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第3話 拷問官

移動は、近年ものすごいスピードで国内への敷設が進んでいる鉄道を使った。



「国境沿いの町まで行くぞ」



中佐に連れられて、俺はひたすらに鉄道を乗り継いだ。

ちなみに中佐の名は "シュワイゼン" というらしい。

ちなみに、直接名前を聞いたわけではない。

又聞きである。



「ご無沙汰しております、シュワイゼン中佐。魔国の国境都市、エルデンの完全制圧が済んだようですよ」



俺たちの乗る鉄道内の個室には、何度か軍服の男たちが訪ねてきて、中佐と戦況などの雑談をしていった。

肩身の狭い思いをしつつ、三日。

ようやく俺が降り立ったのは王国北端の町だ。


時刻は正午過ぎ。

厚い雲は晴れそうにない。

遠くで小さく、断続的に大砲の音がする。



「おまえはこっちだ、キウイ・アラヤ」



シュワイゼン中佐に連れられて歩く。

すっかり民間人の退去させられた町の隅に、その広い灰色の "施設" はあった。

元は犯罪者の収容所か何かであったのだろう、建物を囲む(へい)は高く、入り口は厳重だ。

俺たちはライフルを背負う軍人たちの敬礼に迎えられる。



「おまえにはさっそく仕事に取り掛かってもらうぞ」



施設に入ると一周四百メートルのグラウンドがあり、その奥に建物が東棟と西棟に分かれて存在した。

二つの棟は一階の中央の渡り廊下で繋がれている。


シュワイゼン中佐は、迷うことなく東棟へと入った。

すれ違う軍人たちがみな立ち止まって敬礼してくる。



「ここだ」



階段を上った先のドアだった。

見張りと思しき二人の軍人が立っている。

シュワイゼン中佐が三回ノックすると、部屋の内側からそっとドアが開いた。

額の広い、脂ぎった髪の中年男が顔を出す。



「これはこれは、シュワイゼン中佐」


尋問(じんもん)ご苦労だ、ゴルゴン少尉。"ヤツ" はなにか情報は吐いたか?」


「いやぁ、それが」



ゴルゴン少尉と呼ばれたその中年男は、こびへつらうような笑みを浮かべると、



「まだ何も。ずいぶんと口が堅くてですね……」


「責め方が弱いんじゃないか?」


「そんなことは……ご覧になりますか?」



シュワイゼン中佐がうなずくと、ゆっくりとドアが全開にされる。

その部屋の中央では、血で真っ赤に染まった体の魔族が "拘束椅子" に座らされていた。


頭に三角錐(さんかくすい)の黒い角が三本横並びに生えた、身の丈は二メートルを超すだろう屈強な魔族である。

しかし、衰弱が激しそうだ。


体中の皮膚が爆ぜた後のように破けている。

おそらくはムチ責めの結果だろう。


口は一度裂けたのか、頬に()った(あと)が見える。

目玉は片方がえぐり取られ、()がされた手足の指の爪と共に、まるで見せつけるように魔族の正面の机にきれいに並べて置かれていた。



「なるほど。これでもまだ吐かないか。どうやら本当に苦労しているようだな」


「イカれた胆力をしてますよ、この魔国幹部。あとは体中を細かく裂いていくくらいなんですが、この調子じゃあ死ぬまで口を開くかどうか……」


「それについては問題ない」



ドンと。

シュワイゼン中佐が俺の背中を強く押した。



「こいつ──キウイ・アラヤを使え。ダークヒーラーだ」


「おおっ、さすがはシュワイゼン中佐っ! お仕事が早いっ! もう見つけてこられたとはっ!」



ゴルゴン少尉は両手を揉んで中佐と俺を交互に見ると、



「では、さっそくこのダークヒーラーに仕事をしてもらおうと思いますが、構いませんか?」


「ああ。好きに使え。ただし、気をつけろ。こいつの使うダークヒールは強力だ。一分以上の魔族への接触はさせるな」


「はぁ、ですがそれですとあまり回復させることはできないのでは……」


「それでいいんだ。間違ってもこの魔族を "完全回復" させるんじゃない」



ジロリ。

シュワイゼン中佐は魔国幹部……

その男を縛り付けている拘束を見て、



「高位の聖職者殿が "聖術" を込めた拘束具を使っているとはいえ、傷や体力を完全回復されては安全の保障ができん」


「はっ、もちろん理解しております」


「捕虜の魔族たちを見張る兵たちは言わずもがな、このダークヒーラーを見張る兵を置くのも忘れるなよ」


「はっ、承知いたしました」



シュワイゼン中佐は必要なことだけ述べると、背を向けて部屋を去った。

ゴルゴン少尉はドアを閉めると、チッと舌打ちをし、



「オイ、ダークヒーラー。さっそくその魔族の右手を治せ。いいか、右手だけだ」



ゴルゴン少尉が腰のホルスターから拳銃を抜き、その銃口を向けてくる。



「妙なマネはするなよ」


「……わかりました」



俺は魔族の右手に手を置いた。

魔力を流し込んでいく。

じっくり、じっくりと。



「……殺、せ」



ボソリ。

かすれた声で魔族が呟いた。



「殺さない。治すのが俺の仕事だから」


「おい、魔族と口を利くんじゃないっ!」



銃口が頭に突きつけられたので、黙る。

きっかり一分ほどで、魔族の右手から失われていた爪が再生した。



「フン、ギリギリまで時間かけやがって。ま、今日のところはこれでいいだろう」



ドンッと。

ゴルゴン少尉は俺を突き飛ばして押しのけると、くるみ割り器のような "爪剥がし" を持つ。



「明日は朝の九時から仕事だ。部屋はこの施設内に用意してあるから、仕事以外での外出しないことだ。脱走とみなされて "こう" されたくなきゃな」



カチャカチャ。

ゴルゴン少尉が爪剥がしをもてあそぶようにして笑う。

俺はそれから、部屋に入ってきた見張りの軍人たちに両脇をおさえられ、そのまま退出させられる。


ズルズルと引きずられるように移動させられた先は、狭くて埃っぽい、おそらくは囚人用の部屋だった。



「ふむ、最低な場所だ」



だが、一人部屋だ。

それは好都合。



「さっきの接触で、あの魔族の身体構造はだいたい把握できた」



爪の再生?

それくらいのことであれば、やろうと思えば十秒でできる。

ではなぜ接触時間ギリギリまで時間をかけたのか?



──ずばり、"診察" のためだ。



自分の魔力をあの魔国幹部という魔族の全身に流し込むことで、体の詳細を調べていたのだ。

すべては俺の "亡命" の成功のために。



「申し訳ない。もうしばらく、ガマンしてほしい」



おそらくは今もヒドい扱いを受けているだろうあの魔族へと口の中で謝ると、目をつむる。

そして先ほど触れた魔族の身体構造を思い返す。



……さあ、それじゃあ "構築" していこうか。最後に俺たちが逆転を果たすための、とびきりのダークヒールを。

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