


「ところでキウイ様、」



少し重くなりかけた空気を変えるように、シェスが努めて明るく聞いてくる。



「魔国の聖書を作るとのことですが、果たして魔導書が参考になるものなのですか?」


「それについてはリサーチ済みだよ。聖書も魔導書も根本的な原理は同じ。そこに書かれた文章を理解し、力を流すことで術式が発動する便利ツールだ」


「そうだったのですか」


「だが、聖書の方が便利ツールとしての使い勝手は進化しているようだ。こちらは文章を " 章 " と " 節 " に分けて再利用できるようになっているのだよ。これによって、様々な章節を組み合わせてより効率的に聖術を使えるようになっている」



例えば聖書百二十六章二十四節『剣を取る者は、剣で滅びる』と、同じく聖書百五章四十四節『敵を愛し、迫害するもののために祈れ』という節。この二つの節に込められた術式を組み合わせることによって、" 魔術をはね返す " という基本聖術を発動することができるようになっている。



「一方で魔導書はそういったギミックがない。魔術を発動するための術式を言語化したものがそのまま書かれているのだ。ゆえに応用魔術については一種類につき、それなりに厚い魔導書が一冊必要になる」


「なるほど、魔導書の発展の方が遅れてしまっているのですね……」


「うーん……まあ単純に言ってしまえばそうなのかもしれないが、そもそも、魔族としてはそこまで魔導書自体を効率化する必要性がなかったのだろうな」


「? どういうことでしょう?」


「寿命の違いだ。人間と魔族の」



人間は長くても百年、一方で魔族の平均寿命は三百年以上。

人間はその一生の短さから聖術知識をどれだけ効率よく吸収し扱えるかが鍵となり、一方で魔族はその一生の長さゆえに基礎から応用までジックリとひとつひとつ覚えていくことができる。



……単に、魔族はこれまで魔術の習得を急ぐ必要がなかったというだけなのだ。



だから魔族にとって魔導書とはあくまでも自宅に置いておく参考書扱い。ジックリとそこに書かれている魔術術式を読み込んで、その技術そのものを習得することで自在にその魔術が使えるようになることを目標としているのだろう。



「だが、これからはそうも言っていられまい。皮肉にも戦争が技術を加速させていくのだ」



いや、戦争が加速させていくのではない。

戦時下に生まれた今の俺のような存在が、節操なく敵国の技術を盗み、そして自国の技術に応用する。その過程で新たな技術が生まれる。そうすると今度は敵国がそれに対抗する技術を作り出す。その繰り返しで戦争のスピードが上がっていくのだ。

だが、仕方ないじゃないか。



──早く、早く試したい。この知的好奇心は誰にも止められないのだから。



……ふむ。

つまるところ、やはり俺が悪いのか?



……まあ、どうでもいいことか。



「とにかく、時間が命ということだ。最初は見よう見まねでも構わない。いち早く聖女から拝借した真約書を魔女たちに渡して応用してもらえるように掛け合わねば。そして完成させる……われらの " 魔国版聖書魔導書 " を」


「そうですね。兵は拙速を尊ぶとも言います。ただ……あの、その書物の名前はいささか……長くはないでしょうか?」


「魔国版聖書魔導書がか?」


「はい……」



そうか。俺は端的に開発過程が盛り込まれていて良いネーミングだと思ったのだが。

もっと目的に絞った方がよかったか?



「ならばこれでどうだ── " 黒癒の書 " 」






* * *





~【Side:イナサ】~




「魔国版聖書魔導書……その物語の作成を請け負ったはいいものの、いったい何なんだソレは? どんな話がふさわしいやら……」



イナサは机の前、長い鼻の上に羽ペンを載せて部屋の天井を眺めていた。

キウイからは、一節一節が区切り良く、流れが覚えやすければ物語のジャンルはなんでも良いと言われている。

量としては短編が一つ。

期限はできれば今週中。

そしてそのでき具合では続編もお願いしたいとのことだった。



「続編となると、俺自身の物語へのモチベーションも必要になるからなぁ」



小説は惰性(だせい)で書き続けられるものではない。

それはプロであるイナサ自身が良く分かっていた。

だからこそ、今回請け負う物語が短編であろうと、続きがあるのであれば自分自身が没頭できるテーマでなくては後に繋がらない。



「俺自身が、今後もずっと追い続けたいテーマ、か……」



そうだ。

魔国版聖書魔導書にふさわしいかどうかで考えるのはやめよう。

大事なのは、自分が追い続けたいテーマかどうか、だ。



……。


……。


……。



──フッと。唐突に脳裏に記憶がよぎる。



それはあの日、エルデンの収容所で起こった絶望と希望の光景。

銃で肩を撃ち抜かれ、妻の忘れ形見で自身の宝でもある息子コチを連れ去られた絶望。そして、それを取り返し自分の命までをも救ってくれた希望。



「──っと!」



イナサは跳ね起きた。

ついウトウトと眠りかけていたのだ。

しかし、そのおかげで光明が見えた。



「そうだ、あるじゃないか。俺にも……書き続けたい、いや、魔国民たちに広く広く伝えたいことがっ!」



イナサは書き出した。




『1. その日エルデンの鉄檻で、血まみれイナサは希望にたなびく白衣を見た。2. ……』


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第64話 【Side:王国】聖女アルテミスが…」です。

明日もよろしくお願いします!

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