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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第31話 アラヤ総合医院

「大変に興味深いものだね、これは」



時間は午前十時ごろ。快晴で薄紫色をした空の奥から、太陽の薄明かりが届いている。そして俺の前に照らし出される景色は、魔王城の置かれている魔国の中央都市──魔都デルモンドの街並みだ。

石畳で舗装され、石やレンガで造られた建物が並ぶその光景は、意外にも王都と似ているところが多い。



「この魔都に住む魔族は人型魔族がほとんどですから、人間の住む街と構造が似通うのでしょう」



そう説明をしてくれるのは隣を歩くミルフォビアだった。



「あ、その路地を右に曲がりますよ、アラヤ様」


「ああ、わかっている。地図を読むのは得意なのだ」



初めての " 外出 " に心が躍る。

ウキウキと早足になりかけていると、そんな俺の手をミルフォビアが掴んだ。



「わたくしからあまり離れないでください。迷子になられては困ります。いくら魔王陛下の庇護下にあるとはいえ、完全に安全だとは断言できませんから」


「それもわかっている。しかしそんなふうに言うのはよしてほしいな。私がまるで子どもみたいじゃないか」


「子どもじゃない分、厄介なのですが……」



大変失礼そうなことを言ってミルフォビアはため息を吐いた。

まあ、それについては今はいい。

それよりも、



「ミルフォビアくん、君は先ほど言ったね……『この魔都に住む魔族は人型魔族がほとんど』だと」


「えっ? ああ、はい。申し上げましたが」


「では、もしかすると人型魔族以外が中心に暮らす街もある、ということかね?」


「ええ、そうですね」



ミルフォビアはうなずくと、



「そもそも魔族とは一つの種族に限定されておりません。魔獣やゴースト、一部の知性を持つアンデッドなどをひとくくりにした呼称であり、百年前の " 魔国統一戦争 " 以前には魔族に分類されていなかった種族も存在します」


「ほう、そうだったのか……!」


「魔国は歴代の魔王陛下が徐々に周辺国家を併吞(へいどん)して広げていった国ですので、地域ごとに種族のかたよりがあるのが自然なんですよ」


「なるほど、ありがとう。歴史の勉強もしたくなってきたよ。それと魔国ダークヒール行脚(あんぎゃ)なんかも」


「念のため口に出して申し上げますが、ダメですよ。というか、アラヤ様はこれからこの魔都で医院を経営されるのでしょう? 全国行脚などしてる場合があるのですか?」


「……無論冗談だとも。いつか全国をめぐるにしても資金は必要だからね」



そうこう言っている内に、俺たちは目的地へとたどり着いた。

そこは魔王城へと続くメインストリートから一つ道を外れた坂道にある、しかし十分に魔都の中心にある白塗りの壁をした二階建ての建物だった。



「アラヤ様、こちらが魔王陛下からアラヤ様への贈り物の一つ…… " アラヤ総合医院 " です」


「おお……! 王都で借りていた場所よりもぜんぜん大きいではないか……!」



しかも、おそらくはほとんど新築同然。こんな一等地で誰も使っていなかったのが不思議なくらいだ。

中へと入ってみると、やはりまだ " 魔力灯 " が設置されていないからうす暗い。しかし、一階にはすでに多くの荷物が運び込まれていた。



〔うぁ……ぶぁお……〕


「おお、わが助手ゾンビたち。荷運びご苦労」



建物の奥から俺たちの前に現れたのは三体のゾンビたち。

ゾンビ・クイーン、ゾンビ・シーフ、そしてゾンビ・ソルジャーだ。

彼らは害がないうえ、なぜか(理屈上いまだ謎)俺の指示を少し聞いてくれるようになっていたので、体の腐敗や傷などを俺のダークヒールで治すという代価を与えて、俺の元で助手として働いてもらうことにしていた。



「しかし、慣れたものですね……まさかゾンビが助手になるとは」


「助手とはいえ、簡単で具体的な指示しか聞いてもらえないがね。この前は医学書を持って来てくれと頼んでみたら本棚ごと持って来られたんだ。あやうく潰されるところだったよ……」



荷運びについては、魔国に精密な地図があったのと道順が単純で助かった。おかげで、三体のゾンビたちにバケツリレー方式で魔王城から医院まで荷物を運ばせることができたのだ。



「まあクセがあるとはいえ、腕力のある人手は非常に助かる。今後は入院用のベッドなども配置するつもりだからね。荷物を運んでもらう機会はまだまだある」



それは当分先の話になるだろうが。

今は、最低限の設備で医院の経営を軌道にのせることが最優先だからな。

そんなわけで荷解きを済ませ、いよいよさっそく明日からは開業だ。



「お客さん、果たして来てくれるでしょうか……?」



ミルフォビアが心配そうに問うてくる。

まあ、話によれば魔国の民間医療は各種族ごとに専門的に分かれているらしく、 " 総合医院 " なんていう場所はなかなかに物珍しくて入り辛さはあるかもしれない。

しかも院長が戦争相手の国の種族、人類なのだ。

これは敬遠されてもおかしくない。

しかし、



「問題はない。それについては手を打ってある」



ミルフォビアに対し、俺は力強くグッドサインを返した。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

次のエピソードは「第32話 【Side:一般魔族】ナゾのアラヤ総合医院」です。

明日もよろしくお願いします!


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