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第6話 逆襲の魔族

翌朝。

とうとう亡命計画の実行の日がやってきた。



「さ、今日も元気に拷問していこうな、相棒っ!」



すっかり打ち解けた空気をかもし出してくるゴルゴン少尉とともに、俺は拷問部屋へと入る。

今日のスケジュールは魔国幹部の拷問からだ。



「ほぉ~れ、情報を吐けよ~」



終始機嫌良さそうに、鼻歌混じりで拷問を行うゴルゴン少尉。

見張りの兵二人はその様子を奇妙そうに見ていたが、しかし滞りなく拷問は終わった。



「じゃああとは任せたぜ、相棒。しっかりと治してやってくれよなっ。とは言っても全快はさせるなよ、ハハッ!」



ゴルゴン少尉から下手くそなウインクを投げられる。

心底気味が悪く背中に怖気が走るが、なんとか顔に出さないようにして、俺は幹部の下へと歩み寄った。



「さて、具合はどうかな」



恒例となったその独り言をよそおった問いかけに、幹部は反応した。



──クイッ、クイッ、クイッ。



人差し指が三回動く。

もうとっくに、覚悟は決まっていたみたいだ。



「では、いきますよ」


「おうよ! また見せてくれ相棒、王国一のダークヒーラーの腕前をよ!」



ゴルゴン少尉は自分に話しかけられたと思ったのか、拷問部屋の隅にある椅子に腰かけて、足を組んではやし立ててくる。

俺は振り返ることもせず、ボロボロになった魔国幹部の腕に手を載せた。



「今日という日まで時間がかかってしまい、申し訳なかった」



俺は魔力を練り上げ、そして、



「存分に暴れてくれたまえ」



── "魔国幹部・最適化ダークヒール"。



魔国幹部の身体構造・自己治癒能力・免疫情報などなど……

全てを知り尽くした上で最適化したヒールが、強い黒色の光となって魔国幹部の体を怪しく包み込む。

その直後、



──ブチンッ。



拘束椅子の、魔国幹部を硬く縛り付けていた鉄紐(てつひも)がちぎれた。

振り上げられた魔国幹部の腕に、もはや傷はない。

肌も、爪も、全てが元通りに再生している。



「……は?」



ゴルゴン少尉の口から間抜けな声が漏れ出る。

それと同時、グシャリと。

見張りの兵たちは、目にも止まらぬ速さで動いた魔国幹部に一瞬で弾き飛ばされると、壁の "シミ" となっていた。



「ふぐぅっ!?」



ゴルゴン少尉の苦しげな声が上がる。

いつの間にかまた移動していた魔国幹部が、ゴルゴン少尉の首根っこを掴んで宙に吊り上げていた。



「拷問官……名は何といったかな」



ギロリ、と。

魔国幹部の燃え上がるような紅い瞳がゴルゴン少尉を射抜く。



「まあなんでもいい。吾輩(わがはい)、ずいぶんと長く生きてはきたが、ここまでの "もてなし" を受けたのは初めての経験だったぞ」


「なっ、なっ、なんでっ!? なんで全快してるっ!?」



ゴルゴン少尉は口の端から泡を吹きつつ、ジタバタと手足を動かして魔国幹部から逃れようとする。

それはまるで赤子が成人男性の手を振りほどこうとしているように見えた。

つまりはビクともしていない。



「あっ、相棒っ、キウイッ! いったいどうなってるんだこれはぁっ!?」



ゴルゴン少尉が恐怖に揺れる瞳を俺へと向けてくる。



「なんでっ、なんで全快させたぁっ!? まっ、まさかっ、これもシュワイゼン中佐の与えた試練かなにかなのかっ!? 俺はっ、まだなにか試されているのかっ……?」


「悪いね、ゴルゴン少尉。昨日の話は全部デマカセなんだ」


「デ──ッ?」



情けなく、その眉が下がる。



「それっていったい、どういう──」



パキリ。

首の骨が折れる音がする。



「コヒュッ……な゙、なお゙、じで……!!!」


「悪いね。私に人は治せないのだよ」



だって、ダークヒーラーだもの。

ミシリ、ゴキュリという骨がこすり合わされる音とともに、ゴルゴン少尉の顔色は紫色に、その口からは血の泡を吹き出し始めた。



「ああ、そうだったな、拷問官、貴様は確かゴルゴン少尉というんだった」



魔国幹部はゴルゴン少尉の首を掴む手の力を強めて、言う。



「これまで手厚くもてなしてもらった礼をしよう」


「なんで、なんでこんなヒドいこと……あっ、相棒っ、助け──」


「受け取れ、ゴルゴン "大尉"」



グシャリ。

魔国幹部はゴルゴンの首を握り潰した。

飛び散る鮮血とともに、頭が地面へゴトリと鈍い音を立てて落ちる。



……しかし、さっき "大尉" って? ゴルゴンの階級は少尉のハズだが。



俺が首を傾げていると、



「確か王国での殉職者は "二階級特進" するんじゃなかったかね?」



魔国幹部は低い声で笑いながら、俺を振り返った。



「おまえにも礼を言う、ダークヒーラー。今度は "(あだ)" という意味ではなく真に感謝という意味で。名をキウイといったな」


「ええ。あなたのことはなんとお呼びすれば?」


「わが名はアギト。吾輩のことはアギトと呼べ」


「アギト殿ですね。かしこまりました」


「命の恩人からの敬称は不要……だが、」



アギトは俺の正面から姿を消す。

かと思うと、背後から、俺の首に冷たいものが当たった。



「恩人であるということと、敵味方であるかはまた別の話だ。心苦しいことだが」



わずかにチクリとする刺激を感じる。

おそらく、首元にはナイフのような鋭い何かが当てられているのだろう。

俺は両手を上げる。



「キウイよ、まずは問おう。おまえの目的はいったいなんだ? おまえのメッセージからはそれだけが読めなかった。吾輩たちを解放し、どうするつもりなのだ」


「……あのように短く一方通行なメッセージでは、私の行動の意図や考えを、誤解なく詳細に書き記すことはできませんでした。なので、今日までその説明は避けてきたのです」



俺は慎重に、刺激を与えないように言葉をつむぐ。



「ふむ。ということは、今なら話せるということか?」


「ええ、もちろん」



俺は首を動かさないように、視線だけを背後にいるアギトへと向けて、



「私は、私の魔国への亡命をあなた方に助けていただきたいのです」



前もって頭の中でまとめておいたことを、俺は話し始めた。

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